「それって他人のカネですよね」
個人的に興味深いと思ったのが、「それって他人のカネですよね」、というツッコミです。Xでとあるユーザーの方が「若者の政治参加」や「主権者教育」などを巡り、「ワクワクする助成金」を見つけた、とする趣旨の投稿を行ったところ、これがなかなか良い感じで炎上しているフシがあるのです。くだんの「それって他人のカネですよね」も、こうしたツッコミのひとつです。
「取って配る」の問題点
以前から当ウェブサイトにおいてしばしば議論している通り、「税金を取って配る」という構図には、しばしば非常に大きな問題を伴います。税金を徴収するときには、徴収された側は可処分所得が減りますし、配られる際にもさまざまなコストがかかるからです。
一例を挙げましょう。
以前の『非課税世帯への3万円給付と「取って配る」式の非効率』でも取り上げたとおり、昨年末の補正予算に基づき、現在、非課税世帯に対する3万円給付事業などが行われているのですが、対象となる世帯を特定し、実際に補助金を支給するのは各自治体の役割です。
ところが、報道等によれば、この特定作業自体がかなり大変です。
というのも、そもそも支給対象となる世帯が「令和6年度における個人住民税均等割非課税世帯」などの要件を満たしている場合なのですが、各自治体は支給対象者がこの要件を満たしているかどうかを確認しなければならず、これだけでもそこそこの手間がかかると見込まれているからです。
例の3万円給付は事務コストも別にかかってくる
しかも、動く公金は支給される金額だけではありません。昨年12月17日付で内閣府地方創生推進室が各自治体に向けて発信した『事務連絡』によると、政府から各自治体に対し、次の算式で計算した金額を上限に、事務費が支給されるようです。
令和6年度非課税世帯数×2,500円+こども加算支援世帯数×2,500円+不足額給付支援者数×3,000円
仮に非課税世帯数が日本全体で1000万世帯だったとすれば、この1000万世帯に3万円ずつ支給するだけで3000億円、これに各自治体への事務費として最大250億円が必要となる、という計算です。
支給対象世帯、あるいはその可能性がある各世帯に書面を配り、それに必要事項を書き込んでもらって返信してもらい、役所の方で形式などをチェックして確認が取れた世帯におカネを振り込む―――。
なんとも大変な話です。
「取って配る」のすべてが否定されるわけではないが…やはり課題は山積
もちろん、「取って配る」のすべてが一概に否定されるわけではありません。
そもそも累進課税は「担税力(たんぜいりょく)が大きい人により多くの負担をお願いする」という思想に基づく税設計であり、政府による「富の再分配」の意味合いもありますし、現実に諸外国でも多く採用されている方式でもあります(日本だと所得税がその典型例です)。
また、応能負担も同様に、公的サービスを受けるならば、負担力が大きい人ほど多く負担してもらうという考え方で、課税所得に対し一律10%が課税される住民税所得割(※一定の例外があります)、収入に対し一律で一定割合が徴収される社保(※上限があります)などはその典型例でしょう。
(※厚労省などの説明によれば社保は保険であって税金ではないとのことですが、経済的実体に照らし、日本の社保は保険の体をなしていないため、「事実上の税金」と見る方が適切でしょう。著者私見ですが。)
ただ、日本の場合は「配る」の方に、きわめて大きな問題があると断じざるを得ません。
配るときに無駄な事務コストがかかる、という問題がありますが(先ほど挙げた「住民税非課税世帯への支援金」もその典型例です)、問題はそれだけではありません。
配られる人と配られない人の間に深刻な分断を生じさせる可能性があるのです。
よっぽどの富裕層でもない限り、「物価上昇で生活が苦しい」という状況は誰だって同じでしょうし、こうしたなかでただでさえインフレ気味の世の中で、「ブラケット・クリープ」(適用税率が名目賃金で決まるため、適用される税率が勝手に上がってしまう現象)すら正さないという不作為は理解に苦しみます。
そういえば、先日から当ウェブサイトなどで「取って配る」を批判すると、ときどきそれに対して「減税したらインフレが加速する」だの、「減税より補助金の方が有効だ」だの、といった具合に、「取って配る」を擁護するコメントが付いたりするようですが、どれも正直、理論性はほとんどありません。
「減税したらインフレが加速する」が事実だとしても、それで「税率を上げて補助金を増やすべきだ」、という結論にはならないからです(※当ウェブサイトであれ、Xであれ、官僚を擁護する人はときどき見かけるのですが、こうした官僚擁護意見の多くは支離滅裂であったり、ちょっと突っ込まれるとすぐにボロが出たりするようです)。
