TDB「出版社の3割超が赤字」…出版巡る時代の変化

新聞社の経営がかなり「ヤバい」らしい、という話題については、当ウェブサイトでもこれまで何度となく触れて来たとおりですが、紙媒体の危機という文脈では、雑誌社や出版社も同様に、経営の苦境に立たされているようです。帝国データバンク(TDB)が日曜日に配信した記事によると出版社の3割が赤字なのだそうです。これには印刷コストや配送コストの上昇のみならず売れ残りの返品など、業界独特の事情も関係しているようですが…。

社会のネット化で最も割を食う人たちは?

著者自身は現代人の多くが「ネット中毒」になってしまっているのではないか、などと危惧していないといえばウソになりますが、それと同時にインターネットはうまく使いこなせば、大変に便利で快適に、さまざまな情報を得ることができることもまた事実です。

(※もちろん、「うまく使いこなせば」、という話ですが…。)

スマートフォンを巡っては、いわゆる歩きスマホやながらスマホなどが社会問題化しつつありますが(※これについてはごく近いうちに別稿にて議論したいと思っています)、それでも事実として、いまや現代人はスマホを含めたインターネットに夢中であることは間違いありません。

実際問題、これによって割を食っている人たちの典型例が、マスコミ業界―――とりわけ、新聞業界とテレビ業界―――であることは間違いありません。

インターネットが出現する前までであれば、日常的に不特定多数の人に情報を送り届けることができるのは、マスメディア関係者に限られていたからです。

第四の権力の怖さ

ちなみに彼らは「第四の権力」を自称していましたが、これは「毎日のように情報を一般人に届けることができる」という社会的特権を、彼ら自身が有していたからでもあります。

これ、冷静に考えると、大変に怖い話です。政治家がどんなに有権者の心に響くような言葉を口にしても、マスコミがこれを報じなければ、人々に届きません。つまり、マスコミ等の報道機関が政治家の生殺与奪の権を握り、日本は「法」治主義ならぬ「報」治主義がまかり取っていたからです。

また、政治家が発言した内容の一部を切り取り、換骨奪胎して歪曲することで、その政治家が意図していない内容を述べたかのように報じることだってできたわけです。

有名なところでいえば、2003年に生じた、当時東京都知事だった故・石原慎太郎氏の発言をTBSの番組『サンデーモーニング』が報じた際、真逆の内容のテロップを付した、という事件などが挙げられるでしょう。

石原氏が「私は日韓合併を100%正当化するつもりはない」という趣旨で発言したところ、それをテレビ放送では末尾の「…つもりは」の部分で切り取り、「私は日韓合併を100%正当化するつもりだ」とする真逆の内容のテロップを付けて報じたのです。

これについては後日、名誉棄損として石原氏側が民事・刑事両面でTBSを訴えましたが、このうち刑事訴訟に関しては、番組制作に関わったプロデューサーらは不起訴となったようであり、民事では最終的に和解が成立した、などとしています。

自民党が惨敗した2009年8月の衆院選を思い出せ

しかも、恐ろしい話は、それにとどまりません。新聞社1社、あるいはテレビ局1社でも大変な社会的影響力を保持していたところ、その気になれば新聞社やテレビ局が束になれば、政治家どころか政党自体を圧殺することだってできたからです。

2009年8月の衆院総選挙で、自民党が定数480議席中119議席しか取れずに惨敗し、野党だった民主党が308議席を獲得して圧勝した「事件」も、著者自身はマスコミによる「報道しない自由」が悪用された結果だと考えています。

なお、著者自身がそう考える論拠はいくつかあるのですが、これらに関しては今から3年前の『先祖返りする立憲民主党、今度の標語は「変えよう。」』でも説明した「党首討論」や、昨年の『若年層が期待する政党トップは自民、2位は国民民主党』で触れた「日本経済研究センターの調査レポート」などもご参照ください。

余談ですが、マスコミによる「切り抜き」を巡っては、「切り取られる側にも責任がある」などとする珍説がマスコミ業界の元関係者から出て来ていますが(『切り取り報道の責任は切り取られる側にあるとする珍説』等参照)、正直、呆れて物も言えません。

新聞社の経営難に同情する気にはなれない

いずれにせよ、新聞発行部数が急減しているのも、若年層ほどマスコミ離れが激しいのも、マスコミ広告費が急減しているのも、①ネットの登場で新聞、テレビに依存しなくても情報が得られるようになったこと、②マスコミが発信する情報の質の低さがバレ始めたこと、という2つの要因が関わっていることは間違いありません。

