北朝鮮軍のウクライナ派遣疑惑受け韓国がロシアに抗議

北朝鮮がロシアに兵士を派遣している可能性が指摘されている、といった話題に関連し、いくつかの続報が出ています。この点、北朝鮮兵士がロシアによるウクライナに対する攻撃に直接関与したとする確たる証拠が出て来た、といった報道等は、現時点ではまだあまり見当たりませんが、予想通り、北朝鮮軍のロシア覇権を巡って、やはり韓国が強く反発したようです。

北朝鮮兵がロシア領内で脱走か

先日の『砲弾に続き兵隊も…?北朝鮮ロシアの侵略戦争に加担か』でも取り上げたとおり、最近、北朝鮮がウクライナ戦争の前線に部隊を派遣している可能性が生じているなどと、複数のメディアが報じ始めています。

こうしたなかで、ウクライナの国営メディア『ウクルインフォルム(UKRINFORM)』が21日、「ウクライナ国防省情報総局の関係者」の発言として、ロシア領クルスク州のロシア軍陣地から脱走を試みた北朝鮮兵18名がブリャンスク州で拘束されたと報じました。

ロシアに派兵の北朝鮮兵18名、逃亡を試みるも、露ブリャンスク州で拘束される=ウクライナ関係者

―――2024/10/21 16:14付 UKRINFORM日本語版より

ウクルインフォルムが報じた「関係者」の発言を、少し日本語表現を整えて引用すると、「クルスク州におけるロシア占領軍陣地からの逃亡を試みた北朝鮮軍人は、ウクライナ軍に対する攻撃に駆り出される可能性があった」、「拘束された軍人は逃亡地点から60㎞離れた地点で発見された」、ということだそうです。

これに加えて同関係者は、クルスク州ホムトフカ地区の森の中の陣地に、約50名のロシア兵とともに約40名の北朝鮮軍指導官が駐留していたとも伝えたのだとか。

韓国政府高官がロシア大使呼んで抗議

詳しい状況についてはウクルインフォルムの記事を直接読んでいただきたいのですが、記事から判断すると、今回逃亡を試みた北朝鮮兵は、少なくとも現時点までにウクライナ軍と直接交戦したとまで断定できるわけではなさそうです。

したがって、仮にウクルインフォルムが報じた「ロシア領内で北朝鮮軍人がウクライナ国境付近に展開している」とする内容が事実だったとして、これを「北朝鮮がロシアに派兵をし始めた証拠」だと現時点で断じるには、少し根拠が弱いといえます。

(といっても、もし北朝鮮兵がロシア占領下のウクライナ領内に駐留しているならば、それはそれでかなり微妙ではありますが…。)

ただし、現時点においても本件が穏便に済まされるものとは限らなくなってきました。

「とある国」が反応しているからです。

ロシアに北朝鮮兵の撤収要求 韓国外務省、大使呼び出し

―――2024年10月21日21時10分付 時事通信より

時事通信によると、韓国政府外交部の金烘均(きん・こうきん)第1時間は21日、ゲオルギー・ジノビエフ駐韓ロシア大使を外交部に呼び出し、「ウクライナ侵攻に参加するためにロシアに送られた北朝鮮の兵士たちを直ちに撤収させ、軍事協力を中断する」よう求めたそうです。

「あの」韓国がNATOと連携?