「それって他人のカネですよね」
さて、それはともかくとして、とあるタレントがこんな趣旨の内容をXにポストして物議をかもしているようです。
- 私たちにピッタリなワクワクする助成金があった
- 協力してくれる仲間やアドバイスをくれる他団体の方もいらっしゃるため、大変勉強になる
- 若者の政治参加や主権者教育は(補助金の種類が)少ないから苦労してしまう
ポストの投稿日時は23日午後11時前ですが、これ、24日午前11時前の16万回閲覧され、「いいね」が40件あまりしかないという時点で、反応は「お察しの通り」、といった具合でしょうか。
そもそも「社会貢献」を行うのに「助成金」、あるいは「他人のカネ」を使おうとする時点で、このポストを読んだ人には猛烈な違和感を生じさせているのではないかと推察します。とある著名人の方が発したとされる、「それってあなたの感想ですよね」をもじって、「それって他人のカネですよね」、と述べる人もいるようです。
ただ、この「それって他人のカネですよね」、は、じつは「取って配る」に対する問題提起としては、非常に刺さりやすいフレーズなのかもしれません。
いずれにせよ、ネットが出現したこと、そしてそれが普及したことで、「取って配る」の問題点について、徐々に光が当たり始めていることは良いことです。
これに関して私たちは冷静な議論に努め、あるべき税負担に関する議論を重ねていくべきだと思うのですが、いかがでしょうか?
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。 |
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どんな社会的問題も、金の問題さえ解決できれば、80%の問題の80%は解決できるのではないでしょうか。
自殺対策なんかはその典型ですね。お金でどうしようもないことは基本自己責任。
経済的事情によるものとそうでないもの、行政がまず積極介入しなければならないのは前者なのに、どういうわけか俎上に上がるのは後者ばかり。
「減税に反対の人」=「そもそも税金払ってない人」かな。
減税しても何のメリットもない。
Noだ!「埋蔵金はあるんだよ、君の財布の中に」
役人に「天敵」がいなくなると、他人のカネで、社会貢献の美名のもとに実効性の怪しい業務とコストをどんどん増殖させてしまう。
大臣や議会があてにならないのなら阻止するすべがなかったが、最近はネット民が睨みをきかせるようになってきた。
https://mba.globis.ac.jp/about_mba/glossary/detail-19697.html
https://www.m-keiei.jp/musashinocolumn/parkinson
わたくしが子どもの頃、「大金持ちになって、その富を社会のために使うことが、アメリカ人の理想だよ。」と教えてもらったことがあります。
わが国の場合は、「国民の稼ぎをいかにたくさん搾取して、それを票田ないし天下り先にに配ることが政権与党と財務省の理想」といったところでしょうか。
元財務官僚の与党国会議員が、財務省のエージェントであろう税調会長は国民に選ばれた他の自民党議員よりも最上位に立っている旨、自白しているくらいですからね。
言わば、民主主義ならぬ官主主義国家でしょうか。
SNSの時代、内閣総理大臣よりも自民党税調会長が暗殺されるような時代が来るのかもしれません。
【ひろゆきvs自民税調副会長】片山さつき衝撃告白!103万円の壁…内幕明かされる【ReHacQ西田亮介】 41:23~45:26
https://www.youtube.com/watch?v=pwa90Vr8OF4
思いつき、考えがズレてる、
何事も遅い。
これにつきますね。
本来、補助金とか無くてもやる奴はやるし資金も魅力的な話なら集まると思うし。
「減税したらインフレが加速する」ですが、思い出すのは民主党政権下の目玉政策こども手当です。
赤字国債を発行して財政が苦しい中での若年層への所得移転の意味がありましたが、当の若年層は得られた手当を(将来の生活苦に備えるため)ほとんど貯蓄に回してしまい、まったく景気刺激効果がなかった、という結果に終わっています。
これは手当であって年収の壁による税の控除拡大とは若干違いますが、これを当てはめれば若年層が減税分を貯蓄に回せばインフレ圧力は増大しないということにならないでしょうか?
なんにせよ、インフレが加速するから減税できない、するななどという雑な主張には賛同できないですね。