外貨準備で米ドル離れ進むも…資金は日本円に向かう?
国際通貨基金(IMF)が昨年12月に公表したデータによると、外貨準備の世界では、米ドルの割合がさらに低下したことが判明しました。ただ、世界の通貨当局の米ドル離れが進んでいるのだとしても、それが人民元やその他のBRICS通貨に向かっているという顕著な兆候は認められません。どちらかというと、日本円などの「先進国通貨」に資金が向かっているというべきではないでしょうか。
目次
COFER最新統計で見る通貨ランキング
国際通貨基金(IMF)が四半期に1度公表しているデータの中に、『COFER』と呼ばれるものがあります。
COFERは英語の “Currency Composition of Official Foreign Exchange Reserves” を略したもので、意訳すれば『外貨準備通貨構成統計』といったところですが、財務省や日銀などによる公式訳は見当たらないため、当ウェブサイトではそのまま『COFER』と呼ぶことが多いです。
そのCOFERの最新版が、昨年12月20日までに更新されていました。
現在手に入るのは2024年9月末時点のものですが、これをランキング形式にしたものが図表1です。
図表1 世界各国の外貨準備通貨別構成(2024年9月時点)
通貨 | 金額(前四半期比) | 割合(前四半期比) |
内訳判明分 | 11兆4602億ドル→11兆8433億ドル | 92.80%→93.03% |
うち米ドル | 6兆6746億ドル→6兆7970億ドル | 58.24%→57.39% |
うちユーロ | 2兆2635億ドル→2兆3706億ドル | 19.75%→20.02% |
うち日本円 | 6412億ドル→6892億ドル | 5.60%→5.82% |
うち英ポンド | 5656億ドル→5885億ドル | 4.94%→4.97% |
うち加ドル | 3068億ドル→3244億ドル | 2.68%→2.74% |
うち人民元 | 2450億ドル→2572億ドル | 2.14%→2.17% |
うち豪ドル | 2564億ドル→2687億ドル | 2.24%→2.27% |
うちスイスフラン | 224億ドル→198億ドル | 0.20%→0.17% |
うちその他通貨 | 4846億ドル→5278億ドル | 4.23%→4.46% |
内訳不明分 | 8885億ドル→8872億ドル | 7.20%→6.97% |
合計 | 12兆3487億ドル→12兆7304億ドル | 100.00% |
(【出所】International Monetary Fund, Currency Composition of Official Foreign Exchange Reserves データをもとに作成。なお、「割合」は「内訳判明分」に対するその通貨のシェアを示している)
ジリジリ進む米ドル離れ…シェアは過去最低に
今回、個人的に印象深いと思ったのが3点あるとすれば、ひとつ目は米ドルのシェアが57.39%にまで下がったこと、ふたつ目は日本円のシェアが5.82%にまで上昇したこと、そしてみっつ目は「その他通貨」の割合が高まっていること、です。
まず、米ドルに関しては次の図表の通り、外貨準備に占めるシェアは引き続き圧倒的ではありますが、そのシェアは、COFERという統計が始まった1999年以来で見て、最低値を更新しました(図表2)。
図表2 世界の外貨準備に占める米ドル建ての資産とその割合
(【出所】COFERをもとに作成)
以前からしばしば当ウェブサイトで取り上げてきたとおり、一部の国(「BRICS」などでしょうか?)を衷心に、外貨準備の「米ドル離れ」が進んでいるとされますが、米ドルが(金額はともかくとして)シェアを少しずつ落としているのは気になる点です。
外貨準備の世界で存在感高める日本円
しかし、米ドルに代わって新興市場諸国の通貨の外貨準備が増えているのかといえば、そこもまた微妙でしょう。
割合的に見て、前四半期と比べて大きく増えた通貨が日本円です(図表3)。
図表3 世界の外貨準備に占める日本円建ての資産とその割合
(【出所】COFERをもとに作成)
日本円のシェアは、前世紀には世界の外貨準備の6%を超えていたこともあるのですが、2000年代以降は3%を割り込んだこともあるなど、その地位は徐々に低下して行きました。しかし、これが近年、ずいぶんと増えており、シェア6%台回復も視野に入ってきた状況です。
この点、2024年6月末と比べて9月末のシェアが高まっている理由は、おそらくは円高の進行によるものです。国際決済銀行(BIS)のデータによると日本円は6月末で1ドル≒160.62円でしたが、9月末で1ドル≒142.75円へと、若干円高が進みました(12月末だと1ドル≒156.95円でしたが…)。
ただ、国際決済銀行(BIS)のデータをもとに、COFERの外貨準備の「ドル表示した日本円」を円に戻したもの(図表4)で確認するとわかりますが、円建ての外貨準備は増え続けているのです。
