効果不明?戦力を逐次投入するが如き経済政策の非効率
戦力の逐次投入という論点があります。もともとは「兵器の性能が同一なら勝敗は投入した戦力差で決まる」とする、いわゆる「ランチェスターの法則」で戒められている考え方ですが、わが国における、経済効果がよくわからない経済政策などを見ていると、この「戦力の逐次投入」という概念が頭をよぎります。
目次
戦力の逐次投入
「戦力の逐次投入」、という論点があります。
戦争であれ、経済政策であれ、戦力を段階的・逐次に小出しで投入してもあまり効果がない一方で、戦力を一気に投入したら、それで戦況や経済状況を大きく変えることにつながる可能性が高まる、という、戦略論ではよく知られた考え方です。
近年であれば、2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵略などが、典型的な「戦力の逐次投入」と化している、といった指摘を目にすることもありますが(※ただし異論もあります)、これも戦力を少しずつ投入することで、投入したそばから戦力を消耗するという典型例かもしれません。
このあたり、「戦力の逐次投入」が常に悪い、という話ではありません。とくに経済政策の分野においては、まずは特定の地域などを選び、何らかの政策をパイロット的に実施してみて、それで効果を上げたら全国展開する、といったことは、一般に行われているからです。
たとえば、1980年代から90年代にかけて、一部地域で試験的にPCを取り入れた教育が始まりましたが、これも当時はまだ高価だったPCをいきなり全国津々浦々の学校に導入するのではなく、まずは先進的な取り組みを行う学校を選定するなどし、試行錯誤する、といった目的があったものと思われます。
ランチェスターの法則の数理モデル
しかし、こうした例外もあるにせよ、基本的に軍事や経済などの分野において、戦力の逐次投入は良くないとされます。
一説によると、戦争の際には「ランチェスターの法則」なるものが働き、武器性能が同一であれば、自軍と敵軍の戦力差は当初投入した戦力に依存するとされるもので(※自軍、敵軍ともに補給がない場合)、現実の戦争でも成り立つことが多いとされています。
そして、戦争におけるランチェスターの法則の数理モデルを経営学の世界に応用した「ランチェスター経営学」なるものもあるようですが、著者自身はこの「戦力の逐次投入」については、じつは経済政策の分野においても成り立つのではないか、といった仮説を抱いています。
高校生等奨学給付金などの制度
こうしたなかで、ちょっと気になった話題があるとしたら、これです。
自公、奨学給付金拡充へ
―――2025/02/18 16:48付 Yahoo!ニュースより【時事通信配信】
時事通信によると自公両党は18日、従来は年収約270万円未満の世帯などが対象とされている「高校生等奨学給付金」を、年収590万円までの世帯に拡充することで合意。今年度の「骨太の方針」に盛り込むことを目指すのだそうです。
ちなみにこの「高校生等奨学給付金」、生活保護世帯や非課税世帯の子弟を対象に、「授業料以外の教育費」を軽減するための支援を行う、という趣旨の制度だそうですが、その支給基準と支給額は、なかなかに複雑です。
もちろん、市区町村役場の「生活支援課」が管轄しているような事業のすべてを否定するつもりはありませんし、こうした制度を使い、現実に恩恵を受けている世帯がいるであろうことは否定しません。
ただ、先日の『非課税世帯への3万円給付と「取って配る」式の非効率』などでも指摘したとおり、この手の「低所得層への給付」という制度は、行政の肥大化と非効率化を招くうえ、経済政策として見たときの実効性という観点からも、なにかと疑念を生じさせるものでもあります。
正直、対象となる世帯が極めて限定されている政策で、「低所得者向けの支援でござい」、といわれても困惑する限りですし、そのうえこうした細かい事業が積み重なって行政の無駄を生む構図は問題ではないのでしょうか。
あなたが役場の担当者だったとしたら…!?
というよりも、あなたが市区町村役場の窓口担当者だったとしたときの事例で考えた方が早いかもしれません。
窓口に相談に来ている人が、どんな年収でどんな状態なのか(年齢、性別、婚歴の有無、老親の有無、子供の有無、子供がいる場合はその年齢、など)を正確に把握したうえで、その人に最も適合する支援を、法の要件に当てはめて判断しなければならないからです。
正直、いまこの瞬間、生活困窮者など何らかの支援を受けるべき人に対し、どのような支援制度があるのかを、正確にすべて把握している地方公務員の方は、どれだけいるのでしょうか?
