マンション価格をも押し上げる転売ヤー…規制も必要か
いわゆる「転売ヤー」問題を巡っては、当ウェブサイトではこれまで何度となく取り上げてきたとおり、正常に流通している製品・サービスの流通を妨げている問題だと総評出来るのではないかと思います。こうしたなか、日経電子版が14日に報じた記事によると、東京や大阪の中古マンション市場で築1年以内に売り出された「超築浅物件」が10年前の3倍を超えたそうです。不動産の世界でも転売ヤーが問題となりつつあるのでしょうか。
目次
転売ヤー問題の本質
先日の『転売ヤーの存在は「文化の問題」ではなく「経済問題」』でも取り上げたとおり、転売行為が現在、社会的な問題となりつつあります。
転売をなりわいとしている人たちを巡っては最近、おもにネット上などで「転売ヤー」などとする揶揄表現を見かけますが、最近だとこの「転売ヤー」という一種のネットスラングも、すっかり人口に膾炙(かいしゃ)したフシがあります。
以前からの議論の繰り返しですが、行き過ぎた転売行為は反社会的な行為だと言わざるを得ません。
なぜなら、転売行為が横行することで、正常な流通が阻害され、「買いたい人が買いたいものを買えない」という事態が生じるからです。
また、特定の品目に対する需要がパニック的に増大すると、その品目だけが各地の店頭から消えてしまう、といった事態も生じます。
たとえば、古くは1973年の「第一次オイルショック」では、全国各地で店頭から(なぜか)トイレットペーパーが売り切れるという事態が生じたことがありますし、また、2020年のコロナ禍初期のケースではマスク、消毒液などが、昨年の「令和のコメ騒動」では小売り用のコメが、それぞれ店頭から払底しました。
これについてはすでに当ウェブサイトで論じてきたとおり、それらの商品に対する需要が伸びたからではなく、一部の者たちが必要量以上に買い占めたことで流通システムが正常に機能することが妨害されたからだ、と考えた方が自然です。
誰が買い占めていたのか
そして、とくにマスクやコメの買占めに関わっていたのは、大きく①テレビ層を中心とする「情報弱者」と②転売ヤーではないか、とするのが著者自身の現時点での仮説です。
このうち①に関しては、著者自身も何度か実例を見たことがあります。たとえば以前の不動産の内見で、高齢者が独居していた物件を訪れた際、広い住居に大量の荷物とともに、トイレットペーパーだの、マスクだの、洗剤だのといった製品がそこかしこに積み上げられていたことを覚えています。
また、②に関しても、何らかのパニックが生じた際に転売サイトを覗くといくらでも事例を見ることができます。
昨年夏場の「コメ不足」に際しても、著者自身は近隣の店舗や転売サイト等を片っ端から調査したことがありますが、コメが店頭から払底する一方、転売サイトではコメ不足発生前の2倍から3倍、いや、下手をしたらそれ以上の値段でコメが売られているのを多数目撃しています。
正直、コメのような生鮮食品を、真夏の暑い時期に、コメ流通に関しては完全な素人であろう「転売ヤー」たちが買い占めて転売するという行為自体、何とも恐ろしいところです。
ホテルのお湯理論で見る買占めの問題点
いずれにせよ、買占めや転売行為は、それ自体が社会全体に大きな迷惑をかける行為であることは間違いありませんが、これについてはもう少しわかりやすく、「ホテルのお湯」理論で考えてみても良いかもしれません。
「ホテルのお湯」理論とは、ホテルで一部の宿泊客がお湯を出しっぱなしにして浪費したところ、それによりホテル全体の宿泊客がお湯にありつけない、という状態を指します。
ホテルの宿泊客を100人、客1人あたりが必要とするお湯を1日100リットルとすれば、このホテルは1日1万リットルのお湯があれば大丈夫だ、という計算です。そして実際には、ホテル側は1日2万リットルのお湯を供給することができる者とします。
このとき、ホテル側の目論見通り、すべての宿泊客が100リットルずつお湯を使ったとしても、ホテル全体で使用されるお湯は1万リットルであり、まだ1万リットルの余りがあります。
