制作費「ゼロ」も?テレビ局が通販番組を放送する背景

年末年始、著者自身は昔からテレビの正月番組の雰囲気が苦手だったのですが、それでも昔はテレビを見てダラダラ過ごすという方も多かったでしょう。ただ、心なしか、最近だとそもそも若い層を中心にテレビを持たない人が増えている気がしますし、調査で見てもこうした感覚はあながち的外れではありません。こうしたなか、とある地方局では1日に最大15本も通販番組が挿入されているとの指摘が出てきました。背景には製作費不足などの事情があるのでしょうか。

年末年始はテレビの特番でダラダラ

(読者雑談記事を除けば)おそらく本稿が年内最後の記事更新だと思います。

本年も残すところあと12時間となりましたが、読者の皆様は、年末年始をどうお過ごしでしょうか。

昭和生まれにとって、年末年始といえばテレビ三昧だったのではないかと思います。

もちろん、大掃除のお手伝いだとか、学校の冬休みの宿題だとかをちゃんとこなしている、という前提はつくのですが、年末年始くらいはテレビをダラダラ見て過ごしても親はあまり怒らないし、また、冬休みといえばテレビも子供向けにアニメを再放送でダラダラと長時間放送していたものです。

ちなみに著者自身は、芸人が正月の格好をして出演する番組(いわゆる「正月特番」)が子供のころから嫌いで、あまりテレビを見なかったクチですが、それでも多くの人は「正月はすることがないから寝正月」を決め込むなかで、テレビは正月の友だったのではないかと思います。

そして、2000年代を通じ、テレビを見る人が徐々に減っていっていたフシはありますが、それでも「テレビを見ていない」、あるいは「自宅にテレビがない」という人は、非常に珍しかったのではないでしょうか。

テレビがないことは特別な状態ではなくなってきた

いずれにせよ著者自身はかれこれ四半世紀ほど「テレビのない生活」を送っているのですが、2000年代前半あたりだとテレビを見ている人はいまよりもずっと多く、職場などでテレビの話題についていけないときに「変わった人」扱いされたこともあります。

しかし、最近だと「テレビがない」こと自体、特別なステータスではなくなりつつあるようです。

たとえば先日、とある神奈川県在住のシングルファーザー(年齢は40代後半)の方のお話をお伺いする機会があったのですが、この方は驚いたことに、もう何年もテレビがない生活をされているそうです。

なんでも数年前にテレビが壊れたことを契機に、お子さんたちも「テレビは無くて良い」と同意し、テレビを買い替えるのではなく、そのまま捨ててしまったのだそうで、「テレビなんかなくても全然困らない」とカラカラ笑っていたのが印象的でした。

また、最近、2000年生まれの独り暮らしの方と話をしたときも、やはり「僕は家にテレビを持っていません」と述べ、その場にいた20代の人も「僕もテレビを持っていません」と同意していました。これは著者自身の印象ですが、現在、30代前半くらいまでは、「テレビを持たない生活」を送る人は少数派ではないように思えます。

実際、総務省の『情報通信白書』を見ていると、図表1に示した通り、2013年時点ではまだテレビ視聴時間はそれなりに多く、10代や20代を中心にネット利用時間とテレビ視聴時間はほぼ拮抗していたものの、30代以降だとまだまだテレビの方が圧倒的な優位にありました。

図表1 平日のメディア利用時間(分、2013年)

(【出所】総務省『情報通信白書』等を参考に作成)

ところが、2023年時点では図表2の通り、40代までのほぼ全年代で、ネット利用時間がテレビ(と新聞、ラジオを合わせた時間)を上回っており、50代でもネットがテレビ視聴時間をほんの少し上回ったことが示されています。

図表2 平日のメディア利用時間(分、2023年)

(【出所】総務省『情報通信白書』等を参考に作成)

こうした調査結果、著者自身の主観ともうまく合致します。

もちろん、これらはあくまでも統計による調査に過ぎませんし、世の中は広いので、「若年層だけどテレビが大好き」という人もいれば、「中高年層だけどテレビを全く見ない」という人もいるでしょう。

