改憲派が岸田政権下での憲法改正に反対する理由はない

岸田文雄首相がX(旧ツイッター)に憲法改正に向けた意欲をポストしたところ、「護憲派」と思しき人たちだけでなく、一部の「保守」を自称する人たちからも、非難が殺到しているようです。なかには「憲法改正は賛成だが岸田政権での憲法改正には反対する」などと表明する人もいます。正直、理解に苦しみます。もしあなたが憲法改正賛成派なら、「岸田政権だから憲法改正に反対する」というのはおかしな言い分です。憲法改正において重要なのは「中身」であり、「誰が改正するか」、ではないからです。

硬性憲法とは?

改正が非常に難しい憲法のことを、「硬性憲法(こうせいけんぽう)」、と呼ぶことがあるようです。

学研キッズネット』には、こんな定義が掲載されています。

こうせいけんぽう【硬性憲法】:やたらにへんこうされることをふせぐため,いっぱんのほうりつよりかいせい手つづきを,むずかしいものに定めてあるけんぽう。わが国をはじめ,世界しゅよう国のけんぽうはほとんどがうせいけんぽうである」。

憲法は一般の法律と比べ、改正が難しいことは事実です。

憲法の改正手続きは、こんな具合です。

日本国憲法第96条第1項

この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。

すなわち、憲法改正には①衆議院と参議院でそれぞれ3分の2以上の賛成で改憲を発議すること、②国民投票で過半数の賛成を得ること、というハードルが待っている、というわけです。定数は衆議院が465議席、参議院が248議席なので、それぞれ衆院で311人、参院で166人です。

(※厳密にいえば、現在、衆院で8人、参院で2人の欠員が出ていますので、衆院が161人、参院で165人あれば、「3分の2以上」要件がクリアされます。)

現在の議席数はどうなっているか

では、現在の議席数は、いったいどうなっているのでしょうか?

ここでやや乱雑ですが、便宜上、自民党、公明党、日本維新の会、国民民主党の4政党を「改憲賛成派」、立憲民主党、日本共産党、社民党、れいわ新選組の4政党を「改憲反対派」、それ以外の政党や無所属議員を「改憲中立派」と位置付けたら、現在の勢力はどうなっているのでしょうか。

(※なお、衆参両院でこれらの政党と統一会派を組んでいる場合、その会派に属する議員が全員、「改憲賛成派」ないし「改憲反対派」であると仮定します。)

じつは、すでに「改憲賛成派」は、衆参両院で3分の2を超えています。

「改憲賛成派」は衆院で341議席(自民・無所属の会257、維新・教育無償化45、公明32、国民・無所属クラブ7)、参院で177議席(自民117、公明27、維新20、国民・新緑風会13)だからです。

もちろん、公明党を「改憲賛成派」に入れて良いのか、という議論はあります。

しかし、公明党も自民党と連立与党を形成している以上、もし自民党が主導して改憲を発議した場合、公明党がこれに反対するような事態があれば、連立政権の枠組みが壊れ、公明党は野党に放り出されることでしょう(個人的に、公明党が連立外に出ていくことを、期待していないといえばウソになりますが…)。

改憲に向けて意欲を示す岸田首相

よって、もしも岸田文雄首相(=自民党総裁)が率いる自民党が、本気で憲法改正に取り組むのであれば、立憲民主党を中心とする「改憲反対派」が束になったとしても、改憲を阻止することはできないはずです。

そして、1955年に自民党が結党された際の理念のひとつは、「憲法を変える」ことにあったはずです。

どうして自民党は改憲に取り組まないのか―――。

そうしたもどかしい思いを抱く自民党支持者も多いのではないでしょうか。

もっとも、こうした「改憲論者」のみなさんは、このところ、岸田文雄首相が改憲に向けて、積極的に発言を行っていることに気付いているでしょうか。

岸田首相はX(旧ツイッター)に、来年の結党70年という節目に向け、自民党が「党是である憲法改正」に向け、「党として議論を進めていく」とする趣旨の宣言をポストしました。