実際、『新潮「トーチュウが年内休刊」と報道…他紙の追随は?』などを含めてしばしば指摘してきたとおり、実際にいくつかの新聞は廃刊の危機にありますし、夕刊やスポーツ紙に至っては、業界全体で、下手をするとあと数年以内に絶滅するくらいの勢いで干上がっています。

スマートフォンの普及は、紙媒体そのものを世の中から駆逐しつつあるのかもしれません。そして、紙媒体の次は、おそらくは電子媒体なのだと思います。

ただ、少し冷たい言い方ですが、著者自身としては、まずは新聞社が、これに続いてテレビ局が、それぞれ経営難に陥ったとしても、あまり同情する気にはなれません。新聞社、テレビ局といった業界がこれまでやってきたことを思い出しておけば、それも因果応報、という気がしてならないのです。

新聞以外にも苦境…雑誌などの紙媒体

さて、先日、動画サイトで、「1990年代の東京」と題したシリーズの動画をいくつか視聴したのですが、やはりそのなかでも印象深いのは、街を行き交う人たち、あるいは地下鉄の車内の人たちが、誰ひとりとしてスマートフォンを見つめていないことでしょう(当たり前ですね)。

では、彼らはそれに代わって一体何をしていたのか―――。

新聞をジッと読んでいる人も多いのですが、やはり目に付くのは、雑誌を読んでいる人の姿です。映像で見ると、少なくない人が食い入るように、じっと雑誌を見つめているのです。

そう、スマートフォンの誕生と普及によって割を食っているという意味では、じつは新聞よりも、雑誌を含めた出版物全般の方が深刻なのではないでしょうか?

たとえば著者自身の体験談で恐縮ですが、健康診断のために毎年必ず訪れる医療センターでは、待合室から雑誌が完全に姿を消しました。コロナ禍の2020年頃まではギリギリ、各種雑誌が置いてあったのですが、一昨年あたりから雑誌は完全に撤去されてしまったのです。

また、某取引先銀行の待合室には、雑誌類はいちおう置いているのですが、某航空会社のラウンジでは雑誌が完全に撤去されていましたし(代わりに雑誌が読み放題のアプリを利用することができるようです)、雑誌が読める場所が徐々に減っていることは間違いありません。

さらにはつい先日の『苦境の新聞業界に「コンビニ雑誌配送問題」の影響は?』では、コンビニ大手のローソンとファミリーマート(全国約3万店舗)のうち、約1万店で、来年3月までで雑誌配送が終わってしまう可能性が濃厚です。

いちおう、トーハンのプレス・リリースなどによれば、来年、日販から雑誌配送を引き継ぐ時点で、1万店舗は引き継ぎができないものの、将来的には配送体制を拡充することは検討しているとのことではありますが、なかなかそれも厳しいのではないでしょうか。

労働力不足の問題に加え、雑誌自体があまり売れなくなっているという事情もあるからです。

TDB「出版社の3割超が赤字」

こうしたなかで、雑誌社のなかには、経営状態がかなりマズいことになっているというケースが出て来ているようです。信用情報会社の帝国データバンク(TDB)が日曜日に配信したこんな記事が、それです。

人気雑誌も「休刊ラッシュ」の苦境 出版社の3割超が「赤字」 過去20年で最大、出版不況で低迷脱せず

―――2024/09/08 07:03付 Yahoo!ニュースより【帝国データバンク配信】

TDBによると2023年度における出版社の業績は「赤字」が36.2%と過去20年で最大となったほか、減益などの「業績悪化」の出版社も6割を超えたというのです。

正直、記事を読んでいると、出版社をどう定義しているのかが見えてこないのですが、それはともかくとして、TDBの記述を信頼するならば、「さもありなん」、といったところでしょうか。

さらに、TDBによると、2024年は有名雑誌の休刊や廃刊が相次ぎ、それらのなかにはアニメ声優誌『西友アニメディア』なども含まれているそうです。

出版社の苦境の原因として、TDBは次のようなものを挙げています。

  • 購読者の高齢化
  • 電子書籍の普及
  • ネット専業メディアの台頭
  • 出版物が4割が「再版制度」で売れ残りとして返品される
  • 物価高の影響で紙代、インク代、物流コストが上昇

…。

このあたりは、新聞業界と似たような感じなのかもしれません。

この点、著者自身は雑誌業界にそれほど詳しくありませんが、それでも人生で何度か出版した経験上、「再販制度で売れ残りとして返品される」などの仕組みがある、といった話題は耳にした記憶もあります。出版業がけっして儲かる産業ではないことは間違いありません。

時代の変化は残酷…書籍からネットへ、ビジネスモデルの模索を!

