苦境の新聞業界に「コンビニ雑誌配送問題」の影響は?

新聞部数が激減しつつあるというのは、これまでも当ウェブサイトでしばしば指摘してきたとおりですが、これに加えて来年3月以降、雑誌のコンビニ配送が部分的に終了するようです。日販がローソン、ファミマ両社への雑誌配送を中止するとされるなか、後を引き継ぐトーハンが1万店舗ほど配送できなくなるからです。ただ、本当に怖いのは、来年3月以降、コンビニ各社が「紙媒体がなくても問題ない」とする経営判断を下すことではないでしょうか。

新聞業界の苦境

当ウェブサイトでは以前から、「新聞業界では下手をするとあと数年で夕刊が消滅し、これに続いて朝刊も順次、消滅していくのではないか」と申し上げ続けています。

その論拠として用いているのは一般社団法人日本新聞協会のデータです。これで見ると、新聞部数自体が加速的に減少しつつあることがわかります(図表1)が、それだけではありません。

図表1 新聞部数の推移

(【出所】一般社団法人日本新聞協会データ【1999年以前に関しては『日本新聞年鑑2024年』、2000年以降に関しては『新聞の発行部数と世帯数の推移』をもとに作成。なお、「合計部数」は朝夕刊セット部数を1部ではなく2部とカウントすることで求めている)

夕刊部数については近年、さらに強烈に落ち込んでおり、直近の2023年においては夕刊部数は500万部を割り込んでいる状況です(図表2)。

図表2 夕刊部数の増減(3年ごと)

(【出所】一般社団法人日本新聞協会『新聞の発行部数と世帯数の推移』をもとに作成。なお、「夕刊部数」は「朝夕刊セット部数」と「夕刊単独部数」の合計で求めている)

「数字ですべてがわかるわけではない」との反応もあるようだが…

ところで、こんな話をツラツラと述べていると、ごく稀に、「そんな統計の数値を見ても仕方がない」、「経済は人間の活動だから、数字ですべてがわかるはずなどない」、などとする反論をする人もいます。「ウチでは昔から新聞を取っているから、新聞業界が滅亡するなんて、絶対にありえない」と語気を荒げる人もいます。

もちろん、言論は自由ですので、「数字ですべてわかるはずがない」、「新聞業界がなくなるなんて、ありえない」、などと主張するのも自由ですし、「統計数字と自分の直感は反している」と思うのならば、そう主張なさるのも自由でしょう。

なかには「新聞が消滅すると社会が困るじゃないか」、などと言い出す人もいるようですが、かりに「新聞がなくなって人々が困る」のが事実だとしても、現実に新聞業界が衰亡の道を辿っていることを否定する論拠にはなりません。

ちなみに新聞業界が衰退しつつあることの証拠は多く、たとえば株式会社電通が公表している『日本の広告費』によると、新聞広告費は減少の途を辿っていますし(図表3)、総務省の調査では、新聞の平均購読時間はどの年代においても減少している(図表4)ことが示されています。

図表3 広告費の推移(新聞・折込)

(【出所】株式会社電通『日本の広告費』データおよび当ウェブサイト読者「埼玉県民」様提供データをもとに作成)

図表4 平日の新聞の利用時間
年代2013年2023年増減
10代0.6分0.0分▲0.6分(▲100.00%)
20代1.4分0.5分▲0.9分(▲64.29%)
30代5.8分0.5分▲5.3分(▲91.38%)
40代8.6分2.7分▲5.9分(▲68.60%)
50代18.6分7.6分▲11.0分(▲59.14%)
60代28.0分15.9分▲12.1分(▲43.21%)
全年代平均11.8分5.2分▲6.6分(▲55.93%)

(【出所】総務省『情報通信白書』データをもとに作成)

現実に休・廃刊が相次いでいる

そして、これら新聞業界の衰退がデータだけでなく、現実のものとなり始めている証拠も、すでに多数出て来ています。

当ウェブサイトでは一貫して、「まずは夕刊が消滅し、朝刊もそれに続く可能性が高い」と述べてきたわけですが、一般紙、スポーツ紙などの夕刊の旧・廃刊に関する発表、観測報道等が相次いでいます。

そうなると、残っている事業者としても、夕刊事業からの撤退を余儀なくされる可能性があります。夕刊にかかるもろもろのコストが跳ね上がるからです。

デイリー新潮の記事によれば、夕刊フジの場合、東京スポーツ、日刊ゲンダイという「ライバル2紙」とトラック配送を共通化しているとのことです。それが事実なら、夕刊フジが紙媒体の発行から撤退してしまった場合、トラック配送コストは残り2紙で負担しなければならなくなります。

また、地域によっては新聞社は自社系列の販売店を維持できなくなり、他紙系列の専売店に販売を依頼しているケースもありますが、こうした場合に取り扱う夕刊が減っていけば、専売店の側としても、夕刊の配達網の維持(人員確保など)が困難になっていくという事態も想定できます。

要するに、櫛の歯が欠けるように、徐々に全国で新聞販売網の維持が難しくなる、というわけです。

ただし、苦境にあるのは、夕刊だけではありません。

新聞業界に衝撃が走る話題があるとすれば、『産経も富山県で配送終了:櫛の歯理論に向かう新聞業界』などでも取り上げた「毎日新聞と産経新聞の富山県撤退」という話題でしょう。報道等によれば、両紙は9月末をもって、富山県への配送を終了するというのです。

これに加えてスポーツ紙の『トーチュウ』(東京中日スポーツ)が「年内で休刊する」との観測報道がデイリー新潮から出ています(『「東京中日スポーツ」事実上の“廃刊”か 「紙媒体をやめるということは“トーチュウ”ブランドが消えることに…」』等参照)。

すでに体力のない地域紙・スポーツ紙などの間では、これまでも事実上の廃刊に追い込まれる事例が相次いでいるわけですが、今後はこれがある程度のメジャー紙にも及んでくる可能性があるのでしょう。

雑誌のコンビニ配送が終了すると…!?

