皮肉…相次ぐ新聞値上げはむしろ業界衰亡早める可能性

新聞の値上げがパラパラと続いているようです。ただ、先行して値上げした事例を調べてみると、値上げによる売上高の増加という効果を、部数の減少や物価高による原価・費用の上昇が相殺し、一部の新聞社では新聞事業が完全に赤字になってしまっているようです。こうしたなか、新聞業界で懸念されるのは、例の「櫛の歯」理論―――櫛の歯が抜けるように新聞部数が減少すれば、新聞配達というサービス自体が維持できなくなる可能性―――ではないでしょうか。

夕刊部数の減少が激しい

どれだけ強固に見えたとしても、終わるときはあっという間なのかもしれません。

かつて、新聞というものは、私たちの生活には欠かせない、必須の情報収集手段のひとつでした。

昭和時代、あるいは平成時代の中期ごろまでであれば、たいていの家庭では新聞を定期購読していて、昭和生まれの方であれば、子供のころ、親御さんが朝食をとりながら新聞をバサバサめくっていたのを記憶している方も多いのではないでしょうか。

ただ、普段から当ウェブサイトにて指摘している通り、近年は、新聞の部数の落ち込みが激しいようです。

一般社団法人日本新聞協会のデータでは、新聞部数は近年、まるで坂道を転がるかのように、落ち込みが激しくなっていることがわかります。

とりわけ落ち込みが大きいのは夕刊です。図表1は同協会が公表しているデータをもとに、夕刊部数(※「セット部数」と「夕刊単独部数」の合算)の推移と、3年刻みでの部数の増減をグラフ化したものです。

図表1 夕刊部数の増減

(【出所】一般社団法人日本新聞協会『新聞の発行部数と世帯数の推移』をもとに作成。なお、「夕刊部数」は「朝夕刊セット部数」と「夕刊単独部数」の合計値)

グラフの起点が1999年となっていますが、データは2000年以降の分しかないため、1999年のデータが表示されていないなどの不整合がありますが、この点についてはご容赦ください(以下、朝刊に関しても同じ)。

それはともかく、このグラフで見ると、夕刊部数には「減少のピーク」が2回訪れたことがわかります。

1回目は2008年から11年にかけての時期で、3年間で272万部も落ち込んでいますが、これを1年間に換算すれば平均90万部少々です。

そして、2回目が直近、すなわち2020年から23年にかけての時期で、一気に312万部失われています。年間平均で104万部失われた計算ですが、とくに2022年から23年にかけての1年間だと、部数は154万部も消滅しています。

櫛の歯理論では部数がゼロになる前に事業終了のリスクも!

ちなみに2023年の夕刊部数は491万部ですので、毎年100万部ずつ部数が減れば5年間で、この世から夕刊が消滅します。部数の減少速度が年間150万部なら、夕刊の「余命」はあと3年、という計算です。

しかし、『夕刊は「櫛の歯が欠けるように」消滅に向かっている?』でも指摘したとおり、現実には、夕刊は部数がゼロになるよりも、もっと早い段階で消滅するかもしれません。

著者自身が「櫛の歯理論」と呼んでいる考え方によれば、最低限のサービスを維持するためには一定の市場規模が必要であり、たとえば夕刊から撤退する新聞社が増えれば、新聞販売店にとっても夕刊配達サービスで採算が割れ、結果的にすべての社が夕刊からの撤退を余儀なくされることもあるからです。

現実問題としては、人口密集地帯(たとえば「東京23区内」など)でしばらく夕刊は残るものの、それ以外の地域では、各社ともに夕刊発行を断念してしまう、という可能性が高そうです。

たとえば『今度は東京新聞が「東京都区部」以外での夕刊を終了へ』でも紹介したとおり、東京新聞が23区以外での夕刊発行を8月末で終了すると発表していますが、夕刊発行を取り止める社が増えれば、それは他の社にとっても夕刊配達のコストが上昇する可能性があることを意味するからです。

というよりも、あくまでも観測報道ベースではありますが、「3大夕刊紙」として知られる夕刊フジが来年1月以降、紙媒体の発行を取り止めるという話題もありますが、『新聞業界「印刷配送共通化」で高まるドミノ倒しリスク』でも触れたとおり、もしそれが実現した場合には夕刊業界全体の脅威ともなりかねません。

現在、たとえば東京都内だと、夕刊フジはほかの有力2紙(東京スポーツ、日刊ゲンダイ)と配送を共通化しているそうであり、もしも夕刊フジが本当に休刊してしまえば、ほかの2紙も同時に休刊に追い込まれるリスクは排除できないからです。

