市場価値の高い人から搾取する社保雇用主負担の仕組み
ここ数日、Xでは「年収1200万円」がトレンドとなっているようです。その大きな原因のひとつが、「年収1200万円だと子供を3人育てられない」、というものですが、事実関係を冷静に調べていくと、さらに大きな問題がいくつも検出され、X上での議論もさらに活発になっているようです。そのなかでも中核的な問題点のひとつが、「社保の会社負担」を通じた搾取の仕組みです。
目次
「年収1200万円で子育て辛い」?
X(旧ツイッター)でここ数日、やたらと見かけるのが、「年収1200万円」、です。
これは、「年収1200万円の人が子供を3人持っていても育てられない」、などとする趣旨のポストに対し、侃々諤々、賛否両面からさまざまな議論が盛り上がっている、というものです。
「年収1200万円もあれば、子育ては余裕でしょ」。
「いや、年収1200万円だとさまざまな所得制限に引っかかるし年少扶養控除もない」。
議論は本当にさまざまです。
ただ、この「年収1200万円で子供が3人」という人には、さまざまなケースが考えられます。
お子さんは高校生なのか、16歳未満なのか(扶養控除が効くかどうか)。
お住まいの都道府県でどのような助成制度があるのか(高校無償化など)。
配偶者はいるのか、その場合は働いているのか、専業主夫・主婦か。
いくつかの前提条件によって、手取りがある程度変化します。
これに加え、昨年10月以降は児童手当に年収制限がなくなりましたので、3歳以上・18歳までのお子さんであれば、1人目と2人目で1万円ずつ、3人目で3万円、合計5万円の手当が毎月支給されます(3歳未満なら1人15,000円です)。
このため、その人の手取り、可処分所得を正確に見積もることは難しいのが実情でしょう。
問題の所在は社保にもある
ただし、年収1000万円前後あたりまでであれば、給与からの天引き額に占める金額においては社会保険料が占める割合が非常に大きいという特徴がありますし、とくに会社で働く人などの場合、社会保険料は扶養親族の人数とは無関係にその人の年収だけで決まります。
このため、所得税法上・地方税法上の各種控除が効く、効かないという議論以前に、社保のせいで多くの人は年収をゴリゴリ削られているわけです。
なぜ、そんなことになってしまうのか。
その理由は簡単で、社保は「累進課税」ではないからです。
東京都政管健保(令和6年3月以降適用分)の事例だと、厚年保険料は標準報酬月額650,000円までであれば18.300%を労使折半で(9.150%ずつ)支払わされますが、それを超えた場合、徴収されるのは最大値である118,950円(労使折半で59,475円ずつ負担)で一定です。
また、同じく健康保険料は標準報酬月額1,390,000円までであれば9.98%を労使折半で(4.99%ずつ)支払わされますが、それを越えた場合、徴収されるのは最大値である138,722円(労使折半で69,361円ずつ負担)で一定となります(※ただし40歳以上は介護保険料も取られます)。
労使折半というパワーワード
そして、ここで大きな「ミソ」が、「労使折半」というパワーワードです。
たとえば年収300万円、(ボーナス、残業代、各種手当などが一切なく)毎月の給与が単純に25万円ずつだったという人の事例で考えてみると、この人が毎月支払う社保は、38,850円です(※ただし、以下の議論では社保には厚年保険や健康保険だけでなく、介護保険や雇用保険も含むものとします)。
月収25万円で社保が38,850円!
これは、なかなかに強烈です。
仮にこの人、前年の所得も同額だったとして、住民税の特別徴収を適用されているものとすれば、また、扶養親族がゼロ人だったと仮定すれば、毎月の給与明細はこんな具合です。
年収300万円の人の給与明細の事例
- 総支給額…250,000円
- 社会保険…*38,850円
- 所得税等…**5,200円
- 住民税等…**9,700円
- 差引振込…196,175円
月給25万円なのに196,175円しか振り込まれない―――。
つまり、25万円に対する21.53%に相当する53,825円が、あらかじめ差っ引かれてしまっているわけです。さすがにこの収入水準の人にとって、勝手に給料の2割を差っ引かれるのは辛いところです。
会社はもっと負担している!