そして、TDBの記事では、こう述べています。

一方でヒット本や雑誌の発刊は容易ではなく、出版コストの増加で経営体力が疲弊した中小出版社の休廃刊、倒産や廃業といった淘汰が進むとみられる」。

このあたり、著者自身、出版社の場合は新聞社と異なり、完全に絶目値することはないとみています。マンガやアニメのキャラクター、アイドル、歌手などの著名人、美術品などに関し、美麗な書籍でまとまった内容を手にしたいという需要もあるのかもしれないからです。

ただ、単純に社会事象などを取り上げる系統の雑誌などに関しては、やはり、インターネットに駆逐されていく方向ではないでしょうか。

正直、時代の流れは残酷でもあります。

現代人は情報を集めたり、学んだりする際、書籍をじっくり読み込むというスタイルから徐々に脱していることを、著者自身も誰よりも実感している者のひとりであるつもりです。

じつは、当サイトの場合も中期的にはアクセス数が減る傾向にあったのですが、代わってX(旧ツイッター)の方は、インプレッション(表示回数)が最近、急激に伸びているのです。

また、当ウェブサイトに関していえば、雑誌への寄稿依頼や出版依頼はほとんどなくなりましたが、代わってYouTubeやネット番組などへの転載依頼や出演依頼などが徐々に増えています(といっても、あらかじめ申し上げておきますが、おそらく著者自身がネット番組に出演することはないと思われます)。

さらには著者自身が実名で寄稿しているメディアも、紙媒体の雑誌ではなく、ウェブ媒体が中心だったりもします(そのウェブ媒体の名前は明らかにできませんが…)。このように考えると、出版社も今後、ビジネスモデルとしては、やはり電子化を積極的に図るべきでしょう。

いずれにせよ、紙媒体メディア、そしてこれに続いて電波メディアも、ネット時代において、順次、終焉を迎えていくのかもしれません。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. はにわファクトリー より:

    デジタルメディア産業の旗手ともいっときは呼ばれた Vice Media、あっさり倒産したという故事もあります。お金を払ってもらえる理由、儲かる理由、持続可能な企業経営というのは本当に難しいものです。

  2. しおん より:

    紙媒体からネットでは無くて、ネットから紙媒体への流れもあります。
    無料で小説や漫画を投稿できるネット上の環境があり、そこで人気を博した作品が書籍版や単行本として発売され、さらに人気が出てアニメ化、映画化などの流れもできています(例:丸山くがね作オーバーロード)

    昔なら出版社へ持ち込む事しか作品の発表の場がなく、素晴らしい才能も担当の琴線に触れなければ世に出る事が出来ませんでした。これは今を時めく人気作家でも駆け出しの時に何社も歯牙にもかけられずに断られていることで証明されています。

    そういう意味では、出版社がヒット作を【見つけ出す】【作り出す】時代は済んだと思いますが、WEBで人気の出た作品を選らんで【出版する】だけなら、ほぼリスク無しで可能ですので、新しい才能が世に出やすくなった、と思います。

  3. sqsq より:

    「選択」という雑誌がある。「三万人のための情報誌」を謳うが三万人とは日本の指導者層の概算人数のことで実際の出版部数は5万部ほどだそうだ。
    この雑誌は本屋では売っていない。年間13200円で年12回郵便で送られてくる定期購読。
    郵送料込みで1冊1100円。
    1~2年購読していたことがあるが年13200円の価値はあるという印象だった。
    たった5万部でもやっていけるというのは定期購読で返本がないのが大きいのだろう。

  4. かみや より:

    出版業界ではありませんが、その周辺業界に勤務するものです。
    新聞の凋落も雑誌の質の低下、書籍の濫造も業界的には由々しき事態なのですが、個々の企業としては書籍はやむを得ないところであります。

    さて、細かい話で恐縮ですが、
    アニメ声優誌『「西友」アニメディア』なども含まれているそうです。
    →声優
    完全に「絶目値」することはないとみています。
    →絶滅

    ですね。
    ご確認ください。

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