転売ヤーの存在は「文化の問題」ではなく「経済問題」
キャラクターグッズ、福袋、限定商品―――。欲しい人にとってはいくらおカネを払ってでも買いたいと思うかもしれませんが、ここに付け込むのが「転売ヤー」などと呼ばれる者たちです。多くの場合、これらの「転売ヤー」は社会にほとんど付加価値をもたらさず、商品の供給者にとっても需要者にとっても迷惑な存在です。供給者側は本当のファンに商品が行きわたらず、需要者側も不当に高いカネを支払わされるからです。
目次
転売ヤー問題
SNSなどネットを日常的に利用する方であれば、「転売ヤー」、あるいは「テンバイヤー」という表現を、一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。
これは、限定品などのさまざまな商品を購入して転売することで儲けている人たちを、なかば侮蔑的に指す用語です。
たとえばマンガやアニメ、ゲームなどの人気キャラクターをもとにしたグッズがその典型例ですが、それだけではありません。最近だと正月の福袋などに入っている商品であったり、各地の名産品であったり、あるいは人気アイドル歌手のコンサートチケットであったり、といった製品・サービスが広範囲に転売の対象となっているようです。
ではなぜ、こうした転売行為をする者たちが「転売ヤー」として忌み嫌われるのでしょうか。
その理由は、端的にいえば、彼らが社会に対して何ら付加価値をもたらしていないからです。
いや、それどころか彼らが転売行為を行うことによって、ファンの人たちはその製品・サービスを定価で買うことができないなどの実害を被ったりすることもありますし、酷いケースだと、不当に高い値段で買わざるを得ません。
転売ヤーは社会に付加価値をもたらしていない
少々極端な事例で考えましょう。
人気アイドルグループ「新宿48」の写真集という限定レアアイテムが日本各地の書店で、1冊1万円で発売されたとします。「新宿48」のコアなファンの人はこの写真集をどうしても欲しいというものですが、1000冊しか発行されません。
ただし、この「新宿48」のコアファンはちょうど1000人だったとします。すると、この1000人は、限定写真集を1万円でひとり1冊ずつ購入することができる、というわけです。
ところが、ここに「転売ヤー」が現れたとします。
この「転売ヤー」は何らかの手段を使い、この限定写真集を発売日当日に1000冊買い占め、ネットでファンに対し1冊3万円で転売したとしましょう。そして、1000人のファンはこの写真集がどうしても欲しいと思うため、3万円出して写真集を購入したとしましょう。
このとき、書店や写真集を発売した版元には、合計して1冊1万円×1000冊分(つまり1000万円)の売上しかありませんが、ファンは1人あたり3万円、1000人合計して3000万円を支払っています。
差額の2000万円は、この「転売ヤー」の取り分です。
もしこの「転売ヤー」が存在しなければ、ファンは1人1万円で写真集を購入できていたわけですが、「転売ヤー」のせいで流通がかき乱され、ファンが写真集を1人1万円で購入できないばかりか、2万円分も余分に支払わされた格好です。
また、転売ヤーがいようがいまいが、版元の売上は変わりません。それにもかかわらず、版元としては本来なら1万円でファンに広く買ってもらおうと思っていたのに、実際にはファンは3万円の支出を余儀なくされ、版元に対しても逆恨みする人が出てくるわけですから、社会全体にとって良いことはなにもありません。
儲かって嬉しいのはこの「転売ヤー」のみ、というわけです。
転売ヤー対策はあるものの…実効性に乏しい
もちろん、この設例だと、全国各地の書店に部下を並ばせる、買い集めた写真集を管理するなどの「手間」はかかっているわけですが、こうした「手間」の対価としての1冊2万円は、不当な儲けだといわざるをえません。
ちなみに、この「全国で1000冊しか発売されない写真集をすべて買い占めて3倍の値段で売る」というのは少し極端な事例ですが、たとえば「1000冊のうち、都内の某大型書店で発売される100冊を買い占めて1冊2万円で転売する」、といった具合に、設例を細かく調整すれば、より現実に近づくかもしれません。
こうしたなか、最近だと販売店の側も、「転売ヤー」だとわかれば売らない、などの対策を進めているようです。
たとえば都内など都市部で家電量販店を展開する某社のケースだと、転売などで人気があるとされる商品については「おひとり様1台限り」と販売数量を限定したり、キャラクター商品だと店員さんが転売ヤーと疑われる客に対し、商品知識を問うたりするなどの対策をしていると聞きます。
ただ、これらも結局、焼け石に水のようなものであり、転売ヤーの撲滅に至っていません。
転売ヤーへの反感は「アレルギー反応」?
さて、こうしたなかで、この「転売ヤー」という存在を、私たちはどう考えていけば良いのでしょうか?
