「テレビ出演を当面自粛」で済まされない列島民族発言

「劣等民族」発言、ホロコーストを招いたナチスドイツの „der Untermensch” を彷彿とさせるものであり、人種差別を助長するものです。当ウェブサイトでしばしば取り上げて来た「劣等民族」発言、発言者が2週間ぶりに撤回・謝罪したうえでテレビ等への出演を「当面自粛する」と述べたそうですが、「当面自粛」して済む話ではありません。これはテレビ業界全体の問題だからです。

「れっとう民族」は「列島民族」?無理がある用語

テレビの報道番組などにレギュラー出演していることでも知られるジャーナリストがYouTube配信で、日本で自民党が勝利し続けている点を巡って、「れっとう民族」などと発言した問題は、『自民党を勝利させ続けている日本人は劣等民族なのか?』などでも取り上げてきたとおりです。

ただ、この「れっとう民族」、文脈から考えると「劣等民族」ですが、これを「本人は『劣等民族』ではなく『列島民族』という意味で述べたに違いない」、などと擁護する意見も出て来ているようですが、文脈に照らして、さすがに無理があります。

発言の前後を見ると、「自民党を当選させている日本人は劣等民族だ」、の意味であることは明らかだからです。

発言からしばらく沈黙したテレビ業界、ノーコメントで逃げるTBS社長

ちなみにこの「劣等民族」発言がなされたのは今月14日ですが、その後、しばらくの間、ご本人に加え、その周囲(たとえばご本人が出演しているテレビ局の関係者など)は沈黙を守り、先週になってようやく、TBS側から見解が出てきました。

それも驚くことに、TBSテレビの龍宝正峰社長は25日の記者会見で、「われわれが放送する番組以外の発言だ。それに関してのコメントをこの場で申し上げるのは控えたい」と逃げたのです(『「劣等民族」発言問題でTBSが回答控える=産経報道』参照)。

何だか、非常に理解に苦しみます。

これがもし、自民党の関係者による発言だったならば、あるいは保守言論人の発言だったならば、新聞、テレビは総出でその発言者を叩いていたのではないかと思われますが、発言者がテレビ業界のレギュラー・コメンテーターだとおしなべて沈黙してしまうのです。

こんなふうだから、新聞業界やテレビ業界は「マスゴミ」などと呼ばれるのではないでしょうか。

発言から2週間で…やっと撤回&謝罪

さて、この発言を巡って、昨日、ようやく続報が出てきました。産経ニュースによるとこの発言者は27日の動画配信で、例の「劣等民族」発言を撤回したうえで謝罪したのだそうです。

自民支持者「劣等民族」発言を撤回 ジャーナリストの青木理氏、地上波テレビ出演を自粛

―――2024/09/28 17:10付 産経ニュースより

発言したのが14日、撤回・謝罪が27日ということで、2週間もの時間を要した格好です。

産経によるとこの人物は「たと軽口とはいえ、極めて不適切だった。それについて謝罪して、撤回する」と釈明したうえで、地上波のテレビ番組の出演についても「当面自粛する」と明らかにしたそうです。

ただ、発言から撤回・謝罪までの期間が長すぎるという点もさることながら、「当面自粛する」で済まされる問題でもありません。

「劣等民族」はナチスドイツの「劣等人種」(der Untermensch)を彷彿とさせるもので、この「劣等人種」が特定の人種・民族の差別、そしてホロコーストに繋がっていったという歴史を知っていれば、安易に口にしてはならない表現であることは明らかだからです。

峯村氏「放送局が責任を負うべき」

これに関し、朝日新聞の元編集委員でキヤノングローバル戦略研究所主任研究員・北海道大学公共政策学研究センター上席研究員の峯村健司氏はこの発言について、自身のX(旧ツイッター)アカウントを使い、非常に重要な指摘をしています。

峯村氏は放送法第5条で、「人種・民族、性、職業、境遇、信条などによって、差別的な取り扱いをしない」ことが規定されていると引用したうえで、この問題がジャーナリスト個人の問題ではなく、「テレビに関わる者に差別的な発言は許されない」という点を指摘しているのです。

峯村氏はまた、経済評論家の上念司氏に返信するかたちで、「欧州の当局者とホロコーストの話をしている」なかで、なおさらこの発言が問題であると感じているとも指摘しています。

こうした発言の重みを踏まえると、正直、「しばらく自粛」して済む問題ではありません。

身内に甘いテレビ業界

ただ、先日の前出稿でも指摘したとおり、テレビ業界には「身内には極端に甘い」という悪習があるようです。

つまり、テレビ業界が重用しているような人物が問題発言を行ったとしても、追及せずになあなあで済ませ、ほとぼりが冷めたら再び出演する、という傾向が認められるのです(「玉川事件」でしられる玉川徹氏などがその典型例でしょう)。