冒頭で取り上げた「高校生等奨学給付金」もそうですが、支援制度は所得要件などがしょっちゅう変わるため、それらを正確にすべて学ぶのは大変な手間ですし、また、市区町村民からの問い合わせに対し、それらの支援が適用できるかどうかを正確に即答するのは至難の業です。
要するに、ひとつひとつの支援制度の規模が小さくなればなるほど、また、制度が複雑になればなるほど、役所の労力がその対応に忙殺されることとなり、本来できるはずだった役所の仕事ができなくなったり、人員が足りなくなって余分に人員を採用しなければならなくなったりするわけです。
当然、これらの経費は行政コストに跳ね返り、ゆくゆくは私たちの税金負担を高めることにつながります。
小出しでよくわからない制度を次々と打ち出してきたことで、結果的に細かい要件を知っていなければ受けられる補助も受けられず、国民は損をするうえに、それらの支援がもたらす経済効果も極めて限定的なものとならざるを得ない―――。
役所の無駄は、まさに経済政策の逐次投入から出てくるのではないでしょうか。
中間層以降への支援が薄すぎる!
さて、『【総論】我々は給料からどれだけ「引かれている」のか』などを含め、これまでに当ウェブサイトでは何度も強調してきた論点ですが、高所得者は下手をすると「四公六民」、いや、「五公五民」というレベルで高額の公租公課を負担させられている格好ですが、低所得者の負担が小さいというわけではありません。
とくに勤労者の場合、社会保険料(厚年、健保、介護、雇用)については本人が負担させられている部分だけでなく、それと同額以上を雇用者も負担させられていますので、私たち被用者の多くは、じつは「見えないところ」で、倍額の社保を負担させられているわけです。
こうした「見えないコスト」も含めると、じつは年収200万円~300万円ほどの層であっても、実質的な税負担は人件費全体の3割前後に達していたりするわけです。
江戸時代の悪代官もビックリの、まさかの「三公七民」です。
しかも、不動産を買ったら不動産取得税に固定資産税、自動車を買ったら自動車税、さらに生まれたばかりの赤ちゃんのおむつも含めほとんどの品目に10%ないし8%の税が課せられている消費税、そしてガソリン税、酒税、入湯税、宿泊税、出国税といったさまざまな税負担が私たちを苦しめます。
ただ、先日の「低所得者向け3万円支援」などの論点でも触れたとおり、そのなかでも政府の支援は、低所得者層に極めて厚いものである反面、たとえば年収500万円以上の層などに対する支援が極端に薄い、という特徴があります。
このため、低所得層に限定した支援は中間層以降の勤労意欲の阻害、国民の分断の加速といった弊害を大きくもたらすものでもあり、あまり所得階層を絞り過ぎた支援はいかがなものかと思う次第です。
取って配る式の政策はやめられない!?
ただ、国や役所は「取って配る」を続けるために、これらの税金や給付金などを、絶対にやめようとしないわけです。これなど、口の悪い人に言わせれば、「公的事業の多くが利権と腐敗の塊であり、それらから生じるうまい汁を啜るためにやっていることではないか」、といった仮説も出てくるところでしょう。
そして、高年収者の場合は「配る」の部分に所得制限や給付制限を課せられ、行政サービスを受けるための対価(たとえば保育園利用料)は応能負担と称して同じサービスなのに異常に高い値段を取られたりするわけです(※過去に経験したことがあります)。
最近でこそ児童手当や幼児教育無償化のように所得制限や給付制限がない行政サービスもありますが、それでも「戦力の逐次投入」のような、煩雑な事務手間などのコストのわりに政策効果がよくわからない行政サービスも多々あることは間違いありません。
私たち国民にとっては、「取られて配られる」よりも「最初から取られない」方が、じつは無駄な行政コストもかからず、かつ、手元に残るおカネが結果的に最大化するのではないでしょうか。
いずれにせよ、著者自身としては、累進課税や応能負担、所得制限や給付制限などの考え方を無碍(むげ)に否定するつもりはありません。
しかし、それと同時に、現在の日本のように、累進課税と応能負担と所得制限と給付制限を「同時に」実施するのは正気の沙汰とは思えませんし、結果的に高年収者の方が低年収者よりも「使えるおカネ」が減るという逆転現象は、社会正義の観点から許せるものではないと考えています。
日本社会では「機会の平等」は保障されるべきだと思いますが、「結果の平等」は良い考えではありません。
このあたりを、政治家も官僚も国民も、勘違いしないようにしたいものだと思うのですが、いかがでしょうか?