ただ、ここでもうひとつ知っておいていただきたいのは、会社が負担しているのはこの25万円だけではない、という事実です。会社がこの人に「年俸300万円」、「月給25万円」を保証しようと思えば、先ほど述べた「労使折半」という論点が響いてくるからです。
先ほど、この人には社会保険が合計で38,850円徴収されている、という論点がありましたが、じつはこの従業員から見えないところで、会社は39,600円の社保を追加で支払っているのです(金額が異なる理由は雇用保険の料率が従業員と雇用主で異なるため)。
ということは、この会社が従業員に「月給25万円」を支払うためには、25万円ではなく、これに39,600円を足した289,600円となるわけで、その差額はじつに93,425円です。
- 会社が負担している実質的な人件費…289,600円(①)
- 従業員が実際に受け取っている金額…196,175円(②)
- 会社の負担額と従業員受取額の差額…*93,425円(③)
③を①で割った実質的負担率は、32.26%です。
そして、これについて、会計的・経済的にもう少し正確に評価するならば、会社が負担している人件費は25万円ではなく、289,600円だと考えるべきです。なぜなら、この289,600円というコストは、会社はこの人を雇うことで発生しているものだからです。
ということは、この人の月収は25万円ではなく、じつは289,600円だ、と考えるべきではないでしょうか?
そして、289,600円と196,175円の差額の93,425円は、日本政府による「搾取」そのものではないでしょうか?
年収1200万円の人の「実質的な市場価値」
こうしたなかで、冒頭で示した「1200万円の年収でも子育てが苦しい」という命題に戻りましょう。
じつは、年収1200万円という「比較的高い年収」でも子育てが苦しいのは、「金遣いが荒いから」ではなく、シンプルに社保を含めた実質的な租税負担が重すぎるから、という可能性が生じてくるのに加え、やはり制度設計そのものがおかしいのではないか、といった疑惑が生じてくるのです。
というよりも、年収1200万円の人には、じつは、1350万円を超える市場価値があるのです。これについては先ほどと同じ条件で、今度は年収1200万円というケースを考えてみましょう。今度は月収ではなく年収で換算してみると明らかでしょう(図表)。
図表 年収1200万円の人の市場価値と手取りの落差の大きさ
区分 | 金額 | 備考 |
年収 | 12,000,000円 | ①…俗にいう「年収」 |
実質賃金 | 13,516,500円 | ②…①+社保(会社負担分) |
社保 | 1,480,500円 | ③…社保自己負担分 |
租税 | 2,068,604円 | ④…所得、復興、住民税 |
天引き額 | 3,549,104円 | ⑤…③+④ |
手取り | 8,450,896円 | ⑥…①-⑤ |
実質天引き | 5,065,604円 | ⑦…②-⑥ |
この表の見方は、こうです。
- 年収1200万円の人が会社員なら、会社はこの人に対し、少なくとも年間13,516,500円(②)の人件費を支払っている
- しかし、この人が受け取っている金額は13,516,500円(②)でも1200万円(①)でもなく、そこから社保(③)、租税(④)の合計額(⑤)を差っ引いた8,450,896円(⑥)に過ぎない
- 会社が実質的に支払っている額13,516,500円(②)とこの人の手取り額8,450,896円(⑥)の差額は5,065,604円(⑦)にも達する
年収1200万円の人に対する搾取ぶりは、先ほどよりもさらにいっそう明白です。ちなみに⑦の金額を②の金額で割った実質的な負担率は、37.48%です。
言い換えれば、年収1200万円という人は、「この人物には年間13,516,500円を支払ってでも働いてもらう価値がある」と会社から判断されている人、ということであり、つまり年収1200万円の人には実質的に13,516,500円以上の市場価値がある、ということなのです。
こうした高い市場価値がある人物は、日本の税制・社会保障制度では本来のバリューの62.52%の金額しか受け取ることができず、37.48%は社会保険料、所得税、復興税、住民税などのかたちで国家やその関連団体に奪われている、ということでもあります。
SNSの議論は絶賛炎上中…もうだれにも止められない
この点、先日の『手取りから逆算する実質年収…税と社保は取られ過ぎ?』でも述べたとおり、私たちがともすればイメージしがちな「年収と手取り」の関係には、大きな違いがあります。
