昨年値上げしたばかりなのに…郵便に補助金投じるのか
昨年10月に郵便料金が値上げされたことを覚えている方も多いと思いますが、日本郵政グループの決算資料を眺めていると、郵便事業が最近、ますます苦境に陥りつつあるようです。こうしたなか、一部報道では自民党が郵便局維持のために年間650億円程度の補助金を投じるべく議員立法を目指している、とする情報もあります。ただ、郵便事業は不採算店舗閉鎖、同業他社との連携など、やるべきことをちゃんとやっているのでしょうか?「郵便代も値上げします」、「補助金も出します」、では、さすがに説明がつかないと思うのですが、いかがでしょうか?
目次
いまの日本はデンマークを真似できるのか
週末の『デンマークで手紙配達事業終了へ』でも取り上げたとおり、デンマークでは今年、手紙の配達事業が終了するのだそうです。スウェーデンとデンマークで郵便、配達事業などを営む「ポストノルド」(PostNord)社がそのように発表したのです。
これについては、ずいぶんと思い切った決断にも見えます。
日本だと、「郵便というユニバーサルサービスは維持しなければならない」、などと言いながら、将来的には不採算となりながらもなんとかサービスを続けようと努力するのではないかと思うからです(※これについてはあくまでも著者私見です)。
ただ、いろいろ事情を調べていくと、郵便事業を大幅に縮小可能な状況が出現していることも間違いなさそうです。たとえば、デンマークを含めたいくつかの国では、すでに付加価値税を巡るデジタルインボイスなども普及しつつあるようですし、そもそも手紙のやり取りの通数自体が四半世紀で90%以上減少したりしています。
正直、デンマークでは手紙の分野での郵便事業を成り立たせるだけの郵便物取り扱い数量が足りない状況に追い込まれているのだと思いますし(※私見)、また、社会全体としても手紙郵便事業をなくしても問題がない、という状況が生じているのでしょう(※私見)。
企業間郵送物はゼロになっていない
そして、デンマークなどと異なり、日本では「直ちに郵便事業をやめられる」という条件は整っていない、とするのが、著者自身の現在の見解です。その典型例が、企業間郵送物でしょう。企業間郵送物は、現時点においてゼロとなっていないのです。
たとえば請求書がわかりやすいでしょう。現時点において、企業間の請求書発行実務もかなり電子化しつつあるとはいえ、ざっくり、次のようなパターンがあります。
- ①請求書を紙で印刷して社判を押し、それを郵送する
- ②請求書を紙で印刷して社判を押し、それをPDF化してメールで送付する
- ③請求書を印刷せず、そのままPDF化してメールで送付する
上記②や③のようなケースも相応に増えてきているものの、やはり、①のように「物理的に請求書を印刷して相手の会社に送付する」という事例も、いまだに存在しています。郵便事業を完全にやめたければ、まずは①のような請求書を②、③のようにメール化していく努力が必要です。
なお、ちょっとした余談を述べておくならば、請求書を発行する側からすれば、一番楽なのはパターン③であり、①と②に関しては、手間は正直、あまり変わりません。①と②は「紙に印刷してハンコを押す」ところまで共通しているからです。
両者の違いは、印刷物を折りたたんで封筒に入れて切手を貼ってポストに投函するか、スキャナーで画像を取り込んでメール送信するか、に過ぎません。
いずれにせよ、企業間取引では、依然として「請求書は紙で送ってほしい」というニーズが根強い、というのが実態に近く、したがって、少なくとも今後5年という単位で見て、郵便の需要が完全に消滅するというのは考えづらいところでもあります。
採算性は厳しくなっている
ただ、郵便事業の採算性が、日本でも厳しくなりつつあることは間違いありません。
日本郵政グループの2025年3月期・第2四半期『連結業績サマリー』(P2)によれば、日本郵便については増収減益だったそうで、具体的には経常収益が約1.6兆円(前中間期比+3.9%)、経常損益は▲651億円(つまり赤字)であり、中間純損益も▲683億円と赤字でした。
