中国に長期滞在する日本人が減少傾向にあることの意味

中国に進出する日本企業の団体である中国日本商会は、日本企業に対するアンケート調査の結果を公表したそうです。これによると中国政府への要望として「在留邦人の安全確保」を挙げる企業が非常に多かったというのですが、そもそもそのような要望をする以前の段階として、客観的データで見て、中国に「長期滞在」している日本人が長期低落傾向にあるという事実は見逃せません。

中国で日本人の安全は確保されているのか

当ウェブサイトではずいぶんと以前から、「中国リスク」が隠れた日本経済の大きなテーマだと考えています。

拘束事案等受け台湾が中国への渡航警戒レベル引き上げ』などでも述べたとおり、中国では外国人に対する不当な拘束事案などが多々生じているからです。

私たち日本国民にとっては、現地在住の日本人が危害を加えられるなどの事件(『中国人が靖国や日本人に加害:日中関係はどうなるのか』等参照)は、ある意味でショッキングなものでしたが、それ以上に、中国では現在、不透明な法制に基づき外国人を不当に拘束する事態が横行しているのです。

中国日本商会のアンケートでは日本人の安全に関する要望が

このあたり、私たち日本人が中国とどうお付き合いするのか、という話でもありますが、とりわけこの日本人加害事件を巡って興味深い話題があるとしたら、FNNプライムオンラインが30日付で配信した、こんな記事かもしれません。

「在留邦人の安全確保」求める声多く…中国進出の日系企業アンケート調査 中国の景気予測「悪化」「やや悪化」が60%

―――2024/08/30 14:52付 Yahoo!ニュースより【FNNプライムオンライン(フジテレビ系)】

FNNによると、中国に進出する日系企業でつくる「中国日本商会」は、中国の景気や事業環境におけるアンケート結果を公表したのだそうです(ただし、同会のウェブサイトを確認したところ、現時点でまだそのアンケートの原文は公表されていないようです)。

記事によるとこのアンケートでは、中国政府への要望として「在留邦人の安全確保」を挙げる企業が非常に多かったそうであり、これは「今年6月の蘇州の事件」(※おそらくは前述の日本人母子が襲われた事件)をきっかけにしたものだ、などとしています。

(※なお、記事が報じたアンケート調査には、ほかにも興味深い項目がいくつかあるのですが、これについては同会のウェブサイトに原文がアップロードされ次第、そちらの原文をベースに紹介してみたいと思う次第です。)

中国に在留する日本人は減り続けている

このあたり、正直申し上げるならば、日本企業もかつてのような「日本全体が中国から歓迎されている」という状況ではなくなっている、といった点について、もう少し深刻に受け止めた方が良いのではないか、という気がしてなりません。

もっとも、ここでもうひとつ興味深い話題があるとしたら、現実の日本人の行動ではないでしょうか。

以前の『中国に暮らす日本人の圧倒的多数は「一時的な滞在者」』でも紹介したとおり、中国に在留する日本人は2023年10月1日時点で101,786人ですが、このうち9割超が「長期滞在者」、すなわち「中国に長期滞在しているものの、いずれ日本に帰国する一時的な滞在者」です。

具体的には、「永住者」は5,366人であるのに対し、「長期滞在者」は96,420人であり、しかも在留日本人の合計は2012年(※150,399人でした)をピークに減り続けているのです(図表1)。

図表1 中国に在留する日本人

(【出所】外務省『海外在留邦人数調査統計』データをもとに作成)

中国は2番目に日本人が多く在留している国だが…

また、海外在留邦人という観点からもうひとつ興味深いのは、日本人の在留先でしょう。

2012年の日本人の在留先は、中国が米国に次いで2位でした(図表2)。

図表2 海外在留日本人(2012年10月1日時点)
国・地域合計永住者長期滞在者
1位:米国410,973161,290249,683
2位:中国150,3992,536147,863
3位:オーストラリア78,66444,33134,333
4位:英国65,07016,36948,701
5位:カナダ61,85436,65225,202
6位:ブラジル55,92753,0132,914
7位:タイ55,6341,04754,587
8位:ドイツ38,7409,12829,612
9位:フランス34,5387,03027,508
10位:韓国33,8468,42025,426
その他263,93272,043191,889
合計1,249,577411,859837,718

