必要な医療費自体を抑制?厚労省の「高額療養費」議論
ネットでちょっとした話題となっているのが、厚労省が健康保険の自己負担上限(高額療養費)を引き上げるに際し、「受診抑制」を織り込んでいる、とするものです。これについて全国保険医団体連合会の本並省吾事務局次長は「がんや難病などで闘病を続ける患者の命を切り捨てるに等しい」と憤っているのだそうですが、いったいどういうことでしょうか。
目次
国民皆保険の日本
当ウェブサイトにおいて先般より議論している通り、日本の公的保険は「保険」と名乗っていながら、事実上、「保険」の体をなしていません。
高い保険料を負担する人ほど、給付が少ないからです。
保険商品と呼ばれるものは、病気、怪我、あるいは老後などに備えて保険料を支払い、いざ自分自身が病気になったり、怪我をしたり、高齢になって働けなくなったりしたときに、たとえば治療費や老齢年金などのかたちで保険給付が支払われる仕組みです。
「いざというときの保障は最低限で良い」、などと考えている人は、最低限の保険に入れば良い一方で、いざというときに手厚い保障を受けたいと思うならば、それなりに高額の保険に入る、といった選択肢がありますし、実際、民間保険には掛け捨て、貯蓄型、ガン保険特化型など、さまざまなタイプがあります。
ただ、国民は誰しも病気になるし怪我もするわけですから、先進国では国民全員を対象にした健康保険というものが一般的にみられます。
日本でも国民皆保険の考えで、自営業者などは国民健康保険、会社などに勤める人の場合は協会けんぽや職域の健康保険組合などに加入しており、国民の多くが医療機関を選べ、1~3割の自己負担で医療を受けることができる、という仕組みが取られています。
また、日本では老齢に備えて年金制度も整備されており、自営業者などは国民年金、会社員などは厚生年金、場合によっては厚生年金基金などの「3階部分」に加入するなどし、高齢により働けなくなったときに備える仕組みが取られています。
高額の負担を強いられているのに…給付はチョビっと
このこと自体は、悪い話ではありません。
しかし、日本の公的保険制度には、いくつかの問題点があることも事実です。
その最たるものが、給付率の極端な低さです。
たとえば厚生年金の場合だと、高年収層は明らかに支払った年金保険料と給付の額が見合っていません。
22歳から65歳までの間、ずっと年収100万円で厚年に加入していた人が受け取れる年金額は117万円と出てきます。つまり、年収100万円で働き続けたならば、65歳以降は現役時代の年収を上回る年金を受け取ることができるわけです。
ところが、働く期間や加入する年金などがまったく同じだったとすると、年収を9.9倍の990万円に変更すれば年金額は297万円で、年収100万円のときの年金額117万円と比べればたしかに増えているのですが、支払っている保険料が10倍近くなのに年金受給額は2.54倍になるにすぎません。
同様に、健康保険の場合は高額療養費上限というものが決まっているのですが、これが高年収層ほどに高額に設定されていて、極端な話、子育てをしている現役の高年収層が癌などを患った場合には、治療を断念せざるを得ないケースも出てくるのです。
高額療養費の問題
なぜそうなるのか―――。
標準報酬月額83万円を超えた場合、この高額療養費は最大で252,600円とされますが、ボーナスなし・月収83万円・年収996万円の人の場合だと、手取りは596,373円程度にすぎないからです(※ただしボーナスの有無などで手取り額の試算は変わってきます)。
60万円弱の手取りで最大25万円を治療費に取られるならば、子供の習い事をやめさせなければならないこともあるでしょう。
これに対し、「低所得者」の場合だと、高額療養費上限は35,400円(!)に過ぎず、極端な話、生活保護世帯などは高度医療が受け放題、というわけです。
しかも、現在報じられているところによれば、2027年8月以降、この高額療養費上限は年収1650万円以上の人について44.4万円にまで引き上げられるそうです(図表)
図表 報じられている、年収・月手取りと高額療養費上限の対応表(ボーナス4ヵ月分の場合)
年収 | 健康保険料 | 高額療養費上限 |
0万円~ | 0円~ | 約3.6万円 |
98万円~ | 0円~ | 約6.1万円 |
200万円~ | 8,317円~ | 約7.0万円 |
260万円~ | 10,812円~ | 約7.9万円 |
370万円~ | 15,386円~ | 約8.8万円 |
510万円~ | 21,208円~ | 約11.3万円 |
650万円~ | 27,029円~ | 約13.8万円 |
770万円~ | 32,019円~ | 約18.8万円 |
950万円~ | 39,504円~ | 約22.0万円 |
1040万円~ | 43,247円~ | 約25.2万円 |
1160万円~ | 48,237円~ | 約29.0万円 |
1410万円~ | 58,633円~ | 約36.0万円 |
1650万円~ | 69,361円~ | 約44.4万円 |
(【注記】各年収に対応する健康保険料は月額で、介護保険を含まない本人負担分のみとし、便宜上、その金額はその年収を12で割った額の4.99%として算出している)
なんだか、メチャクチャですね。
高い保険料を支払った人ほど低い保障しか受けられないからです。
厚労省が「医療抑制」を織り込んでいる…これはどういうことか
こうしたなかで、最近、ネットなどでちょっとした話題となっているのが、こんな記事です。
“高額療養費”見直し「『治療を諦める人が増えて2270億円医療費が削減できる』と厚労省が試算」に批判
―――2025/02/11 08:00付 Yahoo!ニュースより【関西テレビ配信】