いずれにせよ、テレビ業界の腐敗ぶりは、深刻です。

総務省の調査などによると、この10年あまりで高齢層を中心にテレビは依然として強い社会的影響力を保持している反面、若年層を中心にテレビ離れが急速に進んでいます。視聴者層が減ってくれば、テレビ業界に流れる広告費も減るでしょう(実際、株式会社電通の調査でもテレビ広告費は減少し続けています)。

テレビ自体が「視聴者離れ」を起こしているのも、その理由は単純に社会のネット化が進んでいるだけでなく、テレビ番組のクオリティそのものが低下し、それによりまともな視聴者がテレビを見なくなり、ますます内容が劣化・先鋭化しているからなのかもしれません。

このあたり、テレビ業界の人たちは、自分たちのダブルスタンダードの酷さに気付いていない(あるいは気付かないフリをしている)フシもあるのですが、この「劣等民族」発言事件も、こうした文脈で捉えると、案外スッと理解できるのかもしれない、などと思う次第です。

本文は以上です。

読者コメント欄はこのあとに続きます。当ウェブサイトは読者コメントも読みごたえがありますので、ぜひ、ご一読ください。なお、現在、「ランキング」に参加しています。「知的好奇心を刺激される記事だ」と思った方はランキングバナーをクリックしてください。

にほんブログ村 政治ブログ 政治・社会問題へ

このエントリーをはてなブックマークに追加    

読者コメント一覧

  1. 簿記3級 より:

    風を読んで信念を持って吐いた言葉なら軽々と撤回しないでもらいたいものですが、
    瞬時に津田氏と劣等民族というワードで分かり合えるとことはお互い以心伝心というか、コンセンサスとして劣等民族という概念が日頃からあるのだなと思いました。

    東京都知事選で諸君らの愛した村田斎藤シャア蓮舫候補は負けた何故だ!劣等民族だからさ、みたいな感じなんでしょうね。

  2. 引きこもり中年 より:

    毎度、ばかばしいお話しを。
    ①TBS:「番組出演自粛で視聴率が落ちたら、すぐに番組復帰させよう」
    ②TBS:「番組出演自粛明けの視聴率があがるだろう」
    ③○○(好きな人物名をいれていださい):「私も問題が起きたら、番組出演自粛で済まそう」
    誰か笑い話だと言ってくれ。

    1. 引きこもり中年 より:

      もし問題発言をした政治家が「テレビ出演を当面自粛します」と言ったら、TBSは何と言うでしょうか。(もっとも、この政治家の所属政党ごとに対応を分けるかもしれませんが。つまりTBSが、その政党がどう思っているかが分かるということです)

    2. 引きこもり中年 より:

      出演自粛しているTBS番組の裏番組で、この発言を批判すれば、裏番組の視聴率が伸びるのではないでしょうか。(まあ、視聴率が伸びなくても、「視聴率とは無関係に、社会的問題発言を批判しているのだ」と言えばスポンサーも文句は言いづらいですが)

  3. KY より:

    自粛するのは地上波だけ?BSやネットでは続投するの?だとしたら随時ふざけた話ですね。

    1. 引きこもり中年 より:

      ネットで十分補える(?)のなら、わざわざテレビ番組に出演する必要はないのでは。

  4. 引きこもり中年 より:

    この問題発言を、立憲を筆頭に野党が、どう思っているのか尋ねてみたいものです。

※【重要】ご注意:他サイトの文章の転載は可能な限りお控えください。

やむを得ず他サイトの文章を引用する場合、引用率(引用する文字数の元サイトの文字数に対する比率)は10%以下にしてください。著作権侵害コメントにつきましては、発見次第、削除します。

※現在、ロシア語、中国語、韓国語などによる、ウィルスサイト・ポルノサイトなどへの誘導目的のスパムコメントが激増しており、その関係で、通常の読者コメントも誤って「スパム」に判定される事例が増えています。そのようなコメントは後刻、極力手作業で修正しています。コメントを入力後、反映されない場合でも、少し待ち頂けると幸いです。

※【重要】ご注意:人格攻撃等に関するコメントは禁止です。

当ウェブサイトのポリシーのページなどに再三示していますが、基本的に第三者の人格等を攻撃するようなコメントについては書き込まないでください。今後は警告なしに削除します。なお、コメントにつきましては、これらの注意点を踏まえたうえで、ご自由になさってください。また、コメントにあたって、メールアドレス、URLの入力は必要ありません(メールアドレスは開示されません)。ブログ、ツイッターアカウントなどをお持ちの方は、該当するURLを記載するなど、宣伝にもご活用ください。なお、原則として頂いたコメントには個別に返信いたしませんが、必ず目を通しておりますし、本文で取り上げることもございます。是非、お気軽なコメントを賜りますと幸いです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました

自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。

【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました

日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。
関連記事・スポンサーリンク・広告