「日本の財政は健全」指摘は「高市氏の持論」なのか?
高市早苗氏が14日、日本記者クラブが主催した自民党総裁選の討論会で、政府財政について「資産と債務を合わせてネットで見るとG7(主要7カ国)の中で2番目の健全性」と述べたところ、それを報じた記事が、この部分を「(高市氏の)持論」と断じました。このインターネット時代にメディアが信頼されなくなっている原因は、こういうところにあるのではないでしょうか?
目次
自称公共放送「国の借金は過去最大で財政厳しく」
当ウェブサイトでは、普段から「数字に基づく議論」を心掛けているつもりです。というのも、とりわけ著者自身、何かを議論する際には可能な限り、現実の数字(統計的な数量や割合など)に基づいて検証すべきだと考えているからです。
その典型例が、「国の借金が巨額だ」、「日本の財政状況は厳しい」、などとする主張です。
メディアの報道によれば、「国の借金」は8年連続で過去最大を更新し、「財政状況は一段と厳しくなっている」などとされています。「公共放送」を自認するNHKによる、今年5月10日付の次の報道などは、その典型例でしょう。
“国の借金” 1297兆円余 8年連続で過去最大を更新 財政厳しく
―――2024年5月10日 15時55分付 NHK NEWSより
しかし、この「1297兆円の国の借金」とやらが、果たして「財政状況は一段と厳しくなっている」証拠といえるのでしょうか。国であれ、自治体であれ、個人であれ、企業であれ、おカネを借りて投資すれば、将来に利益をもたらす可能性があるといえるのではないでしょうか?
国債は8割以上が国内で消化されている
実際、資金循環統計で確認するとわかりますが、中央政府部門は金融負債だけでなく、巨額の金融資産を保有していますし、中央政府が発行した金融負債(たとえば国債や国庫短期証券など)は8割以上が国内の経済主体に保有されています(図表)。
図表 主体別国債保有残高(2024年3月末時点)
保有主体 | 金額 | 構成割合 |
中央銀行 | 580兆円 | 47.39% |
預金取扱機関 | 137兆円 | 11.15% |
保険・年金基金 | 231兆円 | 18.88% |
社会保障基金 | 56兆円 | 4.54% |
国内その他 | 53兆円 | 4.35% |
国内投資家・小計 | 1057兆円 | 86.32% |
海外 | 168兆円 | 13.68% |
合計 | 1224兆円 | 100.00% |
(【出所】日銀資金循環統計データをもとに作成。ただし「金額」は国債、財投債、国庫短期証券の合計額)
しかも、これらの経済主体は、裏付けとなっている負債を辿っていけば、企業や家計が保有する預金であったり、家計が保有する年金受給権・保険受給権だったりするわけです。
いや、それどころか、日本国内の家計・企業・政府・機関投資家などが保有している全資産を積み上げていくと、全負債の額を500兆円兆円ほど上回っているのです。
対外資産も十分
一般に自国通貨建ての国債の場合、その国債の持続可能性は、一国の資金循環状況とその通貨の国際的な信認状況に依存しますが、残念ながら、日本の場合は「国の借金」(?)とやらはまったく危機的な状況にありません。国内で資金が有り余っている状況にあるからです。
それどころか、本気でデフレから脱却しようと思うのならば、むしろ国内の資金超過状態を解消するために、国家が積極的に国債を増発すべきでもあります。
国内の金利状況などにも依存するものの、理論上は日本国内の経済主体が保有している対外純資産額(2024年3月末時点で483兆円)前後までであれば、国債をガンガン増発しても、財政危機はまったく生じません。
こうした実態に触れず、しかも「国の借金」などとミスリーディングな用語を使い、政府資産や資金循環状況を無視したうえで、ただ単に「国の借金」(?)が1300兆円弱であるという点のみに着目して「国の財政は大変厳しい」などと報じること自体、NHKが公共放送の資格を持たない証拠でしょう。
報道自体が限りなく虚偽に近いからです。
高市氏の発言を「持論」と断じるロイター記事
ただ、日本語で情報発信するメディアの「国の借金」問題に対する報道ぶりには、大変に大きな問題があることは暗違いありません。
ロイターが数日前に報じたこんな記事も、その典型例ではないでしょうか?
