ネットでは「自分の意図しない反応」生じることもある

ネットの世界は広くて面白く、自分が意図したのとまったく異なる反応が得られる空間でもあります。そして、ネットは気軽に情報発信できる分、こうした「自分の意図とまったく異なる反応」は、情報を発信する側にとっても、じつは大きな学びがあるといえるのではないでしょうか?視野を広げることにもつながるからです。

情報発信が気軽にできる時代になった!

インターネットの時代、誰でも気軽に(場合によっては全世界に向けて)情報発信ができるようになった、というのは、まことに画期的な話といえます。とくに、スマートフォンを持つ人が劇的に増えたことで、まさに「猫も杓子も」インターネットを使いこなす世の中が到来した格好です。

当ウェブサイトをご愛読いただいている皆さまの場合も、当然、インターネットにアクセス可能です。ネットでアクセスできるからこそ、当ウェブサイトにまで辿り着いたからです。

ちなみに当ウェブサイトは大手ニューズサイト、大手ブログサイトなどのサービスを利用しておらず、独自に構築しているものですが、情報を発信する「だけ」であれば、自分でウェブ言語を学んでウェブサイトを構築するなどの手間をかける必要などありません。

そんなまどろっこしいことをしなくても、それこそ無料のブログサイトやXなどのSNSを使えば、自分自身の思いの丈を世に問うことはできるのです。

この「誰もが気軽に情報発信できること」こそが、新聞やテレビを中心とする従来のメディア(いわゆるオールドメディア)との最大の違いです。

誰もが情報発信できる、が…

これは、何らかの活動をやっている人などにとっては、非常に大きな変化です。

たとえば、インターネットが出現する前であれば、自分たちの活動を世に知らせるためには、ミニコミ誌などを使うか、地道な広告投函作業をするか、あるいは新聞社やテレビ局に手紙を出して取材で自分たちを取り上げてもらえるようにお願いするか、といった方法くらいしかありませんでした。

しかし、昨今だとインターネットを使って、たとえばXやインスタグラム、フェイスブックなどのSNSにアカウントを開設するなり、大手ブログサービスを使ってブログを開設するなり、あるいは自分たちの独自ウェブサイトを作るなりすれば良いのです。

ただし、これもあくまでも著者自身の私見ですが、世の中の事例を眺めていると、「自分(たち)が期待していたのとまったく違う反応を受ける」、というケースが増えてきたように思えます。自分たちが普段接している「集団」とインターネットを利用している「集団」が同質であるという保証はどこにもないからです。

この現象に、著者自身が最初に気づいたのは、2000年代なかばのことでした。

関東地方の某県で反戦運動を行っている市民団体が開設したブログが「炎上」した事件を目撃したのです。

ブログ炎上事件

当該ブログサイトはおそらくもう存在していないと思われるため、内容を一言一句正確に覚えているわけではありませんが、だいたいこんな趣旨の主張をしていました。

X月X日 当会は一般市民の代表として自衛隊基地の前に行き、抗議行動を行いました。自衛隊は憲法違反だ、XX県から出て行け!

すると、この記事に対し、それこそ「一般市民」と思しき人々から、こんな趣旨の抗議コメントが殺到していたのです。

  • 迷惑です。やめてください
  • あなた方は一般市民の意見を代表していません。勝手に代表面するのはやめてください
  • 自衛隊は日本を守ってくれています。そんな自衛隊への抗議は許しません

コメントを眺めると20~30件ほどついていたのですが、その市民団体の活動を支持するという趣旨のコメントはゼロ件で、それ以外はすべてその団体に対する批判で一色だったのです。

当時は著者自身もまだネットにさほど詳しくなく、あとになって、ブログに批判が殺到する現象を「炎上」と呼ぶということを知ったのですが、それでも当時は、「インターネット空間では自分たちが意図したとおりの反応がでないこともある」という点が、なかなか興味深いと思った次第です。

残念ながらこのブログはすぐに閉鎖されてしまったようですが、その後はネット上にさまざまなサービスが登場していき、それにつれて、新聞やテレビなどのオールドメディアが発信していた思想・内容が、じつは一般国民にはさほど刺さっていなかったことがバレていくわけです。

