東京都内の狭い暮らしは「徒歩商圏」が前提で成り立つ
インターネット上でちょっとした話題となっているのが、「地方暮らし」と「都会暮らし」の違いです。ネット上で地方在住と名乗る方が「ホームセンターやスーパーなどを自家用車でハシゴするようなライフスタイルは都会で成り立つのか」と疑問を投げかけ、これに対し都市民と思しき人たちが都会でのライフスタイルを説明する、といった流れですが、こうしたなかでもうひとつ目につくのが、都心部で「激狭物件」に暮らす若い人が増えている、などとする話題です。
目次
地方は「クルマ社会」
SNSが社会的影響力を増すに従い、日常で目にする「ちょっとした話題」もSNSから得られることが増えているように思えます。
こうしたなか、本稿で取り上げておきたい話題が、「地方での暮らし/都会での暮らし」です。
当ウェブサイト、おおまかなアクセス記録から判断して、読者の方は全国各地に散らばっていることがわかっていますが、当然、大都市部に暮らしている人もいれば、そうでないという人もいるはずです。
ここで、「地方在住者」と大まかにいわれても「定義がよくわからない」、という方も多いでしょうが、これはそのとおりです。現実に「地方」と一括りにされても、平野部あり、山間部あり、離島あり、と、バリエーションは豊富ですし、地方でも比較的人口が密集している地域もあればそうでない地域もあります。
ただ、ここではあえて「決めつけ」で、「地方在住者」のモデルケースを次のように定義します。
- 人口30万人程度の幹線道路と新幹線が通っている地方都市
- 市の中心部はいわゆるシャッター街となってしまっている
- 市の郊外にショッピングモールがあり、幹線道路沿いには外食チェーン店が並ぶ
- 郊外の一戸建てに暮らし、家族は成人1人につき1台自動車を所有している
…。
要するに、典型的な「クルマ社会」です。
都会で車を持つのは困難…とあるポストが話題に
これに対し、「都会の人」のモデルケースを次のように定義します。
- 居住しているのは地下鉄の駅から徒歩圏内の集合住宅である
- 徒歩圏内にスーパーやコンビニ、ドラッグストア、外食チェーン店があるがショッピングモールはない
- マンションに駐車場は設置されておらず、もし車を持てば別途駐車場を借りなければならない
こうした単純化したモデルを設定すると、「都会暮らし」と「地方暮らし」でライフスタイルにどのような差異が生じるのでしょうか。
じつは、これについては定期的に、XなどのSNSで話題になる論点です。
こんな趣旨のポストがちょっとした議論を招いているのです。
「私は地方在住者だが、ホームセンター、ドラッグストア、スーパーなどを1日でまとめてハシゴする際に自動車がなければ不便でならない。こういうときに都会の人はどうするのだろうか」。
ホームセンターってなんだ?
これに対しては地方在住経験者や現に都市に暮らしていると思しき人たちから、さまざまな反応が出ているのですが、その最たるものは、「ホームセンターってなんだ?」、というものです。
調べてみると、ホームセンターはガーデニングやDIYなどの用品だけでなく、かなりさまざまな品物を広く取り扱っているようであり、たとえば「ジョイフル本田」の『店舗情報』のページを見ると、店舗によってはさまざまなサービスも付帯しているようです。
- 衣類・雑貨リサイクル
- リサイクルステーション
- コインランドリー
- 写真プリント
- セルフコピー機
- 証明写真
- EV充電器
- ATM(セブン銀行/地方銀行)
- レンタルサイクル
- ドッグラン
- セルフウォッシュルーム
- 貸出トラック
- 灯油スタンド
- ガソリンスタンド
- イセキ精米機
ちなみに「ジョイフル本田」の『店舗情報』によると、同店は東京ドーム数個分の面積を持つ「超大型店」「大型店」をいくつか展開しているほか、東京ドーム1個分未満の店舗を「中型店」と定義しているようであり、ファーストフードチェーン店等が入居するケースもあるなど、なかなかに店舗は充実しているもようです。
同様に、「カインズ」や「コーナン」、「コメリ」といった店舗も、おそらくは大規模な店舗を展開しているようであり、生活に便利なさまざまな用品が販売されているようです。
都会では経験できない便利さ
