外国紙「格安購読キャンペーン」は新聞経営のヒントか
新聞やテレビを「オールドメディア」と呼ぶことが一般化してきたなかで、またしてもテレビ局が取材を直前でキャンセルしたとする情報が出て来ました。これが事実かどうかはわかりませんが、「さもありなん」と思わせる土壌を作ってきたのはテレビ業界でもあります。その一方、今月は新聞部数に関する最新データが公表される予定です。昨年までの統計だと、新聞部数は減る一方で反転の兆しはありません。こうしたなか、個人的に紹介しておきたいのが外国メディアの「格安購読キャンペーン」です。
目次
またもやテレビのドタキャン案件か?
「新聞やテレビをオールドメディアと呼ぶ」―――。
これは、世の中ですっかり定着したのではないかと思います。
今年の「流行語大賞」でも、発案者とされる青山繁晴参議院議員が登壇したことで注目された用語ですが、この用語は当ウェブサイトではずいぶんと以前から使用させていただいていますし、当ウェブサイトのみならず、世間のネットサイト、SNSなどでは一般に使われている用語でもあります。
オールドメディアのオールドたる要因は、おそらく2つあります。ひとつは媒体自体の物理的な限界ですが、それだけではありません。もうひとつは、オールドメディアの報道内容や取材姿勢など、コンテンツそのものに対する不信感が、一般国民の間で蔓延していることではないでしょうか。
こうしたなかで、ちょっと気になる話題があるとしたら、これかもしれません。
今日予定していた全国テレビのデカ盛りの撮影が連絡無しで閉店時間を迎えました。
2〜8kgのラーメンをお願いすると言われていてマックスの8kgの材料を用意していました。
明日には全て使い切りたいのでお時間があれば銀波露手稲店でお食事していただけませんか?捨てるのは嫌なのでお願いします。 pic.twitter.com/YjqTyrLjpK
— 銀波露 札幌手稲店 (@T_ginparou) December 14, 2025
真実だと信じさせるに足る状況をテレビ業界が作ってきた
とあるアカウントが14日、Xにポストした内容から判断するに、「全国テレビの取材が当日に連絡なしでキャンセルされた」、ということらしいです。
公正さのために付言しておきますが、「全国テレビの取材が連絡なしでキャンセルされた」という情報が正しいのかどうか、あるいはそれが正しいとして、「連絡なしで取材をキャンセルしたテレビ局がどこなのか」、といった点などについては、現時点ではよくわかりません。
現時点ではあくまでも同店がそういう内容をXにポストした、というだけの話です。
ただ、この手の「テレビ局が取材に訪れると連絡しておきながら、時間の都合などと称して取材に訪れなかった」、といった実例は、過去にいくらでもあります(たとえば2022年4月に発生した「フルーツサンド1000個ドタキャン事件」など)。
フルーツサンド1000個製造も「取材ドタキャン」 「助けて」店舗スタッフの悲鳴拡散、日テレが謝罪
―――2022.04.27 19:40付 J-CASTニュースより
したがって、「テレビ局が取材をドタキャンした」とする話題がSNSで投稿されると、それが事実であると多くの人が信じるような状況証拠を、ほかならぬテレビ業界が自身が作ってきたのだ、という言い方もできるのではないかと思う次第です。
そして、もしこの報告が事実だったとしたら、場合によっては当ウェブサイトでもう一度、この話題を取り上げるかもしれません。そのテレビ局や番組が特定された場合は、その番組のスポンサーがどこなのかも含め、公益上は知る必要が出てくる可能性があるからです。
少なくとも著者自身としては、仮にこの「ドタキャン」が事実だったとして、その番組が特定された場合には、その番組のスポンサーの製品やサービスを購入するかどうかを検討するに際しての判断の一助とするつもりです。
新聞部数の昨年までのデータ
さて、今月は、12月です。
12月といえば、当ウェブサイト的に最も注目しているデータのうちのひとつが公表されるタイミングでもあります。一般社団法人日本新聞協会が『新聞の発行部数と世帯数の推移』のページでその年の10月における新聞の部数などを公表するのです。
例年、公表されるのは12月の最終週であり、現時点ではまだ公表されていませんが、昨年、つまり2024年までのデータで見ると、新聞部数はそれこそ「右肩下がり」で減る一方であり、今のところ、反転する兆しはありません(図表)。
図表1 新聞部数の推移(セット部数を1部とカウントした場合)
図表2 新聞部数の推移(セット部数を2部とカウントした場合)