なお、この「オールドメディアが人々から信頼を失っていく過程」自体も興味深く、それを議論し始めると本が何冊も書けるくらいの分量になってしまうのですが、これについてはいずれ別稿にてじっくりと議論する機会があると思いますので、本稿ではとりあえず割愛します。

メモを取らない新人を批判するマンガ

それよりも本稿で注目しておきたいのが、この「本人が意図したとおりの反応が生じないケース」です。

じつは、この「本人が意図したとおりの反応が生じない現象」というものは非常に頻繁に発生しており、最近目撃した事例のひとつが、「メモを取らない新人」という論点です。

これについてはマンガ形式でXにポストされたものですが、Xで(賛成意見のみならず)批判意見がかなり生じており、当ウェブサイトにそのリンクを貼ること自体が炎上を煽ることにつながりかねません。こうした点に配慮して、該当するポストのリンクそのものは当ウェブサイトには掲載しません。

内容自体はこういうものです。

  • 1コマ目…上司が新人に対し口頭でつらつらと業務上の指示を与えている
  • 2コマ目…それを目撃している作者が「メモしなくてもいいのかな?」などと心の中でつぶやく
  • 3コマ目…上司が新人に対し、少し怒った表情で「メモしないで大丈夫?」と尋ねる
  • 5コマ目…新人が上司に対し「まとめてチャットで送ってください」とお願いする
  • 最終コマ…上司が新人にチャットを送っているのを見た作者が上司に同情の目を向ける

意外なことに、「上司」に対する批判も多い

想像するに、このマンガを描いた人も、文脈上は上司に対し指示内容をPCで文面にして送れと要求したことを「今どきの新人は上司から指示を受けるときにメモも取らないなんて非常識だ」、「あまつさえ上司に文章を作らせるなんて、ありえない!」、とでも思っていたのかもしれません。

たしかに、人によっては他人の話を聞いているときにまったくメモも取らず、後になってトラブルになる、といった事例もありますし、新人のうちは相手の言うことを自分自身で謙虚にメモに取ることが必要だ、といった主張をする人も多いでしょう。

こうした観点から、このポストに対しては、多くの賛同意見も寄せられています(たとえば「メモも取らないヤツは仕事ができない」、「上司の時間を何だと思っているんだ!」、など)。

ただ、こうした賛同意見もあるものの、意外なことに、この「上司」に対する批判もかなり見られるのです。そのなかでも「いいね」が数万件ついているポストは、こんな趣旨のことを述べています。

メモをしないと覚えられないであろう仕事を口頭だけで伝える上司の方もたいがいだと思うよ」。

これも、ひとつの考え方ではないでしょうか。

もしかするとマンガの作者の方は、「最近の若者は指示を出さなければメモも取らない」、「メモも取らないだけでなく上司の時間を奪うようなことをするなんてけしからん」、といった共感を期待していたのかもしれません(実際、そのような共感コメントもたくさんあります)。

ただ、むしろ「メモを取らなければわからないほどの業務を口頭で指示する上司」に対する批判もかなり多く見受けられるのです。

ちなみに「上司の指示が無条件に絶対に正しいというわけではない」という点については、先日の『残業前提?マネジメント責任は?』でも取り上げた、「残業前提で指示を出す上司」という論点とも通じるところがあるのかもしれません。

新人に対する教育の在り方

そういえば、平成の世の中では、新人君が上司に呼び出され、立ったままで長々とした指示を受け、復唱させられる、といったシーンがよくありました。

そのような「新人教育」を目にしてきた世代からすれば、上司が指示を与えているのにメモひとつ取らない新人に対する呆れた感情を抱く人もいるかもしれませんが、見方を変えれば、口頭で長々指示を出す行為自体がなんとも非効率な話だったという言い方もできるかもしれません。

これは著者自身の持論ですが、属人的な職場だと、上司が事細かに口を出すというのはありがちな話であり、これに対しある程度組織化され、一定以上の能力を持つ人であれば誰がやっても成果が上がるようになってくると、マニュアルのたぐいがきちんと整備されてくるようです。