高市氏「低金利続けるべき」、追加利上げをけん制=自民総裁選討論会
―――2024年9月14日16:10GMT+9付 ロイターより
どうでも良い余談ですが、記事タイトルにある「けん制」とは、「牽制」のことだと思われます(個人的に、この手の漢字語の一部をわざと平仮名で表記することは日本語の破壊だと考えていますが、この点は余談なので、本稿では割愛します)。
それはともかく、「事実は細部に宿る」といわれることもあるのですが、まずは次の一文を読んでみてください。
「財政問題については、高市氏が『資産と債務を合わせてネットで見るとG7(主要7カ国)の中で2番目の健全性』との持論を展開する一方、河野太郎デジタル担当相は『遅かれ早かれ金利が徐々に上がっていく中で、利払いが増えていく』とした上で、財政収支の議論をすべきと訴えた」。
高市氏といえば、金融緩和を継続すべきとの主張をしている人物のひとりでもありますが、それだけではありません。この一文にあるとおり、「じつは日本の財政は健全である」と主張して来たことでも知られています。
ただ、ロイターのこの文章では、この「G7で2番目の健全性」とする部分を「持論」と表記している時点で、この記事に記者の主観が色濃く反映されているといえるのではないでしょうか。
日本の財政リスクは「G7で2番目に低い」
ちなみに高市氏の「G7で2番目の健全性」とは、おそらく、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)のスプレッドの議論など、一般に財政健全性を規定するいくつかの数値を念頭に置いたものでしょう。
これについては第一生命経済研究所の永濱利廣氏が2022年10月11日付で公表した『英国と大きく異なる日本の財政状況』というレポートの『G7中2番目に財政リスクが低い日本』という節で、次のように指摘されているのが参考になります。
「日本は政府純債務/GDPだけでは最もリスクが高くなるが、それ以外の3指標で見れば、対外純資産/GDPと政府債務対外債務比率が断トツ一位、経常収支がドイツに次いで2位と圧倒的にリスクが低く、相対的に財政リスクが高い国ではないということになる」。
この論考に限らず、永濱氏の普段からの議論を見ていると、数値に基づく実態をマーケット関係者的な視点から正確に把握しようと努めているという傾向があり、少なくとも「自称公共放送」よりは圧倒的に説得力があると思われるのは、決して気のせいではないでしょう。
ちなみに永濱氏によると、財政健全性を見る指標は「政府純債務/GDP」「経常収支/GDP」「対外純資産/GDP」「政府債務対外債務比率」とのことですが、著者自身はこれらに加え、その国の通貨の国際的通用力、その国の債務の通貨なども勘案すべきだと考えています。
ただ、少なくとも「日本は財政危機だ」とする主張を裏付ける数値は、「政府債務の絶対額」と「GDPと比べた政府債務の額」くらいしか存在せず、それら以外のさまざまな指標は、むしろ日本が財政危機の状況にはないという状況を裏付けている格好です。
その意味で、「国の借金」論は、それを煽るメディアにこそ大きな問題があると思いますし、日本のメディアが信頼されない理由もそういうところにあると思うのですが、いかがでしょうか?
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました
自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。 |
【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。 |
その通りです。今までネットの無い時代では簡単に騙されていました。今や、時代は変わり事実に基づいた情報が正しく伝わるようになりました。
まだ、大袈裟や嘘が通用すると思っているマスコミは本当にマスゴミですね。
マスコミは「事実陳列罪」と思ってそう。
財務省もかな?
持論も何も、公表されている数字を見ればまともな人なら分かる筈ですよね。
マスコミや役所の方々は、未だに大衆は簡単に操れると思っているのでしょうか?
インターネット、特にスマホの急速な普及で、多様な情報が居ながらにして簡単に手に入る時代になりました。
マスコミの方々はネットの普及についていけていないのでしょう。
新聞やテレビの信用が失墜するのも当然ですね。
最早絶滅危惧種に指定しないといけないレベルです。
保護する必要はありませんが。
高市さんのような、財務省などの役所に忖度しないあるいは騙されない、そして脅しに屈しない政治家が行政のトップになる事を期待しています。
ロイター記事執筆者、LinkedIn には大した情報を記載していません。Bloomberg 記者を務めていたこともある模様。
著名国際メディアの日本報道は品質が高くないことが少なくない。BBC ですら日本の記事は「白人目線の不思議の国ニッポン」というステレオタイプから抜け出せません。ひとことでいうと加齢臭なんですね。メインストリーム報道機関なんて本気で受け取ってはいけないとよく分かります。
根拠に乏しいことを主観で決めつけるサヨク・メディア
不都合な公知情報を個人の主観に矮小化するサヨク・メディア
そりゃ、オールドメディアにとっては「国の借金=国民の借金」だの
「日本は破綻寸前」だのの矛盾を突かれる事は嫌で嫌でたまらないでしょうし。
更にそれが「アベ以上にアベ」と見なしていそうな高市議員の発言だとしたら、
そりゃもう絶対に肯定的に取り上げたくないでしょう。
Z省は、こんなことを言う人が総裁・総理になることが「許せない」のでしょう。
利益が共通するC国と組んで、オールドメディアを使役したり、選挙に干渉したり、個人を嵌めたり、忙しくなりそうですね。
(個人の印象です。)
阿保の財務省に騙される愚かなメディア!
>ロイターのこの文章では、この「G7で2番目の健全性」とする部分を「持論」と表記している時点で、この記事に記者の主観が色濃く反映されている
記者は「『高市氏は持論を述べた』との持論」を述べているんですよね。
「自身がそうなのだから、他者もそうに違いない」との自己投影ですね。
*論者の説得力じゃなく、記者側の納得力(理解力)の問題なのかと・・。
*そうでなければ、悪意による改竄(かいざん)ですね。
本ウェブサイトの先日の記事を引用させて頂くならば、
「日本人は劣等民族なので、知的マスコミが事実を編集して伝え誘導してやらねばならない」
ということでしょう。
マスコミ業界人全員がそうではありませんが、そういう雰囲気を感じる人は多いです。
あまり注目されていませんが、
茂木氏も「古い財務省の発想を転換し、増税なしで政策を進め、国民の不安を解消する。それによって消費も伸び、経済も拡大する。最大の敵は財務省だ。」
と正しい認識の発言をしてましたね。
財務省が公表する国民負担率や国税庁が解説する国民負担率のチラシが、面白いです。わざわざ財政赤字を加算してまで計算しているのですね。もうあざと過ぎて滑稽です。しかも他国と比べて国債を発行しているから低いんだとおかしな誘導に呆れさせてくれます。
個人的には収支の認識が「おこづかい帳の域を出ていない」・・との疑念?
財務の実情:うらにわには、二羽とりがいる。(資本・損益”とり”引の別)
Z省の主張:うらにわに、ワニはいる。(貸方をごっちゃにしてワニ理論)