官僚やメディアの情報もSNS上で公開論破される時代

SNS発の情報をメディアが取り上げる時代が本格的に到来しつつあるようです。当ウェブサイトでもここ数日取り上げて来た「年収1200万円で子育てが難しい事例がある」とする論点を巡って、とあるサイトが「X(旧ツイッター)での議論」として話題に取り上げたのです。考えてみれば、ネット上には有象無象の専門家がおり、常にオープンソースでファクトチェックを行い、情報をアップデートしています。虚偽の情報は、官僚、オールドメディアが発するものであっても、「公開論破」される時代なのです。

年収1200万円の子育て…条件次第では大変!

先日の『自民党現執行部はSNSで議論沸騰の手取り問題軽視か』では、SNSを通じて「年収1200万円で子供を3人育てられるか」というテーマを巡る議論が活発に行われている、とする話題を取り上げました。

条件次第では、年収1200万円の人の手取り額は年間8,450,896円になってしまい、これだと単純に月割りにしても70万円少々で、しかも年収やお子様の年齢によっては児童手当や高校無償化などの各種支援の対象から外れてしまう、という問題です。

といっても、繰り返しになりますが、これはあくまでも「条件次第」の話です。

お子様が高校生であれば扶養親族控除が復活しますし、また、昨年10月以降は児童手当に所得制限が解除されるなどしたため、現実には(条件次第では)毎月の手取りは80万円くらいにはなるかもしれません。

ただ、それでも「年収1200万円」ということは、この人が民間企業勤務であるなどのケースだと、会社はこの人に対して13,516,500円を支払っている、ということであり、8,450,896円との差額は5,065,604円と巨額です。社保には「同額以上を雇用主が負担する」というルールがあるからです。

企業会計上の「人件費」には、この「本人に対する給与」(12,000,000円)と「社保の会社負担分」1,516,500円が含まれますので、実質的な人件費は13,516,500円と見るべきであり、あなたの労働から国家などが5,065,604円を持って行ってしまう、ということです。

実質年収1350万円→500万円以上持っていかれる

そして、手取りが月間70~80万円といえば、たしかに子供3人を育てるにはカツカツです。

お子様の年齢や居住地、通っている学校が公立か私立か、などの諸条件にもよりますが、たとえば私立学校の場合は単純計算で子供1人あたり月10万円前後が必要です(ベネッセの2024/09/26付『国公立と私立…いくら違うの?中高一貫校で6年間にかかる総額を比較!』等参照)。

ということは、子供3人を私立学校に入れ(あるいは公立でありながらも学習塾や予備校に通わせ)、習い事などをやらせながら、家賃(または住宅ローン返済)が毎月10~20万円、食費が10~20万円程度、他に自動車などもあれば、それだけでおカネを使い切ってしまうレベルです。

条件次第だと年収1200万円で子供3人を育てるのが難しい、というのは、まったく誇張ではないことがわかるでしょうし、個人的には、本来ならば1350万円の年収があるはずの人が850万円しか受け取れないという時点で、個人的には制度設計が大きく間違っていると思う次第です。

ウェブサイトがXの議論を紹介する時代に

さて、それはともかくとして、株式会社メディア・ヴァーグが運営するウェブサイト『LASISA(らしさ)』が9日、こんな記事を配信しました。

【物議】年収1200万円で《子ども3人はムリ》にSNS賛否… 「生活水準を下げろ」と批判も、“当事者”の主張は

―――2025/01/09 17:40付 Yahoo!ニュースより【LASISA配信】

記事の内容はリンク先を読んで確認していただければ良いと思いますが、やはり興味深いのは、このSNS発の「1200万円問題」をウェブサイトが取り上げた、という事実でしょう。

著者自身、網羅的に調べたわけではありませんが、少し前から「SNS発の情報」を大手ウェブサイト、雑誌社ウェブサイトなどが記事に仕立てるケースが増えている気がします。

今回の「1200万円問題」についても、もともとはX(旧ツイッター)上での「年収と手取りの問題」に関する一連のポストの一部を構成するものです(ちなみに「年収と手取りの問題」については、密かに山手線の駅名を冠した怪しい自称会計士のアカウントも関わっているようです)。