ただ、一般的には若年層になればなるほど「テレビを見ない」という傾向があることは間違いありません。

通販番組が多いテレビ局

こうしたなかで、テレビが人々から見られなくなっている理由がなんとなくわかる記事がありました。

昼間はほぼ30分おきに放送、地方局に「通販番組」が多いのはなぜ?テレビ●●●に聞いてみた

―――2024/12/30 13:02付 Yahoo!ニュースより【週刊女性PRIME配信】

本稿は特定のテレビ局を貶める意図はありませんので、記事表題はわざとテレビ局の実名がわかる部分を伏せ字に加工しています(※記事本文を読めばすぐわかると思いますが…)。

記事執筆者の方によると、ある日、地元の地方局を点けっぱなしにしていたところ、通販番組(テレビショッピング)が「妙に多い」ことに気付いたのだそうです。

家にいながら運動不足を解消できる器具や、片耳につければ聞こえやすくなるという集音器、心地よく眠れるベッドパッド……キー局ではあまり見かけなくなったタレントとともに次々と商品が紹介され、電話申し込みで購入を促す番組が、断続的に続く」。

記事執筆者の方が調べたところ、この手のショッピング番組は1日に10本から、日によっては15本も挿入されているのだそうです。実際、番組表で調べてみても、多い日だと昼間はほぼ30分おき、夕方も1時間半おきにこの手の番組が挿入されており、首都圏の独立局でも似たような状況なのだそうです。

ではなぜ、この手の番組が増えるのか。

記事によると「広告代理店関係者」は、こんな趣旨のことを指摘したのだそうです。

  • 通販番組は、番組制作費は基本的に通販会社が持つため、曲としてはコストがほぼゼロで時間枠だけ売れるのがメリット
  • 民放キー局でさえ夜中はテレビショッピングが多く、ゴールデンタイムでも特定の企業などを大々的に特集しているほどだ

テレビ局側からはそっけない回答

なるほど。

これは非常に興味深い指摘です。

番組制作費が潤沢ではないなかで、視聴率が低い時間帯は通販事業者に時間枠を売り渡す、というのは、考え様によっては、やむにやまれぬ選択肢なのかもしれません(※個人的には、流す番組がないのならばその時間帯は停波したら良いのに、と思わないではありませんが…)。

しかも、健康器具だ、補聴器だ、安眠ベッドだといった、明らかに特定の年齢層を対象とした商品が紹介されるというのは、テレビの視聴者層が偏っていることの証左でしょう。

このあたり、最近の新聞の広告に、健康器具だ、サ高住(※)だ、金運サイフだ、尿漏れパンツだ、納骨堂だといったものが多く見られる(※著者私見です!)のと軌を一にしているのかもしれません(※「サ高住」は「サービス付き高齢者向け住宅」のことだそうです)。

ただ、この記事を読んでいてもっと面白かったのが、こんなくだりです。

実際のところはどうなのだろうか。テレビ●●●の編成局に、『貴局の番組放送時間にテレビショッピングが多い理由・ご事情をお教えください』など3項目の質問状を送ったが、『総合編成の観点から社内で協議し、放送番組の内容、放送時間などを決定しています』という簡潔なコメントが届いた」。

思わず爆笑してしまったのはここだけの話です。

テレビ局、平素から、他人に対してはやたら舌鋒鋭く偉そうに、「社会的説明責任を果たさなければならない」、「これについて納得のいく説明が必要だ」だのとぬかすわりに、自分たちが説明を求められたときの対応は、実にそっけないものです。おもしろすぎます。

いずれにせよ、当ウェブサイトでは普段から、「新聞業界はあと10年前後で絶滅の危機に瀕する」との仮説を掲げていますが、テレビ業界も意外と似たようなものなのかもしれない、などと思う今日この頃です。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 都市和尚 より:

    いつも楽しみに拝読しております。

    通販ではないのかもしれませんが、前澤さんのカブアントのCMも結構流れています。
    ちょっと調べてみたら、これで貰える株は上場するまで議決権と残余財産分配権がないそうです。上場前に潰す気マンマンの詐欺的スキームにしか見えません。有価証券届出書を出していることも、潰れた時に投資家の自己責任にするための方便のように感じてしまいました。リアルで潰れた時に、テレビ局がどんな対応をするのかちょっと楽しみです。

