変わりゆく個人情報巡る社会的アコードと年賀状の将来
先日から指摘している、年賀状の発行枚数が激減している話題の補足です。どうしてここまで年賀状が減ったのかといえば、やはり「社会のインターネット化」だけでなく、2003年に施行された個人情報保護法や、個人情報をさらさないという社会的合意の存在なども大きいように思えます。こうしたなか、年賀状にお子様の写真を掲載しておきながら、お子様の名前のフリガナが付いていないケースや、お子様のお名前が記載されていないケースがあるようです。個人情報を極力書きたくないからでしょうか?
目次
年賀状はきっと廃れる…のか?
「年賀状という習慣は、このままきっと廃れてしまうに違いない」。
このインターネット時代、紙で情報をやり取りするという習慣は、ほぼ終焉を迎えつつあります。
「紙で情報をやり取りする行為」の代表的な事例としては、新聞、雑誌、郵送物などがありますが、新聞は部数減少が止まらず、雑誌は休廃刊が相次いでおり、そして郵便についてもその衰退基調の例外であることはできません。
『発行枚数が最盛期の4分の1に激減…年賀はがきの未来』でも取り上げたとおり、日本郵便の過去の報道発表等によれば、年賀はがきの発行枚数は年々減少し続けています(図表)。
図表 年賀はがき当初発行枚数実績
(【出所】日本郵便ウェブサイト・過年度プレスリリース等をもとに作成)
とりわけ2025年に関しては、なかなかに大きな落ち込みです。2025年用の年賀はがきの当初発行枚数は10.7億枚で、これは前年の14.4億枚と比べ、じつに3.7億枚という大幅な減少です。あるいはざっと4分の1ほど減った、とでも言い換えれば、そのインパクトの凄さがわかるでしょうか。
値上げも要因か…きっかけがあれば一気に消滅する?
あるいは2024年向けが23年向けと比べて減った枚数が2億枚だったことを思い起こしておくと、減り方の速度が速くなっていることは、非常に気になります。
2025年向けの10.7億枚から、毎年2から3億枚ずつ減っていけば、下手をすると2030年代を迎える前に、年賀状の発行枚数はゼロになってしまいそうだからです。
もちろん、2025年向けの枚数の落ち込みは、今年10月1日に予定されている郵便料金の値上げという要因も大きいでしょう。今般の値上げにより、はがきは1枚63円から85円へと、一気に22円も引き上げられることになります。
たとえば年賀状を100枚出す人にとっては、去年までは6,300円だったのが、今年からは8,500円を負担しなければなりません。そうなってくれば、宛名書き(あるいは宛名印刷)作業などがなにかと面倒な年賀状、「値上げを契機に発送をやめてしまおう」、と思う人がさらに続出しても不思議ではありません。
プリント技術は進歩しているのに、なぜ年賀状のやり取りが減るのか
ただ、改めてグラフを眺めてみると、発行枚数がこうやって急速に、ほぼ一本調子で落ち込んでいる理由については知りたいと思ってしまいます。
戦中生まれの世代などが現役のビジネスマンだった時代であれば、オフィス・ワーカーの多くは、毎年何百枚も年賀状のやり取りをしていました。当ウェブサイトの読者の皆さまも、「年末が近づくとお父さんが謄写版やプリントゴッコを動かして年賀状の準備をしていた」という思い出を持っている方もいらっしゃるでしょう。
現在のような高性能なカラーレーザープリンタだと、いったんデザインを決めてしまえば、100枚の年賀状を印刷するのにかかる時間自体はせいぜい数分程度ですが、昭和時代の謄写版やプリントゴッコだと手作業で印刷しなければならないため、印刷だけで数時間が必要でした。
また、現代だとエクセル、アクセス、年賀状住所管理ソフトなどが存在し、いったん住所録を完成させておけば、あとは毎年、その住所録から住所を差し込み印刷すれば済む話ですが、かつては多くの人が、手書きの住所録から宛名を何十枚、何百枚と手書きで記入していました。
著者自身の記憶では、親世代の時代、数百枚の年賀状を準備するために、年末の貴重な日曜日を丸々潰すくらいの時間が必要でしたが、現在のPC/プリンタ環境があれば、はるかに凝ったデザイン・鮮明で美麗な印刷の年賀状、数百枚というレベルであっても、せいぜい1時間もあれば印刷が終わります。
年賀状を印刷する技術自体は進んでいるのに、送る年賀状の枚数が減っているのは、不思議です。
その犯人は個人情報保護法ではないか?