図表4 世界の外貨準備に占める日本円建ての資産と日本円換算額
(【出所】International Monetary Fund, Currency Composition of Official Foreign Exchange Reserves データおよび The Bank for International Settlements, Bilateral exchange rates time series データをもとに作成)
想像するに、「円安だから世界の外貨準備運用担当者がここぞとばかりに円を買っている」、ということでしょうか。
「5大通貨」以外の外貨準備は過去最大に
そして気になるのは、いわゆる5通貨(米ドル、ユーロ、日本円、英ポンド、スイスフラン)以外の通貨の伸び方です(図表5)。
図表5 世界の外貨準備に占めるその他通貨建ての資産とその割合
(【出所】COFERをもとに作成)
豪ドル、加ドルは2012年12月に、人民元は2016年12月に、別のジャンルとして独立したのですが、昨今はさらにそれら以外の通貨(図表1でいうところの「その他通貨」、図表5でいうところの青い領域)が伸びており、直近だと金額ベースで5278億ドル程度です。
また、世界の外貨準備に占める割合は依然として4.46%に過ぎないにせよ、割合は前四半期の4.23%からは増えているため、その具体的な通貨の中身が気になるところです。
といっても、あくまでも想像ですが、この「その他通貨」に含まれているのは北欧通貨(たとえばデンマーク・クローネ)などのような安定した先進国通貨であり、たとえばロシアルーブルやインドルピー、ブラジルレアルなどがかなりの割合を占めているという可能性は低いのではないかと思います。
人民元も顕著には増えず…結局は先進国通貨同士の振替
いずれにせよ、「その他通貨」については気になるものの、総じて外貨準備の世界でいえることは、米ドルの割合が低下していることはたしかではあるにせよ、だからといって先進国以外の通貨が顕著に増えているという話ではなく、むしろ先進国通貨間での分散が進んでいる、ということではないでしょうか。
とりわけ中国の通貨・人民元に関しては、2021年12月末にいったんピークを付けており、そこから減少傾向にあることを見ると、ロシアがウクライナ侵攻を控えて外貨ポジションのアロケーション変更を行ったことの影響が色濃く出ています(図表6)。
図表6 世界の外貨準備に占める人民元建ての資産とその割合
(【出所】COFERをもとに作成)
こうした観点からは、「ウクライナ戦争勃発を受けた米ドル離れ」が先進国通貨全般に及んでいる、とする兆候を認めることは難しい、というのが実情ではないかと思う次第です。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
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貿易決済での使い勝手の良さや、投資先としての米国企業(というかグローバル企業)の魅力を考えれば、米ドルの地位が簡単に脅かされる事態は当面考えられないように思えます。それにもかかわらず、米国10年国債の利率は2020年に0.5%台まで低下して以降、じりじりと上昇して今や5%を伺おうかというところまで来ています。それくらいまでの利回りを約束しないと、札割れになってしまうということなんでしょう。
思えば、米ドル覇権の終焉だの、これからは人民元、BRICS通貨の時代だのと、一部の経済評論家連が囃し始めたのは、米国国債の長期金利の上昇傾向が明らかになってきた時期とシンクロしているような気がします。
米ドルから人民元、BRICS通貨へのシフト。ンなこと起こってもいないし、これからも起こりそうにないというサイト主さんの見立ては、多分その通りなんでしょうが、米ドルの資産価値が毀損されつつあるという認識が、世界各国の通貨担当者の間で共有されるようになってきている。そしてそれが外貨準備に占める米ドルの比率低下に表われていると見るのは、そう間違った考えではないかも知れません。
まあ、これだけ財政赤字、貿易赤字を膨らませ続ければ、誰だって米国大丈夫かと、不安にもなろうというものです。トランプ次期大統領は、関税政策で貿易赤字を減らし、前政権が消極的だったシェールガス、オイルを掘りまくって、欧州に売りつけて稼ぐ腹づもりのようですが、果たしてそれで米ドルの信認を取り戻せるものなのか?見物です。
アメリカがドルを擦りまくっているにも拘らず円安ドル高が続いています。
それはそれで結構なのですが、何時円高ドル安に流れが変わるのか気になります。
円安の今が日本にとっては経済安全保障のための産業政策を進める好機だと思うのですが、どうも石破政権にはビジョンが無さそうです。
課税最低限度額の引き上げを渋っているうちに円安の好機を逃してしまわないか心配です。