鈴置氏が長年予言してきた「韓国ベネズエラ化」の現状
韓国観察者の鈴置高史氏は数年前から「韓国のベネズエラ化」を予言してきたことでも知られます。ベネズエラは南米の産油国であり、豊かで安定した民主主義国だったのに、左派政権が反米を掲げて経済がメチャクチャになった事例です。アジアの半導体大国である韓国も左派政権が民主主義を壊し始めているフシがあるのですが、「戒厳令」からほぼ1年を迎えるなか、鈴置氏が韓国の現状をえぐり取ります。
目次
中国の異常さと日本の冷静さ
中国のFCレーダー照射、日本社会は冷静
現在、日本のネット界隈では、中国人民解放軍による日本の自衛隊機に対する火器管制(FC)レーダー照射事件などで、議論が大いに紛糾しています。私たち日本国民とってとても大切な自衛隊員と自衛隊機がFCレーダーに照射されるという危険な目に遭わされたからです。
ただ、著者に言わせれば、日本国民の反応も驚くほど冷静沈着であり、中国への感情も、「怒りが爆発している」というよりはむしろ、大変によくコントロールされている、という印象があります。
それは、いったいなぜなのでしょうか?
これはいまのところ著者の私見ですが、中国が私たち日本とはまったく異質な独裁国家であるという意識とともに、「中国ならばFCレーダーを照射するくらいのことはやりかねない」、といった感覚が、ここ数年で一般国民レベルにまで浸透してきたことが非常に大きいのだと思います。
中国が騒いでもメディアが騒いでも支持率は高止まり
というよりも、私たちが暮らすこの日本という社会では、このところ10年単位の時間をかけて、社会全体で徐々に新聞、テレビといったオールドメディアの影響力を脱してきました。
じっさい、最近だと「中国を怒らせたら大変なことになる」、「中国を怒らせた高市(総理)はケシカラン!」といった言説をテレビのワイドショーなどで垂れ流したところで、国民の多くがまったく動かなくなりました。依然、高止まりしたままの内閣支持率がその証拠でしょう(図表)。
図表 内閣支持率(2025年11~12月)
| メディアと調査日 | 支持率(前回比) | 不支持率(前回比) |
| 朝日新聞(11/15~16) | 69.0%(+1.0) | 17.0%(▲2.0) |
| 共同通信(11/15~16) | 69.9%(+5.5) | 16.5%(▲6.7) |
| 時事通信(11/7~10) | 63.8% | 10.8% |
| 読売・NNN(11/21~23) | 72.0%(+1.0) | 17.0%(▲1.0) |
| 産経・FNN(11/22~23) | 75.2%(▲0.2) | 19.6%(+0.5) |
| 日経・テレ東(11/29~30) | 75.0%(+1.0) | 18.0%(▲1.0) |
| JNN(12/6~7) | 75.8%(▲6.2) | 20.7%(+6.4) |
(【出所】各社報道)
韓国が日本のネット世論を鍛えた
ただ、「中国も日本の左派メディアも左派政党も左派言論人もみんな怒っている」のに日本の国民世論がまったく動じなくなった理由は、オールドメディアの社会的影響力が低下しただけでなく、おそらくほかにも理由があるのだと思います。
あえて主観でその契機となる要因を選ぶと、それは韓国ではないでしょうか。
とりわけ、韓国における2018年頃からの日本に対する異常ともいえる国際法違反のふるまいの数々が、結果的に日本のネット世論を鍛えた可能性があるのです。
その「異常なふるまい」の一例が自称元徴用工問題―――「戦時中日帝に強制徴用された」などと自称する者たちが日本企業を訴え、韓国の裁判所がその者たちの訴えを認めて日本企業に賠償を命じた事件―――ですが、それだけではありません。
「レーダー照射」つながりでいえば、2018年12月20日に発生した、韓国海軍駆逐艦「広開土王」による日本の海自P1哨戒機に対するFCレーダー照射事件は、何でもない普通の日本国民を激怒させ、ネットを通じて広範囲に団結させるうえでは十分な題材でした。
今になって思えば、日本国民は韓国という「日本とは明らかに異質な国」の特殊なふるまいを目撃し、そしてそれに対する日本のメディアの報道があまりにも的外れであることに気づき、それでマスコミ不信を募らせるとともに、ネットを通じたファクトチェック能力を飛躍的に向上させたのではないでしょうか。
鈴置論考で見る韓国の民主主義
鈴置高史氏の慧眼①「韓国の特殊性」
