立憲民主内で「党を割る動き」が出て来る可能性を探る
現在の立憲民主党といえば、消費税については減税せず、そのかわり低所得者向けに還付・給付を実施する、などの公約を掲げています。どうやってそれを実施するのかは知りませんが、あくまでも「取って配る」にこだわっている格好です。ただ、各種世論調査でも政党支持率で国民民主党に負けている状況が続けば、立憲民主党内にも「このままではジリ貧だ」と気付く議員が出てくるかもしれません。
目次
自民党が大敗した衆院選…立憲民主党の大勝とはいえない理由
昨年10月の衆院選で国民民主党が「大躍進」したことは、日本の政治シーンが大きく変化したことを意味するのではないかと思います。
というのも、本来、「二大政党制」では、最大政党(この場合は自民党)が大敗を喫する場合は、第2党(この場合は立憲民主党)が「躍進」するのが筋ですが(制度設計者はそう考えていたフシがあります)、現実の得票数を見てみると、自民党を見限った層が立憲民主党に投票したという形跡はないのです。
得票順位でいえば、小選挙区・比例代表ともに自民党が1位、立憲民主党が2位という状況は変わりません。
しかし、得票の絶対数でいえば、また違った姿が見えてきます。自民党は比例代表で1991万票から1458万票へと、なんと533万票も減らしているのですが、だからといって立憲民主党が533万票増えたという事実はなく、(前回より増えたとはいえ)増加幅は7万票ほどに留まっています。
比例代表(2021年→2024年)
- 自民…19,914,883票(1位)→14,582,690票(1位)【▲533万票】
- 立民…11,492,095票(2位)→11,564,222票(2位)【+7万票】
自民票は立民にではなくその他の政党に分散した
ということは、「自民党を見限った533万人の有権者が、自民党の代わりに立憲民主党に投票した」とみるべきではありません。
実際には国民民主党が358万票、れいわ新選組が159万票、参政党が187万票、日本保守党が115万票、それぞれ前回と比べて得票を増やしています(計算が合わない部分は公明、維新、共産の各党が得票を減らした影響と、前回と比べ投票数が292万票減った影響と考えられます)。
比例代表(2021年→2024年)
- 国民…2,593,396票(6位)→6,172,434票(3位)【+358万票】
- 公明…7,114,282票(4位)→5,964,415票(4位)【▲115万票】
- 維新…8,050,830票(3位)→5,105,127票(5位)【▲295万票】
- れ新…2,215,648票(7位)→3,805,060票(6位)【+159万票】
- 共産…4,166,076票(5位)→3,362,966票(7位)【▲80万票】
- 参政…0票(―)→1,870,347票(8位)【+187万票】
- 保守…0票(―)→1,145,622票(9位)【+115万票】
立憲民主党は小選挙区では得票を減らしていた
そして、これが小選挙区だと、もっと露骨です。
自民党は2087万票と前回の2763票と比べて676万票も得票を減らしており、立憲民主党も1722万票から1574万票へと147万票も得票を減らしています。自民、立民あわせて823万票、得票が減っているのです。
選挙区(2021年→2024年)
- 自民…27,626,235票(1位)→20,867,762票(1位)【▲676万票】
- 立民…17,215,621票(2位)→15,740,860票(2位)【▲147万票】
この「消えた823万票」はどこに行ったのかといえば、おそらくはこんな具合です。
選挙区(2021年→2024年)
- 国民…1,246,812票(6位)→2,349,584票(6位)【+110万票】
- 維新…4,802,793票(3位)→6,048,104票(3位)【+125万票】
- 参政…0票(―)→1,357,189票(7位)【+136万票】
- 共産…2,639,631票(4位)→3,695,807票(4位)【+106万票】
