後期高齢者医療制度で現役勤労者からの搾取が過去最大

厚労省の昨日の発表によると、2023年度における後期高齢者(75歳以上)の保険給付が17兆3367億円に達する一方、現役層などが後期高齢者のために負担した金額が7兆1059億円に達したことが判明しました。一部報道によるとこれは過去最大で、後期高齢者1人あたり年間約85万円使っている計算です。これなど、現役勤労層からの搾取そのものでしょう。石破首相がいつ辞任するのかはしりませんが、「次以降の総理大臣」には税制の抜本的改正に加え、後期高齢者の窓口負担を3~5割に引き上げるなど、社会保険制度にも早急にメスを入れることを期待したいと願うばかりです。

日本の社会保障制度がおかしい

当ウェブサイトでは少し前から「最近のイチ押し記事」として、お勧め記事の一覧をウェブサイトのトップに表示し始めています。現時点ではとりあえず次の4つの記事をオススメ欄に表示することにしています(※ただし、今後、随時レイアウト変更等によりこれらの記事については入れ替えていくつもりです)。

最近のイチ押し記事

このなかで社会保険料を取り扱ったものが2つあることにお気づきかと思います。

厚生年金は詐欺制度

このうち『【千年安心】の年金に向けて日本は厚生年金を廃止せよ』では、とりわけ厚生年金に焦点を当て、現在の日本の厚生年金制度は支払った保険料と将来受け取れる年金額に、きわめて大きな不均衡があるという事実を指摘しました。

詳しい計算式は当該記事をご参照いただきたいのですが、結論からいえば、厚年保険料のうち「報酬比例部分」(つまり年収が上がれば増える部分の年金)は、保険料(※労使込み)を1万円支払うたびに年額300円(=月額25円)程度しか増えません。

仮に25年間、毎月保険料を1万円余分に支払い続けたとすると、トータルで支払う追加保険料は300万円ですが、これによって増える追加年金額は年間9万円弱で、月あたりで換算すると7,500円程度、ということです。

この「25年間・毎月1万円・合計」という金額、厚生年金ではなく自分自身で45歳から65歳まで年複利3%で運用した場合には4,434,948円となり、これを65歳から85歳までの期間で取り崩すとしても、毎月24,446円、毎年293,353円が受け取れる計算です。

毎月1万円を25年間払い続けた場合
  • 保険料総額…300万円
  • 追加される厚生年金報酬比例部分…年額89,852円/月額7,488円
  • 自分で年複利3%で運用した場合…年額293,353円/月額24,446円

正直、厚生年金という制度自体が悪質なネズミ講のようなものだ、という当ウェブサイトの説明が、あながち誇張ではないことは、上記の試算からも明らかでしょう。

ちなみに「年間の運用利回り3%は非現実的だ」、などと思う方もいるかもしれませんが、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の『2025年度の運用状況』によれば、2001~2025年度の平均収益率は4.33%、2025年第1四半期の収益率は4.09%です。

このことからも、「年利回り3%」は、決して非現実的な仮定ではありませんし、むしろ保守的な数値であるといえます。

健康保険は欠陥制度

そして、年金と並んでもうひとつ、深刻な問題があるのは、健康保険です。

年金も健康保険も問題だらけ…リスクに応じた負担を!』でも述べたとおり、健康保険は現役層の負担が重く、これに加えて高額所得者は大病を患ったときの補償が極端に薄くなる(図表1)という欠陥を有しているのです。

図表1 高額療養費制度
区分標準報酬月額自己負担限度額
区分ア83万円~252,600円~
区分イ53万円~79万円167,400円~
区分ウ28万円~50万円80,100円~
区分エ~26万円57,600円
区分オ低所得者35,400円

(【出所】全国健康保険協会ウェブサイト『高額な診療が見込まれるとき(マイナ保険証または限度額適用認定証)』を参考に作成。なお、正確な条件は同サイト参照)

図表では標準報酬月額が高い人ほど自己負担限度額が高いことがわかりますが、わかりやすくいえば、「高い保険料を払っている人ほど補償がなくなる」(つまり補償が保険料と反比例する)という、なかなかにファンキーでトリッキーな制度です。

極端な話、年収1200万円、1300万円といったレベルの人たちの場合、税金は高いわ、社会保険料は高いわ、各種補助は所得制限で打ち切られるわ、保育料などは応能負担で高くなるわで手取りが非常に低くなり、そのうえ大病を患ったら毎月下手をすると25万円も医療費を自己負担しなければなりません。