これについて、どう考えるべきか―――。

興味深いことに、このポストに対しては、「護憲派」、「極左」と思しき人たちだけでなく、「保守」を名乗る人たちからの反対も殺到しています。

たとえばアカウント名に「国益」を含めているユーザーは、こんなことをポストしています。

憲法改正は賛成だが岸田政権での憲法改正には反対する」。

また、「憲法改正よりも拉致事件の解決の方が先だ」、などと叫んでいる人もいれば、「米軍の言いなりで憲法を改正するのか」、といった、明らかに陰謀論的な立場から岸田首相を批判している人もいます(憲法は米軍の押し付けだと主張しておきながら、米軍が憲法を変えさせようとしているというのも、強烈な思考です)。

岸田首相による憲法改正の発議には、やはり問題がある、などと考えている人が、一定数は存在する証拠でしょう。

大切なのは「中身」であって「誰が」ではない

では、岸田首相のもとでの憲法改正発議は、悪いことなのでしょうか?

岸田首相に憲法を議論する資格などないのでしょうか?

当ウェブサイトとしては、このような考え方には与しません。

まず、憲法を改正する際に重要なのは、あくまで「中身」であって、「誰が」、ではないからです。

極端な話、現在の日本国憲法も「GHQに押し付けられたものだ」、などと主張する人もいますが、反米的な立場の人のなかに、護憲派と結託している事例があることからもわかるとおり、「誰が作ったか」、「誰が改正したか」は重要ではないのです。

そして、「改憲と並んで重要な国政上の課題がある」ことは事実ですが、だからといって、改憲を遅らせて良いという話ではありません。

たとえば北朝鮮による日本人拉致問題にしても、「それを解決してから改憲せよ」、と主張する意見があることはわかりますが、「日本が改憲し、自衛のための戦争ができるような体制になること」が拉致事件の解決を促す効果がある、という発想はできないものでしょうか。

自称保守主義者のなかにも、拉致問題の解決を政府に求める人は多いのですが、著者が見たところ、彼らがやっているのは、政府に「拉致問題を解決せよ」と要求しているだけであって、拉致問題解決に向けた道筋を描くことは、決してしません。

端的に言えば、無責任です。

もしも自国民が外国に誘拐された際、日本政府がその外国に軍を派遣して強制的に解決できるような体制にあったとしたら、そもそも拉致問題自体、発生していなかった可能性があります。

北朝鮮だって、強い軍備を整えた日本がある日突然、「拉致事件を解決するための特殊軍事作戦を開始した」などと発表し、自国に軍事侵攻してきたら、嫌でしょう。

あるいはウクライナ戦争で極東地区の軍備がスカスカな状態になっている(かもしれない)ロシアにとっても、日本が「1945年9月以降、不法占拠されたままの領土である千島列島と樺太を回復するための特殊軍事作戦」を始めることは、嫌がるはずです。

さらには、重武装した日本の船舶が尖閣諸島周辺海域に出現し、中国の公船をボコボコ沈め始めたら、ただでさえ国内経済の不調に苦慮している中国政府にとっては進退窮まってしまうかもしれませんし、韓国も竹島から撤収せざるを得なくなるかもしれません。

もちろん、実際に日本がそれをやる、という話ではありません。

相手国から見て、「日本は怒ったら何をしでかすかわからない」と思わせるだけでも、十分な抑止力として機能する(かもしれない)、という話です。

(※なお、「現在の日本が国民の知らぬ間に米国によって支配されている」などと主張する人の改憲反対論については、当ウェブサイトではとくにコメントすることはしません。)

一度改憲に成功すれば「護憲派」は拠り所を失う?

それに、「硬性憲法」と呼ばれる憲法も、一度改憲に成功すれば、国民のマインドが変わる可能性があります。

日本の護憲派というのは、「一言一句、憲法は絶対に変えてはならない」とでも言いたいかの雰囲気を醸し出していますが、もしも改憲に成功すれば、この「一言一句、絶対に変えてはならない」という護憲派の「拠り所」が崩れることになるからです。

この点、護憲派の言い分の支離滅裂さについては『「もし攻め込まれたら?」という疑問に答えない人たち』などでも触れてきたとおりであり、今さら敢えて指摘するまでもないでしょう。

「憲法が平和を守ってきた」とする虚構の世界に生きる護憲派のみなさんにとっては、その虚構が崩れることを、なによりも恐れているのではないでしょうか。

(※なお、もしも日本が憲法改正に成功すれば、護憲派政党は次の選挙で順次、少数派に転落していくかもしれませんし、護憲派新聞は続々と廃刊していくかもしれませんが、この点については正直、知ったことではありません。)