しかも、赤字幅は前中間期と比べ、それぞれ200億円以上も悪化しており、郵便事業自体がかなりの不採算状態であることは間違いありません。
日本郵便ウェブサイトによると、郵便局は2025年1月末時点で全国に23,496局あるのだそうですが(うち直営郵便局が20,036局、簡易郵便局が3,460局)、この郵便局数が少し多すぎるかのうせいはないでしょうか。
前出『デンマークで手紙配達事業終了へ』でも指摘したとおり、たとえば年賀状について、年賀はがきの当初発行枚数や元日郵便物配達数は減少の一途をたどっており、直近数年の減少ペースを維持すれば、早ければあと5年以内に、年賀状という習慣そのものが日本から消滅しかねない状況です。
要するに、全国津々浦々に郵便局網を維持するだけの余裕が、現在の日本郵便にはなくなりつつある、という仮説です。
自民が郵便事業への財政支援の議員立法を検討
こうしたなかで、ちょっと気になる話題があるとしたら、郵便事業において、国の財政支援が検討されている、といったものではないでしょうか。
郵便局網維持に国の財政支援案、年650億円 自民党検討
―――2025年3月5日 15:56付 日本経済新聞電子版より
ここでは日経の記事を紹介していますが、日経以外のメディアでも似たような記事が出ているようで、これらを要約するとこんな具合です。
- 自民議連が郵便ネットワーク維持のために新たな財政支援を検討していることが判明した
- 政府が日本郵政から受け取る配当金などを原資に、年間650億円程度を日本郵便に支援する
- 今国会への提出を目指す議員立法による法改正案に盛り込む方針だ
…。
これ、冒頭でも述べた表現を流用するなら、いわば、「郵便事業というユニバーサル・サービス維持のためのコスト」として国費を投じる、ということでしょう。
日本郵政から国に支払われる配当金は、郵便事業だけでなく銀行事業(ゆうちょ銀行)、保険事業(かんぽ生命)などの利益も原資であるはずですが、いわば、これらの事業の稼ぎが政府を経由することで郵便事業を下支えするのに使われる、ということでもあります。
支援額が年間650億円程度で足りるのか、といった論点もさることながら、正直、公的資金による支援が始まってしまうと、それはもうその事業自体に将来性がなくなったということでもあるのかもしれません。
補助金経済
ここで懸念されるのが、一種の「補助金経済」でしょう。
公的支援を受け取ってしまうと、郵便事業にとっては民間企業としての創意工夫が働かず、不採算な部門を温存してしまうなど、抜本的な改革がおざなりとなる可能性があるのです。
ちなみに経済学的な観点、とりわけいわゆる「補助金経済」の観点からは、一般に補助金投入は、本来淘汰されるべき産業を温存させてしまい、経済の活力を奪うなどの減少が知られているのですが、それだけではありません。
古今東西、いかなる業界も、公的な保護ないし補助を与えると、その産業がダメになる傾向があるとされます。
これについて、著者自身としては、「いつ、いかなる場合も、補助金は絶対にダメ」という話ではないと考えているわけですが(これについては機会があれば別稿にて述べたいと思います)、あくまで一般論としていえば、補助金を受け取り始めると、その産業は衰退することが多いです。
また、補助金を受け取っていない産業は自助努力等もあり、非常に栄えるという傾向もあるのかもしれません。
諸外国では鉄道事業が国営・公営であったり、民営であっても補助金が投入されていたりする事例も多いようですが、日本だと鉄道事業には基本的に民営であり、補助金も支給されていません(※)。
(※ただし、日本で鉄道事業が完全に補助なしの民営である、というわけではなく、建設費や複々線化事業、連続立体化事業などへの各種補助がなされていますし、JR北海道やJR四国などに対する助成金の事例や、各地の地方公共団体などによる地下鉄・市電事業などの事例もあります。)
その日本が鉄道大国とされているのは、鉄道会社による沿線開発などの歴史的経緯もさることながら、やはり基本的に鉄道事業への補助がないことが大きい、というのが、あくまでも個人的な持論です。
新聞業界あたりからも「補助金」の声が出てくるのか?