特に某世界的に有名なハンバーガーチェーン店の場合だと、マニュアルがビシッと整備されており、そのようなチェーン店だと、それこそ東京だろうがロンドンだろうがスリジャヤワルダナプラコッテだろうが、まったく同じ味がするはずです(文化圏によって多少メニューが違うようですが)。

ただし、あまりマニュアルが整備され過ぎると、逆にマニュアルが独り歩きする懸念もあるので、このあたりはその組織の経営方針、人員構成や風土などに、ある程度依存するのかもしれません。

著者自身は「世界的に有名な某コーヒーチェーン店だと、某ハンバーガーチェーン店と比べて、マニュアルは緩めである」と聞いたこともありますが、このあたりは残念ながら著者自身が双方のチェーン店でのコイン向け意見がないため、よくわかりません。

「指示を文書化しろ」という反応には意外な理由も

いずれにせよ、とくに新人教育の世界では、その新人に合わせた指導をしてあげる必要もあるものの、たいていの場合、新人にできる仕事は限られており、「それならばマニュアルなどを作ってそれを読ませるなどの指導が有効ではないか」という主張にも一理あります。

逆に、上司が新人に対してやらせたい作業を、口頭ベースだけではなく、文書ベースでも指示すれば(ついでにその文書を毎年少しずつ改定していけば)、きちんと漏れなく伝わるうえに、毎年の新人に対する指導が楽になるし、新人も仕事を効率よく学べるはずだ―――。

そんな主張にも一理あります。

また、職場では得てして、「人によって言うことが違う」というケースもあります。

ある先輩Aが新人に「こうやって」と指示を出し、新人がその通りにやっていたところ、違う先輩Bが「そのやり方じゃダメ、こうやって」と指示を出し、新人がBのいうとおりにやり方を変えたら、Aが「何で勝手にやり方を変えてるの!?」と新人に激怒する―――。

そういう場面も生じますので、そうした経験をしてきた人にとっては、なおさら「マニュアル化・文書化が望ましい」といえるかもしれません。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

いずれにせよ、ネットの世界は広くて面白く、自分が意図したのとまったく異なる反応が得られる空間でもあります。

その意味では、情報を発信する側にとっても、かりに自分が発信したのと違う意図の反応が来たとしても、「それはそれで視野を広げる効果が得られる」のだと考えたら、じつは大きな学びがあるといえるのではないでしょうか?

本文は以上です。

金融評論家。フォロー自由。雑誌等の執筆依頼も受けています。 X(旧ツイッター) にて日々情報を発信中。 Amazon アソシエイトとして適格販売により収入を得ています。 著書①数字でみる「強い」日本経済 著書②韓国がなくても日本経済は問題ない

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読者コメント一覧

  1. JA より:

    今どきの会社では、コーポレートガバナンスだのコンプライアンスだのと色々と要求されて大変ですね。
    会社業務が正しく執行されていること対外的に説明するために、あらゆる業務でアカウンタビリティを求められているのではないですか?
    アカウンタビリティを担保するためにあらゆる業務執行は記録を残さなければならない。
    したがって、口頭での上司の指示は、記録に残らない指示で、後々の検証に果たして耐えられるのか?メモを残さない部下も同じで、評価を下げざるを得ないですよね。
    メールなりチャットで記録に残す努力はしようね。
    そうゆう会社があるかも?

  2. カズ より:

    メモを取るのは、「相手に聞く姿勢を示すためのもの」ですね。

  3. 人工知能の中の人 より:

     今時の若い子は知らないかもしれませんがメモをとれマニュアルよこせの話は常識しらずの新社会人を新人類と揶揄した時代のネタの今風アップデートですよね
     そういう時代を経て今なら何某かのマニュアルがある方が多いかもしれません
     あえて反論するとすれば新人君はマニュアルがなければ何もしないのか、客先でもその態度を貫くのか、もう学校ではないので教科書があるとは思わないでほしいと上司は答えるべきです
     新人君が会社にマニュアルの支給を求めるなら新人君もすでに会社の一員であるため自分用のマニュアルを作成せよと上司は業務命令を発しても良いでしょう

