「姫路城外国人料金」続報とインバウンド観光業の課題

姫路市が姫路城への外国人客の入城料を高くすることを検討している、などとする話題に、続報が出てきました。報道によれば、「城へのイメージ悪化」という観点から、外国人と日本人を区別するのではなく、姫路市民とそれ以外の人を区別する、という方向で検討が進んでいるとのことです。正直、当初のオーバーツーリズム対策などの趣旨からは外れてしまうように思えてならないのですが…。

外国人観光客は3月以来連続して300万人台

首都圏や近畿圏などで暮らしていると、最近、東京都心部や大阪都心部、京都などで、外国人観光客(とくに欧米人など)の姿を見ることが増えて来たという印象を抱いている人も多いのではないでしょうか。

実際、日本政府観光局(JNTO)のデータによると、訪日外国人は今年3月以降、300万人を超えて推移しており、7月には329万人と過去最多を記録しました。

コロナ前の2019年を通じた訪日外国人合計が3188万人、平均266万人、最多となった2019年7月でさえ299万人とギリギリ300万人に届かなかったことを思い出しておくと、これは、凄い話です。

といっても、2024年7月の入国者数は、トップが中国(776,500人、速報ベース=以下同じ)で、2番目以降に韓国(757,700人)、台湾(571,700人)、香港(279,100人)が続き、この4ヵ国・地域で72.44%を占めています。

4ヵ国・地域からの訪問者数が訪日客全体に占める割合は、2019年7月の76.5%と比べたら低下してはいるのですが、それにしても日本にやってくる外国人観光客は、やはり近隣4ヵ国・地域出身者が最も多いということは間違ありません。

欧米豪などの入国者の特徴

しかし、外国人観光客に占める欧米豪出身者の割合は着実に増えています。

2019年7月と2024年7月を比較すると、たとえば次のような具合に、欧米豪などからやって来る外国人は軒並み増えています。

欧米豪などの入国者の変化(2019年7月→24年7月)
  • 米…156,865(5.24%)→251,200(7.63%)→+94,335(+60.14%)
  • 豪…*34,873(1.17%)→*48,600(1.48%)→+13,727(+39.36%)
  • 加…*29,285(0.98%)→*48,200(1.46%)→+18,915(+64.59%)
  • 仏…*34,634(1.16%)→*37,400(1.14%)→+*2,766(+*7.99%)
  • 英…*28,928(0.97%)→*32,900(1.00%)→+*3,972(+13.73%)
  • 独…*18,593(0.62%)→*22,700(0.69%)→+*4,107(+22.09%)

(【出所】JNTOデータをもとに作成)

これについては以前の『訪日外国人の大半はリピーターでラーメン需要も=調査』でも取り上げた、株式会社電通が実施した『ジャパンブランド調査2024』によれば、とくに欧米豪の訪日観光動機のトップは「円安」ではなく「リピーター需要」だったとする話題なども参考になるかもしれません。

欧米豪各国の観光客にとっては、日本の料理を味わい、日本各地でアクティビティを直接に体験したことで、「美味しかった」、「楽しかった」などとする思い出が残り、それがリピート需要につながっているのだとしたら、今後、多少円高に振れたとしても、日本に「外国人観光客が押し寄せる」という傾向は変わらないのかもしれません。

インバウンドの急増のコスト負担→外国人料金という論点

ただし、くどいようですが、当ウェブサイトとしては、外国人によるインバウンド観光需要が伸びることが日本経済にとって「無条件にましいこと」といえるのかについては、疑問だと考えています。

その理由はいくつかあるのですが、最たるものは、大量の外国人観光客を迎え入れる社会的なコストが、「旅行収支」などのリターンに見合わない可能性がある、という点でしょう。

国土交通省などの調査から判断するに、インバウンド客が日本で消費する金額は、(昨今の物価上昇の影響もあってか)年間7~8兆円程度と見られ(著者私見)、もちろん、経済波及効果なども含めたらこれは決して無視できるものではありません。

しかし、それと同時に、一部地域での交通網の混乱や、『富士山黒幕問題と本質見失う批判』などでも取り上げた「富士山コンビニ問題」などを踏まえると、やはり外国人観光客を大量に行け入れることに伴うコストが日本全体の各地で発生していて、それを外国人観光客自身に転嫁できていないという可能性があるのです。

こうしたなか、以前の『観光公害対策の姫路城「外国人4倍」構想をどう見るか』では、兵庫県姫路市で市長が姫路城への入城料に「外国人料金」を適用する案を考えている、とする話題を取り上げました。