いずれにせよ、業界ないし会社が補助金に頼り始めると、その業界ないし会社の運営は却って傾いていく、というのが、歴史の教えるところではないかと思いますし、また、ヤマト運輸や西濃運輸、佐川急便や福山通運といった民間配送業者がいるなかで、日本郵便「だけ」を支援するのも奇妙な話です。
ただ、それ以上に懸念されるのが、「うちの業界にも補助金を!」、という声が出てくることです。これも半ば、あくまでも個人的な憶測ですが、そのうち郵便事業と似たような業界からも、「我々に補助金を投入せよ!」、といった要望が出てくるかもしれません。
そう、新聞業界です。
新聞業界といえば、年初の『新聞業界が衰亡を防ぐためには?』などでも取り上げたとおり、業界全体の部数がここ数年、猛烈な勢いで減り続けており、また、夕刊の事実上の廃刊であったり、一部県への全国紙の配送停止であったり、と、業界には芳しくない話題ばかりが続いています。
当ウェブサイトに言わせれば、これも新聞業界の偏向報道による「自業自得」のようなものですが、いずれにせよ、苦境に陥った新聞業界、あるいはこれからごく近い将来苦境に陥るであろうテレビ業界あたりから、「報道の自由を守れ!」などと騙りながら、公的な補助金を求める論調が出てくるのではないかという気がしてなりません。
実際、すでに一部の新聞社は、「ふるさと融資」という名目の低利融資などを通じ、事実上、国家からの支援を受け取っていたりもします(『ふるさと融資から垣間見える新聞業界と官僚の癒着構造』等参照)。
余談ですが、新聞社さんはふだん「我々は権力の批判者だ」、などと偉そうに自称しておられるようですが、そのわりに新聞業界が「低利融資」「軽減税率」など、「権力」の側から支援をもらっているというのは、なかなかに面黒い話題だと思うのですが、いかがでしょうか?
郵便事業にも「やり様」はあるように思えるのだが…
余談はさておき、郵便事業に話を戻しましょう。
郵便事業が赤字体質であるという点は論を待たないにせよ、その事業にも「やり様」はあるはずです。
たとえば郵便事業には封書、はがきといった文書の配達サービスだけでなく、レターパック、小包などのように、「文書以外の配達事業」も含まれていて、アマゾンなどのEコマース事業が隆盛になるほどに、こうしたネット通販などのニーズは、今後、むしろ高まっていくはずだからです。
(とりあえず現行法のしがらみなどを無視すれば、)思い切って「デンマーク方式」で封書、はがきの取り扱いを完全に取りやめ、全国各地の郵便ポストも撤去し、そのかわり、儲かる宅配事業に特化していく、というのもひとつの考え方かもしれません。
この場合は各地にある郵便局だけでなく、たとえば全国各地にあるコンビニエンスストアにも出荷の取り扱いを委託するなどすれば、業務はかなり効率化されるでしょう(※というか、現在もすでに一部コンビニでは、ゆうパック、ヤマト運輸「宅急便」などの取り扱いがあります)。
逆に、郵便局もヤマト運輸、佐川急便、西濃運輸、福山通運といった同業他社と提携し、宅配困難な地域や限界集落などではむしろ配送受付窓口や配達員などを共通化しても良いくらいではないでしょうか。
いずれにせよ、日本郵便に対する(報道ベースによれば年間650億円という)補助金は、国家財政からすれば微々たるものだとでも自民党議連は考えているのかもしれませんが、少しでも補助金の支給を始めたら、そこから徐々にタガが外れ、補助金額が膨張していくかもしれません。
このように考えると、安易な補助金に頼るのではなく、郵便事業の採算割れの現状をきちんと把握・整理・分析し、郵便事業のサービス体系や店舗網が時代に合致しているかを見直すとともに、不採算店舗の閉鎖や同業他社との連携など、「やれること」をきちんとやる方が先ではないでしょうか?
