沖縄県が新聞社に対する長期無利子融資の支援を計画か

沖縄県が琉球新報に8.5億円もの長期無利子貸付けを実行しようとしている―――。情実融資ではないか、県政と特定メディアの癒着ではないか、あるいは沖縄県から融資を受けた新聞社が、行政を批判できるのか、など、即座に疑問がいくつも浮かびますし、「反知事派」が過半数を占める現在の沖縄県議会で、そのような予算案が通る可能性がどれほどあるのか不明です。ただ、個人的には新聞社が公的融資に頼ろうとする事例が出て来たという意味で、新聞業界はついに一線を越えようとしているようにも見えます。

沖縄県が新聞社への長期無利子貸付けを上程

沖縄県石垣市に本社を置く『八重山日報』は4日、沖縄県が琉球新報社に対し、印刷機更新費用として総額8億5300万円を長期無利子貸付けする予算案を上程したことを巡り、自民党県議が問題視していると報じた。

琉球新報に8億5千万円貸与へ 自民、県の予算案疑問視

―――2024/10/05 04:00付 Yahoo!ニュースより【八重山日報配信】

同記事によれば、問題の貸付けは沖縄県が県議会9月定例会に上程した予算案に含まれていたもので、総事業費26億8200万円の事業費の3分の1に相当する、としている。

八重山日報はまた、自民党の島袋大県議の質問に対し、県企画部長は「ふるさと融資」の制度を活用し、次世代型の印刷機導入による印刷速度の向上、作業時間短縮、コスト削減などの効果を説明したと報じている。

………。

自業自得の新聞業界

終焉に向かう新聞業界:その理由は「自業自得」

普段から当ウェブサイトでは頻繁に指摘している通り、新聞業界は現在、衰亡に向けてひた走っています。

本稿末尾に図表として再掲しておきますが、新聞部数は急落し(本稿末尾図表A)、人々は新聞を読まなくなり(本稿末尾図表B)、そして新聞は広告媒体としての魅力を失っている(本稿末尾図表C)からです。

とりわけ新聞部数については、夕刊部数の激減が印象的です。

主要全国紙、主要ブロック紙においても撤退ラッシュが発生しているほか、3大夕刊紙の一角を占めていた『夕刊フジ』が来年1月末をもって事実上の廃刊となる(『夕刊フジの休刊が象徴する新聞業界の苦境…夕刊消滅か』参照)など、業界全体において夕刊が消滅する兆候は随所に出ているからです。

なぜ新聞業界が滅亡しそうになっているのか。

これについては当ウェブサイトにおいて、もう何百回、何千回と強調してきたとおり、新聞業界はこれまで、自分たちの仕事に対してあまりにも不誠実であり、あまりにも無責任だったからです。

これは、いったいどういう意味でしょうか。

新聞社にとっての「製品」とは?

これについては、企業、会社というものの本質を考えてみればわかります。世の中にはさまざまな会社がありますが(一説によると、日本国内だけで数百万社という会社があるそうです)、たいていの会社にはその会社の「製品」があり、それらの「製品」を売ることでおカネ儲けをしています。

トヨタ自動車ならば安全で快適で燃費やデザイン性能にも優れた自動車がウリですし、任天堂ならば面白くて魅力的なゲームの世界観を世に示しています。ちなみに任天堂株式会社ウェブサイト『社長からのメッセージ』には、こんなことが書かれています。

娯楽企業としての任天堂の使命は、任天堂の商品やサービスを通じて、世の中の人々を笑顔にすることにあります。そのために、お客様にこれまでとは違った、新しく面白い娯楽体験を提供することに挑戦し続けています。

これを、新聞社に当てはめたら、どうなるでしょうか。

トヨタ自動車にとっての製品が「優れた自動車」だとしたら、また、任天堂にとっての製品が「人々を笑顔にする面白いゲーム」だとしたら、新聞社にとっての製品は、さしずめ「世の中で生じていることを、早く正確に人々に伝えること」ではないでしょうか。

日本の新聞社には、果たしてこれができているのでしょうか?

捏造、偏向、誤報…最近では悪質な切り取り報道も!