こうしたなかで、著者自身が最近、ちょっと気になっている話題がもうひとつあるとしたら、いくつかのメディアが7月19日付で報じた、「雑誌のコンビニ配送終了」とする話題です。

トーハン、ファミマ・ローソン1万店の雑誌配送終了へ

―――2024年7月19日 18:38付 日本経済新聞電子版より

コンビニへの雑誌配送、日販撤退後の1万店は引き継げず トーハン

―――2024年7月19日 17時00分付 朝日新聞デジタル日本語版より

これらの記事によると、出版取次大手の日販がローソン、ファミマへの雑誌配送を2025年3月に中止することに関し、トーハンが日販の代わりに配送を請け負うことになったものの、両社の3万店舗のうち引き継げない店舗が1万店出現する、とするものです。

ちなみにトーハン側は一部メディアの報道内容に不正確な点があるとして、7月22日付で『コンビニエンスストア配送に関する報道につきまして』と題したプレス・リリースを出しているのですが、このなかで、日販から引き継ぐのがローソン、ファミマ各社ともに約1万店ずつであることを、最初から両社と合意していたとしています。

しかし、いずれにせよ、コンビニへの雑誌配送は継続されることになったとはいえ、ローソン、ファミマ約3万店舗のうち1万店舗では来年3月以降、雑誌の取扱いが難しくなるという可能性はありそうです。

そうなると当然、雑誌や書籍が置かれていないコンビニエンスストアというものが各所に出現し始めることは避けられません。そして、本当に恐ろしいのは、「紙媒体を取り扱わなくても問題がない」という経営判断が、コンビニ側でなされることではないでしょうか。

ちなみに日本新聞協会の観測データから「部数の減少速度」を計算してみると、新聞は全体で年間300万部前後の勢いで消滅しており、とりわけ夕刊に関しては、業界として、あと数年ももたないレベルだと考えられますが、朝刊に関してもあと5年すれば、現在の夕刊と同じ状況に置かれる可能性が高いです。

すでに鉄道駅の売店などでは、新聞、雑誌のたぐいの取扱いも少なくなりつつあるようですが(著者私見)、新聞業界は、足元の物流という観点から崩壊しつつあるのかもしれません。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 引きこもり中年 より:

    毎度、ばかばかしいお話しを。
    雑誌社:「新聞と違って週刊誌は、2日ばかり遅れても問題ないのだから、コンビニに郵送しよう」
    郵便局も喜ぶでしょう。

  2. 引っ掛かったオタク より:

    そも雑誌も続々休廃刊していっとるげにミエマス
    イヨイヨ“深夜コンビニの雑誌コーナーで立ち読み”なんつー習俗もトドメ刺されるワケっすナ

    しかしこのまま紙媒体が先細りだと製紙業もタイヘ…知らんけど
    ヤハリ遠き未来にイズコカの知的生命体が解読する人類の記録は石板くらいなんかなァ??
    知らんけど

  3. DEEPBLUE より:

    既に書籍棚が無いコンビニが増えてきておりますからねえ。今後更に加速するのでしょう。

  4. カズ より:

    詰まるところ、コンビニ物流拠点への一括搬入・自社便配送と化するんじゃないのでしょうか?

  5. sqsq より:

    古い記事だけど(2017年)
    「朝日新聞3割が押し紙」の内部告発

    https://facta.co.jp/article/201703046.html

  6. はにわファクトリー より:

    新聞社は今や現実に紙面だけでは伝えきれない量の報道をネットで公開しています。皮肉なことにより多くの報道を社会に送り出そうとすればするほど
    1.新聞という情報商品の限界と特殊性が露わとなり
    2.増えた量、充実した部分にはおカネが払ってもらえなくなって行く、なぜなら
    3.読者は通信代が自腹であることをよーく分かっている
    これは社会進化というもので、文化や教養の衰退に話をすり替えるのは、新しい時代にあって売り上げを生み出すことができず社運を傾け続ける旧世代産業人の経営努力不足以外のなにもでもない。ネットに八つ当たりし続けても売り上げが元へ戻ったりはしない、稼ぐ力は自分で編み出せ。そんな簡単な帰結になるだけです。

  7. TとM より:

    長年、親の代から購読していた中日新聞と中日スポーツ、そして左に寄りすぎてた記事が苦になり(笑)バランスとるべく自分用に産経新聞をとっていました。
    主に高齢の親が中日新聞読んでいましたが、その親も最近急病を患ってしばらく入院してました。
    親と相談して、これを機に新聞2紙の購読を中止しようということになり、販売店に解約を申し入れました。
    ただ、東海地方在住で一応ドラゴンズファンの端くれとしては(笑)、広報紙の中日スポーツだけは当面残しておきましたw

    テレビも、地上波や無料BSはめっきり見なくなったし、親が見たい野球中継もそこでやらないことが多いので、スカパー契約しました。
    観たいコンテンツは紙だろうが放送だろうが電子媒体だろうが金払ってでも手に入れたい・・と思いますが、それ以外は、すっかり興味も失せました。

    新聞のチラシも、ラストワンマイルでの広告媒体として今でも多少は有用なんでしょうけど、近所のスーパーの特売チラシ、家電量販店、パチンコ店、貴金属買取業者、携帯ショップ、不動産会社・・・ぐらいかな。代り映えしない。
    昔はもっとチラシたくさんあった気がするけど、やはり費用対効果で辞めたとこも多いんでしょうね。

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