いずれにせよ、地方在住者は自動車を成人1人1台レベルで所有していて、日常の買い物はホームセンターやショッピングモール、それからお気に入りのいくつかのスーパーなどにいく、というパターンが多く、必然的に休日に家族ないし夫婦でまとめ買いに出かけるスタイルが多いのでしょう。
すなわち、自動車で10~20分も走れば大型商業施設があり、子育て世代は子連れでこれらの商業施設に行き、買い物ついでに食事も済ませてしまうことまでできてしまうのです。なんならお母さんが買い物している間にお父さんが子供たちを商業施設内のプレイパークで遊ばせておくこともできます。
極端な話、その気になれば一日中、その施設内で過ごせるわけであり、買った品物はどんどんと自動車に積み込んでいけばよく、子供が遊び疲れて寝てしまえば一緒に自動車に積み込んで帰れば良い、という仕組みです。
さらに、自宅に帰れば自宅敷地内に車を停めることができますし、駐車場とパントリーを直結するなど、動線と間取りを工夫すれば、自動車から積み下ろした1~2週間分の食材や日用品をそのままストックすることができるのです。
これは、たしかに都会ではあまり経験できない便利さです。
これに対し、都会はどうでしょうか。
残念ながら、そもそも多くの場合、自動車で到達できる範囲にホームセンターやショッピングモールなどの超大型商業施設はありません。
それどころか、都会ではそもそも一戸建てに暮らせない人も多く、自動車を持っていたとしても、マンション暮らしだと駐車場が自宅と直結いない、というパターンに加え、そもそも自動車すら持っていないという人が多い(著者調べ)のが実情ではないでしょうか。
さらには、買い溜めしてもそれを自宅まで運び込むのが手間ですし、自宅が狭いため食材などを置く場所も限られており、必然的に買い溜めが難しい、といった事情もあります。
都市部では「買い溜めする必要がない」
ただし、ここも発想の転換が必要かもしれません。
現実問題、都心部などに暮らしている人は徒歩圏内で用を足すことができるため、地方在住者と比べると自動車がなくてもあまり実害がない、という事情があります。その一例が、店舗の多さです。
これについてはグーグルマップで東京都心部を適当に調べてみても、山手線の内側であれば、半径500メートル以内に10~20件程度のスーパーが発見できる、といったケースが多いです(※これも著者の主観であり、また、例外はあります)。
つまり、地方のホームセンターや大型ショッピングモールに類する施設はほとんどないものの、そもそも生活用品が揃う店が徒歩圏内にたくさんあるため、なにかのついで(たとえば保育園帰りや会社帰りなど)に一緒に買い物すれば良い話であり、「まとめ買い」自体が不要、ということでもあるのでしょう。
このため、都会で地方と同じような「車で商業施設をハシゴして食材や生活用品を買い溜めする」といった生活をするのは大変難しいのですが、発想の転換で、「車で商業施設をハシゴする必要も食材や生活用品を買い溜めること」自体が必要ない、という言い方もできるのです。
余談①東日本レインズの11月分中古マンション成約データ
さて、余談ついでに不動産市況の話です。
当ウェブサイトでは最近、公益財団法人東日本不動産流通機構(東日本レインズ)が公表する首都圏のマンション市場に関するデータを話題に取り上げることが増えています。
今月分の成約データはすでに公表されていて、データの加工も終わっているのですが、今月に関しては前月と比べてあまり大きな動きがないこともあり、不動産市況に関する話題を当ウェブサイトに掲載するかどうかは、現在のところは未定です。
いちおう、レインズの最新データをもとに、東京都全体(図表1)、および東京都内の主要地区(図表2)の中古マンション成約価格(平米単価)の推移を示しておきましょう。
図表1 中古マンション成約状況(東京都)
図表2-1 中古マンション成約状況(東京都 都心3区)
図表2-2 中古マンション成約状況(東京都 城東地区)
図表2-3 中古マンション成約状況(東京都 城南地区)
図表2-4 中古マンション成約状況(東京都 城西地区)
図表2-5 中古マンション成約状況(東京都 城北地区)
どれも、価格の暴騰は一服した感があるものの、やはり、依然として「高止まり」、といった状況です。