正直なことを申し上げるならば、その答えは限りなく「NO」に近いでしょう。

新聞社のカメラマンが沖縄県の珊瑚にわざと傷をつけ、『サンゴ汚したKYってだれだ』と大々的に報じたこと。

自称元慰安婦問題が日韓間の外交問題化する契機となった、自称文筆家の故・吉田清治氏の虚偽証言を、さも事実であるかのように報じたこと。

福島第一原発事故を巡り、故・吉田昌郎所長によるいわゆる「吉田調書」の内容を巡る「スクープ記事」が、事実に反していたこと。

ここ数十年の間で発生した誤報、捏造報道事件は非常に多いのですが、これらの著名な誤報や捏造報道だけでなく、新聞社(や通信社)が好む手法としては、「角度を付けること」、「発言を切り取ること」、などが挙げられます。

これらのうちとりわけ「切り取り報道」は悪質です。発言の一部分をわざと切り取ることで、発言者が意図していない内容を持たせるという手法だからです。

実際、今年5月に上川陽子外相(当時)が静岡県知事選の応援で、「うまずして何が女性か」と発言した際には、共同通信がこれを出産と関わらせて報じています。日本語版はのちに訂正したようですが、英語版(次のリンク参照)だと、本文で “childbirth” という用語を使っています。

Japan minister queries women’s worth without birth in election speech

―――2024/05/18 20:48付 共同通信より

ではなぜ、共同通信はここで “childbirth” という用語をわざわざ使ったのか。

これについて共同通信は産経ニュースの取材に対し、「一連の発言は『出産』を比喩にしたものと考えられます」、「上川氏が『出産』と明示的に述べなかったとしても、発言の解釈として『childbirth』という表現を用いました」と回答しています。

外相「うまずして」英訳記事、男性に言及あり「明示なくても『出産』比喩」 共同通信回答

―――2024/05/21 19:04付 産経ニュースより

まさに、開き直りそのものです。

ちなみに共同通信社は「通信社」であって「新聞社」ではありませんが、通信社が配信した記事は地方紙を中心に複数の新聞に引用されるため、「新聞の情報に切り取りが多い」という具体例としては、この「産まずして」発言は格好の題材、というわけでしょう。

見透かされている新聞業界

いずれにせよ、著者自身の主観だと、新聞業界はこれまで捏造、誤報などをさんざんやらかしたせいでしょうか、最近だと「うまく切り取る」―――つまり、「ウソはついていない」、と開き直ることができるようなパターンの報道が、非常に増えている気がします。

ただし、「うまく切り取っている」と思っているのは新聞業界の「中の人たち」だけなのかもしれません。

今から10年以上前の、まだ新聞に社会的権威が残っていた時代ならばいざ知らず、「新聞は時々ウソをつく」という事実が大々的にバレている昨今のネット社会だと、新聞の「切り取り報道」は、あっというまに証拠付きで拡散します(『切り取り報道の責任は切り取られる側にあるとする珍説』等参照)。

このように考えていくと、正直、新聞業界が「滅亡の危機」に瀕している理由に関しても、自業自得という表現が適切です。現在の新聞が垂れ流している記事は「水道管が色水を垂れ流しているようなものだ」という点が、広く共有された結果であると思われるからです。

もちろん、新聞社が「角度を付けた情報」、「不正確な情報」を流すのは、今に始まったことではありませんが、ネットの普及によりこうした事実が可視化され、「色水を吐き出す水道管」である新聞に対する信頼が急降下している、という側面が強いのではないかと思う次第です。

ついに新聞業界に公的支援か

危機の新聞業界、公的支援に頼るのか?

さて、新聞社の経営が傾いている理由はさておき、「次の展開」として必ず来るのが、「新聞事業を公費で助成すべきだ」、といった主張ではないかと思います。

以前の『【インチキ論説】日本の文化を守るため新聞に補助金を』では、新聞業界の「中の人」になったつもりになって、「ネット規制の強化+新聞購読クーポンの配布などを通じた新聞社への補助金の提言」などという、なかなかに狂った論説を掲載してみました。

ただ、これはべつに当ウェブサイトにおいて勝手にでっち上げたものではなく、新聞記事やツイッター(現X)などを通じて垣間見える、現実に新聞業界の中の人が発信している内容をかなりの程度参考にして作成したものであり、そこそこ精度は高いのではないかと自負しています。

また、今年の『【インチキ論説】新聞版「特殊負担金」で民主主義守れ』では、さらに一方踏み込んで、全世帯から半強制的に新聞購読料を巻き上げるべきだとする、これまたメチャクチャなインチキ論説を掲載してみました(その時点のメディア業界人らの寝言をかなりの程度パロディとして織り込んでいます)。

ちなみに「特殊負担金」とは、NHKがテレビを設置したすべての人から半強制的に受信料を巻き上げる際の屁理屈のことですが(その意味ではNHKもかなり腐った組織です)、「NHKに認められるのだから新聞業界にもそのような利権を寄越せ」、といった、かなり歪んだ考え方が、その背景にあります。

現実がインチキ論考に追い付いてきた!?