「郵便代も値上げします」、「補助金も要求します」、では、さすがに説明がつかないと思うのですが、いかがでしょうか?
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました
自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。 |
【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
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毎度、ばかばかしいお話を。
①○○業界(好きな言葉をいれてください):「今まで通りにするために、補助金を入れろ」
フジテレビもそうですか。
②郵便局:「我々が、毎日の新聞の配達も請け負う」
まあ、朝に配達しない。休日は休みにして、前日に配達するのなら、ありか。
アマゾンでは納品書請求書類はサイトに置いて、必要なら購入者がダウンロード、あるいは直接印刷ができるという方式。届いた荷物に納品書等は入っていない。
>企業間取引では、依然として「請求書は紙で送ってほしい」というニーズが根強い、というのが実態に近く
経理にいた人間としては、請求書の承認プロセスは紙の方が楽なのではという感想をもつけど。
インドが「GST e-Invoice 制度」を推進しています。これはすべての請求書に一意なランダム番号を附番させて、請求額振り込み(電子送金)にはこの番号を明記させるというものです。番号は請求書発行者がオンラインで都度取得する手続きになっています。附番を強制する戦術は、中華民国台湾における「統一發票」にかなり似ています。
どうしてこんな制度を政府が推進しているかというと、インドでは政府行政が掌握できていない闇経済の規模が半端でない(らしい)そこで、闇蓄財や闇送金にざっくり投網を投げて、事実を電子的に記録してしまおうというものです。いわば金融流に入れ墨をするようなものです。
日本でも数字6桁が表示になる謎のデバイスを銀行が預金者に持たせる事例が増えて来ました。取引に6桁の入れ墨を入れるためです。インド e-Invoice はこの仕掛けとは違っていますが、偽造困難な入れ墨をカネの増減そのものではなくて取引という空気な行為に施すのはブロックチェーン思想と共通しています。
>>公的支援を受け取ってしまうと、郵便事業にとっては民間企業としての創意工夫が働かず、不採算な部門を温存してしまうなど、抜本的な改革がおざなりとなる可能性があるのです。
公的資金をどこに投入するのが最適なのかは時代の流れを読まないといけないので難しいですね。
郵便事業はインフラ同様無いと困る事業なわけで。
民主党政権時代のコンクリートから人へ、は悪手だった。
GPTさんに相談しながらパパッと見て見ました。
郵便事業の持続性については今年の夏頃に結論予定の審議会がありました。
総務省・情報通信審議会 郵便料金政策委員会
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/policyreports/joho_tsusin/yubinryokin_seisakuiinkai.html
ざっくり、赤字の定形郵便の料金値上げの柔軟性確保のための制度議論のようです。小包や金融などの他事業からの利益の補填は公正競争上できないことが議論の前提になっているようです。
ただし、定形郵便の値上げをすれば利用が減るというスパイラルへの懸念が示されているものの、そこは置いといてとりあえず値上げしやすい環境整備の議論をしているようです。
補助金を出すなんて議論はありません。
これと、自民党の議員立法は補完関係にあるように見えます。必要なら、補助金投入はあってもいいと思いますが、なぜツッコミが甘くザルになりがちな「議員立法」なのか。後ろ暗いことでもあるのかな?(笑)
話ズレですけど、本来的には議員立法は民主主義の中では望ましいことなのに、いつまでたっても怪しい法案が後を絶たないのは(AV新法とか)どうにかなんないのですかね。国会の法案作成機能を充実させられないのでしょうかね。