ただ、話はそれにとどまりません。

韓国は本件を巡って、NATOとも連携を取る意向を示しているのです。

金烘均氏はまた、北朝鮮の派兵を「国際社会に対する重大な安全保障上の脅威」だと指摘した一方、韓国の尹錫悦(いん・しゃくえつ)大統領もマルク・ルッテNATO事務総長と電話で会談し、露朝間の軍事協力に関する情報共有を迅速化するために韓国政府代表団をNATOに派遣することで合意したそうです。

韓国といえば、米国の同盟国でありながらも、これまでどこか対ロシア制裁には及び腰な部分が見られましたが(著者私見)、さすがに韓国にとっても、自分たちの「同胞国家」(?)である北朝鮮が海外で大々的に不法行為に加担しているとなれば、見過ごすことは難しいでしょう。

「あの」韓国ですら(どこまでやるのかはともかくとして、少なくとも公式には)NATOとの連携を表明するくらいですから、やはり北朝鮮軍人のロシア派遣は、今回の紛争で大きな転換点となり得ます。

時事通信によるとジノビエフ氏は在韓ロシア大使館のフェイスブックに、「(北朝鮮との)協力」を巡っては「国際法の枠組みの中で実現されている」ものであり、「韓国の安保上の利益には反しない」と反論したのだそうですが、この言い分には、さすがに無理があります。

というよりも、北朝鮮という「第三国」がロシアによる無法な戦争行為に加担していたことが明らかになれば、今回の戦争も「宇露戦争」という二国間の紛争から、一気に多国間の国際軍事紛争に転換する可能性が出てきたのです。

沈静化狙う各国

ただし、これがそのままNATOとロシアの全面戦争に入るのかどうかは微妙でしょう。

NATOとしてはウクライナ戦争により介入しやすくなる(かもしれない)反面、ロシアと西側諸国との対決が全面紛争化する可能性もあり、さらには偶発的な核戦争への警戒も生じてくるゆえんです。

実際、ロシア当局も沈静化を意図しているフシがあります。

ロイターの次の記事によると、大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官は「北朝鮮兵がウクライナ戦線に投入されるか」との質問には答えず、「北朝鮮の協力は第三国に向けられたものではない」と述べるにとどめたのだそうです。

韓国がロシア大使呼び抗議 北朝鮮兵派遣は「違法な軍事協力」

―――2024年10月21日午後 7:21 GMT+9付 ロイターより

これに加えて同じロイターの記事の末尾では、中国外交部の報道官も「すべての関係国が事態の緩和に取り組むことを期待する」と明らかにしたのだそうですが、この「北朝鮮参戦疑惑」は、それだけに厄介な問題といえるのかもしれません。

なお、少しだけ余談です。

勘違いしている人もいるようなので指摘しておきますが、ウクライナ戦争を巡り、中国やインドが「ロシアの味方」であるかどうかはまったく別問題です。西側諸国によるロシア制裁に中国が加わっていないことは事実ですが、これは「中国がロシアを積極的に支援している」ことを意味するとは限らないからです。

このあたりは、通常の社会生活を営める程度のリテラシーを持っていれば、わざわざ指摘する必要もない話かとは思いますが、念のため。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. はにわファクトリー より:

    ロシアから沿海州&サハリン権益を融通してもらい「極東雄国」に成長するという高望みの夢は
    1.ロシアに勝った戦勝国として獲得する
    2.朝鮮半島統一のけりを自力で付けて獲得する
    3.どちらもうまく行かず今のままとなる
    未来はどれか。
    そしてバイデンハリス政権は今現実に失敗している。

  2. 引きこもり中年 より:

    毎度、ばかばかしいお話しを。
    ロシア:「あれは北朝鮮兵士ではない。北朝鮮からロシアへの移民が兵士になったのだ」
    まさか。

  3. 引っ掛かったオタク より:

    北による1人あたり3万ドルの外貨出稼ぎ兼国内口減らしトカナントカ流布サレトルげにアリマスがハテサテ…
    砲弾供給は外貨&弾道ミサイル技術とバーターかと思ってオリマシタが、4個旅団相当の人員などとも報じられとる通りならマァお手並み拝見?ソンナノドカナ調子デ大丈夫カじゃぱん??
    まー
    マァ一説によれば今回逃亡の人員はパレードごっこ位しかやったコトないハリボテ部隊だとかなんとか、南も実戦経験積まれるのはイヤでしょうし…しかしいったいどーなってしまうのか…

  4. ナナキ より:

    〉さすがに韓国にとっても、自分たちの「同胞国家」(?)である北朝鮮が海外で大々的に不法行為に加担しているとなれば、見過ごすことは難しいでしょう。

    完全に私見なんですが、韓国にそんな良識ないかと思ってます。
    むしろ、北の兵力損耗するなら喜ぶかと。。

    何か自分達に不都合出るのでは?