朝刊の部数減は夕刊ほど激しくはないが…

一方、この「櫛の歯理論」と同じことは、朝刊にも当てはまるかもしれません。

ストレートに坂道を転がり落ちるかのごとく部数を減らしている夕刊と異なり、朝刊はまだ余裕がありますが、それでも2000年時点で5189万部だった部数は、2023年時点では2814万部と減少しました。まだ「半減」とまではいえないにせよ、やはり部数の減少は急速です。

図表1にならって朝刊部数の増減の推移を3年刻みで取ってみると、図表2のとおり、やはり近年になるほどに部数の落ち込みが激しいことが判明します。

図表2 朝刊部数の増減

(【出所】一般社団法人日本新聞協会『新聞の発行部数と世帯数の推移』をもとに作成。なお、「朝刊部数」は「朝夕刊セット部数」と「朝刊単独部数」の合計値)

朝刊部数の場合は、2017年から20年にかけての落ち込み(▲687万部)と比べ、そこから23年にかけての落ち込み(▲618万部)は、いくぶんかマシになっていますが、これは2020年がコロナ禍で前年比▲266万部と大きく落ち込んだことの影響もあるのかもしれません。

ただ、コロナ禍の落ち込みを別としても、とくにこの5~6年ほどは、毎年200万部前後の部数の落ち込みが続いており、朝刊部数は2023年末時点で2814万部と、データが存在する2000年以降で初めて3000万部の大台を割り込んでいます。

もし毎年200万部ずつの減少が今後も続けば、朝刊は遅くとも14年後に消滅する、という計算ですが、先ほどの「櫛の歯理論」を考えたら、この「14年後」というシナリオも楽観的過ぎるかもしれません。

というのも、新聞の部数が減れば、「規模の経済」が働き辛くなり、新聞を1部作り、それを読者に送り届けるのに必要な費用が、激増するからです。

新聞値上げはその後もパラパラ続いている

こうしたなか、本稿で改めて指摘しておきたいのが、新聞の値上げ状況です。

おりしもの物価高で最近、新聞の値上げ事例が相次いでいるのですが、ここで2022年10月以降の新聞各紙(全国紙、地方紙、業界紙など)のうち、著者自身が調べた値上げ状況をまとめてみました(図表3)。

図表3 月ぎめ購読料の値上げ状況(朝刊または統合版)

(【出所】著者調べ)

値上げ幅は月額数百円、というケースが多いようですが、なかには日経新聞のように、1,000円近い値上げ幅の事例もあります。

また、朝夕刊をセットで発行している社についても同様に、値上げ幅は500円前後で、日経新聞の場合は800円です(図表4)。

図表4 月ぎめ購読料の値上げ状況(セット)
値上げタイミング新聞名朝夕刊セットの値上げ幅
2023年5月朝日新聞4,400円→4,900円(+500円)
2023年5月西日本新聞4,400円→4,900円(+500円)
2023年6月毎日新聞4,300円→4,900円(+600円)
2023年7月日本経済新聞4,900円→5,500円(+800円)
2023年7月神戸新聞4,400円→4,900円(+500円)
2023年8月産経新聞4,400円→4,900円(+500円)
2023年11月京都新聞4,400円→4,900円(+500円)
2023年11月河北新報4,400円→4,400円(+500円)
2024年9月東京新聞3,700円→3,980円(+450円)

(【出所】著者調べ)

先行する値上げ事例で見ると…値上げは成功だったのか疑問

なお、夕刊については産経新聞がすでに東日本での発行を取り止めているほか、朝日新聞、東京新聞なども、一部地域で夕刊の発行を取り止めつつあります。

いずれにせよ、紙ベースでの新聞には、用紙代、インク代、工場の電気代、新聞紙を物理的に人海戦術で読者に送り届けるためのガソリン代や人件費など、莫大な費用が必要です。

ウクライナ戦争などの影響で物価が上昇するなか、読売新聞や中日新聞など一部を除き、新聞各紙は相次いで値上げに踏み切っている格好ですが、値上げによる読者離れが生じるようであれば、結果的に新聞業界が自分で自分の首を絞める格好になる可能性も高そうです。

現実問題、『朝日新聞部数はさらに減少:新聞事業は今期も営業赤字』でも取り上げたとおり、大手新聞社のなかで珍しく有価証券報告書を発行している株式会社朝日新聞社のケースでいえば、直近5事業年度で見て、「メディア・コンテンツ事業」は2022年3月期を除き、いずれも営業赤字です。

こうした事例で見れば、新聞社にとっての値上げが「成功」だったのかは疑問です。

とくに2024年3月期に関しては、値上げによる売上高の改善効果を部数減やコスト増などが帳消しにした可能性があり、一時的な値上げが結果的に新聞業界の衰亡を早めてしまったのだとしたら、これは何とも考えさせられる事例であることは間違いないと思います。

