副作用?京都市「最大1万円宿泊税」は経済活動抑制か

京都市が現在徴収している宿泊税(最高1,000円)を、1泊10万円以上の場合は最大で1万円にまで引き上げる方向で検討している、とする報道が出て来ています。ただ、オーバーツーリズム対策という観点からは一定の評価はできるかもしれないにせよ、この構想の大きな問題点は、日本人に対しても課税されてしまうことにあります。

急増する外国人入国者

東京都心などではコロナ禍の時期、外国人の姿を見かけることはほとんどありませんでした。

しかし、2022年10月に日本政府が外国人観光客の受入を再開して以来、日本にやってくる外国人はうなぎ上りに増え、いまや日中に都内の主要繁華街に出掛けると、どこでも外国人旅行客と思しき人たちを見かけるのではないでしょうか。

実際、日本政府観光局(JNTO)のデータで見ても、日本にやってくる外国人はうなぎ上りに増えています(図表)。

図表 訪日外国人・月次データ

(【出所】JNTOデータをもとに作成)

これによると昨年11月までの訪日外国人は3338万人で、これまで過去最高だった2019年の3188万人を11月の時点ですでに抜いていますし、また、2024年3月には月間訪日者数が史上初めて300万人を突破したことも印象的です。

当ウェブサイトにおいて入国税を提唱する理由

外国人観光客が増えたら、それにより日本経済も潤う」。

そう単純に思うかもしれません。

ところが、事態はそこまで単純ではありません。

非常に困ったことに、オーバーツーリズム(観光公害)の弊害が、現在、日本各地で生じているのです。

鉄道やバスといった公共交通機関が混み合うというのは序の口で、昨年の『インバウンド対策は「選別」兼ねて高額の入国税検討を』でも取り上げたとおり、いわゆる「富士山コンビニ」―――コンビニエンスストアの上に富士山が乗っかっているように見えるコンビニ―――に観光客が殺到している問題なども生じています。

これについて当ウェブサイトでは、オーバーツーリズム対策の財源とすることに加え、質の良い外国人観光客を選別するために、外国人入国者を対象とした、ひとりあたり数万円レベルの入国税の必要性を提唱しています。

この入国税構想は、増税が大好き(?)なはずの財務省からは、なぜか出てこないものですが(笑)、個人的には税収によりオーバーツーリズム対策の原資を捻出するとともに、入国税の負担に耐えられない外国人を排除する効果を持っていると考えているわけです。

入国税と出国税の違いは「日本人が対象かどうか」

この点、著者自身が提唱する入国税に対しては、X上でこんな趣旨の反論もあります。

入国税ではないが、現在は『国際観光旅客税』という名目で出国者1人あたり1,000円の税を支払うという仕組みが存在するので、わざわざ『入国税』などいう仕組みを導入しなくても、実質的にはそれと同じ効果が生じている」。

残念ながらこの指摘は、まったく当たっていません。

俗にいう「出国税」は、納税義務者である「国際観光旅客等」が「船舶又は航空機により出国する旅客」と定義され、これには日本人出国者も含まれているからです(国際観光旅客税法第2条第1項第3号、同第4条)。

また、税率も出国1回あたり千円(同第15条)に過ぎず、この怪しい自称会計士が提案している「入国者ひとりあたり数万円」という水準と比べれば、それこそ微々たるものに過ぎません。

経済効果もほとんどない出国税と比べ、入国税は明らかに税収の拡大とインバウンド観光客の適正化を狙うものであるため、混同しないでいただきたいところです。

京都市の「最大1万円の宿泊税」

いずれにせよ、外国人観光客が押し寄せることによるコストを、日本国民ではなく、外国人観光客自身に転嫁する仕組みが必要だ、とするのが著者自身の考え方ではあるのですが、これに関連してちょっと気になるのが、こんな話題です。

京都市「宿泊税」引き上げ 最大1万円

―――2025/01/09 10:09付 テレ朝newsより

京都市「宿泊税」上限額を1泊1万円に引き上げ検討 実現なら税収は2倍以上に

―――2025/01/09 17:34付 Yahoo!ニュースより【日テレNEWS NNN配信】

いくつかのメディアの報道によると、京都市は市内のホテル、旅館などの宿泊客を対象とした「宿泊税」を巡り、その上限を1万円まで引き上げる方向で検討しているのだそうです。

京都市のウェブサイトを調べてみると、現状では税抜の宿泊料金が2万円未満の場合は200円、5万円未満の場合は500円、5万円以上なら1,000円です。

しかし、報道によれば、京都市ではこれを5段階に細分化したうえ、宿泊料金が1泊6,000円未満の場合は現行の200円に据え置く一方、5万円以上10万円未満では4,000円に、10万円を超える場合は最大で1万円に引き上げることとし、2026年3月からの適用を目指している、などとしています。

インバウンド対策よりもマイナス効果が懸念される

この点、報道等によるとこの宿泊税引き上げの目的は「財源」とのことであり、べつにオーバーツーリズムを対策としたものではなさそうですが、それだけではありません。この構想の最大の問題点は、課税される相手が「宿泊者」だ、という点でしょう。

要するに、出国税と同様、日本人も課税対象とされてしまうわけです。

宿泊税の引き上げは、結果として外国人観光客のオーバーツーリズム対策としてある程度有効ではあるにせよ、これは正直、悪手です。経済活動への副作用が懸念されるからです。

たとえば(著者自身もそうですが)ビジネス上の理由で京都を含めた近畿地方などで宿泊する機会がある人にとっては、税負担がかかってしまうわけですから、京都市という都市がビジネス・アンフレンドリーになってしまいかねません。

(※もっとも、現実にJALイージーホテルなどのウェブサイトで調べてみると、ビジネス客などの利用が多いと思われるクラスだと宿泊費はおおむね1~2万円程度ですので、さすがにこのクラスで1万円の宿泊税が課税されることはなさそうですが。)

いずれにせよ、正確な情報がまだないなかで、経済的な影響を正確に予測することは難しいにせよ、(外国人だけでなく)日本人をも対象に課税してしまう時点で、この宿泊税引上げは京都市の経済活動を抑制するという副作用が大きく出てしまうのではないか、といった懸念は払拭できません。

このあたりの影響がどう出るかは気になるところですが、やはりオーバーツーリズムの根本的解決という観点からは、正直、十分とはいえない気がする次第です。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. びびり より:

    日本人からも一律とるような制度にするのは「外国人差別」などの反発を過度に避けている気がしますね。なにせインバウンドの大半を占めるのは中韓からなので、日頃から中韓ご贔屓のマスゴミさんはここぞとばかり騒ぐでしょう。
    今でも外国人割増対応を取る店などを見つけては否定的なニュアンスでさらしてますし。(高賃金な多言語人材を雇うためなど正当な理由があるのに)

  2. はるちゃん より:

    確か、京都市の観光政策として、富裕層を増やしたいという方針があったと思います。この方針に沿って、富裕層を対象としたホテルの誘致も進んでいるようです。
    富裕層から高額な宿泊税を徴収するというのは、この方針に反した政策だと思うのですが。
    支離滅裂です。
    取れるところから取ってやろうという卑しさ満点の政策ですね。

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