柏崎刈羽再稼働は光明だが…電力政策はまだまだ不十分
柏崎刈羽原発の再稼働を新潟県知事が容認するとの観測報道が出て来ました。もし事実なら、電力不足には一筋の光明が見えた格好です。ただ、柏崎刈羽のうちの6号機と7号機が再稼働したとしても、残念ながら首都圏の電気代は劇的に安くなることはありません。2基あわせても出力は271万2000kWで、関西電力が再稼働済みの原発6基(575万2000kW)の半分であり、利用率70%の場合の年間発電量は約166億kWhに留まるからです。また、再エネ賦課金という不合理な電力税の存在も見過ごせません。
目次
太陽光発電の不合理
かなり以前の『太陽光発電には総量規制が必要だ』などを含め、当ウェブサイトではこれまでに何度か指摘して来たとおり、太陽光発電はコスト面でも効率性の面でも、あるいは出力の安定性や環境負荷などにおいても、欠陥だらけといえるのです。
①そもそも安くない
再エネ賦課金の存在を前提としていることからもわかるとおり、太陽光発電はそもそも安くない。効率が悪く、太陽光パネルなどの設置費用も必要。さらには中小規模事業者などのパネル設置に伴うトラブル(土砂流出、火災など)対応のコスト、将来の破棄費用コストなどもかかる
②出力が安定しない
電力系統では常に需給のバランスを一致させることが必要だが、太陽光発電は季節、時刻、緯度に加え、その日の天気などによっても出力が大きく変動する。このため、太陽光発電の割合が増え過ぎると、この「需給バランスの一致」という目標を達成することが難しくなる
③面積当たりの発電量が少ない
設置する場所の緯度や気象条件等にもよるが、一般に太陽光発電施設の出力は1ヘクタールあたり500kW程度とされ、日本の気象条件では利用率は15%が良いところであり、この場合の年間発電量は1ヘクタール当たり33万kWhと、出力100万kWの原発とくらべ1万分の1に過ぎない
④環境に優しくない
太陽光発電は地球温暖化ガスを排出しない、などといわれているが、頻発するパネルなどの火災では大量の二酸化炭素などを発生させているし、パネルを設置することで山林の保水能力や光合成能力が低下し、却って地球環境を悪化させることがある
…。
太陽光発電は高いし効率も悪い
この際、改めて指摘しておくと、太陽光発電を含めた再エネの多くは、安価でもなく、安定もしておらず、そしてなにより環境にやさしくもありません。
たとえば①については「再エネ賦課金」という仕組みを通じ、消費者に対し、通常の電源の倍近い負担を強いていますし、②については電気の周波数を維持するという観点から、太陽光発電は大変好ましくない仕組みであることは明らかでしょう。
ちなみに再エネ賦課金の現在の金額(2025年5月以降分)は1kWhあたり3.98円とされ、電力を毎月400kWh使用する家庭の場合は毎月約1,600円、年間だと2万円近く余分に電気代を支払わされている計算です(図表1)。
図表1 再エネ賦課金の状況
(【出所】単価は経産省『再生可能エネルギーのFIT制度・FIP制度における2025年度以降の買取価格等と2025年度の賦課金単価を設定します』や電力各社の過去の報道発表等、標準家庭の年間負担は毎月400kWhと仮定して計算)
もちろん、電力使用量に応じて再エネ賦課金の金額は変わりますが、いわば、これも電気を使えば使うほど課せられる「電力税」のようなものです。それらを(家庭によっては)2万円前後も負担させられている時点で、再エネが「安くない」ことは明らかでしょう。