(【出所】一般社団法人日本新聞協会データをもとに作成【※1999年以前に関しては『日本新聞年鑑2024年』、2000年以降に関しては『新聞の発行部数と世帯数の推移』】。「合計部数」は朝夕刊セット部数を1部とカウントした場合、2部とカウントした場合の両方のパターンで示している)
グラフが2つあるのは、新聞協会のデータが朝刊と夕刊のセットを1部とカウントしているからです。これを当ウェブサイト側にて「セット部数は朝刊1部、夕刊1部の合計2部である」として再カウントしたものも示しているのですが、どちらで見ていただいても傾向はだいたい同じです。
紙媒体としての限界
これについてはデータ自体が信頼できるのか、といった点に疑問を覚える方もいるかもしれませんが(いくつかの新聞社では「押し紙」と呼ばれる手法で部数を水増ししている、といった情報もあるからです)、この点についてはとりあえず、ここでは触れません。
大切なことは「部数が右肩下がりで反転する兆しがない」という状況だからです。
それに、もし一部で指摘されている「押し紙」が事実だったとして、また、新聞社が部数や売上高を一時的に誤魔化しているのだとしても、それは長続きしません。水増しされた部分は実売されていない以上、キャッシュ・フローが続かないからです。
必然的に、実売部数から大きく乖離した部数の印刷を続けていると、経費ばかりが出て行く一方、購読料収入は得られないわけですから、経営的に見てあまりにも大幅な押し紙状態、続けられるわけがないのです。
ではなぜ、新聞部数が落ち込んでいるのか―――。
これについても当ウェブサイトではすでに何度も指摘してきたとおり、自然に考えて、少なくとも2つの要因があります。
ひとつは紙媒体としての限界、もうひとつは既存の新聞社のメディアとしての限界です。
このうち「紙媒体としての限界」の方は、わかりやすいでしょう。新聞は情報を紙に印刷する媒体であるため、物理的なコスト(紙代+インク代+設備の減価償却費など)に加え、配達するのにも莫大なコスト(ガソリン代、人件費、販売店へのインセンティブなど)がかかります。
そのうえ記者が記事を執筆してからそれが読者の手元に届くまで大変に時間がかかるわけですから、「新」聞といいながらも、読者がいま読んでいる情報は全然「新」しくもなんともないのです。
したがって、新聞社がこの「紙媒体としての限界」を乗り越えるためには、基本的には紙の弱点を解消するために、新聞記事をウェブ化/電子化していくしかありません。
一部のお年寄り世帯などを別として、きょうびネットにアクセスできない成人は少数派でしょうから、新聞社は本来、もっと早いタイミングでネット化に舵を切っていなければならなかったのではないでしょうか?
ただ、現時点において、金融・会計系のメディアなどを除くと、新聞社(とくに大手一般紙)が媒体を紙から大々的にウェブ化したという事実は見当たりません。
なぜなのか―――。
おカネを払う価値がないのでは?
敢えて著者の主観においてその理由を断言すると、それは「新聞記事のクオリティの問題」です。
社会のSNS化が進むに従い、人々は新聞も含むオールドメディアの報道が必ずしも正しいとは言えないという事例の存在に気づくようになってきたのです。
いや、もっといえば、「オールドメディアが変なことを報じてくる」という実例は大変に多く、SNS上ではオールドメディアの記事を紹介するリンクがほぼ毎日のように圧倒的多数の人々の手により検証され、拡散されているのが実情だといえるでしょう。
その結果、新聞記事には歪みが非常に多く、また、記事でもなにか大変に重要な背景情報が隠蔽されているのではないか、といった疑念を抱く読者が大変増えてしまったのではないかと思います。そうなると、紙に刷り込まれている情報をウェブ化したところで、あまり意味がありません。
これに対し、内容自体がおカネを払うに値する情報なのだとしたら、それがウェブ媒体版であろうが、紙媒体であろうが、人々は普通におカネを払うはずです。
すなわち、多くの新聞社がどうみても紙媒体からウェブ媒体への移行に失敗しているのは、人々がそれらの新聞に対し、おカネを払うに値しないと判断している、という状況証拠でもあるのです。
このように考えていくと、現時点で新聞(紙媒体)を購読しているメインの層は、基本的にインターネットへのアクセスがなく(つまりスマホ等を持っておらず)、惰性で新聞購読を続けているだけの人たちではないか、といった仮説が成り立つゆえんです。
こうした考え方が正しければ、新聞部数の減り方は今後、一時的に緩やかになることはあるかもしれませんが、どこかのタイミングで新聞業界自体が「突然死」を迎える可能性がある、ということでもあります。