これに関連し、『Yahoo!ニュース』のオリジナルとして、こんな記事が配信されていました。
「転売ヤー」への拒否感はなぜ生まれる? アレルギー反応との指摘も #くらしと経済
―――2025/01/05 09:50付 Yahoo!ニュース オリジナル【THE PAGE】より
記事は「転売ヤー」を巡って、実際にインタビューなどをしたという記事であり、「なぜ日本樹陰はこれほどまでに転売ヤーに拒否反応を持ってしまうのか」に関する論考です。
リード文を含め4000文字少々という記事ですが、本稿で紹介しておきたいのは、「転売ヤーの実情に詳しいフリーライター」という方が述べたという、こんな趣旨の記述です。
- 最近の転売の対象はキャラクターグッズのように単価が安く利ザヤも薄いもの
- さっきも都内繁華街でキャラクターグッズの限定品を中国人転売ヤーが路上で数え、「買い子」とお金の受け渡しをやっていた
これは、非常に興味深い記述です。
記事によると、このフリーライターの方は30代の中国人女性に同行取材したことがあるのだそうで、こうも述べたのだとか。
「中国の人って、雇われるよりも自分のビジネスがしたいという意向が強いんですよね。彼女もそうで、はじめはヤミ民泊みたいなことをやってたんですけど、コロナでダメになったから転売ヤーになったと。今はまた並行して民泊をやっています。暮らしぶりは、日本の会社員よりはいいと思いますよ」。
文章に「ヤミ民泊」とか、さりげなく凄いセリフが出てきます。
「ヤミ民泊」といいますが、『旅館業法』などの法令の規定を守っていない場合は「ヤミ民泊」ではなく「違法民泊」と表現すべきでしょう(ちなみに余談ですが、無許可での宿泊施設営業などには、6月以下の懲役または100万円以下の罰金が科されることもあります)。
この「フリーライター」の方が取材した「中国人女性」とやらが実在するならば、その法令順守意識は非常に弱いのではないか、といった疑いが生じるところでしょう。
記事に出て来る中国人転売ヤー
それはともかく、このフリーライターの方が買い付けに同行して一番印象に残ったのは、「中国人転売ヤーを眺める日本人の視線の冷たさ」だったのだそうですが、当たり前でしょう。べつに経済社会に対して何らかの付加価値をもたらしているわけではないのですから。
そのうえ、記事ではこんな記述も続きます。
「中国人転売ヤーたちも、日本人から嫌われてるっていうのを自覚はしていると思うんですけど、罪悪感はないと思います。法を犯しているわけではないし、何が迷惑なの、と。なんなら、自分の編み出した転売の手法を自慢げに教えてくれたりもしますね」(フリーライター氏)
「モノを安く仕入れて、高く売る。これはビジネスの基本だ。<中略>転売は、小売店から新品を仕入れて販売する。<中略>犯罪ではないが、転売にいいイメージを持たない人は多い」。
厳密にいえば、個人的には、悪質な転売行為は独禁法違反に該当することもあるのではないかと思いますが、ただ、転売行為そのものを犯罪として取り締まる法律は見当たりません。
「犯罪でなければ(あるいは罰則が軽ければ)何をやっても良い」。
こういう発想が蔓延すれば、社会全体が規制でがんじがらめになっていきます。実際、先ほどでてきた「民泊」も、2018年から新法が適用されている以前は罰則も軽く、民泊が横行していたという事情があることを忘れてはなりません。
文化の問題ではなく経済の問題
ただ、それ以上に取り上げておきたいのが、「社会心理学者」という方の、こんな説明です。
「モノを右から左へ動かすだけで金もうけをする。行列に割り込んでわれ先にと限定商品を買いあさる。その強引さを『マナー違反』だとして、日本人がアレルギー反応を起こしている状態だ」。
そのうえでフリージャーナリスト氏も、こう述べたそうです。
「日本人による中国人転売ヤーへの批判の中には、ちょっと理不尽なものもあると思う」
「アメリカでは、野球のチケットもダイナミックプライシングになっていて、同じ球場で同じチームが試合しても、例えば大谷翔平が出場する試合としない試合で、値段が違ったりするんですよね」。
「転売を許容することもこれからの社会のあり方のひとつなのでは」。
…。
このあたり、正直、論理展開にかなりの無理があります。残念ながらこれは文化の問題ではなく、経済の問題だからです。
たとえば悪質な転売行為は日本でのみ問題になっているわけではありません。海外でも、たとえば英語圏に “scalper” や “reseller” といった単語がありますし、プレステ5の転売行為などの事例にみるとおり、海外でも転売が横行し、人々から嫌われていることがよくわかります。
Scalpers are struggling to resell the PlayStation 5 Pro because it’s in stock at most retailers
―――2024/11/08付 TECHSPOTより
また、歌手のコンサートのチケットが “scalpters” によって吊り上げられていることに対するファンの怒りに関する記事なども見つけられますが、これも日本で生じている「転売ヤー」によるチケット転売(あるいはダフ行為)そのものでしょう。
The real reason it costs so much to go to a concert
―――2024/05/23 20:00 GMT+9付 VOXより
なお、日本ではチケットの高額での転売を行う行為(いわゆるダフ屋営業など)は違法とされていますが(2024年6月3日付・政府広報オンライン『その行為は禁止です!チケット不正転売禁止法』等参照)、「転売ヤー」の行動も、経済的に見ればダフ屋営業と何も変わりません。
ただし、くだんのYahoo!ニュースの記事、結果として「転売ヤー」を経済社会全体の問題として捉えるうえで、ひとつの良い契機となるのかもしれませんが…。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。 |
所詮、ものの価格は需要と供給のバランスで決まるのだから、「どんな価格でも、ある商品が欲しい」という人間がいる限り、転売ヤーはなくならないのではないでしょうか。
蛇足ですが、転売ヤーとオークション、あるいは「ある商品を、それが不足している地域にもっていって高く売る」との違いはなんですか。
世の中に一向に論点を理解できない人がいて辟易します。
なぜ転売が困るのかメーカー側と消費者側で考えればわかることです。
転売によって大コケしたPS5という実例もあります。
記事にするというのなら最低限の勉強は必要ではないでしょうか?