しかし、一部の客がパニックを起こし、このうち10人が、何を思ったのか、お湯を通常の15倍、1500リットルも出したとします(出し過ぎたお湯は浴槽にでも溜めているものとします)。すると、この10人のせいで、ホテルのお湯は1.5万リットル使われ、お湯は5000リットルしか残っていません。
これを90人で分けると1人あたり約55リットルしか使えない、というわけです。
コメを買い占めた者がやったのは、「パニック的にお湯を出した10人」と同じことです。
お湯なんて蛇口から出した瞬間から冷めはじめるわけですし、お湯をたくさん出した10人が他の部屋の宿泊客にそのお湯を分け与えるというのも非現実的です。いったん蛇口から出て浴槽に溜められた水を他の部屋の客に提供するのは衛生的にも良くない話です。
このように考えると、パニック的にコメを買い占めた者たち、あるいは転売目的でコメを買い占めた者たちは、社会に何ら付加価値をもたらしていないだけでなく、流通網を麻痺させ、経済をいたずらに混乱させただけであることがよくわかるのではないでしょうか。
転売ヤーは道路に勝手に検問所を作っているようなもの
あるいは、転売ヤーの問題点は、それだけではありません。
転売ヤーが存在することで、その製品・サービスを「欲しい」と思っている人たちがそれらを手に入れられないことに加え、製品・サービスの「売り手」の側としても、販売価格以上に儲からないこと、ファンに商品が行きわたらないために顧客満足度が下がってしまうことにあります。
イメージ的には、転売ヤーの行動は、正常に機能している道路に勝手に検問所を設け、通行人からその検問所の通行料を徴収しているようなものといえるかもしれません。
こんなことを述べると、必ず、こんな趣旨の反論もあります。
「転売ヤーは日本では絶対に手に入らない商品を外国から仕入れて来て国内で販売しているようなものだから、私たちは転売ヤーが存在しなければ手に入れられない商品を、転売ヤーのおかげで手に入れることができている」。
端的に言えば、これも詭弁でしょう。
もちろん、たとえば外国で流通している商品を個人輸入して転売する行為は、旅費、語学その他の面で外国で買い物ができない人たちの代わりに商品を買ってあげるという意味では、その転売ヤーの行為は付加価値をもたらしていることもあります。
これに加えて転売行為にはさまざまな性質が混じっていますので、たとえば市場から購入して一定期間在庫としてストックし、それを市場に放出することで商品の流通を円滑化するのに役立っている、というケースだってあります。
しかし、多くの場合、転売ヤーの行為は、こうした効果をもたらしません。
製品・サービス自体が正常に流通しているわけですから、転売ヤーの存在はこの流通を妨げる効果をより多くもたらすからです。
中古マンション価格高騰の要因は築浅転売だった!?
こうした観点から紹介しておきたい話題があるとしたら、これかもしれません。
マンション築1年内の転売3倍超 投資過熱、高騰の要因に
―――2025年1月14日 18:00付 日本経済新聞電子版より
日経電子版が14日付で報じた記事によれば、「超築浅」物件の売り出しが中古マンション市場で増えている、というのです。
リンク先記事は有料版限定ですが、無料で閲覧できる部分のみを紹介すると、「東京・大阪で築1年以内に売りに出された物件は10年前の3倍を超える」としたうえで、「投資家が転売益を見込んで短期で売買している」ともあります。
このあたり、「不動産経済研究所」などのデータなども参考にすると、この10年間での東京23区における新築マンションの供給件数は(年によるバラツキもありますが)平均すると年間15,000件前後であり、不動産供給件数が大きく増えているという事実はありません。
そして、『いつのまにか「億ション」が常態化する東京都心の物件』などでも取り上げたとおり、とくに東京都心部(都心3区や新宿区、渋谷区など)の中古マンション価格は高騰を続けており、もしこれらの地域で子育て世帯が50~80平米程度の住居を買い求めようとしても、下手をすると「億ション」状態です。
日経電子版の記事では、売却益を見込んだ短期売買を巡って、次のように指摘しています。
「新築物件の供給減少により需要も高く、中古マンション価格上昇の一因となっている」。
これについては、まったくその通りでしょう。
不動産の短期売買制限は?
