鈴置論考で読み解く韓国型「一番危険なアノクラシー」
韓国観察者の鈴置高史が12日にウェブ評論サイト『デイリー新潮』に寄稿した論考が興味深いと言わざるを得ません。そのなかでもとくに重要な指摘が「アノクラシー国家の危険性」です。「アノクラシー」とは「中途半端な民主政体」のことだそうで、アノクラシー国家が政情不安や内戦に陥る可能性は専制国家の2倍、成熟した民主国家の3倍にも達しているのだそうです。
日本は成熟した民主主義国家
日本という国は成熟した民主主義国家であり、基本的に自由主義、民主主義、法治主義、人権尊重といった基本的価値を大切にする国です。
このうち自由主義とは、「ルールの範囲内で好きなことをやっても良い」という考え方ですが、経済的に成功している国は、たいていの場合、この自由主義のルールを採用しています。
また、民主主義とは「社会のルールはその社会の構成員が多数決などによって決めていく」という考え方のことですが、一般に安定した社会の多くは民主主義国でもあります(※)。
さらに「法治主義」とは、「法で定められた条件を満たせば、その法が定めた通りの効果が生じる」という考え方であり、たとえば会社を興すのに「政治的な権力者と仲が良い」、などの条件は必要ありません。極端な話、資本金を用意して会社の設立登記を済ませれば、誰でも「社長」になれます。
そして、「人権」は、「だれでも基本的な権利を与えられ、保証される」という考え方であり、ある日いきなり政治的な権力者が家に押し掛けてきて財産を取り上げていったり、政治的な権力者の気分次第で処刑されたりすることがない社会、というものです。
自由、民主、法治、人権は一体となって機能する
ただ、この自由、民主、法治、人権といった基本的価値は、それらが一体となって初めて機能する、ということでもあります。
たとえば法治などが不十分な社会であれば、ルールを無視した無節操な自由主義で「儲けた者勝ち」のような状態になってしまうかもしれませんし、「富める者はますます富み、貧しいものはますます貧しくなる」という社会になってしまうかもしれません。
したがって、社会の構成員は最低限、健康で文化的な暮らしを送れるべきですし、私的独占も許されるべきではありません。
もちろん、日本が完璧な意味での自由主義・民主主義、法治主義社会なのかといわれれば、必ずしもそうとはいえないところがあります。官僚や特定メディアのように、「国民から選ばれたわけでもない存在」がやたらと大きな権力を握ってしまっているフシがあるからです。
ただ、日本の場合は近年、「SNS民主主義」とでもいえばよいのでしょうか、SNSなどネットを通じて人々の声が拡散されるようになったためか、各政党が政策を戦わせる時代がすぐそこにきているようにも思えますし、昨年の衆院選などはその典型的な場ではなかったかと思う次第です。
韓国が「日本より成熟した民主国家」?
さて、こうしたなかで、わが国でも一部のメディアなどが喜々として喧伝している珍説があるとしたら、それは、「韓国は日本よりも成熟した民主国家だ」、といったものではないかと思います。
ただ、自称元徴用工問題や火器管制レーダー照射事件などでも判明したとおり、実際のところ、韓国は日本とはずいぶんと違った国でもあります。
そして、これらのうちとりわけ自称元徴用工問題は、日韓両国が「法治」という非常に基本的な部分で価値を共有しえない国であることを示しています。「朝鮮半島で戦時中、日帝により強制徴用された」などと自称する者たちが日本企業を訴えているものだからです。
これについては2023年3月に当時の岸田文雄首相が尹錫悦(いん・しゃくえつ)韓国大統領との間で「解決」を図ったのですが、この「解決」の内容も正直デタラメで、日本企業に代わって韓国の財団が自称元徴用工らに代位弁済するという代物です。
いかにも外交音痴の日本の外務官僚あたりが考えそうな「解決」策ですが、なんにも解決になっていません。代位弁済にともない発生する求償権の問題などが解決していないからです。
いずれにせよ、尹錫悦氏が退任し、後任に左派的な大統領、たとえば李在明(り・ざいめい)氏あたりが就任すれば、自称元徴用工問題は間違いなく「再燃」し、日韓関係は今度こそ本当に終了してしまう可能性があります。
ただ、個人的には日韓関係が将来どうなるか、という観点よりも、韓国をウォッチングすることには、もっと大きな意味があると考えています。
日本で「韓国論」といえば、「韓国観察者」を名乗る鈴置高史氏がよく知られていますが、その鈴置氏は「韓国観察」と言いながらも、実際には日本人としての視点で、私たち日本人に対しよくわかるように韓国を解説しているわけですが、言い換えれば、鈴置氏の論考は「韓国観察」ではなく、間接的な「日本観察」でもあります。
鈴置氏最新論考と「アノクラシー」
こうしたなか、昨日はウェブ評論サイト『デイリー新潮』に、最新論考が掲載されています。
「気分はもう内戦」の韓国 裁判所を襲撃で司法崩壊…“世界最高の民度”の現在は
―――2025/02/12付 デイリー新潮『鈴置高史 半島を読む』より
まさに、鈴置論考の切れ味を実感できる論考です。
当ウェブサイトで普段、「鈴置氏は韓国観察者ではなく、日本観察者だ」と申し上げているのは、鈴置論考が韓国社会という「鏡」に映った日本の姿を描き出しているからですが、今回の論考でも、韓国社会の特殊性に関する輪郭をうまく描き出しています。