    何が不都合か分からないですが有識者のかたの意見をうかがいたいです。

    以下、3つくらい素人かんがえであげてみましたが・・・3番目だとすると、日本も本格的に対策はじめないとまずいと思います。

    ・傭兵代で北が潤うのが嫌(いままでの弾薬供給は問題なかったのか?
    ・米に怒られた(大統領選でそれどころではなさそう
    ・北の実戦経験積まれるのがまずい(そろそろ内戦再開しそうなので

    1. はにわファクトリー より:

      公開動画に映っているのは丸刈りの少年兵ばかりに見えました。
      韓国にはこんな未来構想があるのではと推測しています。
      「南北統一の暁には仕事にあぶれて食うに困っている旧北朝鮮同胞たちに慈悲をもたらし、低賃金労働者集団として広く旧韓国社会に受け容れ、社会運営コスト・産業コストを下げて統一ちょそんの国際競争力は劇的に向上する」
      だがもし北朝鮮が若い世代をウクライナ領土でミンチにしてしまうと、若年労働力の大量移入を通じた国際競争力爆揚げ構想は瓦解してしまう。
      現行韓国の社会問題の根幹は職が足りていないことであり、よって寝そべりを実践する若年層と労働機会に恵まれない高齢化層のどちらもが救われない状況が続いている。この背景にあって、統一が国際競争力加速を生み出すのか、低収入人口に究極の人生破壊をもたらすのか、分かったものではないはずなのですが、そんなことをgdgd議論するまえに、やはり板門店強行突破しかないのでは。

    2. 匿名 より:

      北朝鮮と韓国の区別がつかない方々が
      韓国軍がウクライナと戦うのだと勘違いする不都合

      実際にあったようです

  5. 来た!貂蝉、呂布テッド軌道で撃てw より:

    北の首領様もとうとう軍隊を切り売りしないと立ちいかなくなってきたということでしょう
    https://www.asahi.com/articles/DA3S16064602.html
    >売り兵とハングルで書く三代目

    「売り家と唐様で書く三代目」のパロディですね、秀逸です

    1. はにわファクトリー より:

      (こんなん出ましたけど)
      AI による概要
      ・「売り家と唐様で書く三代目」は、初代が苦労して築いた財産を三代目が遊び暮らして使い果たし、家を売りに出すようになることを戒めることわざです。
      ・「唐様」は中国風の書法を指し、江戸時代では「売家」は漢字で書くのが一般的でした。このことわざは、初代が苦労して築いた財産を三代目が贅沢三昧に費やし、家業をおろそかにして遊び暮らした結果、家を売りに出すようになる様子を皮肉った川柳に由来しています。
      (和様ではなくて唐様)

  6. sqsq より:

    ロシア側のメリット:兵士不足を補う傭兵のようなもの。しかも安上がり
    北朝鮮側のメリット:外貨稼ぎ、口減らし、+最新兵器での近代戦の経験が積める。

    1. はにわファクトリー より:

      ロシア側のメリット:民族浄化に役立つ
      ロシア民族が損なわれておらず、モスクワ・ペテルブルグは今も繫栄しており、西側制裁はきいていないという社会虚構は、地方少数民族人口殲滅によって成り立ってきた。ついに数が足らなくなったが、国家動員令を発令したらウソコが瓦解する。よって時間稼ぎのために、北朝鮮から兵士を買って来た。しばらく持つだろう、たぶん
      北朝鮮側のメリット:ハレの世界舞台において主人公級の扱いを受けることができる

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