つまり、厚労省が勝手に設定した「高所得者」に該当したら、毎月(労使合わせて)月収の10%前後(月収100万円なら約10万円)の保険料を勝手に取られるうえに、高額療養費の自己負担上限が勝手に月額25万円に引き上げられるわけです。

まさに、「区分(ア)や(イ)の人は大病を患ったら治療を諦めて死ね」、というのが、厚生労働官僚からのメッセージだといえるでしょう。正直、日本の社会保障制度は「高負担・低補償」という意味で、詐欺そのものなのです。

後期高齢者医療保険の収支状況

いわば、社会保障制度は老化という自然現象を疾病扱いしてしまい、現役層から受給層への所得移転で受給層を不当に優遇するシステムだといえます。

もっとも、こうしたなかで、当ウェブサイトで社会保障制度のおかしさを訴える意義もあります。こんな話題に、多くの人が関心を払うようになってきたからです。

令和5年度後期高齢者医療制度(後期高齢者医療広域連合)の財政状況について【※PDF】

―――2025/08/25付 厚生労働省HPより

厚生労働省が25日に発表した『後期高齢者医療広域連合の収支状況』によると、2023年度の「後期高齢者医療広域連合」の保険給付費が17兆3367億円に達し、前年度と比べ8618億円(5.2%増)も増えたことが明らかになりました。

これに対し、保険料収入は1兆5456億円に過ぎず、国庫支出金が5兆6861億円に達したほか、「後期高齢者交付金」という名目の収入が7兆1059億円だったそうです。主な内訳は図表2のとおりです。

図表2 後期高齢者医療広域連合の収支状況(2023年度)
項目と主な内訳金額前年度比
単年度収入17兆6363億円+8539億円
 保険料収入1兆5456億円+591億円
 国庫支出金5兆6861億円+2167億円
 都道府県支出金1兆4850億円+877億円
 市町村負担金1兆3854億円+625億円
 後期高齢者交付金7兆1059億円+4070億円
保険給付費用17兆3367億円+8618億円

(【出所】厚生労働省・2025年8月25日付『後期高齢者医療広域連合の収支状況』より抜粋)

ちなみにこの「後期高齢者交付金」は、おもに現役層(やその雇用者)などが支払った健康保険料からの収入が充てられています。そして、この7兆1059億円という金額は、一部報道によれば「過去最大」だそうです。

勤労層が仮に5000万人程度だとすれば、ひとりあたり年間14万円を後期高齢者のために支払っているという計算です。

負担と給付のバランスがおかしい!

ちなみに厚労省資料によれば、「被保険者」、つまりこの後期高齢者医療保険の対象者は、令和5年(2023年)度で19,241,412人、令和6年(2024年)度で19,885,150人だそうですが、単純に2023年度の数値を1人あたりで割ると、年間85万円ほど給付されている計算です。

(※しかも、これは「医療保険」のみであり、介護保険などからの給付はおそらく含まれていません。)

このあたり、非常にわかりやすい搾取構造だと断じざるを得ません。現在の高齢層は、自分たちが若かったころに支払ってきた保険料額と比べ、現在の給付が多すぎるからです。

逆にいえば、後期高齢者の窓口負担割合を一律3~5割程度に改正することで、これらの給付を削減することができる(かもしれない)、ということでもあります。これには自己負担割合を高めることで保険給付を抑制し、負担と給付の関係を適正化することが含まれますが、それだけではありません。

一説によると後期高齢者の窓口負担が1割(※要件を満たした場合)であることが、無駄な医療の温床であり、この負担割合を増やすことで無駄な医療をある程度削減する効果が期待される、ともいわれます。

正直、この長寿社会において、高齢者の「老化」を医療保険で扱うにも無理があります。

いずれにせよ、石破茂首相がいつ辞任するのかはしりませんが、「次以降の総理大臣」には税制の抜本的改正に加え、社会保険制度にも早急にメスを入れることを期待したいと願うばかりです。

本文は以上です。

金融評論家。フォロー自由。雑誌等の執筆依頼も受けています。 X(旧ツイッター) にて日々情報を発信中。 Amazon アソシエイトとして適格販売により収入を得ています。 著書①数字でみる「強い」日本経済 著書②韓国がなくても日本経済は問題ない

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読者コメント一覧

  1. 農民 より:

     高齢者に負担をお願いするというのは実に体裁の悪いもので、しかも有権者に高齢者が多い以上、人気商売である政治家にはさぞ難しい提案でしょう。
     つまり、得票率は落としたのに支持率は高いとされる無敵の石破総理には、実にお誂え向きの政策ではないでしょうか。
     しかも普段から石破総理は国民に苦い薬を飲め飲め減税とか甘えるなと強要する御仁です。まずは石破総理が率先して、政治家が口にするのにさぞかし苦い、高齢者負担増発議という劇薬を飲み干して頂きたい。出来たら悔い改めて尊敬致します(投票はしませんけど)。

  2. より:

    高齢者医療保険で1人あたり85万円負担(月7万円)と書いていますが、実際には高齢者は、延命治療を希望する人はほとんどいない。
    年金収入が少なく保険料を割り引いてもらっている人はいると思うが、そもそも毎月医療機関で治療している人は、ほとんど薬代だけで終わっている。
    特定の医療機関だけが高額請求しているのではないだろうか。

  3. サイレントマジョリティ より:

    当家では毎年60万円ほどの国保料を払っているが、年間で使う医療費は仮に100%自己負担だとしても10万円+α程度。バカらしいから保険料払い込みを止めようかとも思ったが、困っている同胞の為と割り切って払っているのが現状です。日本の老人医療費が高額なのは「当人の意思を無視して生かす事」だけを目指している事が原因では無いでしょうか。私も女房も大病をすれば延命治療は断りペインコントロールだけを望みます。寝たきりで食物も取れないなんて生きていてよいことは無いでしょう。60歳以上には「発病時に安楽死を選ぶ権利」を付与して頂きたいものです。

  4. 丸の内会計士 より:

    アメリカとしては、石破政権が交代する前に80兆円の美味しすぎの合意文書を作りたいのでしょう。当たり前ですが。合意文書を締結してしまうと、国民からの搾取を強化するしかないでしょう。合意文書締結前に引きずり下ろして、合意文書の巻き直しを次の総理が行う方向にしないと不味い状況になります。自民党は。

  5. 古物商 より:

    終末期医療時の、無駄な延命治療を望まない傾向は着実に増えてきており、
    末期がん患者さんに、DNARの書類へサイン頂くのはほぼ必須化しています。
    在宅でも介護施設でも、訪問医が管理していることが多いはずですから。

    最近議論されているのは、夜間などに出血などで、苦しんでおられ、まだ意識があれば周囲の人は救急依頼をしてしまいます、救急車ー>救命c。

    もちろん朝、居室へ行ったら大往生が理想で、私も安らかな老衰が希望です。

  6. 田舎の一市民 より:

    後期高齢者医療制度の前身に、老人医療制度というのがあり、かつては高齢者も各医療保険に主に被扶養者として加入しつつ、負担の大きい部分を国費で賄う仕組みでした。
    高齢者の医療費を削減するためには若年層からの健診受診や保健指導等を推進していくのが有効とされており、後期高齢者医療制度開始と時期を合わせて、メタボ健診といわれる特定健診(保健指導の根拠となる健診)も始まっています。
    これは制度を見直しする際の背景として、各保険者が抜本的に医療費を削減する努力(保健指導など)をするよりも、資格管理事務を徹底(本来自身の保険に加入できないのに加入している人、特に医療費が高額な高齢者を弾いていく)した方が財政運営上効率よく健全化できるため押し付け合いに終始し、国全体として本質的に必要なことが全く行われていなかったということがあります。
    今の後期高齢者医療制度にもたくさんの問題がありますが、個人的には前よりはマシなのかなと感じています。

  7. 匿名 より:

    >後期高齢者の窓口負担を3~5割に引き上げるなど、~

    医療費の窓口負担を引き上げた場合、治療を受けることをあきらめる人(生きることをあきらめる人)が増えると思います。これは徐々に死を迎える自殺だと考えます。また終末医療等で点滴等の治療を止める行為も、徐々に死を迎える自殺、徐々に死を迎える他殺だと考えます。苦しむ時間を減らすためにも尊厳死の導入を併せて検討すべきと考えます。

  8. 田舎の一市民 より:

    うちの妻が骨折で入院した病院の整形外科の入院患者の平均年齢は80近いそうです。
    複雑骨折的なものでなければ若年者はそう長くは入院しません。
    お年寄りも頑張ってリハビリしてますが、おそらくしっかりやらないと寝たきりになります。
    うちの市町村のデータでも要介護4以上の人は医療給付と介護給付の合算で一人当たり250万くらいかかってますから、介護のことも考慮すると結局のところ公費で大半を賄うしかないわけで、単純に後期高齢者の自己負担を増やせば、公費の支出が減るともいえないのが難しいところなのかなと思いますね。

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