日本共産党の得票が増えたのは、単純に、2021年の立憲民主党との共闘関係を解消したためであり、同党が支持を伸ばしたわけではないと考えられますが(現実に2017年対比だと日本共産党は130万票ほど得票を減らしています)、国民、維新、参政の3政党で371万票ほど伸びています。
また、それとはべつに前回と比べて投票者が320万人ほど減っているという事実を照らし合わせて考えるならば、2021年に小選挙区で自民党に投票した2763万人については、うち320万人が今回棄権し、100万人以上が国民、維新、参政の各党にバラけた、という仮説が成り立ちます。
いずれにせよ、自民党が大敗を喫したということは間違いないのですが、それ以上に「第2党」、「最大野党」であるはずの立憲民主党が得票数では振るわなかったという事実は、現在の国内政治を分析するうえでは、じつは決して見逃してはならない論点なのです。
立憲民主党の経済目標は支持されるのか
ではなぜ、立憲民主党が支持されていないのか―――。
『「2%から0%超」…立憲民主のトンデモ物価安定目標』などでも取り上げたとおり、その理由は、現実離れした外交・安保政策もさることながら、端的にいえば、経済政策があまりにも強烈だからではないかと思います。
たとえば2024年衆院選直前に立憲民主党が発表した公約(同党『「政権交代こそ、最大の政治改革。」政権政策発表』のページ等)などのなかから、「財務金融・税制」の部分を抜粋しておくと、同党の財政・金融・税務政策は、こんな具合です。
立憲民主党政権公約【財務金融・税制】
- 格差を是正する税制改革による財源確保や、行政需要の変化に応じた予算配分、適切な執行、成長力の強化による税収増など、歳出・歳入両面の改革を行い、中長期的に財政の健全化を目指します。
- 国会の下に独立財政機関を設置して、主要政策の費用対効果や財政の見通しを客観的・中立的に試算・公表するとともに、その試算に基づき「中期財政フレーム」(3カ年度にわたる予算編成の基本的な方針)を策定することを政府に義務付けることで、放漫財政を改めます。
- 日銀の物価安定目標を「2%」から「0%超」に変更するとともに、政府・日銀の共同目標として、「実質賃金の上昇」を掲げます。
- 日銀が保有するETFは、簿価で政府に移管した上で、その分配金収入と売却益を、少子化対策等の財源に充当します。
- 所得税については、「分厚い中間層」を復活させるため、勤労意欲の減退や人材の海外流出等の懸念に十分配慮した上で、累進性を強化します。
- 消費税の逆進性対策については、軽減税率制度に代えて、中低所得者が負担する消費税の一部を税額控除し、控除しきれない分は給付する「給付付き税額控除」(消費税還付制度)の導入により行います。
(【出所】立憲民主党『2024政策パンフレット(報道・研究資料用)』P12)
1番目と2番目の目標は、それぞれ財政健全化目標、財政規律目標と評価することができますが、「立憲民主党」の名称を伏せて上記文章を読み上げると、まるで財務省が提唱しているものとソックリでもありますが、それだけではありません。
3番目の「ゼロ%超インフレ目標」は、現在の「2%インフレ目標」とは似て非なるものであり、事実上のデフレ目標でもありますし、5番目の累進課税強化は、現在、国民民主党が実現を目指している「年収の壁撤廃」とはまったく真逆のものでもあります。
ほかにも4番目の「ETFの売却益の財源化」、6番目の「消費税の還付・給付」あたりは、「現実離れし過ぎている」という意味では、いかにも立憲民主党らしい政策というべきでしょうか(誰がどうやって実現するのかまったく理解できませんが…)。
いずれにせよ、自民党側が「年収の壁」引き上げにかなり消極的であるという点もさることながら、だからといって有権者としては「自民党を見限って立憲民主党に投票する」とはなり辛いのは、こういったところにも原因があるのではないでしょうか。
果たして立憲民主党には、経済政策の専門家がいないのでしょうか?
社会のSNS化により、少なくない国民が「税や社保の取られすぎ問題」や「取って配ることの不合理」などに気付き始めているなかで、立憲民主党が本当にこれらの政策が国民から支持されると思っているのでしょうか?
本当に謎です。
実質的な「選挙互助会」でしょうか?
