取って配る…税が決まってから使途を検討する本末転倒
放っておけば、役所は勝手に肥大化し、税金も勝手に肥大化し、そこに利権が生まれます。その典型例があるとしたら、とある県で宿泊税の導入が決まり、その税の使途を今から議論する、といった話題かもしれません。本末転倒この上ない話です。税というものはもともと、基本的には「必要だから取る」ものだからです。あるいは「先生に気に入られた生徒が余分にプライオリティパスを手に入れられるクラス旅行」のようなものかもしれません。
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取って配るのあり方
「取って配る」は所得の再分配などを目的としている
税金を取って補助金を配る構図を、当ウェブサイトでは「取って配る」と表現しています。
たとえば「高年収を得ている人から税金をたくさん取り、年収が低い人に対してそれを配る」、といった考え方がその具体的な表れです。専門的にはこれを「富の再分配機能」と呼ぶこともあります(※なお、税の機能は「所得再分配」だけではありませんが、この点については本稿では割愛します)。
この「所得再分配機能」、一概に悪いことだとはいえません。
一般に人間社会では、「カネ持ちほどますますカネ持ちになる」、「貧乏人はますます貧乏になる」という特徴があるため(※私見)、もし「富の再分配機能」がなければ、すでにカネ持ちになっている人がカネの力でさらに富を独占することができるからです。
たとえば時代劇で豪商がお代官様に「山吹色のお菓子」(KBN)を賄賂(わいろ)として手渡し、自分の商売に便宜を図ってもらうことで、ライバルの商人を市場から排除するなどのシーンは、時代劇ではよく見かけるものです。
また、貧農が庄屋さんの家におコメを借りに行き、多大な利息を払わされるなどの事例も時代劇では目にしますが、「貧しい人はいつまで経っても貧しいまま」という構造も問題です。
やはり、一部の大富豪が社会全体の富を独占するというのは、社会のあり方としても大いに問題であると言わざるを得ないでしょう。
このように考えると、高所得者にはある程度高い税負担をお願いし、低所得者にはその分、国から何らかの補助を支給する、というのは、べつにおかしな考え方ではありません。
クラスで思い出作り:みんなで遊園地に行きましょう
もう少し具体的にみてみましょう。
先日も『「厚年保険料が増えても将来の給付が増える」…本当?』で取り上げた、「クラス50人で某テーマパークに遊びに行く」、というたとえ話です。
予算が1人あたり2万円(うち入園料が1人1万円、園内で5回使えるプライオリティパスが1枚1万円)だったとすれば、50人で遊びに行くわけですから、必要なコストはちょうど100万円となり、各家庭で割れば2万円となるはずです。
ただ、ここで全家庭が一律に2万円を負担するのではなく、所得の高低に応じて負担額に傾斜をつけましょう、というのが、累進課税や応能負担の考え方です。
たとえばクラス50人のうち、①自宅の所得水準が高い10人は1人3万円・合計30万円、②所得水準が中くらいの30人は1人2万円・合計60万円とし、③所得水準が低い10人は1人1万円・合計10万円とする、といった分担(A)、それぞれ2万円分ずつのチケットを配る(B)、という事例です。
クラス旅行の費用分担(A)
- ①高所得層…3万円×10世帯=30万円
- ②中所得層…2万円×30世帯=60万円
- ③低所得層…1万円×10世帯=10万円
- 合計負担額…①+②+③=100万円
クラス旅行のチケット配分(B)
- ①高所得層…1人2万円(=入場券1枚+プライオリティパス5枚)×10世帯=20万円
- ②中所得層…1人2万円(=入場券1枚+プライオリティパス5枚)×30世帯=60万円
- ③低所得層…1人2万円(=入場券1枚+プライオリティパス5枚)×10世帯=20万円
- チケット配分合計…①+②+③=100万円
これが累進課税や応能負担の考え方と似ています。
ここで、①、②、③のどの家庭の子弟も受け取るサービスは「入場券とプライオリティパス」の合計2万円ですので、②の子弟は支払った額と受け取る額が一致しており、①の世帯は1万円多く支払い、③の世帯は1万円少なく支払っていることがわかります。
つまり、①の世帯から③の世帯に対し、1万円の所得移転が行われたのと同じような経済効果が生じているのです。いわば、「全員が遊園地で遊ぶ」という思い出作りのために、所得が高い家庭が所得の低い家庭に1万円ずつの所得移転を行ったわけです。
おそらく、この程度の所得移転ならば、各家庭ともに納得がいくのではないでしょうか。
それ、税の取り過ぎです!
所得階層に応じて負担を変えてみると?