(【出所】外務省『海外在留邦人数調査統計』データをもとに作成)

ところが、直近の2023年においては、やはり中国は日本人にとって2番目の滞在先ではあるものの、その人数は2012年時点と比べて大きく減り、3位の豪州に追い抜かれそうになっています(図表3)。

図表3 海外在留日本人(2023年10月1日時点)
国・地域合計永住者長期滞在者
1位:米国414,615228,178186,437
2位:中国101,7865,36696,420
3位:オーストラリア99,83063,05536,775
4位:カナダ75,11251,95023,162
5位:タイ72,3082,41469,894
6位:英国64,97028,95236,018
7位:ブラジル46,90242,7484,154
8位:韓国42,54716,23626,311
9位:ドイツ42,07918,26323,816
10位:フランス36,20415,23220,972
その他297,212102,333194,879
合計1,293,565574,727718,838

(【出所】外務省『海外在留邦人数調査統計』データをもとに作成)

永住者の少なさ

さらには、中国への永住者については近年、増える傾向にあるにせよ、5,366人という人数は、10位のランク外でもあります。

外務省の統計上は、「永住者」は「当該在留国等より永住権を認められており、生活の拠点をわが国から海外へ移した日本人」、「長期滞在者」は「3ヵ月以上の海外在留者のうち、海外での生活は一時的なもので、いずれわが国に戻るつもりの日本人」と定義されています。

その意味で、長期滞在者とは多くの場合、ワーキング・ホリデーや留学などの目的で個人渡航している人か、現地に進出している日本企業の都合などで駐在員などとして赴任している人などが該当するのではないかと考えられます。

それが徐々に減っているというのは、中国に進出する日本企業のなかで、徐々に日本人駐在員を減らす動きが出ているということを間接的に裏付けているのではないか、といった仮説は成り立つでしょう。

ちなみに図表3に示した、直近の2023年における海外在留日本人を、「合計」ではなく「長期滞在者」順で並べ替えたものが、次の図表4です。

図表3 海外在留日本人(2023年10月1日時点、「長期滞在者」順)
国・地域合計永住者長期滞在者
1位:米国414,615228,178186,437
2位:中国101,7865,36696,420
3位:タイ72,3082,41469,894
4位:オーストラリア99,83063,05536,775
5位:英国64,97028,95236,018
6位:シンガポール31,3664,59326,773
7位:韓国42,54716,23626,311
8位:ドイツ42,07918,26323,816
9位:カナダ75,11251,95023,162
10位:フランス36,20415,23220,972
その他312,748140,488172,260
合計1,293,565574,727718,838

(【出所】外務省『海外在留邦人数調査統計』データをもとに作成)

これも、なかなかに興味深いランキングです。

米国や豪州のように、長期滞在者や永住者などが混在している相手国もあれば、韓国のように長期滞在者が少なく永住者が多いという国もあります(とくに韓国の場合は永住者が増える反面、長期滞在者が減少傾向にあるようです)。

ただ、中国はタイやシンガポールなどと並び、「永住者」の割合が少なく、「長期滞在者」の割合が高いという相手国です。

ここから何となく、日本の産業構造が見えてくる気がします。

そして、中国への長期滞在者数の低落傾向は、日中の経済関係の未来を予測するうえでは、重要な指標のひとつではないかと思うのですが、いかがでしょうか。

本文は以上です。

読者コメント欄はこのあとに続きます。当ウェブサイトは読者コメントも読みごたえがありますので、ぜひ、ご一読ください。なお、現在、「ランキング」に参加しています。「知的好奇心を刺激される記事だ」と思った方はランキングバナーをクリックしてください。