これについて、当ウェブサイトとしては、年齢ごと、居住地ごと、国籍ごとに細かく料金を設定するという考え方自体は「悪いものではない」と申し上げました。

外国人料金設定か、観光税か

事実、たとえば東京都でも「小学生以下無料」、「都内在住の中学生は無料」といった料金設定をしているケースはありますし、また、諸外国にいけば、「自国民は3ユーロ、自国民以外のEU市民は5ユーロ、それ以外の大人は10ユーロ」といった具合に、国籍などに応じて細かく料金設定をしているケースもあります。

現在、姫路城の入場料は18歳以上の大人が1,000円、小学生以上・高校生以下が300円に設定されているようですが(姫路市『世界遺産 姫路城』ウェブサイト参照)、これについてはたとえば次のように料金を細かく刻むのは良い考えかもしれません(料金は適当です)。

  • 日本人の大人…1,000円
  • 日本人の小人…**300円
  • 外国人の大人…2,000円
  • 外国人の小人…**600円

ここで「日本人」と記載していますが、「日本国民および日本に永住権を持っている人」や「日本の居住者」などとしても良いと思いますし、なんなら「姫路市内在住者はその半額」、といった考えがあっても良いかもしれません。

重要なことは、日本国民、外国人観光客などの区分に応じて、細かく料金設定しても良いのではないか、という視点です。

ただし、著者自身は、姫路城のように「コストを外国人観光客に転嫁できる施設」ではそうしても良いとは思う反面、場面によってはこの手法が通用しないこともあると考えています。

「富士山コンビニ」問題はその典型例で、最近だと外国人にも大人気のマンガの「聖地」に「巡礼」する人が押し寄せ、交通安全や街の美観などに悪影響が生じている事例もあるようです(なかには私有地に無断で立ち入る者もいるそうです)。

こうした観点からは、以前の当ウェブサイトの議論の繰り返しですが、やはり入国税の導入が必須ではないか、などと思う次第です。

姫路城の続報:外国人向け料金ではなく…!?

それはともかくとして、この「姫路城は外国人別料金」とする構想に、続報が出て来ています。

【独自】市長が「外国の人は30ドル、市民は5ドルぐらいに」と話した姫路城入城料、市民以外は2~3倍に値上げへ 訪日客に特別プランも

―――2024/09/04(水) 07:30付 Yahoo!ニュースより【神戸新聞NEXT配信】

神戸新聞が4日に報じた「独自記事」によれば、姫路市が市民以外の料金を現行の2~3倍となる2~3千円程度に引き上げる方針を固めたのだそうです。

なぜこんな話になったのかといえば、外国人観光客に限って入城料を値上げするとする案に対し、市庁内や市議会から「城のイメージを下げる」などの慎重論が相次いだからなのだそうです。

神戸新聞は「関係者」の情報として、こうした指摘を受け、市では姫路市民とそれ以外の観光客の間で価格差を設け、これとは別に訪日客向けにサービスを充実させたプレミアムプランを新設するなどの方針に転換した、などとあります。

そのうえで姫路市は文化庁とも協議のうえで、2026年春ごろをめどに価格改定を目指す、などとしています。

この報道にどこまで信頼性があるかという問題はありますが、もしこの「城のイメージを下げる」とする慎重論に配慮したのだとすれば、これはなんだか意味がよくわかりません。

先ほども指摘したとおり、あるいは神戸新聞の記事にも記載されているとおり、海外では自国民と外国人の間で二重価格を設けているケースは多いからです。あるいは、「外国人向けに高い料金を徴収する」というよりは、「自国民を優遇する」、というほうが適切でしょうか。

もちろん、地元の人たちが優遇されるという仕組みは、当然にあって良いと思いますが、日本人も外国人もともに同じ価格が適用されるというのは少し雑ではないでしょうか。とりわけ姫路城は「国宝」でもあるため、区別するなら「日本国民」と「それ以外」、という区分も重要ではないでしょうか。

もっとも、姫路市の「複数価格設定」という事例は、増え続けるインバウンド客のコストをいかに適正に負担するかという視点では、良い事例になるのかもしれない、などと思う次第です。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 攻撃型原潜 より:

    こういう問題の時、姫路城は一体誰が所有と管理をしているのかを考える必要があるかと。ネットで検索してみると所有者は、
    「姫路市によると、天守閣は文部科学省が所有しているが未登記のままだ。特別史跡地に指定された約107万平方メートルの土地は所有権が入り交じり、文科省のほかに財務省や厚生労働省、兵庫県、姫路市などが所有している。」
    管理者は、
    「姫路市は国から管理を委託された立場にある。 そのため、指定管理者制度は活用できず、一部の業務を民間に委ねる形を取っている。 市自身が城を所有などし、指定管理者制度を導入している松江城や大阪城との違いだ。」
    だそうです。
    指定管理制度とか出てきて、何やらややこしいです。要は国が所有していて、管理を姫路市に委託しているということらしいです。
    と言うことは、国=国民と考えると日本人の入場料を外国人と同じに設定するのはおかしな話に思えます。
    ところで姫路市への管理委託費はどこから出ているのでしょう? 姫路市の予算からならば市民税を払っている姫路市民を安くするのは頷けますが、国から出ているのであれば、何だかなーと思います。