ところが、ここで設例を少し変えてみましょう。
高所得層の負担額が1人あたり3万円ではなく4万円、低所得層の負担額が1人あたりゼロだった(C)とすれば、いったいどうなるでしょうか(※なお、チケット配分はBと同じだったとします)。
クラス旅行の費用分担(C)
- ①高所得層…4万円×10世帯=40万円
- ②中所得層…2万円×30世帯=60万円
- ③低所得層…0万円×10世帯=0円
- 合計負担額…①+②+③=100万円
クラス旅行のチケット配分(B)
- ①高所得層…1人2万円(=入場券1枚+プライオリティパス5枚)×10世帯=20万円
- ②中所得層…1人2万円(=入場券1枚+プライオリティパス5枚)×30世帯=60万円
- ③低所得層…1人2万円(=入場券1枚+プライオリティパス5枚)×10世帯=20万円
- チケット配分合計…①+②+③=100万円
(A)と比べこちらの(B)だとより所得移転度が強くなります。
いわば、高所得層が低所得層を全面的に支えている、という格好です(※余談ですが、じつはこの仕組み、経済的に見ると年金の賦課方式と非常に類似していたりもします)。
貧富の差が大きければ、このように傾斜を極端にすることが認められるかもしれないと思われる反面、高所得層の年収が1000万円、低所得層の年収が500万円、といった違いしかないのだとすれば、さすがにこれだと高所得層からは不満が出てくるかもしれません。
低所得層に厚く、高所得層に薄く
このCの前提の上で、さらにもうひとつ変更を加えてみます。
クラス旅行のチケット配分を①高所得層なし、②中所得層は1万円、③低所得層は7万円、と、低所得層に極端に手厚くするのです(D)。
クラス旅行の費用分担(C)
- ①高所得層…4万円×10世帯=40万円
- ②中所得層…2万円×30世帯=60万円
- ③低所得層…0万円×10世帯=0円
- 合計負担額…①+②+③=100万円
クラス旅行のチケット配分(D)
- ①高所得層…1人0万円(=入場券0枚+プライオリティパス0枚)×10世帯=0円
- ②中所得層…1人1万円(=入場券1枚+プライオリティパス0枚)×30世帯=30万円
- ③低所得層…1人7万円(=入場券1枚+プライオリティパス6枚)×10世帯=70万円
- チケット配分合計…①+②+③=100万円
これは、さすがに高所得層としては怒らざるを得ません。
1人あたり4万円も負担させられたうえに、チケットがいっさい配られないのですから、高所得層としては「ふざけるな」という世界でしょう。
先生に気に入られればパスをたくさんもらえるとしたら?
そして、この遊園地の事例に、さらにこんな条件を付け加えてみましょう。
「特段の事情があると学校の先生が認めた場合は、遊園地のプライオリティパスを余分に支給する。そのための予算として10万円を確保する」。
つまり、先ほどの「クラス旅行の費用分担」についてはCのものを使い、チケット配分をDからEに書き換えるのです。
クラス旅行の費用分担(C)
- ①高所得層…4万円×10世帯=40万円
- ②中所得層…2万円×30世帯=60万円
- ③低所得層…0万円×10世帯=0円
- 合計負担額…①+②+③=100万円
クラス旅行のチケット配分(E)
- ①高所得層…1人0万円(=入場券0枚+プライオリティパス0枚)×10世帯=0円
- ②中所得層…1人1万円(=入場券1枚+プライオリティパス0枚)×30世帯=30万円
- ③低所得層…1人6万円(=入場券1枚+プライオリティパス5枚)×10世帯=60万円
- チケット配分合計…①+②+③=90万円
- C-E=10万円
Cの合計額は100万円ですが、Eの合計額は90万円であり、10万円余ります。
この余った10万円を、先生の裁量で、普段から先生の言うことをよく聞く学生に配ることができるとします。このとき、「プライオリティパスを余分に配分してもらうためには、先生に気に入られる必要がある」、という条件が新たに成立することになるのです。
それってそもそも「取り過ぎ」では?
