邦銀が十年連続で国際与信1位に

国際決済銀行(BIS)が公表する『国際与信統計(CBS)』のデータによると、2025年6月における邦銀の対外与信は5兆4886億ドルで、日本は最終リスクベースで10年連続して世界最大の債権国の地位を維持しました。一方、世界最大規模の対外債務国は9兆7259億ドルを借りる米国です。もっとも、日本が「金利のある世界」に突入するなか、円キャリーの巻き戻しは猛烈な円高とともに、世界経済に資金不足のリスクをもたらします。

国際与信統計(CBS)とその限界

当ウェブサイトでだいたい四半期に1回程度の頻度で取り上げている話題が、国際決済銀行(BIS)が3ヵ月に1回公表している『国際与信統計』、あるいは英語の “Consolidated Banking Statistics” を略した『CBS』と呼ばれる統計です。

『国際与信統計(CBS)』は先進国・地域を中心とする最大31ヵ国・地域(いわゆる「報告国」)に本店を置く銀行からの他の国・地域への与信状況を統一的な尺度で集計した統計であり、いわば、国をまたいだ与信の状況を知ることができるなど、非常に利便性が高いものです。

ただし、この統計にはいくつかの難点があります。

ひとつは、通貨別(たとえば米ドル、ユーロ、日本円など)の集計ができないことです。いちおう、「(その国にとっての)自国通貨なのか、外国通貨なのか」といった集計は可能ですが、逆に、それ以上の集計はできません。

もっとも、この論点については、同じくBISが公表している『国際資金取引統計』、あるいは英語の “Locational Banking Statistics” を略して『LBS』と呼ばれる別の統計データを使えば通貨別の資金貸借を把握することは可能ですので、機会があれば別稿にて取り上げてみたいと思う次第です。

中国やロシアからのカネの流れがわからない

もうひとつの難点は、統計が報告国からの債権発であり、この報告国に中国やロシアなどが含まれていないことです。

このため、たとえば「報告国(先進国など31ヵ国・地域)が中国に貸しているおカネの額」について知ることはできますが、これとは逆に「中国が外国に貸しているおカネの額」について、私たちがCBSを使って知ることはできません。

ことに、最近は中国が一部の国・地域に対し、返しきれないほど巨額の資金を貸し付けるという、いわゆる「債務の罠」を仕掛けているとする情報もありますが、こうした「債務の罠」の実態については、CBSからはほとんど見えてこないのです。

こうした欠点はあるにせよ、現状、このCBSは国際金融を見るうえで非常に有益なデータのひとつであることも間違いなく、その意味では注目に値するデータといえるのです。

日本が世界最大の債権国

それはともかくとして、BISが先日までに公表した2025年6月末時点のデータを眺めていると、日本がこのCBS基準で世界最大の債権国であることが判明しました。債権国側について、債権額を国ごとに集計したものが図表1です。

図表1 最終リスクベース・債権【債権国側】(全報告国集計・2025年6月末時点・上位10ヵ国)
債権国債権額構成割合
1位:日本5兆4886億ドル14.77%
2位:米国5兆1894億ドル13.96%
3位:英国4兆9611億ドル13.35%
4位:フランス4兆3731億ドル11.76%
5位:カナダ2兆9350億ドル7.90%
6位:スペイン2兆4369億ドル6.56%
7位:ドイツ2兆2097億ドル5.94%
8位:オランダ1兆8528億ドル4.98%
9位:イタリア1兆1602億ドル3.12%
10位:スイス9248億ドル2.49%
その他5兆6415億ドル15.18%
報告国合計37兆1731億ドル100.00%

(【出所】Bank for International Settlements, Consolidated Banking Statsitics データをもとに作成)

これによると2025年6月末時点の国境をまたいだ与信は37兆1731億ドル、1ドル≒150円と単純に仮定すると、日本円にして約5576兆円です。

そして、世界トップは与信額が5.5兆ドルに達しようとしている日本であり、同じく5兆ドルを超えている米国が世界2位、そして英国が5兆ドルにやや足りないにせよ、世界第3位です。つまり、日米英3ヵ国が世界的な債権国、というわけです。

「日本が世界最大」は10年連続

じつはこのCBSにおいて、日本が債権国側で世界1位となるのは、2015年9月以来、じつに10年連続のことでもあります。

これを、「日本が世界最大の債権国だ」と単純に喜んでよいのか、それとも「邦銀が日本国内におカネを貸し出せず、仕方なしに外国におカネを貸している証拠」と見るべきなのかについては、議論が別れるところでしょう。

とくに前者の見方については、経常収支統計で第一次所得収支の黒字が年間40兆円にも達している事実を見ると、「邦銀や日本企業の対外投資から生じる利息・配当金収入が日本経済を潤している」という視点に着目したものと考えられます。

ただ、後者に関しては、日本国内に有望な投融資先がないことで、本来ならば日本経済の成長に廻るはずだった資金が海外に流出してしまっているのだ、という見方もできるため、この「日本が世界最大の債権国」論がシンプルに良い話なのかどうかは別問題です。