さて、韓国は日本に近い国であるがゆえに、コリア・ウォッチャーはそれなりにたくさんいるのですが(それらの中にはそれなりに信頼できる主張を展開する人もいます)、ただ、著者の主観ついでにもうひとつ言わせていただくならば、やはり群を抜いているのは自らを「韓国観察者」と位置付ける鈴置高史氏でしょう。
日本における韓国論は、韓国の特殊な行動(国際法を平気で破る、ありもしない歴史的事実を捏造する、など)の理由の説明をする際に、「日韓関係が特殊だからだ」、といった言い分を持ち出したりすることがあります。
わかりやすくいえば、「日韓間で諸懸案が生じる」のも「日韓関係が特殊」だからであり、日韓関係が特殊な状態となっているのは日本が過去の歴史について反省も謝罪もしていないからだ、といった理屈につながります(だからこそ日本は半永久的に韓国に謝罪しなければならない、というわけです)。
しかし、鈴置氏は違います。
『鈴置論考、「日韓の」ではなく「韓国の」特殊性に言及』などでも取り上げましたが、鈴置氏は2021年7月16日付のデイリー新潮の論考で「日韓の仲が悪いのは日本の植民地支配が原因である」との説明を明確に否定したうえで、次のように喝破しているのです。
「平気で約束を破り、堂々と他人を裏切る韓国と首脳会談を開こうとする国はまず出てこない。何を取りきめようが、すぐに反故にされるからです。日本と韓国がうまくいかない原因は『日韓関係の特殊性』ではなく『韓国の特殊性』にあるのです」。
鈴置氏が指摘したこの「韓国の特殊性」は、私たち日本人が韓国を論じる際に欠かせないファクターです。
過去に朝鮮半島を併合していたこともあってか、ほんの数十年前までは、日本国民には韓国に対する親近感に加え、ある種の贖罪意識もあり、あるいはオールドメディアの報道の影響などもあり、「日韓がうまく行かない理由は日本の側にも原因がある」、といった勘違いが蔓延していたフシがあります。
しかし、この鈴置氏の「韓国の特殊性」という表現は、おそらくネットを通じて少なくない日本人の耳には届いていることでしょう。日本国内で「日本は過去をちゃんと反省しよう」といった主張がオールドメディア(とくに左傾紙など)に掲載されても、最近だと小バカにされるか見向きもされなくなっているのが良い証拠です。
鈴置高史氏の慧眼②「韓国のベネズエラ化」
そして、鈴置氏がほかのコリア・ウォッチャーとは異質な点は、それだけではありません。ともすれば日韓関係論に終始してしまいがちな韓国ウォッチングに、「中国」と「米国」という2つの視点を導入したことにあります。
韓国の特殊性の根源の一部は、まさに歴史的に従属してきた中国という国に対する恐怖感で説明がつきますし、また、明治維新の前後から自発的に近代化に取り組んできた日本とは根本的に異なり、本当の意味での「法の支配」を経験してこなかったことが、韓国の特殊性の原因でもあるのでしょう。
こうしたなか、当ウェブサイトでしばしば引用するのが「鈴置三部作」です。
それが、2024年9月刊行の『韓国消滅』、2022年6月刊行の『韓国民主政治の自壊』、そして2018年10月刊行の『米韓同盟消滅』です(※いずれも新潮新書)。
このうちの『韓国民主政治の自壊』には「ベネズエラ化する韓国」という節が設けられていて、その土台となった議論の一部は『デイリー新潮』で今でも読むことができます。
文在寅で進む韓国の「ベネズエラ化」、反米派と親米派の対立で遂に始まる“最終戦争”
―――2019/02/12付 デイリー新潮『鈴置高史 半島を読む』より
鈴置氏は韓国国内の保守派論客のサイトを引用する形で、南米・ベネズエラで1999年に発足した左派のウゴ・チャベス政権が同国をどんな悲惨な状態に陥れたのかを解説しています。
- ベネズエラは中南米で最も伝統がある強力な民主主義体制を誇っていた。域内のどの国家よりも社会安全網が整備され、すべての国民に無料の医療と高等教育への支援が約束されかけていた。メディアは言論の自由を謳歌し、政治体制も透明で平和的な政権交代も行われていた
- そのベネズエラが、戦争をしたわけでもないのに、中南米で最も貧しく、最も新顔の独裁政権が君臨する国になった。医療体制は崩壊した。ごく少数のエリートだけが飯を食べ、今世紀に入ると中南米で最も多くの難民を生む国になった。
ちなみに記事が書かれた当時もベネズエラ経済はかなり悲惨な状態にありましたが、世銀データによれば2025年のインフレ率は269.9%と予想されているなど、依然、経済は安定していません。
いずれにせよ、産油国であるとともに安定した民主主義国家だったはずのベネズエラが、米国への反発から自ら民主主義を捨てていく様子は、さまざまな教訓をもたらしてくれるのではないでしょうか。