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました
自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。 |
【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
![]() | 日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。 |
戦力(経済政策)の逐次投入をしないためには、それなり(?)の将軍(総理)が必要ではないでしょうか。
取って配って監査という基本形。しかも監査は、素人企業に丸投げ。素人監査のコストは、我々の税金から賄われている。企業主導型保育園の実態。最近、その企業が行った監査報告書を見て、愕然としました。これは税金の無駄使い。
>取って配る
きっと采配の数だけ利権があるのでしょうね。
業務の煩雑化も、関係各所に「事務負担名目で”予算を配る”」ためのように思えてなりません。
・・・・・
①累進課税や応能負担(義務)
②所得制限や給付制限(権利)
①と②の併用は「公平性の趣旨」を否定するものかと。
義務を果たした者の権利が制限されるのは疑問です。
まー自由民主党には未だに“一億総中流”意識が根強く“中流”の概念自体もバブル崩壊前からアップデートされとらんのでしょーや
知らんけど
「安物買いの銭失い」を延々続けてもタイシテ文句も云わず黙々と貢いでクレル民が居ればコソ、上部デッキで好き勝手やっとるダケデ“やった気”にナレル官吏たぁオキラクショーバイっちゃネ??知らんけど
現代日本に於ける“バスチーユ監獄”はカスミガセキかしらん???
知らんけど
私は取って配る方式でいいと思いますよ
すでに社会保険料における医療ただ乗りや国外不正請求と取り締まりのいたちごっこ
恒久減税処置の裏を突いてうまい汁吸おうとする奴が這い寄ってくるのは必定
なので単発で配るをすぐに辞められるのは安全弁です
まあガソリン税のトリガー条項とか法律の書いた通りにしろよですけど
安倍晋三という名総理抜きの自由民主党自体がこんなもんだったのかなあ・・・と思えて来ました。
今ある食堂がどれもイマイチなら業界再編した方が・・・
教育無償化は重税のネタになってしまう話ですね。
日本の子供だけが頭にありましたが、考えてみれば日本国民が稼いだお金で生活保護の名目の下に外国人を養い続けている現状を考えてみれば、寧ろ教育無償化は言葉も話せない、仕事も出来ない外国人の子供の面倒を見ることになる。石破政権が続く限りはこうした政策が次から次へと出され、法制化されるのだろうと思います。
親がしっかりと稼ぐ事の出来る国民経済を維持し、その中で教育を受けさせるというのが本来の政府の仕事であって然るべきです。
維新の政策は減税とは言っておりませんので、背後に居る財務省から見れば自民党は維新と与しやすい事は間違いないでしょう。岸田政権の定額減税くらいなノリで出来てしまう。
それから少子化についてですが、自民党(政府)はこれを問題視してはおりません。
自民党が問題視しているのは人口減少です。特に、労働生産年齢にある人口を増やさなければならない。自民党が作り出した人口減少には歯止めがかかるどころか加速しているように思われますが、自民党が考えることは単純で、少子化対策などをやっても将来の見通しが立たない。ならば、見た目が同じような支那人、朝鮮人を子供同伴で大量に移住させる、特に経済状況の厳しい支那にあっては喜んでこちらへ来るだろうから、入れてしまえば良い。
教育は全てタダ。支那人一族郎党の生活保護も2,3日で直ぐに支給される。日本語が出来なくとも支那人のコミュニティで生きてゆくことは出来るし、徴税も可能。
税を集めたいが為に日本国民のお金を外人移住につぎ込むだけつぎ込む。日本の子供が少なくなろうが、全くお構いなし。
オールドメディアも異論は唱えないし、石破人気を煽るだけで狙いが容易に成就してしまう。
国家の財政は破綻状態、国の借金が増えすぎてどうにもならないと喧伝はされますが、
どういう訳か、外人に垂れ流すお金だけは財源の根拠もなく垂れ流しが続けられる。
当然の如く、自民党が受け入れた以上は人権を保障する必要がありますが、生活保護で仕事をしなくても生きていける現実が日本の制度としてある訳ですから、強制的に送り返す仕組みが無い限りは永久に養い続ける必要が生じてしまう。仕組みはあっても無い様なもの。
自民党は国家の存続を考えているのではなくて、銭集めと国家の破壊に奔走しているのが実情です。