そして、太陽光の場合、発電効率が悪いうえに、致命的なのが、出力が安定しないことです。そもそもたった500kWの出力を確保するにも1ヘクタールという広大な面積にパネルを敷き詰める必要があり、しかも夜間は発電されず、日中の発電量もその日の天候などの気象条件に左右されてしまうからです。
仮に「設備利用率」(稼働率のこと)が15%だったとすれば、年間に生み出す電力は65.7万kWhに過ぎず、毎月400kWh(つまり年間4800kWh)を消費する家庭に換算し、たった140世帯弱分の消費電力に過ぎません。
原発は効率も良く出力も安定する
これに対し、東京電力・柏崎刈羽原子力発電所の出力は8,212,000kW(※1~7号機合計)ですので、これらが完全に運転を再開すれば、利用率が70%だったとしても、年間で503億5598万4000kWhの電力を安定的に生み出します。
その柏崎刈羽原発の敷地面積は420万平米、つまり420ヘクタールですので、1ヘクタールあたり生み出す電力量は年間1億1989万5200kWh、すなわち年間4800kWhを消費する家庭に換算して24,978世帯分であり、これは太陽光発電の約180倍です。
逆にいえば、太陽光発電だけで柏崎刈羽原子力発電所と同じ発電量を確保したければ、「利用率15%」と仮定すれば76,645ヘクタール(=766.45平方キロメートル)、東京ドームに換算して16,662個分の敷地が必要だ、ということです。
なんだか、めちゃくちゃな話です。
環境に優しくない太陽光発電
そしてなにより、太陽光発電は環境に優しくないという点を忘れてはならないでしょう。
太陽光発電などの推進論者がしきりに主張するのが、「太陽光は環境に優しい発電手段だ」、という点ですが、、これがそもそも正しくない可能性があるのです。。
なるほど、「発電に際して地球温暖化ガスを排出しない」という点に限って言えば、たしかに太陽光発電は火力発電などと比べて優位性があります。火力発電の場合は石油、石炭、LNGなどを燃やすため、多かれ少なかれ、酸素を消費し地球温暖化ガスなどを排出するからです。
ただ、もう少し広い視野で見てみると、この「太陽光は環境に優しい」とする主張自体、事実に反しているのではないかと思わざるを得ない状況がいくつも見つかります。
たとえば、太陽光発電や蓄電施設などでは頻繁に火災なども生じており、とりわけリチウム蓄電池については下手に水をかけて消火するわけにもいかず、「燃え尽きるまで何もできない」ことがあります。これについては『メガソーラー火災で燃え尽きるまで消火できない蓄電池』でも取り上げたとおりです。
そして、そうこうしている間にも、近年、太陽光パネルを巡る不祥事、懸念などが相次ぐようになってきました。
釧路湿原や阿蘇など、いくつかの地域ではメガソーラー開発が環境を破壊しているなどとして問題になっていますし(『太陽光発電には総量規制が必要だ』等参照)、また、近年相次ぐ土砂災害、さらには熊の出没案件などについても、やはり強引なメガソーラー開発などとの関係を疑うのが自然でしょう。
家庭から消費電力1kWhあたり3.98円という、決して安くない賦課金を強制的に巻き上げておきながら、実際には環境負荷が極めて高い施設を全国各地に設置しまくり、それで環境を破壊しつつ、電力の安定供給網も破壊する――。
いったい何をやっているのかと呆れます
少しずつ進む原発再稼働…関西電力は安いらしい!?
