首相に落書きしてネットに投稿しても罰せられない日本

日本は米NGO「フリーダムハウス」の調査で、9年連続、G7で2番目に自由な国との評価を受けています。これについてはたしかにその通りです。一国の首相の顔写真に落書きをしたうえで、それをインターネット上で公開しても、逮捕されたり、罰せられたりしないからです。ただ、もしこれが野党だったならば、刑事告発されていた可能性があるのではないでしょうか?私たちは「脱糞民主党事件」を思い出しておく必要があります。

フリーダムハウスvsRSF:デタラメなのはどっち?

米NGO「フリーダムハウス」が毎年公表している「世界の自由度」に関するスコアについては、日本は9年連続して96点と、世界でもかなり高く、G7諸国でもカナダに次いで2番目だった―――。

こんな話題を、当ウェブサイトではこれまでしばしば取り上げて来ました。

といっても、このランキングを当ウェブサイトで取り上げるときは、フランスに本部を置くNGO「国境なき記者団」(Reporters sans frontières, RSF)が公表している『報道の自由度』(Classement mondial de la liberté de la presse)という調査のデタラメぶりを示すのと、だいたいセットです。

以前の『【総論】「報道の自由度ランキング」信頼性を検証する』でも取り上げましたが、「報道の自由度」に関しては、日本のランキングは180ヵ国中70位と非常に低く(もちろんG7諸国中最低です)、どう見ても、フリーダムハウスとRSFの少なくともいずれかが誤っているとしか思えないのです。

ちなみにフリーダムハウスの調査は、世界各国・地域に共通の25項目の評価項目について、それぞれ4点満点で評価を行い、それを積み上げる方式により合計100点満点でその国・地域の自由度を判断する、というものです。その意味では、客観性と透明性、検証可能性は極めて高いといえます。

これに対しRSF調査は各項目の積み上げ方式ではなく、ランキング「のみ」が数値として表示されているだけです(厳密にいえば、2022年以降は5つの評点っぽいものを平均した数値でランク付けしているようですが、各評点がどうやってその点数になったのか、まったくわかりません)。

FH評点17点のコンゴ共和国がRSFで日本より上位!

そのうえで、RSF調査で日本より上位ランキングにあり、かつ、フリーダムハウスの評点が69点以下の国・地域を集めてみると、たとえば次の図表のとおり、コンゴ共和国(100点満点中17点)、ガボン(同20点)、モーリタニア(同39点)など、そうそうたる国が並びます。

図表 RSFランキングで日本より上位かつフリーダムハウス評点が69点以下の国・地域
RSFランキングFH評点
コンゴ共和国69位17点
ガボン56位20点
モーリタニア33位39点
コートジボワール53位49点
ウクライナ61位49点
ガンビア58位50点
アルメニア43位54点
シエラレオネ64位60点
モルドバ31位61点
リベリア60位64点
ハンガリー67位65点
フィジー44位66点
マラウィ63位66点
北マケドニア36位67点
ドミニカ共和国35位68点
モンテネグロ40位69点

(【出所】Reporters sans frontières および Freedomhouse データを参考に作成)

自然に考えたら、客観性、透明性、検証可能性がないという時点で、RSFの調査は「信頼に値しない」、という結論が出そうなものですが、いかがでしょうか。

首相を揶揄しても罰せられない国

それはともかくとしてフリーダムハウスの方の調査が正しい証拠は、じつは、案外私たちの身近なところにあります。日本では政治家を批判することは自由とされており、X(旧ツイッター)でも最近、岸田文雄首相を舌鋒鋭く批判したり、揶揄したりする内容がポストされることが増えているように思えます。

個人的に、岸田首相がパーフェクトな政治家だとは思いません。

ただ、この方が漫画で岸田首相を批判されているのと同様、私たちはこの漫画を批評する事由があるはずなので、敢えて言わせていただくと、まったく面白くもなんともありません(※この程度の批判であれば問題ないでしょう)。

ちなみに岸田政権時代に日経平均株価が一時、40,000円台に乗せるなどの株高が実現していたという事実に触れられていないあたり、なんとも恣意的に思えてなりませんが、このあたりについてはあまり深く突っ込まないことにしたいと思います。

(※どうでも良い話かもしれませんが、現時点でこれらの一部にコミュニティノートが付いているのは笑い話でしょうか?)