その際のキーワードのひとつが、「アノクラシー」です。
これは、カリフォルニア大学サンディエゴ校のB・F・ウォルター(Barbara Walter)教授の『How Civil Wars Start: And How to Stop Them』に出てくるもので、内戦は「完全な独裁国家でもなく、成熟した民主国家でもない中途半端な国」で発生する、とする文脈で出てくるものだそうです。
「中途半端な民主政体を『アノクラシー(anocracy)』と呼びます。『アノクラシーの国で内戦が起きやすい要因の一つは法の支配の欠如にある』との研究結果をウォルター教授は引用しています(原書200ページ)」。
鈴置氏の引用によると、ウォルター教授はアノクラシーの国で政情不安や内戦に陥る可能性は専制国家の2倍、成熟した民主国家の3倍だとしているのですが、現実に韓国では「日本や米国よりも高い水準の民主主義」を誇っていたのではないでしょうか。
もっと広く読まれてほしい鈴置論考
これについて鈴置氏は、『米韓同盟消滅』第3章「中二病にかかった韓国人」でも指摘したとおり、朴槿恵(ぼく・きんけい)大統領を弾劾したころから「我が国の民主主義は世界の模範」と自賛していたという点を指摘したうえで、こう述べます。
「もっとも、昨年12月の戒厳令の直後には一転、『アフリカの後進国並み』としょげ返りました。<中略>しかし韓国人はただちに気をとり直しました。戒厳令を無効化した際、国会議員と共に『市民』も国会に参集したことを強調し『民度の高さではやっぱり、米国や日本よりも上』と、再び胸をそらしたのです」。
なんとも危うい話です。
私たち日本人にとって、韓国人が「我が国の民度は日本より高い」と自賛するのは大した問題ではありませんが、現実問題として、大統領が逮捕されたり、裁判所が襲撃されたりするような状況は、やはり大きな懸念点でもあります。
いずれにせよ、今回の鈴置論考は、現在の韓国社会で生じている混乱に焦点を当てたものでもある一方、あらためて韓国という社会が私たち日本人から見て異質であることを実感させてくれるものであることは間違いありません。
そして、『Yahoo!ニュース』の読者コメント欄でもわかるとおり、鈴置氏の論考には視点の中立性とともに、客観的な検証可能性があり、なにより読んだ人の知的好奇心を刺激するという意味では、非常に濃厚な論考であることは間違いないでしょう。
個人的には、鈴置論考がもっと広く読まれてほしいという気がしてなりません。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。 |
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『Yahoo!ニュース』の読者コメント欄の韓国に出来ることは、せいぜい先延ばしだけだ、の意見に賛同します。このまま何もできず、何も決まらず、ダラダラと時間だけが過ぎていき、気がついたら韓国がなくなっていればいいのに。
問題は韓国がなくなっても、”元韓国人”が物理的になくなる訳じゃない所ですよね。
内戦なんか起きたら難民がどさっと日本に押し寄せてきそうなので、
グダグダでも良いから国家としての体裁を保っていて欲しいのですが……
>大統領選挙に不正があったとしてトランプ(Donald Trump)支持派が起こした米連邦議会への襲撃事件
日本の左派にとってこの事件気まずいんじゃないのかな?
60年安保反対で国会に突入しようとしたデモ隊とどこが違うのかと問われたとき答えに窮するでしょう。
日本は助けてあげないとね
戦前、たくさん迷惑をかけたんだから
何も知らない戦後世代は反省をしたほうがいいよ
我が邦が大韓民国を助ける必要などありません。
我が邦の当時の大韓帝国統治は35年に及ぶものでしたが、既に倍以上の時間が経過している今にあっては、その衰退は、全ては独立国である大韓民国、及び大韓民国国民自身の責任によるもの。
何も知らないのは、大韓民国国民自身であって日本国国民ではない。
大韓民国国民自身が常に直面する衰退とその危機の原因を考えられない中にあっては、助けなどは無用。自覚無き国家が衰退するのはこの世の必定。
大韓民国に必要なのは、助ける手を差し伸べる事ではない。
石破総理は、韓国で内戦、さらにそこから朝鮮戦争再燃することを前提に、備えることが出来るのでしょうか。
与野党の支持率が拮抗し始めてるらしいですね。
国王などの君主がいない国は、国をまとめる象徴的な存在がないので、アメリカみないに保革喧嘩が絶えない。
やはり外交音痴の我が国の外務官僚や政治家にBIBLEとして鈴置論文を読ませたい。
自由のつもりが奔放。
民主のつもりが扇動。
法治のつもりが情治。
人権のつもりが体裁。
矜持のつもりが見栄。
私に言わせれば、矜持は誇りでも見栄は埃(ホコリ)・・。
・・・・・
高度な民主主義が根付かぬ国とは、これ如何に。
「小中か(小中華)大」・・韓民国と云うが如し。
*小中〇大の〇が無いってこと。
この鈴置さん、数年前に韓国でクーデターが起こるって言ってたけど、ほんとに内乱が起きた。今の時代でそんなこと起きる訳ないと大体の人が思っただろうが、観察力やインテリジェンスが本当にすごい。