じつはこれ、現在の日本で生じつつあることをわかりやすくたとえ話にしたものです。
年収が高い人は税金も社保(年金、健保、介護など)も非常に高い水準を負担させられているうえに、所得制限や給付制限に引っかかり(たとえば高額療養費問題など)、受けられる給付や保障が極端に少ないのです。
これに対し、年収が低い人にとって、税や社保の負担が少ないというわけではありませんが(※とくに年収に対する割合で見れば、実質的に30%前後を取られていたりします)、その反面、所得制限や給付制限は比較的少ない、という特徴があります。
住民税非課税世帯や低所得層「だけ」に給付金を支払ったりするというのも、その表れでしょう。
しかも、税金は「取って配る」のプロセスで、たいていの場合、利権を生じます。
遊園地の事例(E)でも、全員から100万円のおカネを集め、遊園地で使うのは90万円で、残り10万円を先生が配る、というものです。ここで「全員から集めたおカネ」を税金、「遊園地で使うおカネ」を歳出、「先生」を官僚や役所に置き換えてあげれば、まさに日本の姿そのものです。
しかも上記(E)をさらにこう書き換えると、もっとリアリティが増すかもしれません。
クラス旅行の費用分担(C)
- ①高所得層…4万円×10世帯=40万円
- ②中所得層…2万円×30世帯=60万円
- ③低所得層…0万円×10世帯=0円
- 合計負担額…①+②+③=100万円
クラス旅行のチケット配分(F)
- ①高所得層…1人0万円(=入場券0枚+プライオリティパス0枚)×10世帯=0円
- ②中所得層…1人1万円(=入場券1枚+プライオリティパス0枚)×30世帯=30万円
- ③低所得層…1人2万円(=入場券1枚+プライオリティパス1枚)×10世帯=20万円
- チケット配分合計…①+②+③=50万円
- C-F=50万円
そもそも遊園地では50万円しか使わないのに、各家庭からは100万円を徴収する、ということです。
それならばそもそも50万円を先生の裁量で配るのではなく、最初から50万円を取るな、という話にならないでしょうか?
というよりも、この遊園地の事例だと、「プライオリティパスは各自が園内で買うこと」とし、「全員が遊園地に入場するためにおカネを集める」だけであれば50万円あれば済みますので、富裕層1.5万円、中間層1万円、低所得層5,000円で良いのではないでしょうか?
遊園地旅行の費用、集めすぎです。
税を作ってから使途を検討するという本末転倒ぶり
こうした不条理の典型例があるとしたら、こんな話題がそれかもしれません。
長野県宿泊税の使い道、検討の部会を設置 市町村長ら参加
―――2025/03/27 08:07付 信濃毎日新聞デジタルより
信濃毎日新聞によると26日に長野県庁で開かれた長野県観光振興審議会で、県が2026年6月に導入予定の宿泊税の使途などを検討する「宿泊税活用部会」を設置したのだそうです。
なんとも本末転倒した議論です。そもそも税というものは、「財源が必要だから導入する」というのが原則だからです(※例外的に外国人のオーバーツーリズムを抑制するためなど、総需要抑制などを目的とした税もありますが…)。
とりあえず新税を創設することが目的となり、使途を後から考える、というのは、どう考えてもおかしな議論です。
そして、じつはこれと同じような議論が、日本のそこここで行われているのではないかと思えてなりません。
先日の『「それって他人のカネですよね」』でも紹介したとおり、「ワクワクする助成金を見つけた」と投稿したポスト主がXで大炎上しているようですが、結局、役所に余分な税を与えると、役所はそれを勝手に自分たちの利権にしてしまい、「減税するには財源が必要だ」、などと言い出してしまいます。
減税望むなら選挙権行使を!
話は逆です。
もし国会が、「税金はこれしかないから、行政はこの範囲で行いなさい」、と行政に命令したならば、行政はそれに従わなければなりませんし、国民は国会に対し、そのように命令する権利があります。
もちろん、国民が国会にそう命じる機会は、4年に1回以上の頻度で行われる衆院総選挙と、3年に1回以上行われる参議院議員通常選挙です。
選挙権を行使しなければ、そう命じることはできません。
いずれにせよ、放っておけば役所は勝手に肥大化し、税金も勝手に肥大化し、そこに利権が生まれます。
あなたがもしも2万円も負担させられて1万円しか受け取れないのだとして、その仕組みに不条理を感じているならば、それを変えさせるためには選挙権を行使できるすべての機会で選挙権を放棄しないことが大切だと改めて指摘しておきたいと思う次第です。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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その50万円を、事務コストと称して全部は配っていないだろう。
先生に気に入られなくても、旅行は自分のカネで自由にさせてほしい。
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鳥が生きていくのに必要なものは与えるが、産んだ卵は全部取り上げるという鳥小屋のような国が出来上がると思いますし、現実そうなりつつあるように思います。
頑張って卵を沢山産む鳥も居なくなるでしょう。
次の参議院選挙が国の運命の別れ道ではないかと思っています。
「取って配る」
の、次の標的?になりそうなネタが出てきました。
「生理用品を公共負担で広く無償配備!」
役所や政治家は飛び付くような気がしますね。
思いがけず臨時収入があったとき
気が大きくなって身の丈に合わない散財したりする
悲しいが、少なくともオレはそうだ