これに加えて、近年の資金循環統計などを見ていると、国内で「金利のある世界」が実現しつつあることから、邦銀の貸出残高は間違いなく増えており、こうした動きが続けば、邦銀の対外与信が減っていくという可能性は決して低くありません。

著者などに言わせれば、GDPを上回るほどの金額を邦銀が外国のために貸し付けているという状況は、それだけの金利収入や金融収益を日本国内にもたらしてくれるという側面を持つ反面、国内の投融資にもう少し力を入れる余地が残されている、という意味ではないかと思うのです。

債務側のトップは米国

さて、図表1は債権国側から見た金額でしたが、37兆1731億ドルを債務国側から眺めたものが、次の図表2です。

図表2 最終リスクベース・債権【債務国側】(全世界分・2025年6月末時点・上位10ヵ国)
債務国債務額構成割合
1位:米国9兆7259億ドル26.16%
2位:英国2兆5691億ドル6.91%
3位:ドイツ1兆9334億ドル5.20%
4位:ケイマン諸島1兆8738億ドル5.04%
5位:フランス1兆7518億ドル4.71%
6位:日本1兆4141億ドル3.80%
7位:イタリア1兆0328億ドル2.78%
8位:ルクセンブルク9293億ドル2.50%
9位:香港8466億ドル2.28%
10位:中国8436億ドル2.27%
その他14兆2525億ドル38.34%
合計37兆1731億ドル100.00%

(【出所】Bank for International Settlements, Consolidated Banking Statsitics データをもとに作成)

合計額の37兆1731億ドルが図表1の債権国側からの合計額と一致していることをご確認ください。同じデータを債権国側から集計するか、債務国側から集計するかの違いに過ぎないからです。

それはともかく、驚くことに、トップの米国はたった1ヵ国で9兆7259億ドル、すなわち10兆円近いおカネを借りていることがわかります。米国の債務シェアは26%超、つまり世界の国際与信のざっと4分の1を借り入れているという計算です。

このことから、米国は5兆ドルを超える資金を世界中に貸し付ける「最大級の貸し手」でありながらも、外国から10兆円近いおカネを借り入れる「最大級の借り手」でもある、ということがわかります。

また、2位以下は英国、ドイツなど欧州勢に続き、4位にケイマン諸島というカリブ海に浮かぶ風光明媚な島国がランクインしていますが、ケイマンはべつに大都市があるわけではなく、単純に税制(金利の源泉徴収税など)が存在しないなど、オフショア金融fセンターとして使い勝手がよく、人気があるだけの話です。

ちなみに債権国側で世界最大だった日本は債務国側では1兆4141億ドルと第6位で、国際的な金融センターとして知られる香港は8466億ドルで9位、そして世界第2位の経済大国であるはずの中国は8436億ドルで債務国としてのランクは辛うじて第10位に入っています。

すなわち、同じ国際金融のランキングも、債権国側で見たものと債務国側で見たものでは、またずいぶんと印象が異なります。

円キャリー解消ならこれから起きるのは猛烈な円高

それはともかくとして、なぜ日本が10年連続して世界最大の債権国なのかについては、少し深刻に考えておく必要があるかもしれません。

いうまでもなく、低金利状態の日本国内で「金利のない世の中」が常態化するなかで、「ジャパン・マネー」が為替リスクやファンディング・リスクなどを甘受してでも、少しでも利回りの高い投資を求めて全世界をさまよっていることがその原因でしょう。

逆に、日本国内で国債(長期債など)に金利が出てくれば、債券の購入で十分に余資運用が成り立つため、本邦金融機関としては為替リスクや流動性リスクを取ってまで外債などに投資するインセンティブは低下していきます。

そうなると、今後の国内債券市場における金利動向いかんによっては、5兆ドルを超える邦銀の巨額の対外与信が急速に縮小し、これらが一気に日本国内に還流する、といった事態も考えられます。

とくに邦銀の投融資には、いわゆる与信取引だけでなく、資金運用の一環による買入金銭債権なども含まれていると考えられ(著者私見)、国内債市場で十分な利回りが出ている状況が常態化していけば、まずは米国債などの外国債券市場、外国ローン市場に影響が生じてくるかもしれません。

その帰結は、猛烈な円高です。

よく世の中では「高市積極財政を受けた財政悪化懸念と通貨の信認問題からの円安進行」などと主張する人たちがいますが、実際の統計からはこれと真逆の未来が予想されるのです(あるいは「日本発の世界的金融ショック」というべきでしょうか)。

当然、円高による日本経済へのマイナス影響に打ち勝つためには、利上げの一時的な停止とセットにした積極財政・減税などの政策ミックスが行われることが望ましいといえます。

このあたりは経済学をよく理解していない一部メディアの「悪い円安論」が日銀審議委員らの判断に誤った影響を与えていないかが懸念されるところですが…。

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