それよりもさらに興味深いのは、こんなポストです。

端的に申し上げると、単純に岸田首相の顔に落書きして侮辱しているだけであり、正直、これの何が面白いのか、さっぱりわかりません。

ただ、それ以上に強烈なのは、首相を侮辱するこの手のポストを行ったとしても、「権力者に対する侮辱」などの罪で逮捕されることもなければ収監されることもないのが日本という国です。

皮肉なことに、それらのことを、これらのポスト主たちが、身をもって示した格好です。

都知事選で落選した候補が新聞社に法的措置?

ただし、ここでちょっとした懸念についても提示しておきたいと思います。

フリーダムハウス調査では、日本が9年連続して高得点を取っていることも事実ですが、個人的にはそろそろ、この評点が下がるのではないかと危惧しているのです。

評価項目のうちD4が、それです。

“Are individuals free to express their personal views on political or other sensitive topics without fear of surveillance or retribution?”

意訳すれば、「個人が政治その他の敏感な問題を巡り、監視や報復を恐れずに自身の意見を自由に発言することはできますか?」、といったところで、現在のところ日本社会はこの問題で4点満点を獲得しています。

先ほど紹介した、面白くもなんともない漫画や人格攻撃レベルの落書きであっても、それが政府・自民党関係者であればどうやら許されるようなのですが、野党が相手だと、それが許されなくなっているフシがあるからです。

たとえば、先月行われた東京都知事選に出馬した「蓮舫」こと齊藤蓮舫(村田蓮舫、謝蓮舫)氏は、選挙に落選後、こんな発言を行いました。

発言が向けられている先は朝日新聞の今野忍記者です。

いったいどの発言がどう気に障ったのかはわかりませんが、少なくとも著者自身が見たところ、今野氏の一連のポストのなかに、違法性の疑いが強いものは見つかりませんでした(というか、弁護士としても相談されても困惑する限りでしょう)。

しかし、考え様によっては、これは政治家(あるいはその経験者)による、言論機関に対する圧力です。

脱糞民主党事件で民間人を刑事告発した立憲民主党

この点、齊藤蓮舫氏は、つい最近まで国会議員を務めていて、これから国政に戻る可能性もあるという人物ではありますが、現在は落選中であり、「私人」だ、という見方もできなくはありません。

では、次のような事例はどうでしょうか?

立憲民主党が「脱糞民主党」の誹謗中傷に刑事告訴も不起訴処分 公党の民間人訴えに物議

―――2024/05/13 13:50付 産経ニュースより

これは、ネット界隈ではわりと有名な「事件」で、個人が「脱糞民主党」の名称などを用い、立憲民主党のロゴを改変したとして、立憲民主党がこの個人を相手に名誉棄損で刑事告発したというものです。

産経の5月13日付の記事では、この刑事事件が不起訴処分になった、としていますが、考え様によってはこれも恐ろしい話です。たしかに「脱糞民主党」のロゴは下品かもしれませんが、これを公党(しかも最大野党)である立憲民主党が刑事事件にするというのは、権力者による言論弾圧に該当しかねないからです。

産経記事では、公党が民間人を訴えるのは「極めて珍しい」と記載されていますが、端的にいえば「異例」です。

先ほど紹介した、岸田首相の顔写真に落書きをしたポストに関しては、自民党や岸田首相がこのユーザーを訴える可能性は非常に低いと思われますが、仮にこれが泉健太・立憲民主党代表の顔写真だったならば、どうでしょうか?