記事によると全国保険医団体連合会の本並省吾事務局次長が、厚生労働省が今年1月に示した「削減できる医療費を5330億円のうち2270億円は受診抑制によるものと試算」とする記述について、「重い病気で苦しんでいても、診察を諦める人が出てくることで医療費が削減される」と指摘している、とするものです。
関テレによると今月7日の会見で福岡資麿厚生労働相は「機械的な試算だ」と釈明したものの、本並氏は「がんや難病などで闘病を続ける患者の命を切り捨てるに等しい」と批判している、とするもので、以下、本並氏のインタビューが続く、というものです。
記事を読むと、まさに当ウェブサイトでこれまで指摘してきた問題点が、「給付を減らそうとする側」の視点で詳述されています。
事実だとしたら、なんともひどい話です。
記事によると厚労省に戦前から伝わる経験則として「長瀬効果」というものがあり、患者負担が増加する制度改革が実施されると患者の受診日数が減少し、医療費の伸びが例年と比べ小さくなる(=医療費が削減できる)、とされている、というものです。
日本の保険制度は保険の体をなしていない
なんだか、メチャクチャです。
現役世代でバリバリ仕事をして稼いでいる人たちが、万が一、大病を患ったりすれば、それで人生が終わりかねない、ということでもあるからです。
高額療養費上限は現状でも「非課税層」は35,400円に対し、ボーナス抜きでの年収が1000万円を超えると252,600円と、なんと7倍になります。2027年8月以降は1650万円以上の層が約44.4万円と、最低の層のじつに12.5倍にまで膨れ上がるのです。
いずれにせよ、年金にしろ健保にしろ、高額の保険料を支払っているのに、いざ病気になったり高齢になったりしたときに、ほんのチョビっとしか保障が受けられないというのは、現在の公的保険制度が「保険」としてはすでに成立していないと断じざるを得ないと思うのですが、いかがでしょうか?
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。 |
【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
![]() | 日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。 |
いつもありがとうございます。高額療養費は非課税層を除くと元々8万円台で同一した。これが、いつからか三段階になりました。この制度自体、命の値段が所得よって変わることを意味します。日本国憲法の生存権違反と思っています。
最近の霞が関官僚の劣化は著しいですね。唯一指導できる立場の政治家は何をしているのでしょうか。
ソノ“政治家”を『議員』に選出しているのは我々国民有権者デスので
ソロソロ“眼ェ開けて寝とったァアカンで”の時間に…
知らんけど
>保険商品と呼ばれるものは、病気、怪我、あるいは老後などに備えて保険料を支払い、いざ自分自身が病気になったり、怪我をしたり、高齢になって働けなくなったりしたときに、たとえば治療費や老齢年金などのかたちで保険給付が支払われる仕組みです。
健康保険:入った翌日に病気にかかっても全く同じ給付が受けられる
自動車保険:入った翌日に事故起こしても他の人と同じ補償が受けられる。
火災保険:入った翌日に火事に遭っても他の人と同じ補償が受けられる。
年金:入った期間と金額によって給付が違う。
年金は保険ではなく強制貯蓄だという理由の一つ。
老齢年金はご指摘のとおりで、遺族年金・障害年金については「保険」と捉えてよいかと。障害年金の一部は加入要件も無いので保険とも違うような…
性格の異なる給付を同じ「年金」の枠組にすることの是非は、いろいろ議論がでてくるところだと思います。
高額療養費制度(介護保険もですが)の抑制が必要なら、
若くして怪我・病気の場合以外、たとえば50歳以上は「10年以上保険料支払いの実績」がある人のみ対象としたらどうでしょう、年金のように。
そうすれば日本の社会福祉目当ての特に近隣諸国からの「高齢移民」は除外できるでしょう。
「保険ほぼただ乗り目的者」をはじいた場合、どの程度の費用抑制になるのかわかりませんが、少なくとも元気な日本人が元気でない(主に高齢?)者を支えることに対し、多少は我慢できるのではないかと。
日本という国を支えてこなかった隣の国の老人を養うのはごめんですよね。
前に書いたけど、高額レセプト、最高はゾルゲンスマ使用で月額1億7816万円という記事があった。
「ゾルゲンスマ点滴静注」は脊髄性筋萎縮症(2歳未満)に用いる薬で薬価は 約1億6708万円。高額レセプトの上位14位までが脊髄性筋萎縮症にゾルゲンスマを用いたもので、月額1位は1億7816万円、14位は1億6751万円。
https://media.shaho.co.jp/n/ndaf37bf8b4da
2歳未満ということはたぶんこの費用、子供の医療費無償化を実施している自治体が負担してるんだろうね。
「効く点滴薬があるんですけど、1億6000万円以上するんです」と医者に言われたらどんな気持ちがするだろうね。
制限を付けるなら、年間給付額の上限を付けるべきでしょう。年間で上限1000万円として、それを超える分は元のまま3割負担にする位が丁度良いのでは。
民主党が 日本に3か月以上在留するものには国保加入義務を課す としたことが 災いを引き起こしてます。
つまり、3か月在留すれば国保使い放題、高額医療費補助ありがとう状態。
医療、介護移民が押し寄せてきてます。
在日や、国際結婚者が 親類縁者の老病人を呼び寄せ日本国民に面倒を押し付けてきてます。
このままでは 集られ続けられますよ。
まーコーヤッテ制度疲労を披露し続けるコトで…ガラガラポンの機運は醸成出来るンかいな??
知らんけど