日本企業が中国からの「ステルス撤退大作戦」を開始か
壮大なるババ抜き泥仕合
「日中の経済的つながりは深く、日本にとって中国との関係は重要だ」。そんな命題を真に受けている方も多いと思いますが、現実の「数字」で見ていただければわかるとおり、じつは、日本にとって中国との関係は、「現在のところは」重要かもしれませんが、それは「必然」ではありません。こうしたなか、日本製鉄に続き、自動車会社などの間でも、中国事業の縮小・休止、あるいは撤退などの動き―――「ステルス撤退大作戦」―――というババ抜きゲームを開始したのかもしれません。
目次
「数字」を大事にした議論の重要性
ウェブ評論サイト8年記念
先般よりお伝えしている通り、当ウェブサイトはこの7月で運営開始から8年が経過しました。月日が経つのも、本当に早いものです。
著者自身が(勝手に)考える当ウェブサイトの「ウリ」のひとつは、「数字」です。この「数字」は、新聞、テレビを中心とするマスメディア(あるいは「オールドメディア」)が苦手とするもので、とりわけグラフを作成させると、オールドメディアからは滅茶苦茶なものが出てくることもあります(『マスメディアグラフのインチキ史』等参照)。
当ウェブサイトでは、なにかを議論する際には、可能な限り「数字」を用いるようにしてきたつもりです。
また、オールドメディアがなにかおかしなことを報じたときには、これについて、わりとねちっこく、「その後の数値」を使った検証を続けているつもりです。
その「継続的に検証しているテーマ」のひとつが、中国の金融システムの話題だったりもします。当ウェブサイトを立ち上げた2016年前後といえば、中国の通貨・人民元や金融システムなどを巡って、こんな言説が罷り通っていたのです。
「中国が新しい国際開発銀行を立ち上げた。その銀行に参加していない日本はアジアのインフラビジネスの除け者にされるだろう」。
「中国の通貨・人民元が国際通貨として認められた。これから人民元の国際化が急速に進むだろう」。
「これからは中国の時代。米ドルの使用はどんどん先細りとなり、そのかわりに人民元がドルに代わる基軸通貨となるだろう」。
数値による継続的な検証が必要
これに対し、当ウェブサイトとしては、「人民元はいわゆる『自由利用可能通貨』としての要件を満たしていない」、「局地的に人民元の使用が拡大することがあったとしても、人民元がいわゆる準備通貨として広範囲に使用されるとは考え辛い」、などと述べて来たつもりです。
今から10年ほど前、まだインターネットが現在ほどにメジャーな情報伝達手段となっていなかったころだと、著者自身がこんなことを述べても、「ネットの隅っこで無名なウェブ評論家がわけのわからぬことを口走っている」、といった程度に認識されるのが関の山で、おそらく社会から注目されることはなかったでしょう。
ところが、新聞、テレビの社会的影響力が、それこそ日一日(ひいちにち)と低下していくなかで、いつのまにか、当ウェブサイトのような「実証的アプローチ」の方が、世の中の主流になりつつあるように思えてなりません。
これはもちろん、著者自身の主観ではありますが、ネットの浸透とオールドメディアの社会的影響力の低下が相まって、私たちのような一般庶民でも、情報を処理する能力が飛躍的に向上していることに関してはどうやら間違いないと思うのです。
余談ですが、当ウェブサイトで長年主張し続けて来た論点としては、ほかにも、「財務省やオールドメディアが唱える『国の借金』論はインチキだ」、というものがあります。
こちらについては長年の努力(?)の甲斐もあってか、その主張が虚偽であるという事実が広く知られるようになっており、「やはり何事も長く続けるものだなぁ」、などと思う次第です(※もちろん、この「国の借金」論の論破については、当ウェブサイトだけの努力ではありませんが)。
既存メディアがあまり展開していないような「数字に基づく議論」を継続した甲斐があったことは間違いないでしょう。
中国との関係をどう見るか
鳩山元首相の「アジア共同体(AU)」論
さて、ウェブ評論サイト8周年記念(?)の一環として、改めて取り上げておきたい論点が、日中関係です。
はたして日本にとって中国との関係は、いったいどういうものなのかでしょうか。
これについて、新聞・テレビを中心とするマスメディア(オールドメディア)の影響力が今より遥かに強かった時代だと、こんな説明がまことしやかに聞かれていました。
「日中は地理的・歴史的に深い関係にあり、一衣帯水の関係にある。日中は切っても切れない関係にあり、また、中国の経済発展に伴い、日中は相互経済依存を強めつつある。中国経済の発展はわが国にとってもチャンスだ。将来的なアジア共同体構想も含め、日中はさらに連携を強化すべきだ」。
ちなみに同じような趣旨のことは、2009年8月の総選挙で民主党が圧勝したことにより政権の座に就いた鳩山由紀夫元首相が「日中通信社」の特別インタビューで述べています(『特別インタビュー: 内閣総理大臣 鳩山由紀夫』参照)。
とくに鳩山元首相の発言に出て来る「アジア共同体(AU)」とは欧州連合(EU)などを念頭に置いたものと思われ、こうした「AU」構想には、「アジア共通通貨」なども含まれることが多いようです。
こうした「AU構想」などに触れる前に、まずは「日中が地理的に歴史的にも深い関係にあり、」の部分について、確認しておきましょう。
中国が昔から、日本と密接な関係を持ち、ときとして日本にも文明的なものを含め、多大な影響を及ぼしてきたことは事実でしょう。だいいち、私たちが日常的に使用している漢字は中国から輸入した文字ですし、ひらがなやカタカナも漢字から変化した文字です。
よって、歴史的に中国が日本に多大なる影響を与えてきたことは事実であり、この点について、当ウェブサイトとしては否定するつもりなどいっさいありません(だからといって、「日本文明中国起源説」を唱えるつもりもありませんが)。
ただし、(とりわけ明治維新前後以降は)日本が中国に大きな影響を及ぼすこともありました。
たとえば「中華人民共和国」という国号に使われている「人民」、「共和国」はいずれも日本人が西洋語を翻訳するために生み出した和製漢語とされますし(諸説あり)、ラーメンのように、もともとは中国発祥とされている料理を日本人が美味しくアレンジし、それが世界に広まる、という事例もあるからです。
いずれにせよ、日中両国がお互いに大きな影響を与え合ってきたことは、間違いありません。
日中双方は価値を共有していない!
