今度の減税「与党案」は基礎控除が8つの区分に複雑化
自公国3党は22日、いわゆる「年収の壁」を巡って協議するなかで、与党側が新たな提案を行ったようです。ただ、控えめに申し上げて、意味がわからないと断じざるを得ない内容です。年収区分などに応じて細かく基礎控除の額を変動させるという、大変複雑な仕組みだからです。宮沢洋一氏に調整能力などないことがわかったわけだから、自民党は宮沢氏をさっさと税調会長から外すべきではないか―――。老婆心ながら、そう思わざるを得ません。
控えめに申し上げて、意味がわからない自公案
先日の『公平でも中立でも簡素でもない…自民党の複雑な減税案』などを含め、これまでに何度か取り上げてきたのが、いわゆる「年収の壁」をめぐる、自民党税調が示した、ショボすぎかつ複雑極まりない減税案です。
基礎控除の引き上げに細かい年収区分を設けたほか、その引き上げ額自体も「年収の壁引き上げ」を求める国民民主党側の要求水準にはとうてい満たないものでした。
これに対し、自公側が近く新たな提案を行うようだ、とする観測があったのですが、その具体的な姿が見えてきました。
結論から言えば、「控えめに申し上げて、意味がわからない」、という反応しかありません。
103万円の壁をめぐり
自公国会談で示された新たな案 pic.twitter.com/MiVkfO15wh— 篠原裕明 (@shino7878shino) February 21, 2025
テレビ東京報道局『WBS』デスクの篠原裕明氏が自身のXにポストした内容によると、いわゆる「年収103万円の壁」を巡り、自公国3党協議で21日、いわゆる基礎控除の引き上げをめぐって、5段階の控除案が提示されたそうです。
基礎控除の区分は8つに増える(らしい)
なんだか頭が痛くなるのですが、頑張ってその内容を要約すると、おそらくはこんな具合です(図表)。
図表 与党側が国民民主党に示したとされる基礎控除拡大案
年収または所得 | 基礎控除の額(引上げ額) | 減税効果 |
~年収200万円 | 95万円(+47万円) | 23,994円 |
~年収475万円 | 88万円(+40万円) | 20,420円 |
~年収665万円 | 68万円(+20万円) | 20,420円 |
~年収850万円 | 63万円(+15万円) | 30,630円 |
~所得695万円 | 58万円(+10万円) | 23,483円 |
~所得900万円 | 58万円(+10万円) | 33,693円 |
~所得2400万円 | 58万円(+10万円) | 40,840円 |
~所得2450万円 | 42万円(+10万円) | 40,840円 |
~所得2500万円 | 26万円(+10万円) | 40,840円 |
所得2500万円超 | 0円 | 0円 |
(【出所】各種報道等をもとに、扶養控除なし、月収は年収の12分の1という前提を置いて作成・試算。ただし所得2400万円以降2500万円までの層に関しては資料がないため、その正確性について保証するものではない)
基礎控除については年収200万円まで、475万円まで、665万円まで、850万円までの4階層でそれぞれ引き上げ幅が異なり、それ以降の層では所得2500万円までが10万円、所得2500万円を超えると基礎控除自体が消滅する、といった前提を置いています。
そして、この前提が正しければ、基礎控除は年収または基礎控除の額に応じ、じつに8段階(!)に細分化されることになります。
制度を無駄に複雑化する提案
なんだか、本当に意味がよくわかりません。
基礎控除という、一説によると本来ならば憲法が保障する「生存権」に基づく仕組みに対し、所得制限を設けるという発想自体が国民を舐めていますし、また、自民党税調側には税の公平化・簡素化・中立化を通じて日本の成長と躍進を図るという発想が見当たりません。
制度を意味不明に複雑化すれば徴税コストも上がりますし誤りも生じやすくなります。
なにより、これは国民民主党が強く主張し、多くの国民も賛同した「手取りを増やす」の姿からはかけ離れたものであることは間違いなく、その意味で、自民党が保守層、中間層、富裕層から三下り半を突き付けられるきっかけともなりかねません。
高市早苗氏は公然と批判も…
この点、昨日の『減税に後ろ向きな自民税調インナーを高市氏が公然批判』では、石破茂・現首相と総理・総裁の座を争った相手である高市早苗氏が、自民党税調インナーに対し怒りと失望をXにポストした、という話題を取り上げました。
高市氏の憤りについては、よくわかります。
ただ、非常に残念ながら、自民党が宮沢税調会長を放置していること自体、自民党議員が総体として、年収の壁引き上げにネガティブだという印象を国民に広く与えるような状況が生じていることもまた間違いないでしょう。
その意味では、自民党議員が宮沢税調会長や石破執行部に諫言を申し入れるか、それとも何らかの手段を使い、なかば強制的に止めるかしないと、たとえば今夏の参院選で自民党は壊滅的な敗北を喫することになるのかもしれません。
というよりも、個人的には、もうこれ以上宮沢洋一氏を税調会長の任に当たらせることは、自民党のためにならないと思います。調整能力がないことがわかったわけですから、予算案の成立を望むのならば、少なくとも宮沢氏を更迭するのが自民党自身のためではないか、などと思います。
老婆心ながら。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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![]() | 日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。 |
基礎控除を一律53万円増額して101万円(給与所得控除込み156万円)とする。
⤴生存権・公平性の観点から、以上が譲れないラインなんだと思っています。
真っ当な労働者の控除可能額と生活保護支給額の整合性をとる意味でも・・。
新宿さんには悪いけど、
「会計士や税理士の仕事を確保したい」
ように見えますね。
私見ですが、陸運局付近の代書屋みたいに、
「本来なら不要」
な仕事なのだと思ってます。
本質的に付加価値ではない。
そう考える理由は、制度が簡単で申請書式がよくできてたら、申請する本人がその場で直感的に間違いなく手続き完了できるからです。
自販機や自動改札機で、誰かのアシストがないと使えないなんてことありませんからね。
アホな仕事をしてるなら、もっと必要な仕事をやってくれ。
役人は、人と予算を増やそう増やそうとしますが、どうやったら人と予算を減らしたらホメられるインセンティブを与えられるのだろうか?
