外準の一部をビットコインで?プーチン容疑者の珍提案
何を言い出すのかと思えば、「外貨準備の一部をビットコインに振り向けよう」、だそうです。良いのではないでしょうか。ビットコインが外貨準備資産に適するのかどうかは知りませんが、ロシア大統領のウラジミル・プーチン容疑者がそう考えるなら、どうぞご自由に。ただ、IMFのデータなどで見ると、米ドルを含めた西側諸国通貨外貨準備としての地位が極端に低下しているフシはありません。
COFERに見る通貨の実力
当ウェブサイトでは「定点観測」的にウォッチしている統計がいくつかあるのですが、そのひとつが、国際通貨基金(IMF)が公表している『COFER』と呼ばれるものです。
『COFER』は英語の “Currency Composition of Official Foreign Exchange Reserves” を略したもので、意訳すれば『外貨準備通貨構成統計』とでも称すべきでしょうが、財務省や日銀などによる公式訳は見当たらないため、当ウェブサイトではそのまま『COFER』と呼ぶことが多いです。
その『COFER』は毎年3、6、9、12月末時点でその3ヵ月前のデータが公開される、という仕組みであり、したがって現時点で手に入る最新版は2024年6月基準のものです。
これについては『外貨準備の世界で進むのは脱ドル化よりも脱人民元化か』などでも詳しく取り上げましたが、ごく大雑把に数値を再掲しておくと、図表1のとおりです。
図表1 世界各国の外貨準備通貨別構成(2024年6月時点)
通貨 | 金額(前四半期比) | 割合(前四半期比) |
内訳判明分 | 11兆4983億ドル→11兆4655億ドル | |
うち米ドル | 6兆7748億ドル→6兆6754億ドル | 58.92%→58.22% |
うちユーロ | 2兆2538億ドル→2兆2653億ドル | 19.60%→19.76% |
うち日本円 | 6545億ドル→6411億ドル | 5.69%→5.59% |
うち英ポンド | 5625億ドル→5659億ドル | 4.89%→4.94% |
うち加ドル | 2956億ドル→3068億ドル | 2.57%→2.68% |
うち人民元 | 2471億ドル→2452億ドル | 2.15%→2.14% |
うち豪ドル | 2484億ドル→2564億ドル | 2.16%→2.24% |
うちスイスフラン | 219億ドル→224億ドル | 0.19%→0.20% |
うちその他通貨 | 4396億ドル→4869億ドル | 3.82%→4.25% |
内訳不明分 | 8854億ドル→8819億ドル | |
合計 | 12兆3836億ドル→12兆3474億ドル |
(【出所】International Monetary Fund, Currency Composition of Official Foreign Exchange Reserves データをもとに作成。なお、「割合」は「内訳判明分」に対するその通貨のシェアを示している)
米ドルは史上最低だが…それでも過半が米ドル、G5通貨だと9割弱
これによると世界各国の外貨準備に占める米ドルの割合は58.22%で、データで遡及可能な1999年3月末以降で見て過去最低水準です。
ただ、それと同時に、「過去最低」でも各国の外貨準備の過半が米ドルで占められている、という事実は変わりませんが、それだけではありません。米ドルに加え、たとえばユーロや日本円、英ポンドといった具合に、西側諸国の通貨が外貨準備の組入通貨として、圧倒的な存在感を放っている、という事実でしょう。
スイスフランは(通貨としての発行量が少ないためか)現状では世界の外貨準備の0.2%に過ぎませんが、それ以外の4通貨(米ドル、ユーロ、日本円、英ポンド)の合計は88.51%で、これにスイスフランや加ドル豪ドルを合算すれば、外貨準備の93.62%が西側諸国通貨である、といえるのです。
人民元はいったん増えたが、その比率はジリ貧傾向
これに対し、いわゆる「グローバルサウス」諸国が広く使用し始めている、などと指摘される中国の通貨・人民元も、割合としては2.14%に過ぎず、しかもその比率はジリ貧が続いています(図表2)。
図表2 世界の外貨準備に占める人民元建ての資産と人民元換算額
(【出所】International Monetary Fund, Currency Composition of Official Foreign Exchange Reserves データをもとに作成f)
具体的には、2021年12月時点で金額、割合ともに過去最多を記録したのですが、その後は比率、金額ともに低迷しているのです(後述する通り、その要因はおそらくロシアにあると思われます)。
また、COFERに掲載されている通貨は米ドル、ユーロ、日本円、英ポンド、人民元、加ドル、豪ドル、スイスフランの8つですが、これら以外の通貨に関しては、すべて「その他」にまとめられてしまっています。