それよりも重要なことがあるとしたら、憲法第96条第1項に書かれている、2番目の要件―――「憲法改正を認めるのは国民投票である」とする趣旨の規定です。

護憲派のみなさんが全力を挙げ、改憲を阻止してきたことは、言い換えれば、憲法を改正するかどうかを検討するという、私たち国民の権利を妨害してきた、という意味でもあるのです。

くどいようですが、憲法を改正するかどうかを決めるのは、国会議員ではありません。

私たち国民です。

ましてや、国民の代表でも何でもない一部メディアが「護憲」を掲げ、私たち国民の権利である憲法改正を妨害しているのは、もはや滑稽というほかありません。

いずれにせよ、衆参両院議員は私たち国民が有権者として直接選んでいて、その衆参両院で「改憲派」(?)が3分の2を超えているという状況は、間接的には、日本国民が憲法改正を望んでいる、という意味でもあります。

もしあなたが憲法改正賛成派で、かつ、岸田首相が政治生命を賭け、本気で憲法を改正するつもりなのであれば、(もちろん内容次第ではありますが)岸田首相を信頼し、支持してみる価値はあるのかもしれない、などと思う次第です。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. DEEPBLUE より:

    内容次第ですね。憲法九条に自衛隊を明記と言っているようですが、自衛隊の存在を認めるだけでなく交戦権をどうするかとかもあります。
    国民が納得する内容でなら、岸田政権でもどの政権でもすぐに改正して欲しいです。逆に憲法九条は不磨の大典、環境権等だなどという「改憲」を唱える野党は結構です。

  2. G より:

    私は9条を含む改正には中立なのですが、とにかく1回国民投票を経験してほしいと願ってます。
    成立のときには時代背景として仕方ないとはいえ、旧憲法の手続きでの改定でした。それから70年以上、国民投票による承認を一度たりとも得てはいません。
    憲法が変えられないから、困ったときには解釈で押し通すということが横行し、事実上の無法状態になっているとすら思えます。
    現状、解釈で認められた部分、例えば自衛隊の設置、集団的自衛権、私学への助成などはしっかり明記。その上で、同性婚や夫婦別姓などの諸問題も過半数の同意が得られる方で確定。今後は解釈で憲法を蔑ろにすることは一切なくし、困ったら国民投票に問うということを徹底して欲しい。

    現憲法では、憲法を改正できるのは国民投票だけです。国会議員には、発議をするという補助的な権限しかありません。そこを自覚して、憲法に関する諸問題をどんどん「発議」してほしい。決めるのは国民です。

    1. 大陸老人 より:

      賛成します。

    2. 匿名 より:

      憲法改正・国民投票には基本的には賛成ですが,主様の言われる「誰がやるのか」はある程度意味があると思います。
      今このタイミングでやるとしたら,首相・自民党に対するバイアスがかかってしまうのではないかと思います。
      そして万が一(国民投票による)改正に失敗した場合,「国民が憲法改正に反対した」という結果だけが残り,今後の改正に関して反対派に餌をやるようなものです。
      ですので,「岸田首相の下での国民投票」には賛成できません。

      1. DEEPBLUE より:

        そこなんですよね~。正直、任期中の改憲発議とか言ってましたが実際に進んだ速度的にどの程度「本気」なのか疑わしいですし。
        現実的には総裁選後の政権(第2次岸田政権かも)が取り組むタイムスケジュールになるでしょう

  3. がみ より:

    千葉市のガーナ人の生活保護や国保に利用にも現れるように、そもそも現行憲法が日本国の定義と日本人の定義すら明確でないのからして異常。

    立民も共産党もれいわも言ってる事ややってる事は現行憲法から外れる事が多々ある。
    ザル法の公職選挙法みたいな違和感。

    改善するのは当たり前だと思うんだけどな。

    1. クロワッサン より:

      在日外国人に対する生活保護は、裁判で行政がその裁量の範囲内で行う「施し」であるとの判断が出ています。

      権利は有さない事が確定しているので、財政に余裕のある自治体なら物乞いをする在日外国人に「善意の施し」をするのはまぁ仕方ないのかな、と。

      でも、生活保護を与え続けるより帰国費用として与えて再入国を不可とするのが適切かも。

      で、足りないとか文句を言うならさっさと母国に帰って母国政府に世話をして貰うのが筋だと考えます。

      1. がみ より:

        治療目的で来日させる集団がいて、治療費も生活費も居住にかかる費用も全部日本持ちが当然と言わんばかり(ガーナでも透析出来ますし、間にいくつ国があるやら)だし、兵庫県みたいに中華人民共和国から30億円にものぼる生活保護や国保負担や年金支給してくれてありがとうの感謝状を中国大使館から貰ったりめちゃくちゃですよ。

        きちんとした憲法の改正が無く司法や行政が暴走し放題なのが日本の現実です。
        悲しい。

  4. クロワッサン より:

    んー、でも岸田さんちの文雄君は「仮定のご質問には答えません」と述べる可能性があるので、憲法改正にあたって「仮定のご質問には答えません」で逃げて憲法改悪をするかもですよ?

    “前科持ち”なので、要注意です。

  5. 駅田 より:

    手綱が外れた関東軍が中央政府の意思を無視して戦火を勝手に広げました。
    軍人の暴走です。
    軍隊にはしっかりリードをつけて暴走しないようにしなければいけないのが大戦の教訓です。

    また現在の自衛隊は日本にとって必要不可欠な存在です。
    主に災害対策などで力強く力を発揮しているのは国民がよく知ることでしょう。

    故に自衛隊の存在を想定していない現在の憲法は不適格です。
    自衛隊にしっかりとした目的を規定する事。
    二度と暴走しないように枷をつけること。
    自衛隊について憲法に適合させるのは必須の事項です。

    そもそも論として解釈改憲などというものがまかり通るのが意味不明です。
    国民の所まで憲法改正議論が降りてこないのです。
    政府が勝手に憲法の解釈を変えれてしまうのです。
    それはおかしいですよね?
    そして野党はそうした解釈改憲を許さずに、国民投票で信を問えと言わなければ行けなかったはずです。
    まぁ一字一句変えてはならない事を信条としているリベラル野党にはそれはできないでしょう。
    愚民達が自民党を信じて憲法改正させてしまうと、アイデンティティが崩壊してしまいますから。

    ともかく憲法の議論を国民のところまでおろしてくる事は必要不可欠です。
    切磋琢磨し、必要な内容を改善していく必要があります。
    残念ながらそうした段階に全くなっていませんが・・・

  6. taku より:

     うーん岸田首相が、本気で「憲法改正」を考えているのなら、応援しますけどね。
     自分の再選のために、「改憲派」を惹き付けたい、という意図が見え見えですよね。というより、一連の「解散風吹かし」にあるように、自らの再選ファーストなんだろうな、と多くの人に思われては、この戦略は成り立ちません。
     家康は、秀吉が死んでから謀略の限りを尽くしますが、それまでは「律義者」の評判を取ってきました。「小手先の策を弄する人物」と思われては、何をやろうとしても、誰も付いていきません。

  7. んん より:

    テレビショッピングで
    オマケ商品がちょっと魅力的だったんだけど
    メインの商品が不要だったので
    購入を断念しました

  8. ミナミ より:

    政治家は何を言ったかより、何をしたかで判断すべきと思います
    岸田氏は首相になってもう2年10ヶ月ですが、その間に改憲に向けて何をしたのでしょうか?
    今になってなぜ言うのか? 総裁選前のキャンペーンの一つという以外に理由が思いつきません
    例えば、安倍氏は首相期間中は改憲に向けた具体的な法的整備をやってましたよ
    岸田氏とはそこ(何をしたか)が明確に違います

    口だけなら何とでも言える。前回総裁選前には、どう見ても保守とは思えない河野太郎ですら(!)改憲を打ち出していました
    Twitter上の論議は見ていないし、見たいとも思えませんが、
    「ジャリ掬いの様に改憲を言えば自民支持の保守層が味方になると思うなよ。舐めるな」
    「口だけの奴を今まで腐るほど見て来たんだよ」
    という様な怒りも、保守内の岸田批判層にはあるんじゃないでしょうか

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