ただ、こうしたなかで少しずつ朗報が入ってきています。
原子力規制委員会の『原子力発電所の現在の運転状況』というウェブサイトによると、10月20日時点で7つの発電所にある11基の原子炉が操業しており、これらについて別途、電力各社ウェブサイトなどで出力を調べて集計したものが、次の図表2です。
図表2 原子力発電所のステータス
| ステータス | 原子炉 | 出力(kW) |
| 運転中 | 11基 | 10,647,000 |
| 停止中(定期検査中) | 22基 | 22,588,000 |
| 廃止措置中 | 20基 | 13,172,000 |
| 廃止 | 6基 | 4,696,000 |
| 建設中 | 3基 | 4,141,000 |
| 合計 | 62基 | 55,244,000 |
(【出所】稼働状況は『原子力発電所の現在の運転状況』、出力は各社ウェブサイト等のデータをもとに集計)
これによると現在運転中の原子炉は11基あり、出力は約1065万kWで、利用率が70%だと仮定しても、これだけで年間653万kWhの電力を生み出す計算です。
また、図表2を電力会社ごとに集計したものが図表3です。
図表3 電力会社ごとの稼働状況
| 電力会社 | 原子炉 | 出力(kW) |
| 北海道電力株式会社 | 0基 | 0 |
| 東北電力株式会社 | 1基 | 825,000 |
| 東京電力ホールディングス株式会社 | 0基 | 0 |
| 日本原子力発電株式会社 | 0基 | 0 |
| 中部電力株式会社 | 0基 | 0 |
| 北陸電力株式会社 | 0基 | 0 |
| 日本原子力研究開発機構 | 0基 | 0 |
| 関西電力株式会社 | 6基 | 5,752,000 |
| 中国電力株式会社 | 1基 | 820,000 |
| 四国電力株式会社 | 0基 | 0 |
| 九州電力株式会社 | 3基 | 3,250,000 |
| 合計 | 11基 | 10,647,000 |
(【出所】稼働状況は『原子力発電所の現在の運転状況』、出力は各社ウェブサイト等のデータをもとに集計)
なんとももどかしいところです。
実際、いちおう、原子力発電所の再稼働に漕ぎ着けている電力会社は現時点で4社ありますが、いくつかの「電力お得情報サイト」などで調べてみると、関西電力や九州電力が非常に安いようですが、東北電力や中国電力で顕著に安いという状況はありません。
やはり1基や2基ではなく、再稼働できる原子炉をどんどん再稼働しなければ、電気代はなかなか安くならない、ということでしょう。
柏崎刈羽の再稼働容認か
さて、以上を踏まえて、ちょっと気になる話題が出て来たので紹介しておきたいと思います。
柏崎刈羽原発、新潟県知事が再稼働容認へ 21日にも表明
―――2025年11月19日 19:05付 日本経済新聞電子版より
原発「最大限活用」に弾み 国の相次ぐ支援策、容認引き出す―柏崎刈羽再稼働
―――2025年11月20日07時07分付 時事通信より
いくつかのメディアの報道によれば、東京電力柏崎刈羽原発の再稼働を、新潟県知事が容認する方向だとしています。
ちなみに柏崎刈羽は1号機から7号機まであり、東京電力等によると出力は1~5号機がそれぞれ110万kW、6・7号機がそれぞれ135万6000kWだそうですので、すべて合計すれば821万2000kWと膨大です。
仮にこれらの利用率が70%ならば、日本全国の太陽光発電量のざっと半分に相当する年間約504億kWhの電力が新たに生み出されることとなり、電力不足問題にも少し光明が見えてきます。
再エネ制度などの問題解決が必要
ただし、いきなり1~7号機のすべてが再稼働できるというわけではないでしょうから、現実には7号機と6号機あたりが再稼働し始めたとしても、合計出力は271万2000kWに過ぎず、関電の半分です。これだと利用率70%の想定で発電量は年間約166億kWhで、首都圏の電気代はまだ下がりそうにありません。
このように考えていくと、電力政策は、やはり再稼働可能な原発の再稼働を強く進めていくことと、再エネ賦課金制度を見直すことの2点が重要です。
物事というものは、いきなり良くなるものではありません。私たちが暮らすこの社会には、さまざまな利害関係者がおり、したがって、何か物事を変えようとしたときには、得てして不利益が生じる人も出てくるわけです。
そして、社会全体をより良い姿にしていくためには、常に不利益と利益を比較していく必要があります。
電力政策、とりわけ太陽光発電など、その典型例でしょう。