    1. 匿名 より:

      姫路城の管理維持に「誰が支払っている税金が投入されているか」で分類することは合理的だと思いますね。
      例えば、外国語のパンフレットを出している公共の観光施設がありますが、アレも本来であれば、有料で良いのではないかと思います。

  2. sqsq より:

    市民を無料または格安に設定するのはいいが、市民以外を日本人と外国人で料金に差をつけるのはやめた方がいいね。
    「理由」を聞かれたとき答えられますか。
    美しい姫路城のイメージが台無しだ。みみっちいこと考えるなと言いたい。

  3. 世相マンボウ_ より:

    世界では人気の観光地を持つ国の多くで
    入国税がすでに導入されているのですから、
    この姫路城の取り組みも支持します。
    そして、
    これをネタにして「外国人があ」「差別があ」
    と騒ぐ一部の人達の声の大きさに必要以上に
    かまって上げる必要はないと考えます。

    もちろん、
    来日する外国人の方に日本の文化を
    堪能してもらいたいのが基本ですが、
    現にオーバーツーリズムで混雑し
    満足いただけないのなら、
    イベントでもそうなように当然に対策が必要です。

    心情的には、はるばる日本に憧れて遠くから
    来ていただく方に見ていただきたいと思うものです。
    そして、近いうえに 単に、
    日本人の努力で安全で高いサービスは
    自国になく割安でしかも円安だからとかで
    バランス欠いて過度に多すぎる国には
    適正な人数にコントロールすることが必要です。
    さらには、さすがに改正方向にはありますが、
    免税で買って転売屋に売る脱税行為でただどころか
    お釣りが来る(?)という輩まで実際いるのです。

    その対策には、
    一律の入国税なり入場料なりが公平な上に、
    滞在支出も少なく単に安くて来る人たちには
    支出割合が高くなるので適正な調整効果も見込めるものです。
    なお、
    豊かでない国から日本にあこがれて苦労して
    来日してもらった人たちには高すぎるというのなら
    UNCTADで先進国でない国には割引をしてもいいでしょう。
    多すぎて問題の国はなぜかUNCTADで先進国なんだそうで(笑)
    ちょうど都合がいいと考えます。

    1. 攻撃型原潜 より:

      >その対策には、
      一律の入国税なり入場料なりが公平な上に、

      入国税について総論は賛成ですが、各論になると、徴収した入国税をどうやって各観光地へ還元分配するのか難しそうと思ってしまいます。
      姫路城のように世界遺産や国宝を抱える観光地はごっそり貰えるでしょうが、名もない地方の観光地まで行き届けることができるものかどうか。
      また、国の制度によるカネの徴収と分配はとかく利権構造を生み、つまらない組織と人を増やしてしまいがちです。
      それを思うと、各観光地がそれぞれ入場料を取るのがよさげに思います。
      外国人は体が重いため城の階段手摺等の木部がすぐに擦り減ってメンテの観点からは費用が余計にかかるとか言わずに一律でとればよいかと。

      1. 世相マンボウ_ より:

        コメントありがとうございます。

        たしかにご指摘のとおり使い途の点については
        考える点は複雑で多そうです。
        そうした点では、
        各観光地に任したほうが良さそうですが
        そうすると、
        声高にいちゃもんつけてくるそうした方面に
        気弱な観光地だと怯んでしまいそう(?)
        なのが心配です (^^);

        資金の使徒の中には、
        もっと各国言語での
        日本文化とマナーと全国施設解説のパンフ作成など
        がおもてなしの精神で必要でしょう。
        もちろん、
        必要以上に多すぎるおでん文字はこれ以上いりません。W
        さらには、
        日本固有の領土竹島の正しい知識普及活動にも
        一部を当てると正々堂々表明することで、
        入国税徴収以上のバランス適正化効果も見込めます。
                (^^)/

  4. 墺を見倣え より:

    外国人プレミアムの詳細が不明なので、憶測に過ぎませんが、手荷物預かり・飲食割引等が考えられている模様。
    コスパで比較すれば、姫路市民>外国人>日本人(除:姫路市民) になる可能性も有り得る。
    それは、ちとおかしくないか?

    話変わるが、河野デジタル相とかが、「マイナンバーカードによる認証で、X割引、住所が姫路市内なら、更にY割引。」てな方法を紹介しないのは何故だろう。

  5. 日弁連広報課 より:

    外国人は日本の宝やで?
    外国人は無料、その分日本人は増税でええやんか。
    敗戦国なんやから、それくらい我慢せなアカンよ。

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