ただ、立憲民主党という組織を見ていて、もうひとつ謎なのは、国家の基本となるべき政策(たとえば改憲議論、日米安保、原発推進など)を巡っての統一的な見解が見当たらないことです。
これについて口の悪い人たちの間では、「まるで選挙互助会のようだ」、といった評価が定着しているゆえんです。
要するに、個々の議員が立憲民主党という組織を単なる選挙のための互助会(と政党交付金の受け皿)として利用していて、本気で立憲民主党に政権を取らせるつもりもなく、ただ自分たちが国会議員であり続けることが重要だと考えているフシがある、ということでしょう。
もちろん、能登半島の復興のために東奔西走する近藤和也衆議院議員のような人物も所属していますが、そのような人物は少数派であり、梅谷守氏のように公選法違反を犯しておきながら立憲民主党から問題なく公認を受け取った人物もいるなど、どうも立憲民主党を巡っては国民から支持される要素が希薄です。
そして、現在の立憲民主党の財政・税制などについても、野田佳彦・現代表の意見が色濃く反映されたものであるとみるのが正解なのかもしれません。
そういえば、野田氏といえば、2011年9月から12年12月にかけて、民主党政権時代最期の首相を務めた人物でもありますが、旧民主党の2009年の政権公約に反し、いきなり消費税・地方消費税の合計税率を8%、10%へと段階的に引き上げることを決めたときの首相でもあります。
その民主党関係者から、旧民主党政権時代に政権公約を無視して増税を強行したことに関する反省はほとんど耳にしませんし、新聞、テレビなどのオールドメディアも、「民主党政権時代に公約を無視して消費増税法案が可決されたこと」に関する意見を聞くことはほとんどありません。
本当に不思議な国です。
オールドメディアが(なぜか)財務官僚を中心とする官僚組織や立憲民主党を中心とする特定野党を滅多に批判しないことは、昨年の『【総論】腐敗トライアングル崩壊はメディアから始まる』などを含め、当ウェブサイトでは以前から指摘してきたところですが…。
立憲民主党内で昨年、食品の消費税ゼロを目指した勉強会
ただし、立憲民主党もしょせんは「選挙互助会」である、という話が発展していくと、やはり「立憲民主党がこのままの状況だと、次回選挙は危ういのではないか」と気付く人が増えて来るのも自然な話でもあります。
こうしたなかで、少し気になる動きがないわけではありません。
立憲民主党に所属する一部議員の昨年からの動きがそれです。
立民・江田氏、食品の消費減税へ勉強会 公約反映目指す
―――2024年12月19日 20:05付 日本経済新聞電子版より
日経電子版が昨年12月19日に報じた記事によると、江田憲司衆議院議員(元代表代行)が「2025年夏の参院選の党公約に食料品にかかる消費税率を時限的に0%に引き下げると盛り込むこと」をめざし、消費税の減税策を議論する勉強会を開いたのだそうです。
しかも、この勉強会には同党の馬淵澄夫元国土交通相や吉田晴美衆院議員ら「40人ほどが出席した」、とあります。(統一会派ベースで)所属衆議院議員が148人、参議院議員が42人、合計200人弱の同党にとって、40人というのは決して少なくない割合でしょう。
ただ、上述の通り、立憲民主党は消費税を巡って、「減税」ではなく「給付付き税額控除」の実現を公約に織り込んでいたはずですが、これをどう考えるのでしょうか?