とりわけ環境に優しくなく発電効率も悪く国民負担の重い再エネ制度についてはトータルな制度再設計が必要であり、あわせてベースロード電源としての原発の再稼働と次世代炉の新増設を推進していく取り組みが何よりも求められるのではないかと思う次第です。
本文は以上です。
金融評論家。フォロー自由。雑誌等の執筆依頼も受けています。 X(旧ツイッター) にて日々情報を発信中。 Amazon アソシエイトとして適格販売により収入を得ています。 著書①数字でみる「強い」日本経済 著書②韓国がなくても日本経済は問題ない日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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太陽光発電は、利権?になっていますね。30台位駐車できる駐車場の屋根に太陽光発電のパネルが貼ってあり、売電している会社があるのですが、半期で800万円の売電収入です。太陽光発電への投資はかなりの高利回り案件のようです。これをいつまで続けるのか。そろそろ政策目的は達成したのでは。いい加減に再エネ賦課金は見直しが必要かもしれません。
30台、2m×5mとして300平方メートル、通路込みで500平方メートル
1平方メートル当たりの発電能力は200W(20%)、全体で100kW。
平均日照量を1日4時間(16.6%)として400kW時
1kW時9円として1日3600円 (20年契約価格)
半年で180日、648万円
大体あってます。
ただし、再エネ賦課金はここにはほぼ入っていませんね。
(家庭用太陽電池のFIT満了後の売電価格は8円なので差額は1円だけ)
ご検証いただきましてありがとうございます。監査ではなかったのですが、仮に監査の場合でも、ここまでの検証はやらないケースが多いですが、MAの場合は必須ですね。
よくよく考えたら駐車エリアの幅2mだと車から降りられないので2.5mくらいが適当でしょうか。
1.25倍して810万円 ぴったり。
投資回収効率は高いですね。安定給電に必要なバッテリーを付ければ9円じゃなくて20~円の価値になるので、大規模業者はバッテリーの設置を考えてほしいものです。
最近だと両面入射可能な垂直に立てるタイプの太陽電池が検討されているようです。この場合、お昼の発電力は0になりますが、電力の足らない朝晩に大きく発電するので過剰発電にならないとか、雪が積もらないとか、畑の上に設置すると下の畑に十分太陽光が届くとか、メリットが大きいようです。
幼少時代に変電所近くに住んでいた(夜はトランスの唸る音が聞こえた)せいか、鉄塔とかの鉄分多め構造物好きであったので、電力ネタにはつい目がいきます。
ご指摘にあるように太陽光発電は「筋が悪く」決して独り立ちできない半人前の性格のものです。冷静沈着な原子力発電や地熱発電、そして臨機応変な火力発電の助けがあってやっと見習いで舞台に立てる。本来ならば超大電力蓄電設備というパートナーがあってから舞台に上がるべき存在です。
オマケにその身体は専制国家である中国製であり、それに頼る事自体が経済安保上のリスクになる代物です。
あくまでも個人が大規模災害時などでの自衛手段、リスクに対する備えとして、自由意志で自前電源を確保する、という立ち位置でなら拒むものではない、という位置づけであるべきかと考えます。
やはり、太陽電池はアフリカ用ですね。広大で送電線を作ることのできない広大なアフリカの大地で重要な電力供給源となっています。わずか3年で減価償却終了するとのこと。うらやましい。
無人島や人里離れたところの灯台の電力供給は、随分前から太陽電池になっていたと記憶しています。
「太陽光発電→蓄電池→LED光源」で、送電線敷設も燃料補給も不要、その場所だけで完結。
そういう使い方が太陽光発電を最も活かせると思うのですが、
なぜかメガソーラーとか大規模開発ありきに化けているのが不可解なところです。
原発は核のゴミ問題や事故を起こすと危険だ。しかし、発電量では原発の代替となるものは火力しかない。火力は温暖化の問題がある。地熱発電は過去の失敗から禁じ手と、まさしく「メビウスの輪から抜けだせなくて〜♪」状態。回答を示せるのは詐欺師かノーベル賞ものか。
私は原燃施設を視察させていただいたことがありますが、実際に中を見たことがありますが、施設の規模感、従事者数やセキュリティなどを目の当たりにして原子力発電に関する意識は大分変わりました。
IAEAが抜き打ちで監査にくるのかと思ってたら、実は常駐してることも初めて知りました。
機密的なこともあるのかも知れませんが、国民向けの安全性や貢献度のPRはもっと必要かなと思います。