そのうえで日経電子版は「実際に住みたい人が買えるように転売目的の購入を制限する不動産会社も出てきた」とも述べていますが、これは非常に適切な措置です。なぜなら、転売目的のオーナーが増えると、マンションの正常な管理にも支障をきたすなど、良好な住環境の形成を阻害するからです。
著者自身の実体験に基づく私見によれば、マンションなどの有形固定資産の価値は、長期的にはそのマンションの住民の質にも大きく依存しますが、「転売ヤー」的なオーナーはマンションの中・長期的な修繕計画などにもさしたる関心を持っていないケースが多いようです。
いずれにせよ、不動産の短期的な売買については、なんらかの制限が必要かもしれません。
とくに都市部のスラム化などを避けるためには、長期的な居住者に対しては優遇措置を拡充するとともに、たとえば「空き家減税」(空き家状態となった物件を売却したときの非課税期間)についても現行の3年から思い切って10年に延長するなど、税制優遇の適正化などで対応できる部分もあるのではないかと思います。
あるいは財務省が大好きな「増税」という話でいえば、たとえば現在だと取得してから5年以内に売却する場合は、売却益に対して約40%の税金(所得税、復興税、住民税)がかかりますが、これを「3年以内だと50%に引き上げる」、「10年以上だと5%に引き下げる」など、もう少し極端にしても良いかもしれません。
さらには、転売行為を行っているのが法人だった場合、いわゆるリフォーム目的の取得・転売などのケースを除いて、単純に居住用不動産を転売する行為に対しては、その売却益に対する税率を変更するなどの措置があっても良いと思います。
このあたりは人口減少時代に社会問題化する前に、もう少し積極的な処理が必要ではないか、などと思う次第です。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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たまたま成立した価格の場合は、鵜呑みにしない等の対応ができるのですが、データがないでしょうね。世の中に。
ここは寂れてますね。
> 2020年のコロナ禍初期のケースではマスク、
主たる要因は、転売ヤーではなく、産業の空洞化を生み、無為無策で放置し、外から入って来なければ忽ち干上がる体質だった事でしょう。
> 昨年の「令和のコメ騒動」では小売り用のコメが、それぞれ店頭から払底しました。
正確ではありませんね。払底したのは、一部の店頭。
転売ヤーより、精米した米の保存期間が短い事に気付かない、情弱が買い占めた方が多いカモ。
転売ヤーが転売サイトで、米10kg¥5万円とかで売るのは、別に構わないのでは?
米屋で買えば、スーパーの特価品よりは高くても、普通の値段で買えたのですから。
メモリICの様に、市場に潤沢に供給される品にも、転売ヤーは居ます。
メモリICは何年かすると廃品種になるので、その後、仕入れ値とは桁違いの額で売るのです。
しかし、こういう転売ヤーは、重宝されている様で、迷惑がられてはいない模様。
メモリICに「ホテルのお湯理論」は適用できるのですか?
結局、転売ヤーの問題というより、無為無策で売る側や政策の問題な気がします。
チケットなんか、マイナンバーとかパスポート番号入りで売り、本人証明ができなければ、入場不可にすれば良い。
但し、未利用チケットは払戻すといった策も併せて必要。
中古マンションの問題も、非居住の固定資産税が安過ぎるのと、不動産短期売却益の税率が低過ぎるからでしょう。
しかし、山手線の内側は億ションだらけにして、外人に売り付けるのが良いと思いますよ。
外人を除いた、日本人で見て、国土の均衡な発展に資するのでは?
サラリーマンが家を買うと、程なく転勤命令が出るという嫌がらせも、不動産短期売却益に対する課税を、転勤命令発出者負担と定めれば、減るカモ。(笑)