メインの購読層が若返らずに高齢化していけば、その新聞の寿命はメイン読者層の寿命と等しくなるかもしれないからです。
外国メディアの格安購読キャンペーン
なお、ちょっとした余談です。
著者自身は職業柄、専門紙/専門誌をいくつか定期購読していたのですが、これらについては順次、ウェブ版に切り替え始めています。
一紙だけ、どうしても「ウェブ版よりも紙で購読した方が安く、紙の読者はウェブ版にも無制限にアクセス可能」という事例があり、これについては仕方がないので紙媒体の購読を続けていますが(正直困惑しています)、それ以外はすべて、来年夏までにウェブ版への切り替えが完了する予定です。
ただ、一般紙については、基本的には有料購読契約をしていません。
どうしても必要な記事があればコンビニに駆け込んで購入すれば良いという発想ですが(といっても、過去10年間でコンビニに駆け込んで新聞を購入したのはたった2回しかありません)、早い話、少なくとも著者はおカネを払って読みたいメディアがない、ということです。
また、米国の某紙についてはウェブ版の購読を継続しているのですが、これについては大変興味深いことに、結構長い期間、「キャンペーン価格」での購読ができています。
これは「1年間限定で月額2ドルで記事読み放題」というキャンペーンですが、キャンペーンの適用期間が終了すれば月額10ドルになる、というものです。
個人的には同紙に月額10ドル(円安なので1,500円前後でしょうか?)を支払いたいとは思わないのですが、キャンペーン期間終了時に解約しようとすると、なぜか再び「解約しないで!月額2ドルキャンペーンをあと1年延長します!」という趣旨のメッセージが出てくるのです。
正直、「2ドルくらいならサブスク継続するか」、といった感想ですが、ちょっと調べてみたら、この手の「格安購読キャンペーン」というのは英米メディアでも一般に広く行われているようです。
いずれにせよ月額4~5千円という料金で新聞が売れていた時代は、もうすぐ終焉することはほぼ間違いありません。
こう考えていくと、新聞業界が活路を見出すとしたら、(売上高が大きく落ち込むことを覚悟のうえで)この米紙などの「格安キャンペーン」に倣って、とにかく購読者を増やす手法くらいしかないのかもしれません。
ただ、少し冷たい言い方ですが、もし多くの新聞社にとって「格安戦略」しか生き残る方法がないのだとしたら、それが新聞記事の「適正価格」である、といういいかたもできるのだと思う次第です。
本文は以上です。
金融評論家。フォロー自由。雑誌等の執筆依頼も受けています。 X(旧ツイッター) にて日々情報を発信中。 Amazon アソシエイトとして適格販売により収入を得ています。 著書①数字でみる「強い」日本経済 著書②韓国がなくても日本経済は問題ない日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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月額¥980とか¥680とか、あるいは¥380のオンライン新商品を作り出すほかありません。そうできないなら永遠に無料。それで生き残れるなら、ですけれど。
新聞社は、ビジネスモデルを変えれば良いのにと思っています。ご指摘の新聞社の事例を拝読して思ったのですが、紙の新聞を購読しているユーザーは、ネットでも購読でき、ネット上で個人データと連携して、囲い込みを行い、ネット上に移行が済んだ段階で紙の新聞を止めるような取組みです。新聞事業について、あまり考えていませんでしたが、紙とネットは融合していないのかな?
情報を一手に握っていた組織の横暴に対して、個人が無料で普及しているツールを使って即座に自力救済も反撃も出来てしまう。なんなら放送された場合よりも宣伝効果が高い可能性すらある。(現に私はTV番組などではこのお店を知り得なかった。そもそもTV無いし、あったとて見る番組ではなさそう。)
単に「いつもの連中の不祥事」というだけでなく、メディアのパワーバランスを象徴している一件に思えます。確かに、オールドメディア各社はネットに勝つべく研鑽(無理ゲー)なんてしてる暇があるなら、一縷の望みをかけて攻撃し続けSNSを潰す(無理ゲー)しかないような気もしてきました。
日本で新聞を値引き販売するとしたら、決定するのは新聞社ですかね? 新聞や新刊本には 「再販価格維持制度」 があって、小売店や販売店が値引きするのは禁止されていますから。
あと、値引きしても販売店には儲けが出るようにしないと、押し紙問題の時と同じように、訴訟沙汰になりそう。
新聞メーカー「食料品の消費税をゼロにするとき一緒に新聞もゼロにしてもらわなあかんな!」
知らんけど