SNS上では専門家が多数、情報発信に関わっており、官僚機構やオールドメディアが発信する情報などについても、専門家が専門的な知見から簡単に論破する、というケースが増えているのではないでしょうか。

国の借金論はすでに論破されている

すでに論破されているものといえば、たとえば「国の借金」問題もその典型例です。

「現在の日本には国の借金が山ほどある」、「だから日本は今すぐ財政再建しなければならない」。

これについて、当ウェブサイトでは『【総論】「国の借金」説は、どこがどう誤っているのか』などでも論じてきたとおり、そもそも寿命がなく永続する国家の債務を民間企業や個人の債務と同列に論じている時点で誤りですし、国家が保有する莫大な金融資産などを無視し、債務だけで「借金」を議論することも間違いです。

というよりも、政府が負っている債務は「国の借金」ではありません。返済する義務を負っているのは個人ではなく政府だからです。

日本の場合だと、政府はまず、財政投融資や社会保障基金、外為特会(≒外貨準備)などが巨額の金融資産を保有していますので、これらの資産の存在を含めたトータルの議論を無視して金融負債側のみを論じても意味はありません。

しかも、政府債務、とくに自国通貨建てのものに関しては、これを個人や企業などの債務とおなじ感覚で論じても困ります。政府は半永久的に存続するものであり、債務は貨幣経済が続く限り、半永久的に借り換えることができるからです。

また、「公的債務残高GDP比率が問題だ」というのならば、なにも無理をして債務の方を圧縮する必要などありません。GDPの側を増やせば良いだけの話でもあります。

極端な話、経済成長率を維持するような政策を続け、GDPを2倍にすれば、公的債務残高を圧縮しなくても増税なしに公的債務残高GDP比率を1倍に下げられます(ちなみに経済成長率が毎年2%ならば35年後に、3%なら23.5年に、5%なら14年に、それぞれGDPは2倍になります)。

「国の借金はGDPの2倍だ」論へのツッコミ
  • 国家の債務を個人の債務を同じ感覚で論じるな
  • 負債の額だけで議論するな、資産を無視するな
  • 自国通貨国債の発行可能額は資金循環で決まる
  • 経済成長でGDPが2倍になれば良いのでは?

こうした観点からすれば、「国の借金が多すぎる(から国債発行残高を抑えなければならない)」などとする財務省の主張は大きな間違いであることは明白であり、これを主張すること自体が一般国民の財務省への反発を招き、増幅する愚行であることもまた明らかでしょう。

SNS空間の強み

そして、SNS上では無数の専門家が情報を常に検証し、それを常にアップデートし続けています。

その極地がコミュニティーノートなどのオープンソースベースのファクトチェックシステムであり、官僚機構、あるいは新聞・テレビを中心とするオールドメディアですら、これに対抗することが難しくなっていることもまた間違いありません。

財務省や御用学者、オールドメディアなどから「国の借金」論、「税収不足」論などの虚偽主張が出てくると、SNS上では即座にそれが炎上し、「公開論破」されるからです。

いずれにせよ、官僚やオールドメディアが発した誤った情報を強制的に訂正する手段を私たち一般人が手にしたという意味では、じつに良い時代になったものだと思う次第です。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 匿名 より:

    財務省は凡人に分かりやすいように財政破綻説を唱えることを主としてきました。そこには理論や状況は不要でとにかく「恐怖心を」与えるだけで良かったのです。

    しかし、SNSの世界ではこちらの新宿会計士の方のように頭の良い人達が意見や実情を理論的に且つ、分かりやすく解説してくれる機会が増えるにつれ、少しづつ「あれ?今まで騙されてきた」と気がつくようになってきました。

    そうなると凡人向けの説明が主がだった財務省の説明に整合性がないことがよくわかるようになったと思います。

  2. 丸の内会計士 より:

    SNSで公開議論したい論点として、国民の貴重な財産である電波の有効活用。現状のテレビ局に独占させているのは如何なものか。日本の品位にも関わるので、適切な事業者に電波オークション等で電波の割当先を変更すべき。
    話題になっているようなので、今後の電波について考えてみたいところです。

  3. ホグワーツ より:

    不敬罪になりませんか?

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