     逆に責任の所在を不明確にするために口頭指示だけに徹していたのかマンションの派遣管理人と本社の人間が指示を書面でくれいや出せませんとか一悶着やってた方が思い出されます

  4. 時代遅れse より:

    常識が違う可能性を示唆する面白い例題だと思うが、実際に異文化交流の話でもある。
    今回の例の場合、「メモを取る」という習慣が全くない環境・文化で育った若者が「メモしないで大丈夫?」とやんわりとメモの必要性を指摘され、頭の中でどのような葛藤があったかは知らないが、自分の良く知る「チャットで送る」という代替手段を提案するという流れ。
    「メモを取る」だけじゃなく「キーボードで文字を打つ」とか「PCを使う」が異文化かも知れないが、それが会社の常識なのであれば若者の常識に困るんじゃなく頑張って教育してくれという話。
    別のアプローチとして若者の常識に合わせて会社の方を変えるという手段もないことはない。要するに常識が一つだと思っていると思わぬ反応が返ってくるということだと思う。
    実際の良し悪しはそれはそれとして、だいたい議論を尽くしても意見は一つにはまとまらないもの。

  5. 美術好きなおばさん より:

    「メモだ」「チャットだ」と言うよりも、「上司の指示、録画します!」って、スマホ構えた方が手っ取り早いのでは?

  6. 匿名 より:

    トネガワ先生の「世間はお前の母親ではない」を至言に思う世代です。自分に必要なことは自分で覚えないと、誰も助けなどせんのです。また、マニュアルで事足りるなら、ます人を減らすのです。(飲食店のホ―ル担当とか。)

  7. 裏縦貫線 より:

    こちらの記事にコメントし直します。

    十分に詳細で分かりやすいマニュアルが用意できる程しっかりした会社なら、「なんでメモを取らなくてはいけないんですか」などと言う人は採用試験段階で落ちてしまうのでは。

  8. 丸の内会計士 より:

    定年40歳がXで話題になっているようです。これは、解雇規制緩和の話題が再燃されているようですね。解雇規制緩和が必要な理由とどのように実現すべきかについて、自分の言葉、考えを述べる必要がありそうです。過去の発言についても自分の意図が正しく伝わっていないのであれば、自分の言葉で説明すべきでしょう。総理になる前に。ちなみに、私も解雇規制緩和には賛成ですが、皆さんを不安にさせずに実現する方法を持っています。

    1. 丸の内会計士 より:

      自民党の小泉さん、自分で言った解雇規制緩和について、だんまりではなく、キッチリ説明した方が良いですよ。

  9. DEEPBLUE より:

    素人はSNSを使うなとか言う人が炎上していますが、そう言う人達は自分達だけが発信するオールドメディアの仕組みをネットでも維持したいんだなあって。
    大人しくテレビにだけでていて下さいと。

  10. はるちゃん より:

    メモを取らない社員を叱るという行為は上意下達の会社という印象を与えますね。
    メモを取る必要があるなら前もって紙を配っておけば良いと思いますが。
    メモが必要なら事前にメモるよう伝えるべきではないかと思います。

  11. CRUSH より:

    「くだらん話」という感想。
    上でどなたか書いておられますが、普通そんな奴は採用面接で落ちてますわな。
    あるいは上司と部下との関係が悪すぎ。
    レアケースを一般化しても仕方ない。

    口頭か書面かという話で思い出したのは、戦時のジュネーブ条約。
    脱出したパイロットや沈没後の乗務員を攻撃してはいけないのですが、ヒトラーや大本営は攻撃指示を出しています。
    ドイツ空軍はゲーリングに「書面の指示をくれ」と食い下がってうやむやに。
    ドイツ海軍はデーニッツがヒトラーと直談判して「どうとでも解釈できる書面指示」を取り付けてから配信したから、実行されず。
    大日本帝国海軍では、日本人的バカ正直に各艦艇に伝達されましたが、艦長レベルで握りつぶして無視。(内部統制的には軍規違反)
    そもそも制空権を取られてるからそんな状況があり得なかった模様。

    口頭か書面かは、上層部でも末端でもうまく仕事を回すための/回さないための方便として使えばよいこと。
    本質的に「どーでもいい」話にしか思えないですね。

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