    最後になりましたが、1年間更新ありがとうございました。来年もよろしくお願いします。

  2. 丸の内会計士 より:

    テレビ局は、どうも存亡の危機のようで新聞より早い可能性があります。産業革命の最終段階で情報の非対称性が崩れてきたのが原因でしょう。SNSが大きな役割を果たしています。情報の非対称性が崩れ、業界慣行があらわになってしまいました。テレビ局の去就が気になりますが、注目は規制側の動きです。情報の非対称性の崩壊でこれまで見て見ぬふりをしてきた規制側も窮地になりそうです。テレビ局は、上場している企業が多いのですが、上場廃止基準に抵触する可能性が出てきました。これまで規制側もお題目で上場廃止基準とかを作ってきたわけですが、情報の非対称性の崩壊でお題目と言えなくなりそうです。

    1. 丸の内会計士 より:

      これまでの業界慣行とはいえ、接待される側のスポンサーや政治家、総務省への波及が気になるところです。オールドメディアがダンマリなのは、スポンサーや政治家からのプレッシャーがあるのかもしれません。
      情報の非対称性の崩壊をコントロールしたいのでしょうが、SNSの総本山のXのオーナーがイーロン・マスクでトランプと意気投合していますから、これは厳しい状況です。政治家もスポンサーも火消しに奔走するということで正月どころではないのかもしれません。

      1. 丸の内会計士 より:

        反社会的なメディアには、スポンサーもスポンサーできない。上場会社のスポンサーは、引かざるを得ないでしょう。あるテレビ局は、全面否定のようですが、そういう問題ではありません。疑いがかかった段階でスポンサーは、当該テレビ局との取引を中止しないと、自社の株主に説明がつきません。テレビ局は、厳しい状況で新聞社よりも早い可能性があります。

        1. 丸の内会計士 より:

          資本市場のロジックを理解していない経営者は、失格ですね。スポンサーは、上場企業が多いよね。反社のテレビ局からは引かざるをえないでしょう。広告出せない。

  3. sqsq より:

    いい名前思いついた「番組崩壊」
    漁夫の利で箱根駅伝の視聴率がすごい。昔は「あ~今年もやってるな」程度だったけどね。

  4. sqsq より:

    「通販番組」あれを番組と呼ぶのか。
    ジャパネットは自前のスタジオもってる。そこで作ってコンテンツをテレビ局に渡すだけ。
    テレビ局がもらえるのは「電波料」だけじゃないかな?

  5. Sky より:

    デパートだけでなく所謂スーパー系も、今ではテナントを自社で占有することはなく、他社に進出してもらって大家業の割合が増えています。
    同じアナロジーで、今では自社で番組制作する割合が減って単なる土管屋さんになってきたということでしょう。
    都市部にある立派な自社ビルも不要ですね。送信所と放送送り出し機器運用所(業界用語で演奏所という)、運用技術者さえあれば十分でしょう。
    そこまで割り切れば損益分岐点は引き下げできますね。

  6. CRUSH より:

    明けましておめでとうございます。

    電力自由化みたいに、
    「発電(コンテンツ制作)」と、
    「送電(地上波での発信)」とを、

    分離させたらよいのではないのかな。
    で、チャンネル数も2倍くらいに増やす。
    オークションして新規参入させる。
    通販番組を垂れ流して通行料だけ吸い上げる人たちは、これで撲滅かと。

    特段に反対もしなかった大手メディアは、それに反対する大義名分も無いでしょう。

    とりま、Googleなど大手の動画サイトが
    「今週のバズった動画ダイジェスト」
    「面白かったらサイトで動画を見てね」
    と、刺客を送り込んでくるかもね。

    ポータルとして薄くて広い情報をいつでもダラダラ流してる分には、地上波は適してるんだと思います。

    機材のメンテチーム以外は、社長以下数名の規模でよいような。

    まあ、お屠蘇の初夢なので戯言御容赦下さい。

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