いちおう仮説としては、インターネットが発達して紙の手紙をやり取りする人が減ったこと、人口減少時代に入ったことに加え、本稿ではメインとして、個人情報保護法を挙げておきたいと思います。
このうちネットの発達については普段から当ウェブサイトでもさんざん論じている「新聞・雑誌の激減」という論点とほぼ同じであり、また、人口減少などについても特段の解説をする必要はないと思いますが、3点目の、2003年に施行された「個人情報保護法」については、少ししっかりと考えておく必要があるかもしれません。
著者自身も2003年より以前であれば、職場では各従業員の住所リストがメールで配布され、それらをもとに上司、同僚、部下などに対して年賀状を準備していた記憶がありますが、これ、今になって改めて文章にしたためてみると、なんとも恐ろしいことをやっていたものです。
また、学校でも小中高のクラスの連絡網、先生やクラスメイトの住所・電話番号・保護者氏名を記載したリストなどが配布されていましたし、大学ではゼミやサークルに入ると、同様に、連絡網だの、個人名簿だのといったものが作成され、配られていたのではないでしょうか。
しかし、2003年に施行された個人情報保護法の影響もあってか、おそらくは多くの職場、学校などにおいて、各人の個人情報(たとえば住所、電話番号など)を名簿化して各人に配布する、といった文化が順次消滅していったのだと思われます。
著者自身の記憶をたどっても、たしかに2003年頃以降は、職場で各従業員の個人名簿は配られなくなりましたし、また、日本公認会計士協会の名簿も、いつのまにか作成されなくなり、現在では限定的な情報のみがウェブ上などで提供されるのみです。
お子様の幼稚園や保育園、学校などでも連絡網や住所録などは配られず、したがって、園・学校から保護者への連絡、あるいはPTAの連絡、保護者同士の連絡などは、ウェブアプリやLINEなどを用いて行われるのが一般的ではないでしょうか。
実際、著者自身の例で考えても、2003年以降に個人的な住所を交換した相手は、冠婚葬祭関係(「結婚式で招待状を送りたいから住所を教えてくれ」との要望があった場合など)や、親しい親戚が結婚した際に住所を交換したなど、非常に限られているのが実情です。
個人情報保護法で出来上がった「アコード」
このことから、おそらく日本の年賀状カルチャーを終わらせることになった「最大の犯人」は、じつは「社会のインターネット化」などではなく、2003年に施行された個人情報保護法ではないでしょうか?
実際、先ほどの図表も、個人情報保護法が施行された直後の2004年用の年賀はがきが44.5億枚でピークを迎えたのですが、その後はほぼ直線的に枚数が落ち込んでいることが確認できます。
このことからも、個人情報保護法を契機に、安易に個人の住所などを交換しなくなったことで、日本国民の多くは新たに年賀状を送る相手がほとんど出現しなくなり、順次、年賀状を送る相手が減っていくことになったのだ―――、などと考えると、辻褄が合いそうです。
また、2004年前後だと、まだ「お世話になったあの人に年賀状を送ろう」、といった義理の文化が残っていたのかもしれませんが、個人情報保護法から20年以上が経過するなかで、徐々に「年賀状を送らないのは失礼だ」、といった風潮が、社会から消え始めているのかもしれません。
つまり、社会全体で「うかつに個人情報を晒したり、他人に送ったりしない」、といったアコード(合意)が形成されている可能性があるのです。
実際、著者自身の例で恐縮ですが、前世紀末には100枚近い年賀状を送っていたものの、枚数はどんどんと減り、直近では10数枚くらいしか年賀状のやり取りをしていません。
年に1回くらい、年賀状をやり取りしても良いのではないか?