半導体大国であるとともに、(一見すると)安定した民主主義国であるかの韓国で、左派政権が断続的に続いていることが、こうした懸念に根拠を与えているからです。
戒厳令から1年後の韓国
さて、時代はいきなり飛んで、昨年、つまり2024年12月3日。
当時の尹錫悦(いん・しゃくえつ)韓国大統領は、夜、唐突に戒厳令を出しました。
ただ、これに対しては韓国国会が直ちに解除に動き、尹錫悦氏の戒厳令は数時間で終わりを迎え、その後は国会の弾劾決議、憲法裁判所の罷免判決を受け、現在は内乱罪で訴追されているのです。ちなみに後任は李在明(り・ざいめい)氏が大統領に選ばれています。
こうした中で目に付いたのが、鈴置氏が執筆し、10日付で公表された、こんな記事です。
韓国「戒厳令」1年 “日本に勝るK民主主義”の誇りはどこへ… 「やっぱりアジアのベネズエラ」――鈴置高史氏が読む
―――2025/12/10付 デイリー新潮『鈴置高史 半島を読む』より
記事表題に「アジアのベネズエラ」とありますが、これはまさに鈴置三部作や数年前の『デイリー新潮』記事などを読んだ経験があれば、「自ら民主主義をかなぐり捨てるかのごとき韓国の動き」をトレースしている文章だと理解できるのではないでしょうか。
ウェブページ換算で5ページにも上る長大な文章ですが、「知的好奇心を刺激すること」が大好きな人であれば、おそらく、さしたる労力もなしにあっという間に読めてしまうのではないでしょうか。
ちなみにリンク先記事は読者登録などをしていなくても無料で読めるようですが、当ウェブサイト側に全文を転載することは控えたいと思います。とりわけ前半では、尹錫悦氏がなぜ、軽率にも見える戒厳令という手段に出たのか、その背景について丁寧に掘り下げて説明されているので、是非とも直接、ご一読を願いたいと思います。
左派が支配する韓国で「やりたい放題」
そのうえで、やはり私たち日本人が詠んでおかねばならないのは、「韓国のベネズエラ化」という、鈴置氏の一貫した主張です。
前提として、韓国では国会(一院制、定数300議席)は左派政党で李在明・現大統領の出身母体でもある「ともに民主党」が3分の2近い勢力を占めており、大統領・国会ともども、「左派はやりたい放題」になっているのです。
鈴置氏によると現在、韓国左派は検察、裁判所などを順次骨抜きにする法案等を国会で通しており、特に裁判所に関しては、「内乱」から1周年の記念日となる12月3日、「内乱専門担当裁判部設置法案」と「法歪曲罪を実施するための刑法改正案」が法制司法委員会を通過したのだとか。
鈴置氏は、こう指摘します。
「いずれも司法の独立を侵す、先進国ではまれな法案です。前者は尹錫悦氏ら内乱罪で起訴されている人々を専門に裁く裁判所を作るのが目的です。<中略>後者<中略>は警察官、検察官、裁判官が法を歪曲して適用した際に10年以下の懲役を科す法律です。もちろん狙いは内乱罪を裁く裁判官への圧力です」。。
「先進国ではまれな法案」とは、「韓国の特殊性」の別の表現でしょうか。
では、韓国はどうしてこんな無法国家になってしまったのでしょうか。そして、韓国はまともな国に戻れるでしょうか。
鈴置氏は続けます。
「身も蓋もない言い方をすれば、もともと法治意識に乏しいからです。そのうえ、左右対立が激化して政治勢力が『生きるか死ぬか』という精神状況に追い込まれた。すると三権分立や法治など、ますますどうでもよくなってしまう――」。
「(まともな国に戻るのは)難しいと思います。まだ、多くの韓国人が『日本よりも成熟した栄光のK民主主義』を信じているからです。識者には『法治の破壊』や『ベネズエラ化』を危惧する人が多い。でも、普通の人はそうは考えない。韓国の危うさに気付いている韓国人はごくわずかなのです」。
そりゃ、「韓国の危うさ」に気づいている韓国人が多ければ、そもそも自称元徴用工問題や自称元慰安婦問題、FCレーダー照射問題などが起きるわけありません。それが、鈴置氏の次の発言にあらわれています。
「ほとんどの韓国人はちゃんとした法治国家に住んだことがない。すると、法治国家のありようも、ありがたさも知らないのです」。
このあたりは、マイナンバーカードを健康保険証として利用していない人がマイナ保険証の便利さを理解できない(『マイナ保険証持たぬ人はいったん全額払う仕組み導入を』等参照)のと事情が似ているのかもしれません(笑)。
韓国の行動から日本を読む