事業撤退モードのサプライヤー

もちろん、新聞業界にも悩みはあり、値上げをしなければ原価・費用がかさみ、もっと早い段階で採算割れを起こす、という可能性はあるのでしょう。

したがって、新聞社の値上げには、経営上、やむを得ない側面もあるのですが、それと同時に値上げをしたらしたで、部数の減少速度が激しくなる、といったジレンマに、新聞社、いや、新聞「業界」が直面していることは間違いありません。

つまり、新聞の値上げが結果的に新聞業界の衰亡を早めてしまう可能性がある、という皮肉です。

そういえば、つい最近も三菱重工が新聞の輪転機事業から撤退するという話題もありました(『三菱重工が新聞輪転機から撤退か』等参照)が、すでにサプライヤーは新聞業界からの「撤退モード」に入っているように見えるのは、気のせいでしょうか。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

もっとも、ここから先は著者の私見ですが、冷静に考えて、現在の新聞紙に、毎月数千円を支払って購読する価値があるのかは大変に疑問です。

高いカネを払う必要があるわりに、専門知識の裏付けもなく、思想的にも非常に偏った古い情報を読まされることを考えれば、SNSやニューズ・ポータルサイトといったネット上の無料の情報収集ツールを眺めていた方が、人によっては遥かに有意義だと感じるのではないでしょうか。

また、総務省『情報通信白書』のメディア利用時間調査、あるいは著者自身の周囲の人の話なども総合的に踏まえると、おそらく新聞の購読者は高齢層が中心であり、若い現役世代の家庭では、すでに新聞を購読していないケースも大変に多いはずです。

これも著者自身がマンションの管理人さんに尋ねたという体験談で恐縮ですが、資源ごみ回収の日に出て来る新聞の束が、近年、めっきり減ったそうです。

こうした状況証拠に照らし、現に新聞を購読している高齢層が新聞の購読を止める可能性はそれなりに高い反面、現在新聞を購読していない若年層が新聞を新たに購読するようになる可能性は大変低いと言わざるを得ません。

いずれにせよ、部数データや新聞の値上げ状況、一部新聞社の財務諸表分析などを総合的に踏まえるならば、新聞が「滅亡」するのは時間の問題だと思うのですが、いかがでしょうか?

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. はにわファクトリー より:

    「値上がりの時代、生活防衛はまず新聞解約から」

    1. はにわファクトリー より:

      「進む新聞記者の作文小作人化
       デジタル社会の価格決定権、報道産業の売り上げ源泉はネットが握る」

    2. はにわファクトリー より:

      「デジタル進化圧
       紙の新聞廃止が浮き彫りにする報道の値打ちと適正対価」

  2. 匿名 より:

    日本製紙は新聞用紙設備を1基停止して トイレットパーパー用に転換すると発表。

  3. 引きこもり中年 より:

    毎度、ばかばかしいお話を。
    新聞社:「押し紙を増やせば、新聞発行部数は、いくらでも維持できる」
    夕刊も押し紙しなかったのでしょうか。

    1. 折込 より:

      夕刊部数は折込がないので、押し紙の必要性はなく販売店はゴミを出さないように環境に配慮しています。

  4. ムッシュ林 より:

    普段はメジャーな新聞しか見ないので、地方に新聞社がすごくたくさんあるのには少し驚きました。地方新聞が淘汰されて、大新聞社はその需要を取り込みながら全体としては縮小していくように思いました。
    近年はメディアの偏向が特に目立つ中、産経が一番まともに見えてしまいます。時代の変化を踏まえて、偏向メディアが嫌いな層をターゲットにした新聞や新たなメディアが出てきてもよいように思います。新聞という媒体が廃れても、取材に基づき記事を書くという行為はなくならないですから。

  5. Sky より:

    今月、初めて未使用古新聞紙を1箱購入しました。家庭内で一定量「紙」としての使途があり、ホンモノ古新聞紙の在庫が先月尽きたためです。市場が益々縮小すると未使用古新聞紙も貴重な存在になりますね。この1箱で当面もつはずですが、それなりに使用するので未使用古新聞紙入荷量が減って高騰しないうちにもう少し余計に確保したほうが良いのかしら?と思いました。

  6. カズ より:

    財務省 → 増税
    NHK → 法制化(ネット視聴)
    新聞社 → 値上げ

    三者において決定的に足りないのは、「裾野を広げる努力」ですね。
    のっけから「足らぬのなら取ればいい!」だから反発必至なのかと。

  7. 普通の日本人 より:

    新聞社は「赤旗化、宗教新聞化」になるのでは
    つまり信者専用になるのではないか
    偏向報道があからさまになってきたのはそのためでは
    行動もハングルあり簡体字あり。
    まるであちらの主張がくっきり分かりやすくなってきています

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