ただし、ここに示した東日本レインズのデータは中古マンションの成約状況のみに関するものですが、来月は四半期ごとの賃貸データについても出てくるはずですので、これについてはおそらく来月まとめて取り上げることになろうかと思います。
「健康で文化的な住生活」の3分の1という激狭物件
そして、余談ついでにもうひとつ紹介しておきたいのが、「激狭(げきせま)物件」などとネットで呼ばれている、非常に狭い一人用物件です。
首都圏などの住宅事情の厳しさを象徴するという意味では、なかなかに興味深い記事も出てきています。
わずか9平方メートル…都心に近い「極小」アパートが若者に人気 狭くても“住めば都”
―――2025/12/14 14:55付 産経ニュースより
産経ニュースが14日に配信した記事によると、東京都内の家賃高騰を受け、「極小」アパートが人気を集めている、などとするものです。
正直、「ついに大手メディアが『激狭物件』に言及したか」、といった点については、「隠れ不動産ウォッチャー」でもある著者にとっては、なかなかに感慨深いところもあります。
個人的に、東京で狭い物件が増えているというのは、東京都内の賃料水準の高騰だけではなく、税社保が高すぎ、とくに若年層を中心に、一般的な物件の家賃が払えない、というだけの話ではないかという気がしてなりません。
ちなみにこの産経の記事の冒頭では、歯科衛生士の20代女性が9平米のロフト付き物件でひとり暮らししているという様子がYouTubeの動画リンクとともに取り上げられているのですが、「リビングは両手を広げたら壁に手がつきそうなほどの狭さで、浴槽もない」のだとか。
そもそも『住生活基本法』に基づく国土交通省の『住生活基本計画(全国計画)』(令和3年3月19日閣議決定)では、「最低居住面積水準」(健康で文化的な住生活を営む基礎として必要不可欠な住宅の面積に関する水準)は単身者で25平米とされていますが、9平米はその3分の1ほどです。
正直、このような物件は、それこそ徒歩圏内に生活に必要な品物を供給してくれる店が存在することを前提に成り立っているのではないかと思えてなりません。おそらくこの狭さだと、トイレットペーパー等の買い溜めすら難しいと思われるからです(かつ若くて体力のある成人でないと耐えられない気がします)。
このように考えたら、東京などの大都市では、「物資を買い溜めして自宅に保管する」という機能を必然的にそぎ落とし、日用品は都市全体で廻すという、一種の「カンバン方式」で成り立っているのかもしれない、などと思う次第です。
(※カンバン方式とは:トヨタ自動車が発明したとされる、必要な部品を必要なだけ無駄なく生産するという方式。在庫や運搬、製造などの無駄を省くために後工程は前工程に必要な数量だけ発注する。その発注用の板切れを「カンバン」と呼ぶ。)
本文は以上です。
金融評論家。フォロー自由。雑誌等の執筆依頼も受けています。 X(旧ツイッター) にて日々情報を発信中。 Amazon アソシエイトとして適格販売により収入を得ています。 著書①数字でみる「強い」日本経済 著書②韓国がなくても日本経済は問題ない日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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三畳一間の小さな下宿に二人で住んでたあの頃を思い出したよ
58年前に開発されて世代交代の進んだ住宅地街に住んでいます。今は老朽家屋の撤去が進み、敷地いっぱいの総二階建てにどんどん置き換わっています。庭は作らないですね。興味がないんでしょう。木は植えないで代わりに3台分の駐車スペースに割り付けている。部屋総面積はかつては庭木を重視していた周囲の家よりもずっと大きい。当方はあまり同意できませんが、それがトレンドのようです。住む土地で人生は違って来る。引っ越しして痛感しました。広い家に住んでいるひとはそれなりに居ます。
徒歩商圏が成り立つ地域と成り立たない地域では、行政、商売すべてが違って、別の国(?)である、ということでしょうか。
柳瀬博一東工大教授が、
「国道16号より内側か外側か」
で、住む人の自動車との関わり方がガラリと変わる旨の分析をされてますね。