クレジットカード「善意での現金返金」が二次被害招く

訪日外国人が過去最多を記録するなか、オーバーツーリズムなどが今後、間違いなく大きな問題に浮上するとするのが著者自身の考え方です。こうしたなか、気になる話題を発見しました。とある観光地で外国人観光客がわざとクレジットカードで買い物をし、現金での返金を求めるという事例が相次いでいるというのです。寺院への拝観料を現金で支払うためだとのことですが、土産屋が「善意で」これに応じることには、大変大きな問題があります。

過去最多を更新=外国人入国者

すでに多くのメディアにも取り上げられている通り、2024年を通じた訪日外国人が過去最多を記録しました。

日本政府観光局(JNTO)が15日に公表したデータによると、2024年1月から12月までの訪日外国人総数は36,869,885(※速報ベース)で、過去最高だった2019年の31,882,049人を抜き史上最高となっています。

ちなみに入国者のトップは全体の約4分の1弱を占める韓国で、これに中国、台湾など近隣国が続くのですが、太平洋を挟んで地理的に離れているはずの米国入国者も272万人を超えて4位に入り、香港、タイなどとともに豪州からの入国者もトップ10に入るなどしています(図表1)。

図表1 訪日外国人・国籍別内訳(2024年1月~12月)
人数構成割合
1位:韓国8,817,78223.92%
2位:中国6,981,21018.93%
3位:台湾6,044,39216.39%
4位:米国2,724,6077.39%
5位:香港2,683,4767.28%
6位:タイ1,148,8813.12%
7位:豪州920,2302.50%
8位:フィリピン818,6662.22%
9位:シンガポール691,1461.87%
10位:ベトナム621,1001.68%
その他5,418,39514.70%
総数36,869,885100.00%

(【出所】JNTOデータをもとに作成)

一見すると歓迎すべき?いやいや!産業構造に照らしあり得ない!

多くの外国人が日本を訪れること自体は、経済効果の観点からは歓迎すべき現象です。これは、間違いありません。

また、日本を訪れ、日本を直接に体験した外国人が日本のファンとなり、日本旅行のリピーターとなることで、日本に対する理解者が世界的に増える、といった効果も見逃せません。これはこれで日本の安全保障の観点からも好ましい話です。

ですが、それと同時に日本の産業構造が観光向きではないこともまた知っておくべきです。

日本の産業は、製造業(とくにモノを作るためのモノ)や研究開発業が高度に発達しており、観光産業のような労働集約的な産業に、必ずしも十分な労働力を取られることが産業構造として好ましいかどうかは別問題です。

また、経常収支構造で見れば、日本は間違いなく、旅行産業よりも金融産業や製造業、知的残産業などに強みがあることも事実なのです(図表2)。

図表2 国際収支の状況(前年12月~当年11月)

(【出所】財務省『統計表一覧(国際収支状況)』データをもとに作成)

その意味で、著者自身は労働力不足が顕在化していく今後の日本において、オーバーツーリズムは必ず大きな問題となると考えており、行き過ぎた外国人観光客数には制限を加える仕組みが必要と考えています(こうした考えは、基礎統計の数値から導き出されるものです)。

クレジットカード返金が相次ぐ山形の観光地

さて、それはともかくとして、著者自身は「できる範囲で外国人観光客対応をすればよい」と考えている次第ですが、こうしたなか「これは、いくらなんでも本末転倒だ」という話題を発見しました。

山形・山寺の訪日客、カードで購入後に現金の返金依頼 入山料を工面、土産店は困惑

―――2025/01/29 10:53付 Yahoo!ニュースより【山形新聞配信】

山形新聞によると山寺の門前町で、わざとクレジットカードで買い物をして決済後、すぐに返金を要求する外国人観光客が問題となっているのだそうです。

いったいなぜそんなことをするのか。

その理由は、立石寺の入山料(大人300円)を支払うためだそうです。

記事によると山寺には2023年度で約72万人が訪れたそうですが、うち8~9割が訪日客で、千円程度の土産物をカード払いで購入後、現金での返金を求める観光客が複数出ており、一部の店舗では「善意で」対処しているとのこと。

しかし、クレジットカードの仕組みを知っている人ならご存じかもしれませんが、この場合、店にはクレジットカード会社への手数料の支払い義務が生じることになります。

クレジットカード決済の取り消し処理であれば基本的に手数料も店に返金されますが、記事を信頼するなら、店側はクレジットカード決済の取り消しは行わず、購入額をそのまま現金で返金しているということでしょう。

もしそれが事実なら、そんなこと、やめたほうが良いです。記事では「山門の受付では現金がないために引き返す客がチラホラいる」、などとしていますが、正直、これも現金を工面してこない観光客の自己責任だからです。なぜ門前の土産物屋が被害をこうむらなければならないのでしょうか?

正直、意味がわかりません。

その「善意」は二次被害をもたらしかねない

この点、立石寺に対し「キャッシュレス決済に対応すべき」との指摘もあるのかもしれませんが、キャッシュレス化に対応するかどうかは寺院側の判断であり、それを国が強制するのもおかしな話です。店が毅然と断ればよいだけの話でしょう。

というよりも、こうした「善意」の対応が広まれば、外国人観光客の間でも、「日本では現金が必要になったときに、クレジットカードでわざと買い物をして返金を求めるというテクニックがある」、などとする誤った認識が広まることになりかねません。

こうした二次被害という観点からは、該当する土産物店は「被害者」であるだけでなく、「加害者」でもありますし、そうならないためにも、土産物屋には毅然とした対応を行っていただきたいところです。

いずれにせよ、外国人観光客が増え続けることが、日本経済に純粋に良い影響「だけ」を与えるというものではないことだけは間違いないといえるでしょう。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 匿名 より:

    過剰な心遣いがいずれ自身を縛る

  2. 坊主丸儲け より:

    『寺側にとって入山料は「お布施に類する」との認識』
    入山料なら課税対象になることも、お布施なら坊主丸儲け

  3. カズ より:

    お土産物屋で500円商品券をクレジット販売し、200円で「入山缶ドリンク(釣り銭300円)」を買ってもらえばいいだけのようにも思えます。

    1. 裏縦貫線 より:

      その仕組みでは、500円の売上に対してクレジット手数料がかかります。手数料を考慮した価格設定で入山缶ドリンク200円が単品販売より高ければ客の不興を買いそうですし…

      1. 引っ掛かったオタク より:

        昭和の終わりか平成の始め頃、富士登山の道程で同じ“はちみつレモン”の缶飲料が標高上がる程高価になるのを見てフムフムと…
        まーソノ仕組みに乗っかるなら『200円で販売して利益率の高くなる缶ドリンク』を用意すればよかでは?
        ご当地オリジナル外装缶なら記念買いもアルかも??
        なんなら金券を切符風タブか半券切り取りで残る仕様で700~800円とかにしてグッズを300~400円設定にしてもイイかも???
        観光地スタンプ台紙とかもアリかしらん????
        知らんけど

      2. カズ より:

        レスポンスありがとうございます。

        >入山缶ドリンク200円が単品販売より高ければ客の不興を買いそうですし…

        お客様は、合点承知の助なのですから、そんな心配には及ばないと思います。
        因みに観光地価格200円の缶コーヒーも原価は60円税込くらいまでなのかと。

  4. 匿名 より:

    ATMの場所を教えるだけで十分じゃないの?

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