年収1200万円の人であっても、民主党政権下で年少扶養控除が廃止されるなどしたため、人によっては数百万円レベルの公租公課を負担しており、しかも高校無償化を含めた各種福祉も年収制限で受けられないことが多いことを思い出しましょう。
「年収1200万円で生活が苦しい」というのは、あながち誇張ではないのかもしれません。
そして、(これも機会があれば別稿でじっくり議論したいと思いますが)日本の社会保障制度は負担と需給の関係がまったく釣り合っていません。最高料率の厚生年金保険料を支払い続けてきたにもかかわらず、年間せいぜい200万円前後しか年金が受け取れない人もいる、というのは、その典型例でしょう。
いずれにせよ、わが国の税制・社会保障制度を見ると、負担と需給が逆転しているのではないかと疑われる部分も多いといえます。
このあたり、いわゆる「年収103万円の壁」などの議論に当初火をつけたのは国民民主党だったのかもしれませんが、国民負担の多さという論点にまで飛び火してしまった以上、そしてSNSを通じて人々が自由に意見交換できるプラットフォームができてしまった以上、これを強権的に鎮火することはできません。
いままで世論を牛耳っていた新聞、テレビの影響力が弱まってくれたおかげで、世論がじっくりと形成される過程を我々は今まさに目撃している―――。
その意味では、なんとも面白い時代になったものだと思う次第です。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました
自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。 |
【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。 |
こうやって、数字で可視化されると怒りが沸き起こってくる。
今まで払ってきたものが戻ってこないとわかっていても、このままでは収まりがつかない。
次の選挙できっちり決着をつけてやる。
これでは「手取りを増やす」ではなく、「手取りを返せ」ですね。税金や社会保険制度の抜本的な見直し、使い方の徹底的な精査と変更が必要です。何に使っているのか?
森山幹事長が123万円以上上げない。
と言ったようです
さて予算が通過する算段が出来た。と言われていますが本当に良そうでしょうか
ここのコメントにある様に次の選挙を見てろ。ですよね
自民党には投票しない。と言う意思表示です
たぶんいつもの様に国会対策だけで動いているからでしょう
でも私たちはその先を心配します
自民党議員の激減を受け与党になるのは野党連合でしょう
現在の野党の多くは媚中・媚韓・媚北・媚ロです
オールドメデアが岸庭政権を叩かないのもその理由からでしょう
夏の参議院選で棚ぼたを狙っています
いつもの威勢がいい自民党議員でも良いから「声を上げてほしい」
減税に取り組みスパイ防止法をつくり日本を取り戻してほしい
それが出来ない場合日本は「混乱」に陥る
難民を装い侵略するクルド人に代表されるイスラム
外国人犯罪は無罪と同じに考える日本司法の出鱈目
何とかしてほしい
おっしゃるとおりです。
怒りを爆発させた有権者が自民党を下野させた結果、喜ぶのは媚中、媚ロ、媚朝鮮の左派野党。それを支持するプロ市民達。
明るい社会には決してならず、今後数年間は真っ暗な日本社会になってしまいます。最悪です。連中がほくそ笑む未来になってしまう。
参院選挙まで時間がありません。5月末までに「現自民党執行部をぶっ壊す」をスローガンに「まともな自民党保守」の決起がMUSTです。
「まともな自民党保守」はSNSを駆使して流れを作って欲しい。ホントに。
市場価格の高い人から搾取するのではなくて、数が多い市場価格の低い人から搾取することができないのでは。(票に響きますし)
まあ、市場価格が高くても、面倒な人から搾取できないでしょうけど。
蛇足ですが、金をもっていない人から搾取しても、結果はたかがしれているかもしれません。
現在の社会保険は、概ね、地域別の国保、および職域別の健保組合・共済組合・協会健保に分かれていますが、これらを解体して加入する保険を年収別に切り直せば、各階層とも公平感を得られるでしょうか。
この先日本は市場価値の高い人に益々依存するようになり、働いても働いてもわが暮らし楽にならずという社会になりそうです。
このままでは日本の社会主義化は避けられないと思います。
既にそうなっていますが。