うーん、アイデア浮かびません。
数年前に基礎控除に2500万円付近の所得制限が設けられたことをこちらのサイトで初めて知りました。今回の8段階化提案はそこを蟻の一穴にした悪乗りのように見えます。生存権由来の基礎控除に所得制限はなじまない、という了解をなし崩しにするつもりなのでしょう。
聖域無き財政再建。焼け太り。
>もうこれ以上宮沢洋一氏を税調会長の任に当たらせることは、自民党のためにならないと思います。
宮沢御大は岸田政権の頃から執行部の制御が効かず、言いたい放題なのですよね。定額減税の「一年限り化」も宮沢御大がマスコミぶら下がりで発した言葉によって実現したと、当時の官房副長官が(飲みながら)語ってました。
今の自民党で一番偉いかも。(「エラそう」なのは間違いない)
さらにどうでもいいのですが、Grokに聞いてみました。
Q:石破首相の交代を目指す「石破降ろし」を成功させるプランを考えてください。
時期は7月の参議院選挙よりも前が望ましいですが、今後の政治外交日程も考慮し、現実的で適切な時期も検討してください。
A: https://grok.com/share/bGVnYWN5_edabcfd2-f495-4d33-8c94-f220372d1602
まあしかし、無理だろうなぁ。
あ、貼るリンク間違えました。上のはつまんないバージョンでした。
A: https://grok.com/share/bGVnYWN5_0ac0b3d4-bd90-4d01-b2f9-d4dfcbbfffda
思考過程も見えるようになっていますが、DeepSeachモードが面白いです。質問から結論に至るまで、必要に応じて何度も推論を繰り返します。
無料でも24時間で5回まで使えるようです。
いつも楽しみに拝読しております。
高市さん、自民党の中で吠えてる限り選挙向けのアリバイづくりにしか見えません。トランプにAFDと世界でアンチリベラルが台頭してるわけで、今なら「民主党」と付かない政党を立ち上げたら支持が広がるのでは?
このままだと、少なくとも私は次の選挙で自民党には投票しないでしょうね。
まーニンゲンつーんは業が深おまっさかいな
新党で支持が広がっても打ち上げ花火1発で終い、地力無き風頼みは一過性のハヤリで終わりっすわ
マガリナリニモ大阪維新の会がソレナリの結果を遺したのも『既存政党全部想像を絶する悪弊無能再生産機構に成り果てとった』という云わば“敵失”と『もうガチ財政再建団体秒読み』と云う“時節ボーナス”があった上に『選挙区に支持者を持つ議員経験者が多数参加して立ち上げた』と云う要素が上手く咬んだだけでっから
風に寄せられた勝手連を半ば恒久的と(外から)見える程度に組織化できる実務的政治屋はそーおらんショ
知らんけど
なんでしょう、バグだらけのプログラム(日本)に一時的なパッチをあてた程度にしか見えません。
尤も、バグだらけでありますから、正常に稼働することなどはありえませんが・・。
自民では総裁が変わったとしても減税は無理だろうなぁ。
今までも出来ていないのに、放置や増税に加担してきた方々が口先だけで決意表明したとして、期待できるか?
どの政党よりも積極的に減税案を進めて、尚且つ結果を出してからでないと、今までのマイナスは払拭されない。
どの政党も今までと同様、信任を与えるとすぐ増税路線。
国民民主への期待する点はここ。政権に入ってからも変わらないかどうか
結局は減税反対が岸田前総理からの既定路線ですからね。自民党が両院で過半数割れして下野が現実的になって来たなと。
どうせまともなメニュー出せないなら、国民食堂の方が良いじゃない?と
今回の自民党案ですが、「公平・中立・簡素」からは再分配を意識するあまり離れてしまっているような気がします。
新宿会計士さんも自民党の岩盤層だと思ってましたが、これだけ苦言を呈されるというのは余程な事かな
昔、食堂に喩えられてましたが最近の自民党はプライマリーバランスを標榜する割には高齢者や低所得層などの特定の層(おそらく票田や何かキックバックあるのかと邪推してしまいます)へのばら撒きをしすぎて、現役世代には毒入りの定食を出してきて支持を失いつつある印象です。
何が起きてしまったんでしょうか。