そして、その「その他通貨」の割合は過去最大ですが、それでも全体の4.25%に過ぎません。
外貨準備に組み入れられるためには、一般論として、その通貨が国際的に自由に利用可能であることが必要ですが、じつはこの「国際的に自由に利用可能な通貨」というものは、世界でさほど多いわけではありません。
シンガポールドルや香港ドルのように、事実上、ハード・カレンシーとペッグしている通貨に加え、北欧系の通貨(とくにデンマーク・クローネやスウェーデン・クローナ、ノルウェー・クローネなど)、あとはせいぜいニュージーランド・ドルくらいなものでしょうか。
この点、IMFが「その他通貨」の内訳を出していないため、具体的にここに何が含まれるかはよくわからないのですが、少なくともここに(人民元や南アフリカランド以外の)BRICS通貨などが含まれる可能性は高くないでしょう(皆無とは言いませんが…)。
プーチン容疑者がビットコインを絶賛か
このなかで、ごく最近、「外貨準備を(事実上)没収された国」、というものがあります。
ロシアです。
【参考】ロシア中央銀行
そのロシア、最近だとやたらと「BRICS通貨の使用頻度が高まっている」だの、「BRICS相互間の貿易決済通貨は脱ドル化が進んでいる」だのと強気の姿勢を崩さないのですが、現状はそうでもないようです。
先日の『人民元国際決済シェアがまた低下:遠い「基軸通貨化」』などでも指摘しましたが、国際的な銀行送金システムを運用しているSWIFTのデータによれば、米ドルやユーロ、英ポンド、日本円といった西側諸国の通貨の決済シェアについては、ほとんど落ちていないからです。
ロシアの大統領ICCから戦争犯罪者として指名手配されている人物でもあるウラジミル・プーチン容疑者あたりは、口を開けば脱ドル化を叫ぶのですが、現実にはほとんどその動きは進んでいないようなのです。
こうしたなかで、時事通信が5日、こんな記事を配信しています。
「脱ドル」を呼び掛け ビットコイン称賛 ロシア大統領
―――2024/12/05 09:49付 Yahoo!ニュースより【時事通信配信】
時事通信によると、「プーチン大統領」(※プーチン容疑者のこと)が4日、準備資産を「政治的な理由で没収されやすい外貨で持つ必要性」に疑問を呈し、そのうえで「資金を国内への投資に回す方が魅力的だ」と主張したのだそうです。
そのうえで、米国がドルを政治目的で使用し、世界の準備資産としての役割を弱くさせたため、多くの国が代替資産に頼る必要性に迫られているとし、暗号資産のビットコインを例に挙げたうえで、コストや信頼性の観点から、新たな決済技術の発展が必然だ、といった見方を示した、としています。
ロシア中銀、ビットコインで外貨準備を持てば良いのではないでしょうか。
ビットコインが世界中で広く使用可能な「通貨」といえるのかはよくわかりませんが、ロシア当局がそう考えるなら、自由にすれば良いと思います(それがいかなる結果をもたらすかはわかりませんが)。
ちなみに先ほども挙げたCOFERのデータによれば、人民元の外貨準備に占める割合が最大だったのは2021年12月のことで、これはロシアが外貨準備を人民元にシフトさせたことが大きな原因ではないかと思われます。
言い換えれば、ロシアは主要通貨の中では唯一、人民元建ての外貨準備については凍結を免れた可能性がある、ということですが、その人民元建ての資金も枯渇しつつある、ということを示唆しているわけです。
いずれにせよ、「外貨準備をビットコインで」と言い出す程度には現在のロシアが資金不足状況にある、という点がわかったという意味で、なかなかに興味深いと思う次第です。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
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1箇所だけ分からない部分があります。
>>ロシアは主要通貨の中では唯一、人民元建ての外貨準備については凍結を免れた可能性がある、ということですが、その人民元建ての資金も枯渇しつつある、ということを示唆しているわけです。
この部分が理解できません。
https://www.jetro.go.jp/world/russia_cis/ru/basic_01.html
↑JETROの統計によると、ロシアの2023年の貿易収支は前年から大幅減ではあるものの1,209億ドルの黒字で経常収支も502億ドルの黒字。
相手国別の内訳が分からないんですが、中国の貿易データをみると、
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2024/5a95e18f32be7d77.html
↑中国から見て輸出が1,114億ドルの輸入が1,276億ドルなので差し引きロシアが162億ドルの黒字。
同じくEUに対してもロシアが123億ユーロの黒字。
ロシアはかなりデフォルトしにくい国だと思うんですが、人民元が不足するとしたらどういう要因があるのでしょうか?