日経の記事によれば、江田氏は「給付付き税額控除の実現には所得や資産の把握が必要なため当面は実現が難しい」と指摘し、「消費税率の引き下げを優先すべきだと訴えた」、とあります。
記事で引用されている議員らが信頼に値するのかどうかは読者の皆様のご判断に委ねたいと思いますが、少なくともこの記述「だけ」を見ると、正論です。低所得者層支援を目的とした消費税負担の軽減は、「消費税率の引き下げが手っ取り早い」ことは間違いないからです。
党を割る動きは出て来るのか?それとも…
こうしたなか、ここ数日、Xでは立憲民主党の一部議員らを巡って、「立憲民主党を離党する準備をしているのではないか」といった観測、あるいは「立憲民主党を割って出て欲しい」、といった待望論を目にすることも増えています。
これについて具体的な情報源があるのかどうかを調べてみたのですが、残念ながら、「立憲民主党内で党を割る動きが出ている」とする情報は、現時点だと一部の人の憶測であると断じざるを得ません。具体的な話はなにも出ていないからです。
しかし、「このまま立憲民主党に所属していてもジリ貧だ」と考える議員が、国民民主党の真似をして「減税を実現させる」とばかりに、集団で党を割って出ていくことは、可能性としてはまったく排除できるものではありません。
これについて読売新聞も1月6日付の記事で「立憲民主党内で消費税減税を主張すべきだという声が広がりつつある」、「党内対立の火種になる可能性もある」、などと指摘していますが、具体的な動きに発展するかが注目されるところです。
立憲民主党内に「消費税減税論」、野田代表は慎重な立場…党内対立の火種になる可能性も
―――2025/01/06 08:59付 読売新聞オンラインより
もちろん、党を割ったところで「泡沫政党」に留まればそのまま雲散霧消してしまう可能性も濃厚ですが、日本維新の会や国民民主党などに合流するなどして、それなりの政治勢力を維持できるのであれば、参院選が近づくタイミング(ないし政党交付金の関係で年末のタイミング)あたりに動きが生じるかもしれません。
とりわけ、SNSなどを通じて連日のように「税・社保の取られすぎ問題」が活発に議論されている状況、あるいは政党支持率で国民民主党が立憲民主党のそれを上回る状況が継続すれば、こうした状況に危機感を覚える議員が立憲民主党側に増えて来る可能性は十分にあるでしょう。
その意味でも、今後しばらく、第2政党である立憲民主党の動きには注目しておく価値があるといえるのではないか、などと思う次第です。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
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議員でいることが目的の立憲議員の場合は泥船からの脱出ということで立憲を離党し国民に転党する人も出てくることでしょう。
一方で骨の髄まで立憲の議員の中には官僚を顎で使った与党時代よもう一度、という人もいるような気がします。
いづれにせよ、今の政府は気温を上げた風船内部の様子。無秩序なエネルギーが増大中。このままではいづれ暴発してしまいそうです。
立憲民主党分裂?どうでしょう?私思うに、小西さんとか枝野さんとか前科一犯の誰でしたっけ名前が出てこない人とか、そのうちに戻ってこられるのか知らないですが蓮舫さんとか、裏金を上手くちょろまかした?安住さんとか、そうそう、新潟の方で知事か何かなさってた人とか、これら真っ当な人たちだけが立憲民主党に残ればいいんじゃないでしょうかね?まあ何を持って真っ当な人かは個人の主観によりますけれども。(例えば、真っ当に活動屋をやっておられるとか、、、)
追記
思い出しました。そう言えば小西さん、いつ亡命なされるのですかね?
>>本気で立憲民主党に政権を取らせるつもりもなく、ただ自分たちが国会議員であり続けることが重要だと考えているフシがある、ということでしょう。
井川意高氏が言われていましたが、井川氏の友人が食事をしていたところ、近くに辻〇清美がいて、「政権取ったらどうしよう。色々面倒だから楽に議員報酬貰っていたい」的なことを言っていたようです。
手のひら「くるっくる」の方達ですから当然あり得るでしょう
政権を取ることが目的ではなく「その筋」だけに受ける政策を出した時点でよくわかる
社民党が無くならないのも「その筋」だけの固定票を持っているから
こう見ると比例代表制の弊害とも思いますが小選挙区の弊害もあるから悩みますねえ
大問題はオールドメデアと役人がともに左巻き。と言うこと
情弱の老人(今は70代以上)が投票行動がとれる内(後10年か?)は力が有るでしょう
それまでは手のひら返しで生き残りに奔走でしょうねえ
次はどんな政党名にするのかしら
参院選(&衆院選?)で負けそうでなければ分裂はありませんよ。勝っている間は勝ち馬に乗っていくのが民主党時代からの伝統。