国民民主が自公と「年収の壁来年引上げで合意」の意味

国民民主党代表としての役職停止中の玉木雄一郎氏が11日、自身のXに、国民民主党が自公両党と「103万円の壁」を巡り、「178万円を目指し来年から引上げが行われる」とする3党の合意文書を公表しました。少数政党でありながら政策を与党に呑ませるのは素晴らしいとみるか、「時期が明示されていない」点を不十分と見るかは人ぞれぞれかもしれませんが、まずは合意文書が出てきたことを巡っては、同党の榛葉賀津也幹事長の仕事が優れていると言って過言ではないでしょう。

玉木氏のXへのポスト

国民民主党の玉木雄一郎代表(※役職停止中)が11日、自身のXに、なにやら気になる内容をポストしました。

合意書の内容を文字起こししておくと、こんな具合です。

合意書

自民党、公明党及び国民民主党は、以下に合意する。

いわゆる「103万円の壁」は、国民民主党の主張する178万円を目指して、来年から引き上げる。

いわゆる「ガソリンの暫定税率」は、廃止する。

上記の各項目の具体的な実施方法等については、引き続き関係者間で誠実に協議を進める。

令和6年12月11日

自由民主党 幹事長

公明党   幹事長

国民民主党 幹事長

絶賛の声は「少数野党が政策本位で政治を動かした」

これを、どう見るか。

端的にいえば、絶賛の声と不満の声が同時に出て来ているようです。

絶賛の声は、「国民民主党が少数野党でありながら政策本位で政治を動かした」、とする意見がその代表例です。

この点はたしかにその通りでしょう。

各種世論調査でも、国民民主党はおもに若年層から大きな支持を得ていることが判明しており、おそらく先の衆院選でも、国民民主党に投票した人たちは「手取りを増やす」という同党の公約に魅力を感じたのではないかと思われます(※ただし著者の私見です)。

もちろん、少数政党や野党が主張した内容が政策に織り込まれたことが過去になかったのかといえば、そんなことはありません。自民党は過去に何度となく少数与党を経験していますし、また、長い自民党の歴史では、野党の案を「丸呑み」したというケースもないわけではありません。

しかし、国民民主党は勢力を4倍の28議席に増やしたとはいえ、しょせんは少数政党です。

というよりも、小選挙区を主体とした衆議院議員総選挙の仕組みにおいて、2大政党以外の政党が多数の議席を獲得することは難しいのが実情であり、こうしたなかで「政策を訴える」ことで議席数で4番目の政党となったことは、素直に賞賛に値します(本来は31議席だったのですが、候補者不足で3議席失いました)。

そして、躍進したとはいえ依然、少数政党に過ぎない国民民主党が主張してきた内容が、少数状態にあるとはいえ与党である自公両党に受け入れられたということは、たしかに「歴史的快挙」といえなくはありません。

その意味では、国民民主党の榛葉賀津也幹事長は、なかなかに素晴らしい仕事をしたといえます。

非難、失望、不安の声もないではない

ただ、この合意に対しては、絶賛一色でもありません。

まずは、いつもの「減税否定派」にとっては、こんな「ポピュリズム的な」政策が気に入らないのは当然でしょうし、相変わらず「財源はどうするのか」、「旧民主党時代の事業仕分けを思い出す、といった批判が出ているようです。

これについては正直、本稿で詳しく取り上げるつもりはありません。「日本が民主主義国家である以上、政策に反対が出てくるのは当然のことだ」、という点を指摘するのみに留めたいと思います。

その一方で気になるのが、「またしても自民党に騙されるのではないか」、といった意見です。

合意文にあった「いわゆる『103万円の壁』は、国民民主党の主張する178万円を目指して、来年から引き上げる」に関しては、「来年から引き上げる」のが「178万円」なのかどうか、この文章を読んだだけではよくわからないのです。

なぜなら「178万円に向かって」、とあるとおり、「来年から一気に178万円にする」とも読める反面、「最終的に178万円になるように、来年から少しずつ上げ始める」つもりだ、とも読み取れるからです。

ちょっと意地悪な言い方をすると、103万円から178万円への75万円の引き上げを、来年(2025年)に一気に実現するつもりなのか、それともたとえば今後15年かけて、毎年5万円ずつ(!)、といった具合に、小出しに行うつもりなのか、この文章だけだとわかりません。

だからこそ、この合意に対しては「期待外れ」との感想や、非難、失望、不安の声が出て来たとしても、それはある意味で当然のことでもあるのです。

年収の壁だけじゃない、税制や社会保障を巡るさまざまな課題

では、国民民主党を含めたこの3党の合意、減税を期待している人にとっては、絶賛して良いのか、それとも期待外れだと失望するのが良いのか、そのどちらが正解なのでしょうか。

正直にいえば、国民民主党が主張して来た「年収の壁178万円」という数値が明記されたことは評価すべきですが、それと同時にこの合意文だと、肝心の「178万円にする時期がいつなのか」がよくわからない、という欠点もあります。

あまりにも後ズレしたら、またインフレが進んでしまうかもしれませんし、そうなるとそのときには「年収の壁」を178万円ではなく、200万円、300万円などに設定しなければならなくなるかもしれません。せっかくの国民民主党が主張する「手取りを増やす」も、多くの人がその効果を実感できずに終わるおそれもあります。