この「脱糞民主党事件」に照らすと、立憲民主党はこのユーザーを特定し、刑事告発に持ち込む可能性があります。

このような事例が続くとなると、フリーダムハウスの評点に影響が出ないという保証はありません。

いや、野党の行動が原因で、案外、近いうちに日本の評点が下がるという可能性はありそうです。

正直、個人的に「脱糞民主党」の揶揄が決して上品だとは思いませんが、個人を訴えるような政党が「最大野党」である、という状況が健全だとも思えません。

次の総選挙までに、立憲民主党が言論の自由を尊重できる組織になるか、それとも次の選挙で私たち国民が立憲民主党に対し、いまよりも少ない議席を与える判断を下すのかは、注目点のひとつではないか、などと思う次第です。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 伊江太 より:

    せっかく記者たちが靴の底すり減らして取材したネタ。

    まあホントのところは、デスクが自分の好みで色々味付けしたものではあるんだが、それはともかく、世のため人のため、社会に不可欠な情報として出してやってるのに、感謝するどころか、少しの瑕疵でもあろうものなら、ド素人が生意気にもいちいちクレームを付けてくる。

    あまつさえ、高貴なる職業人、ジャーナリストを指して、マス○ミなどと、われわれの誇りをズタボロにするような、わけの分からぬ雑言までが流布している、今の日本。

    「不愉快な上、やりにくいことこの上ない、この国!」が本音だとしたら、
    RSFランキング70位というのは、極めて妥当な評価なんじゃないかと(笑)。

  2. hiro より:

    新宿会計士様もなかなか無慈悲でございますね。
    当時の事件に対して、臭いものにふたをしたい人たちもいるでしょうに・・。

     くまのプーさんが禁止ワードになる国もあるのに、
    「俺は他人を汚く批判するが、他人は俺を批判するな」
    と大声で言え、それに対する反応も自由な日本は、
    本当に憲法の「言論・表現の自由」が保証されていると思います。

    1. 匿名 より:

      >くまのプーさんが禁止ワード

      恥ずかしながらコレ、ロシア大使館が日本に対して抗議してきたという笑い話(ネタ)なのかな?なんて思っていた時期がありました(汗)。
      「くまのプーちん」は、字を覚えたての幼児がいかにも書き間違えそうな例(「さ」と「ち」は字形が鏡像関係)なので…

  3. 簿記3級 より:

    生き恥を晒しておきながらそれを指摘すると名誉毀損で訴える。歩く名誉毀損的な政治家や政党が増えてきました。決してインターネットをしてはいけない人達です。

    昨日おねしょしたでしょと、布団を広げながら問い詰めたら名誉毀損で訴えると、そんな子供を相手にしている気分です。

  4. 引きこもり中年 より:

    自民党の首相に落書きして、ネットに投稿しても罰せられることはありませんが、非自民の首相に落書きして、ネットに投稿すると罰せられる、ということでしょうか。

    1. 引きこもり中年 より:

      スレ違いですが
      朝日新聞が、静岡県、山口県、福岡県で夕刊を休刊するそうです。
      ということは、(朝日新聞だけではないかもしれませんが)朝日新聞社内で、「いつかかならず(注、何年後か、何十年後か、それとも何百年後かは言わないこと)、○○の夕刊を復活させる」というビジネス文書の定型文ができているのではないでしょうか。

  5. naga より:

    野党の議員(=権力者)には何か批判されるとすぐ訴えるなどという人が多いですが、前から思っていますがマスコミも偏っているだけでなくかなりヘタレです。ロシアのマスコミやジャーナリストには命の危険があっても立ち向かうほどの胆力のある人がいて、そういうのは尊敬に値します。
    しかし、日本のマスコミは自民、特に安倍政権の時は”言論の自由が”などと言い、何人も集まって声明まで出していたくせに蓮舫様にちょっと脅されただけですぐ謝るとはどういうことでしょうか。今は議員でもなく”一般人なので”とでもいう理屈でしょうか。日本の言論関係の自由が制限されているとしたら、その原因の第一はマスゴミでしょう。