人民元決済、中露間だけじゃないからでは?
返信ありがとうございます。
ということは、中国との貿易で稼いだ人民元よりも第三国への支払いに使う人民元の方が多いという状況ですか?
しかし、ロシアは全体として黒字なので、第三国からも支払うより受け取る方が多いんじゃないですか?
もし人民元が不足するなら、他の外貨が増えてしまうんじゃないですか?
何かの記事でインドとの貿易ではルーブル建てにしようにもインドが殆どの国に対して赤字なのでルーブルを手に入れられず、止むを得ずルピーで受け取ってるけど受け取ってくれる国が無いためそのままインドに再投資、しかし配当がまたルピー、というちょっと笑える内容が書いてありました。
中国に黒字なのに余るはずの人民元が不足して赤字国のローカルカレンシーが増えてるとしたら、赤字国にとってロシア貿易は凄く美味しいですね。
ビットコイン準備は良さそうですね。昼間っからウォッカ飲んでビットコレート眺めてるだけで楽しい生活になるかもしれません。
ヤフコメって結構面白い(京仕草)ので、上辺だけさっと読むことがあるのですが。
なんと「経済規模では既にG7はBRICsに抜かれている」そうです。私には47兆ドル:27兆ドルとなるIMF資料しか発見できませんが、断言する以上きっとそうなのでしょう。
数字を読まない人がロシアフレンズになるのか、ロシアフレンズになると数字が読めなくなるのか……或いは私こそがIMFの陰謀に騙されているのか。そして当該コメント主はなぜIMFの陰謀を暴けて闇の世界の情報に通じ、更にそんな凄まじい情報をヤフコメなんぞに気軽に書き込めたのか……謎は深まるばかりです。
暗号資産の「増やし方?」を、北から指南された説。
先んじて窮すればこその「一日の長」なんですものね。
プーチン「ビットコイン、イイネ!」
エルサルバドル・ベネズエラ・パラグアイ・ジンバブエ「いらっしゃ~い」
まあ、好きにすればいいんじゃないすかね。(笑)
ロシアつながりということで。
シリア内戦でロシア軍のプレゼンスが毀損して反政府勢力が勢いづいています。
先日の北部アレッポに続いて昨晩より南のハマーが陥落したそうです。政府軍の兵士は逃げまくっているようです。
ハマーの近くにタルトゥースという沿岸都市があり、ロシア海軍の地中海唯一の拠点があるそうですが、衛星写真によって海軍艦艇が引き払ってしまったらしいことが確認されたようです。
ISW
https://x.com/TheStudyofWar/status/1864122614353977391
ロシア軍が反政府勢力のタルトゥースまでの進軍を想定している可能性と、それを阻止するための増援部隊を送る意図もないのではと予想しています。
タルトゥースの艦船は黒海艦隊の指揮下だそうですが、ボスポラス海峡を通れないため北のカリーニングラードまで引き払うのではないかと言われています。
ロシアがかつて大国であった頃のバランス(虚構?)がここでもまた崩れつつあるようです。
イワンの去った空き家に陣取るのはハタシテ…