にほんブログ村 政治ブログ 政治・社会問題へ

このエントリーをはてなブックマークに追加    

読者コメント一覧

  1. sqsq より:

    中国、タイ、シンガポール型は日本企業の駐在員とその家族。
    オーストラリア、カナダ、英国型はワーホリ+語学研修か。
    アメリカの永住者が「グリーンカード」保有者のことならば必ずしもアメリカに永住する意図を持っているかは不明だ。確かグリーンカードには種類に応じて有効期間があったはず。

  2. 引きこもり中年 より:

    毎度、ばかばかしいお話しを。
    中国:「スパイ摘発ノルマのために、日本人を拘束していけば、中国に長期滞在する日本人を増やすことができる」
    二階○○が、そのために日本人を中国に送ったりして。

  3. sqsq より:

    突然警察に逮捕され、拘留、有罪、懲役。こんな国に永住したい人って誰?
    考えられるのは中国人と結婚した人かな。
    もしも私が「君、中国に行ってくれんかね」と言われたら断固拒否するね。

  4. クロワッサン より:

    二階氏でもかなわぬ習氏との会談 若手議員敬遠、先細る日中のパイプ
    朝日新聞デジタル2024年8月29日 10時00分
    https://www.asahi.com/articles/ASS8X3HSLS8XUHBI00MM.html

    パンダハガーになりたがる次世代議員は先細る一方との事で、この面でも日中関係の将来を察する事が出来ますね。

  5. みみこ より:

    そういえば、コロナのために特別機で日本に帰国したけれど、
    既に日本での生活拠点がない方達(永住者?長期滞在者?)が、
    一時的、ということで東京都から公団を提供されていましたが、
    彼らはちゃんと中国に帰国したんでしょうか。
    まさか公団に居座ったままなんてないでしょうね(家賃を払っているならいいけど)。

  6. レッドバロン より:

    ブラジルの邦人の多さが意外。ブラジルの日系人といえば戦前期から戦後すぐの1950年代から60年頃までに移民した人がほとんどでとっくに帰化して日本国籍はなく
    すでに日本との縁も切れた人がほとんどと思っていましたから。
    韓国は多いことは多いけど、マスコミがやたらと「押したがる」わりには…な感じ

※【重要】ご注意:他サイトの文章の転載は可能な限りお控えください。

やむを得ず他サイトの文章を引用する場合、引用率(引用する文字数の元サイトの文字数に対する比率)は10%以下にしてください。著作権侵害コメントにつきましては、発見次第、削除します。

※現在、ロシア語、中国語、韓国語などによる、ウィルスサイト・ポルノサイトなどへの誘導目的のスパムコメントが激増しており、その関係で、通常の読者コメントも誤って「スパム」に判定される事例が増えています。そのようなコメントは後刻、極力手作業で修正しています。コメントを入力後、反映されない場合でも、少し待ち頂けると幸いです。

※【重要】ご注意:人格攻撃等に関するコメントは禁止です。

当ウェブサイトのポリシーのページなどに再三示していますが、基本的に第三者の人格等を攻撃するようなコメントについては書き込まないでください。今後は警告なしに削除します。なお、コメントにつきましては、これらの注意点を踏まえたうえで、ご自由になさってください。また、コメントにあたって、メールアドレス、URLの入力は必要ありません(メールアドレスは開示されません)。ブログ、ツイッターアカウントなどをお持ちの方は、該当するURLを記載するなど、宣伝にもご活用ください。なお、原則として頂いたコメントには個別に返信いたしませんが、必ず目を通しておりますし、本文で取り上げることもございます。是非、お気軽なコメントを賜りますと幸いです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました

自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。

【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました

日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。
関連記事・スポンサーリンク・広告