    1. CRUSH より:

      僕も、アレに引っ掛かりました。

      蓮舫の抗議に朝日新聞がアッサリ白旗降参。
      ひっくり返って腹をみせて会社として恭順表明。

      ①会社として政治家(正確には無職ですが)からの圧力には屈しない!というこれまでのポリシーはどこへ?
      (日本学術会議への圧力がどうこうとか、なんにも批判刷る資格は無いですわな。)
      ②個人のツイートに会社として謝る?
      責任を感じてるということは、個人のツイートを会社として管理監督しているということ?
      内部統制どないなっとるねん。

      言論でメシ食ってるとか、政治家への監視が使命とか、根本的に設定が崩れてるんですけど。
      プロフィールでは17才のはずなのに、51才の前提で対談してたらアカンやろ。

      ほんまに腐ってますね。

  6. サムライアベンジャー より:

    安倍さんの時も酷かったですね、共産党議員どもが安倍さんの顔にちょび髭を付け足して、ヒットラーに見立てたり。

    タイやマレーシアで不敬罪はありますが、あくまで王室への不敬を取り締まったものですが。
    あれ、何かディスってる記事がありますね。

    「東南アジア諸国の表現の自由を蝕む不敬罪」
    https://p2ptk.org/freedom-of-speech/3803

    あってもいいと思います、制限を設けることもその国の自由じゃないですか。
    例えばタイとかでは、一定の頻度で「白人」がタイ王室への批判をして捕まってます。定期、ですね。
    マイケルヨン氏も、タイ王室について疑問を投げかけるような投稿をしていました。アメリカ人らしく血縁で連続する王室のような存在を疑問に思うんでしょう。その国事に、タブーがあってもいいと思うんですよね 。
    言ったらダメリカも表現の自由を弾圧しますよね。例えば「南部の旗」(アメリカ連合国の旗)をアップロードするとFacebookとかではソッコー削除されますし。

    1. サムライアベンジャー より:

      # モナーキズム=世襲統治者性のことですね、ヨンさんの投稿ですから英語で覚えていて、日本語がサッと思い浮かびませんでした。

  7. 駅田 より:

    日本でジャーナリスト等が投獄されたり、国外逃亡を余儀なくされたケースはありますでしょうか?
    共謀罪が施工されれば亡命すると豪語していた議員さんは今日も元気に議員をやっています。
    実際のところ問題が無いということでしょう。

    民主党が政権を握っていた時は、大臣が露骨に新聞に圧力を掛けたり
    尖閣沖の映像を隠蔽していたりしました。

    報道の自由度が低いというのであれば実例を見せるべきです。
    出せないんのであれば報道の自由度などまやかしなのでしょう。

    理系の人間からしてみればどのようなサンプルで調査したかわからない
    主観的なアンケート結果など有意な物に到底思えません。
    そんなデータに一喜一憂しているようでは科学的素養があるように思えません。
    まぁ、処理水についても物の濃度など難しいことは分からないようですが・・・

  8. 雪だんご より:

    アンチ岸田派がこんな”落書き”を連発した所で、自民党支持者はもちろん、大多数の無党派も
    ドン引きするだけじゃないでしょうかね?ただし、身内で固まってエコーチェンバー内で
    慰めあいつつ「裏切りと脱走を予防」するのには役に立つ手法でもあります。

    オールドメディアも野党も、さらにはその支持者も、「迫りくる滅亡の日」から
    目を逸らし続けるのに忙しいんだなあ、と何とも言えない気持ちになります。

  9. 匿名隊員 より:

    あまり何度も見たくないレベルの、落書きした方の醜さが滲み出ている画像ですね。こんなんで喜んでいる人達って…。

    マスコミの影響力は大分下がったとはいえ、まだ私の世代にもワイドショー民は結構いるので、オールドメディア撲滅にはもう暫く時間が要りそうです。

  10. まさを より:

    個人的には、友人の知人なので、聞いた限りでは泉代表は(個人としては)訴えなさそうですが、代表経験者で現在は無職の人とか、次期総理である財務大臣になりながら野党転落して総理になれなかった人とかは訴えそうですね。

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