いずれにせよ、当ウェブサイトで提唱している、「じつは鈴置氏は韓国観察者であるだけでなく、日本観察者でもある」とする説は、意外と間違っていないのではないかと思います。
韓国という一見日本に似ている、しかし本質では日本と似て非なる国を観察することで、その韓国という鏡に映った日本の姿を確認することができるからです。
中国が高市総理の台湾発言を撤回させようとして失敗したこと、FCレーダー照射問題などでどんどとドツボに嵌っていくことなどを見ていると、中国も「韓国だったらこれで言うことを聞かせられる」という経験を日本に当てはめてしまい、それで失敗しているフシがあります。
日本はどれだけ叩いても脅してもまったく怯まないうえに、中国政府のSNSを通じた日本国民に対する脅しが逆に茶化され、徹底的にイジられ、コケにされ、オモチャにされて、最後は大喜利状態になってしまっているというのは、おそらく中国政府にとっては恐怖でしかないでしょう。
そしてこれも、日本国民がオールドメディアや「韓国という特殊な国」などを相手にプロパガンダと戦ってきたからこその話なのかもしれませんし、逆にいえば、自由・民主主義、法の支配、人権といった基本的価値が日本では完全に根付いている証拠といえるのかもしれない、などと思う次第です。
本文は以上です。
金融評論家。フォロー自由。雑誌等の執筆依頼も受けています。 X(旧ツイッター) にて日々情報を発信中。 Amazon アソシエイトとして適格販売により収入を得ています。 著書①数字でみる「強い」日本経済 著書②韓国がなくても日本経済は問題ない日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
読者コメント欄はこのあとに続きます(コメントに当たって著名人等を呼び捨てにするなどのものは禁止します)。当ウェブサイトは読者コメントも読みごたえがありますので、ぜひ、ご一読ください。なお、現在、「ランキング」に参加しています。「知的好奇心を刺激される記事だ」と思った方はランキングバナーをクリックしてください。
読者コメント一覧
※【重要】ご注意:他サイトの文章の転載は可能な限りお控えください。
やむを得ず他サイトの文章を引用する場合、引用率(引用する文字数の元サイトの文字数に対する比率)は10%以下にしてください。著作権侵害コメントにつきましては、発見次第、削除します。
※現在、ロシア語、中国語、韓国語などによる、ウィルスサイト・ポルノサイトなどへの誘導目的のスパムコメントが激増しており、その関係で、通常の読者コメントも誤って「スパム」に判定される事例が増えています。そのようなコメントは後刻、極力手作業で修正しています。コメントを入力後、反映されない場合でも、少し待ち頂けると幸いです。
※【重要】ご注意:人格攻撃等に関するコメントは禁止です。
当ウェブサイトのポリシーのページなどに再三示していますが、基本的に第三者の人格等を攻撃するようなコメントについては書き込まないでください。今後は警告なしに削除します。また、著名人などを呼び捨てにするなどのコメントも控えてください。なお、コメントにつきましては、これらの注意点を踏まえたうえで、ご自由になさってください。また、コメントにあたって、メールアドレス、URLの入力は必要ありません(メールアドレスは開示されません)。ブログ、ツイッターアカウントなどをお持ちの方は、該当するURLを記載するなど、宣伝にもご活用ください。なお、原則として頂いたコメントには個別に返信いたしませんが、必ず目を通しておりますし、本文で取り上げることもございます。是非、お気軽なコメントを賜りますと幸いです。
コメントを残す
【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました
| 自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。 |
【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
![]() | 日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。 |



>逆に茶化され、徹底的にイジられ、コケにされ、オモチャにされて、最後は大喜利状態になってしまっている
国会議員や新聞社、TV 局が同じ轍を踏んでいる。虚勢欺瞞を明日衝かれ笑われるのは、彼らなのでしょう。「社会の分断」話法「ポピュリズムの台頭」話法は通用しないと分からないのです。