ただ、当時はこれらのインチキ論説、「まさか、公費で新聞業界に支援を行うなどということはあり得ない」、などと思いながら執筆したのですが、現実が追い付いてきたようです。

それが、冒頭でも取り上げた、『八重山日報』による「琉球新報への長期無利子融資」という話題です。

琉球新報に8億5千万円貸与へ 自民、県の予算案疑問視

―――2024/10/05 04:00付 Yahoo!ニュースより【八重山日報配信】

琉球新報といえば、沖縄タイムスと並んで、現在の玉城デニー県政に対して好意的な報道を続けているメディアとしても知られていますが、ツッコミどころは満載です。

たんなる情実融資ではないか、県政と特定メディアの癒着ではないか、あるいは沖縄県から融資を受けた新聞社が、行政を批判できるのか―――、といった点について、即座に疑問がいくつも浮かびます。

ただ、経営論として見るならば、「そこまで経営が逼迫しているのか」、「銀行からおカネは借りられないのか?」、「リース会社などのノンバンクも相手にしてくれないのか」、といった点が印象的です。

経営論的に見ると興味深い

このあたり、新聞社が経営の内情をほとんど外部に開示していないため、新聞印刷設備の更新がどの程度のタイミングで必要なのか、1回あたりのコストはいかほどなのか、など、不明な点も多くあるのですが、やはり一番興味深いのは、「公的な資金に頼らざるを得ない状況に追い込まれている可能性」の有無でしょう。

金融機関が設備資金を融資する際は、当然、融資審査部門において、その設備が生み出すフリー・キャッシュ・フロー(FCF)を試算し、その企業に返済力があるかどうかなどを厳しく査定するのですが、公的融資だとこの査定が甘くなりがちです(著者自身、このあたりの生々しい事例をいくつも存じ上げています)。

最悪の場合、長期融資を行ったとして、それが「焦げ付く」という可能性を考えておかねばなりませんし、そうならないためにも、もし融資を行うならば、融資先の経営内容(正確な実売部数やその見通しなど)についての信頼に足る詳細な資料を要求するのが筋でしょう。

といっても、現在の沖縄県議会では、定数48議席中、自民党を主体とする会派「沖縄自民党・無所属の会」が22議席、公明党が4議席、維新の会が2議席、少なくとも合計28議席が「反知事派」で占められているため、そもそもこのような融資を含んだ予算案が通る可能性がどれほどあるのかは疑問です。

ただ、それ以上に、「新聞社に対して行政が直接支援に乗り出す」、あるいは(※未遂で終わる可能性が高いため)「乗り出そうとした」、という意味では、今回の予算案は異例なものであることは間違いありません。

その意味では、いよいよ地方紙を中心に、新聞社経営が回らなくなってきた可能性がある、という点については、留意しておく価値があるでしょう。

参考資料

なお、参考までに、冒頭に挙げた「新聞業界の衰亡を示す証拠」に関する図表A~Cは、次の通りです。

図表A 新聞の合計部数の推移

(【出所】一般社団法人日本新聞協会データ【1999年以前に関しては『日本新聞年鑑2024年』、2000年以降に関しては『新聞の発行部数と世帯数の推移』】をもとに作成。なお、「合計部数」は朝夕刊セット部数を1部ではなく2部とカウントすることで求めている)

図表B 平日の新聞の利用時間
年代2013年2023年増減
10代0.6分0.0分▲0.6分(▲100.00%)
20代1.4分0.5分▲0.9分(▲64.29%)
30代5.8分0.5分▲5.3分(▲91.38%)
40代8.6分2.7分▲5.9分(▲68.60%)
50代18.6分7.6分▲11.0分(▲59.14%)
60代28.0分15.9分▲12.1分(▲43.21%)
全年代平均11.8分5.2分▲6.6分(▲55.93%)

(【出所】総務省『情報通信白書』データをもとに作成)

図表C 広告費の推移(新聞・折込)

(【出所】株式会社電通『日本の広告費』データおよび当ウェブサイト読者「埼玉県民」様提供データをもとに作成)

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. はにわファクトリー より:

    こんな新聞はタダ読みで十分だ。
    大切なお客である読者を怒らせた新聞産業に存続の可能性はありません。
    売り上げ・給料の稼ぎ方は自分たちで真摯にお考えになればいいでしょう。

  2. sqsq より:

    無利子融資、軽減税率と合わせ技1本だね。

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