テンバイヤは、普通の経済行為だと思えます。
それが迷惑だとしても、石油ショック時のトイレットペーパー買い占めや、戦争時の金価格高騰などのように、
「合理的な思惑で需給バランスがシフトする」
のは、市場主義経済下では仕方ない気がします。
だから先物取引などでヘッジする、くらいしか先人の知恵(対策)はないのかな。
例えば東京大学に人気が殺到して入試という相対評価で不公平な合否を決めてますが、誰も文句は言ってませんよね。
供給キャパに物理限界があるなら、
「外れた人はゴメンなさい」
くらいしかないような。
入試と違って物販は、十分な在庫を準備するなりシリアル管理するなり、
「テンバイヤへの嫌がらせ」
は工夫できそうな気もしますが、素人頭では簡単そうでも難しいんでしょうかねえ。
高嶺(高値)の花には手を出すな!
ということですか。
うーん、すみません、要するになんにも思い付きませんですわ。orz
その昔、アイドルオタクだったころは転売ヤーはありがたい存在でした。
推しのライブチケットの入手に重宝していました。
前に通路があって、推しを見やすい席をお金さえ出せば、ほぼ100%手に入れる事が出来ていました(チケット代は8000円ですが、毎回3~5万で購入していました)。
その時思ったのが、【なぜ発売元がオークションをやらないのか?】という事です。
オクにすれば発売元に利益がすべて入るのにおかしいよね。。。一説には裏で発売元が横流ししているとまことしやかに言われてもいましたね。
需給と市場価格は色々観てきてまーしゃーねーナとも思わんでもナイすが、“ヤミ民泊”…
“万引き”もそうですケド、犯罪を罪名から言い換えるのイイカゲンやめれ!
とか思ひますた…
「安く買って高く売る」、「社会に対して何ら付加価値をもたらしていない」が転売ヤーの定義だとすると、投資家、その中でも特に短期が得意な投資家は、まさに転売ヤーですね。
私は、需要と供給のバランスをいつも見誤って、高く買って安く売るを繰り返すので、良心的転売ヤーかもしれません、笑。
ももいろSJK坂48娘。Z
娘。の道重卒業武道館ライブでは、FC申し込みで奇跡的に神席が当たったのですが、どうしても予定が取れず、泣く泣くヤフオクに出品した所、40万以上で落札されました。
で、、行けなくなった悲しみより高値で売れたことでうれしくなってしまった自分にオタとして嫌悪感を抱いてしまった事が思い出されます。
気になってることが二つ
1,アリペイ等で転売されたら「日本に税金は入るのか?」
日本のインフラを使い稼いだなら税金を払うのは当然だ
これはほかでも中国国内で決済が行われるのが増えていると聞く。早急な対策を
2,転売は防げないと考える
でも大量の転売は価格の引き上げとなり購入できない層が生まれる
であれば買い占めを可能な限り抑制するしかない様に思います
件の記事、転売ヤーを擁護しようとして無理やり書かれた感があるんですよね。
転売の実害についてはなるべく触れず、何とかイメージを”軽く”しようとしている印象。
薬局の店頭から消えたマスクが、何故か雑貨屋で高額なプライスタグを付けて販売されていた2020年春から夏。COVID-19を発生させた中国、日本は遅れていると自慢した韓国、モノ不足につけ込んでバイヤーが儲けたということ。忘れることはないでしょう。
野党や左派連中、マスコミ・メディアの執拗な風評流布や妨害工作にも拘わらず忍耐強く難局を乗り越えた多くの日本人がいた事も忘れることはないでしょう。
転売ヤーは唾棄すべき存在ですが自由の国である日本社会。一掃するのは難しい。相手にしないこと=ビジネスとして旨味がないようにすることが大事なのだと思っています。
震災のあと、
・知り合いがポータブル発電機を探してる。
・お勧めしたいから写真を撮って良いか?
・5日後に会って確認するまで取りおいて欲しい。
・・ってなお客様?が来ましたね。
↑アルバイト君が受けてたんですけど、現物がヤフオクに出品(3倍の値段)されてたのでお断りしました。
転売ヤーが忌み嫌われるのは、「他者の迷惑を顧みず」だから。
彼らが膿だしてるのは、社会の “負荷価値” でしかないですね。