さらにいえば、年収の壁問題は、103万円だけではありません。

約106万円を超えたら、一定要件の事業所だと社会保険への加入義務が生じますし、130万円を超えたら国民年金への加入義務が生じるからです。

すなわち、年収の壁問題は「103万円」をクリアしたらそれで「お終い」ではなく、社会保険料などを中心に、その後もさまざまな壁の問題を解決していかねばなりませんし、国民民主党が主張している消費税5%への時限的引き下げなどもどう実現するのか(あるいは実現できないのか)にも向き合う必要があります。

余るくらいなら最初から取るな

ただ、政治に対して不満を述べるのは自由ですが、敢えて申し上げておくならば、政治の世界ですべての人を納得させる「100点満点」はあり得ません。

国民民主党が掲げる減税は、(著者自身もそのすべてに賛同しているわけではないにせよ)結果論としては合理性のある主張であり、また、『【総論】「国の借金」説は、どこがどう誤っているのか』などでも述べたとおり、現在の日本は減税を行い、税収不足が生じた場合に国債を増発する余力も十分にあります。

いや、もう少し正確に申し上げるならば、多少減税したとしても、財源不足はおそらく生じません。

今年度すでに税収上振れも…財務省はなぜ減税を拒む?』や『じつは財務官僚は数字に弱い?毎年巨額の剰余金を計上』などでも指摘しましたが、わが国の一般会計は毎年、少なくない額の剰余金を計上し続けています。思ったほど歳出が伸びなかったこと、想定以上に税収が増えたことなどが原因です。

ちなみに日本の財政法の仕組みでは、余った予算は一部が翌年度に繰り越され、一部が地方交付税に組み入れられたり、国債の償還に使われたりするなど、国民のあずかり知らぬところで勝手に使われてしまうことが多いです。

ただ、「余るくらいなら最初から取るな」、という話に、多くの国民が気付くようになり始めたことは、非常に良い兆候です。

XなどのSNSでは、非常に多くのユーザーが日々、意見を取り交わしていて、なかには官僚顔負けの法知識や経済知識を持つ人もいますし、経済統計などの生データを読み込み、それらに基づいて財務省や総務省などの言い分を検証する人もいます。

官僚支配とメディア支配が崩れ始めた

そうなってくると、官庁にとっては、「こういう方針に決めたから、国民の皆さまにご理解をいただく」、というスタンスは許されなくなります。

これまで官僚機構は記者クラブなどを通じて新聞、テレビなどのマスメディアを支配してきましたが、それはマスメディアが世論を支配していたからこそ成り立つ図式なのであって、昨今のようにマスメディアが世論を支配する力を急速に失って来ると、マスメディアを通じて「国民の皆さまにご理解をいただく」ことができなくなってきます。

きょうび、テレビ「のみ」を視聴している国民は少数派でしょうし、テレビの「ワイドショー」とやらで出演者(※経済知識もろくにない人物)が、「それって全部借金なんです、国債なんですよ」、などと財務省の言い分をリピートしたところで、それに頷く国民は少数派でしょう。

だからこそ、最近は「財務官僚がSNSで謂(いわ)れのない誹謗中傷を受けている」というストーリーを、マスメディアあたりが捏造し、垂れ流しているのではないでしょうか。

さて、税金がらみや「年収の壁」がらみの話題だけでも、ここ数日「106万円の壁撤廃」だ、「防衛増税」だといった具合に、またぞろ、国民負担を増やすものがいくつか出て来ています。

ただ、国民民主党が躍進したことの「本当の意義」とは、まさに、「パンドラの箱」が開いたことでもあります。

つまり、今までだと(実質的に国会議員を上回る権力を持つ)官僚が法律を決め(=政府提出法案)、その法律に基づいて政省令を好き勝手に起案し、行政をわがものにしてきたのですが、この構図にSNSを中心とする国民がノーを突きつけつつあるのです。

当然、、新聞、テレビを中心とするマスメディア(というか、オールドメディア)もこの共犯者でしたが、マスメディア自体もSNSからノーを突き付けられる存在となりつつあります。

政治家よ、今こそ国民の側を向け

だからこそ、政治家はいままで以上に国民の側を向かねばなりません。

先の衆院選の例でもわかる通り、もしも政治家が官僚やオールドメディアの方を向くと、有権者からは容赦なく鉄槌を下されます(※石破茂首相は故・安倍晋三総理大臣が残した自民党の遺産を食い潰しているだけでなく、みずからメディアが仕掛けた「裏金問題」に乗っかり、自民党を惨敗に導いた「戦犯」でもあります)。

そして、石破首相はかつて、麻生太郎総理大臣に対し、退陣を要求したことがある、などと伝えられていますが、石破首相自身が率いた自民党が選挙で惨敗したわけですから、ご自身の過去の言動に照らして潔く退陣するのが筋ではないか、という気がします。

もちろん、自民党議員は石破氏を総裁に選んでしまった以上、任期満了まで石破体制を支える道義的責任はあるのですが、自民党が本当に有権者の側を向くならば、石破氏の降板を促すとともに、国民からの支持が高い人物を総理総裁に据えるくらいの動きが出て来ても許されるとは思います。

もし自民党にそれができないならば、自民党はまず来夏の参院選で改選第1党の地位を喪失する可能性すらあることについては、指摘しておく価値があると思う次第です。

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