この点、著者自身としては、いくら社会の電子化が進んだとしても、紙媒体がこの世から完全に消え去ることはないと考えている人間のひとりです。やはり、電源がなくても紙とペンさえあれば何でもメモに取ることができるわけですし、書道の素養があれば、社会人として密かに尊敬されるかもしれません。
それに、年賀状自体、密かに楽しみにしているという人も、じつは多いようにも思えます(あくまでも主観です)。やはり、遠方に暮らす親戚やお世話になった恩師・元上司、あるいは旧友と、1年に1度くらい、近況を伝え合うという機会があってもしかるべきです。
著者自身は現在でも、遠方に暮らす90代の伯母には欠かさず賀状を送ることにしているのですが、先日は玄孫(やしゃご)が生まれたとのこともあり、自分のことのようにうれしく思う次第です。
ただ、こうした本当に限られた相手を除けば、年賀状をやり取りする相手は年々減っており、おそらく数年のうちに、著者自身は年賀状をやめてしまうような気がします。最近だと電子年賀状も増えており、印刷も不要で郵送代もかからないため、もしかするとiMessageなどを使って年賀状を完全電子化するかもしれません。
また、近くに暮らしている知り合いならば、年賀状を送り合うのも良いのですが、やはりもっと頻繁に会っても良いのではないでしょうか。
「お子様のお名前は…?」20年来の疑問
さて、年賀状のもうひとつの楽しさといえば、その送り主の性格がよくわかる、という点にあるのかもしれません。
現時点の生活・仕事の拠点が生まれ故郷から遠く離れた場所にあるという人の場合だと、故郷に旧友や恩師が多くいて、いまでも年賀状のやり取りを続けているというケースは多いでしょう。
こうしたなかで、これらの旧友などのなかには、もう年賀状以外のやり取りがすっかり途絶えてしまっているというケースもあるのですが、そうなると、ちょっとした「問題」が生じます。普段顔を合わせているわけでもなく、電話のやり取りをしているわけでもないため、「画像・文字情報」だけのやり取りとなってしまうのです。
その典型例が、お子さんの写真を送って来る人です。
年賀状に家族写真を使用している事例はよく見かけますが、こうしたなかでわりとよく見かけるパターンは、お子さんのお名前の読み仮名が書かれていない、というものです。そして、こうした親に限って、子供には難読名を付しているのです。
「金星」と書いて「まあず」と読ませるケースは、当ウェブサイトの皆さまにはあまりにも有名ですが(『「輝星(べが)君の改名問題」について考える』等参照)、やはり一般的ではない名前には、せめてフリガナを付していただきたいと思ったりもします。
友人のT君のケースは一人娘だそうですが、20年以上前から年賀状で家族写真を送ってくれていたものの、残念ながらまったく名前が読めず、現在に至るまで彼女の名前を存じ上げていません(年齢的に考えて恐らくは成人済みと思われます)。
たとえば、最近流行りの「結愛」といったお名前も、おそらくは「けつあい」と読むのが自然ですが、日本語の読み方としてはほかにも「けちあい」などもあり得るため、やはりフリガナが欲しいところです。
また、「雪」と書いて「ゆき」ではなく「あな」と読ませる事例も最近ではあるようですが(雪の女王は「えるさ」さんではないかと思いますが)、「七音」で「どれみ」、「強敵子」で「ともこ」なども、やはり読み仮名の併記がある方が親切です。
さrない興味深い事例だと、家族写真を送ってくれるものの、肝心のお名前がいっさい記載されていない、という事例もあります。
もちろん、個人情報などがセンシティブな時代ですので、「たとえ旧友同士の年賀状のやり取りであったとしてもうかつに個人名を書かない方が良い」という判断なのだとすれば、それはそれで尊重すべきかもしれませんが、個人名を書かないのならば、いっそのこと写真も掲載しない方が良いのに、などと思わないでもありません。
いずれにせよ、年賀状の書き方ひとつでその人の性格というものが出ることは間違いなく、この点については年賀状が電子化したとしても、あまり変わらないのではないか、などと思うのですが、いかがでしょうか?
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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今年も出しますよ。 年賀状
企業内の習慣とかは10年くらい前から是正されていると思いますが・・・。
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年賀状は個人的なものです。 それを必要以上に批判するのはいかがなものですかね。