ただ、日中双方が歴史的にもお互い非常に深い関係を持っていることは事実ですし、地理的に見ても近いのもまた事実ですが、だからといって、そのことが「日中共同体」という自動的に構想につながるというのは、少し議論が飛躍しています。
そもそも論ですが、著者自身は、ある国とある国が仲良くなれるかどうかについては、少なくとも2つの条件が必要だと考えています。それは(1)共通の価値観と(2)共通の利害関係です。これを4象限で示すと、こんな具合でしょう。
- ①価値を共有する/利害を共有する
- ②価値を共有せず/利害を共有する
- ③価値を共有する/利害を共有せず
- ④価値を共有せず/利害を共有せず
つまり、日本がある国との関係を深めるにあたっては、日本とその国が基本的な価値を共有している(あるいは日本国民がその国に親近感を覚えている)のに加え、その国と利害関係を共有している(=その国と付き合うことがわが国の利益になる)という状況が必要です。
とくに市場統合・通貨統合を行うためには、そもそもその前提条件として、資本主義、法治主義、民主主義といった具合に、社会の基本的な仕組みが共通化されていなければなりませんし、ひとりあたりGDPの水準など、経済力も似た水準であることが必要です。
しかし、昨今の中国で経済発展が目覚ましいことは事実ですが、そもそも日中双方は、さまざまな点において、まだまだ乗り越えられない価値観の相違が大きすぎます。
たとえば政治体制ひとつとってみても、中国共産党による一党独裁が続き、自由な言論すら認められていない中国と、言論機関が委縮するどころか好き勝手に報道することが許され、民主的選挙を通じて政権交代が生じたこともある日本では、その社会の在り方はまったく異なります。
市場統合・通貨統合よりも前にやるべきことがある
したがって、日中双方がもし、市場統合・通貨統合を行うつもりならば、まずは日本か中国のどちらかが相手の国に体制を合わせなければなりません(念のため言っておきますが、著者自身は日本が中国のような社会になることだけは断固として御免蒙りたいと思います)。
現実的に、日中双方が市場統合・通貨統合を行うためには、中国が民主化し、自由で民主的な選挙を通じて政府を選べるようにならなければなりませんが、そこに至るまでに、いったい何年の歳月が必要だというのでしょうか。
また、仮に中国が民主化したとしても、その民主主義が安定して運営されるようになるまでに、さらに時間が必要でしょう(場合によっては数十年単位の時間がかかります)。中国が経済発展したとしても、社会体制があまりにも違い過ぎます。
もし本気で日中の市場統合・通貨統合を目指すのならば、それこそ100年単位で時間が必要です(いや、100年経っても統合はできないかもしれませんが)。
そして、100年も経てば、交通手段はいまよりももっと発達しているでしょうから、「地理的に近い、けれども価値観が違い過ぎる国」よりも、「地理的に遠くても価値観が近い国」の方が、連携する相手としてはより適している、ということになりそうです。
日本人は中国をどう考えているのか
これに加えて実際問題、日本国民が中国のことをどう思っているのか、という論点も大切です。これについて参考になる手掛かりのひとつが、内閣府が毎年実施している『外交に関する世論調査』における、日本国民の中国に対する親近感の移り変わりです(図表1)。
図表1 日本国民の中国に対する親近感
(【出所】過年度の内閣府『外交に関する世論調査』をもとに作成。ただし、年によっては選択肢がわかれていることもあるため、「親しみを感じる」には「どちらかといえば親しみを感じる」を、「親しみを感じない」には「どちらかといえば親しみを感じない」を合算している)
これまた、大変わかりやすいグラフです。
調査が始まった1978年といえば、日中国交正常化からまだ6年しか経っていないタイミングですが、当時は中国に親近感を抱く人が社会の多数派だったことがわかります。
しかし、1989年に親近感が急に減り(天安門事件の影響でしょうか?)、その後は「親しみを感じる」と「親しみを感じない」がほぼ拮抗する展開となり、これが2004年以降、「親しみを感じない」があっという間に社会の多数派となりました。
2004年当時といえば、当時の小泉純一郎首相が靖国神社に参拝し、おもに中国と韓国がこれに強く反発を示していたころです(※余談ですが、著者自身の記憶では、オールドメディアは小泉首相の靖国参拝を批判的に報じていましたが、国民世論はじつはこれを支持していたのかもしれません)。
その後は反日デモ(2005年や2012年)や尖閣漁船衝突事件(2010年)などのイベントが生じるたびに、日本の対中国民感情が悪化したのか、「親しみを感じない」人が2012年に8割を突破。いったんこの比率が下がるも、ここ数年は再び上昇し、直近では9割弱が中国に「親しみを感じない」のだそうです。
日中経済関係論
「好き嫌いでは外交は論じられない」は事実だが…
いずれにせよ、国と国が関係を深めるにあたって、最も関係が深まりそうなパターンは上記の「①価値を共有する/利害を共有する」ですが、少なくとも日中関係はこの①には該当しません。すなわち、、日中双方は少なくとも価値を共有しておらず、日本国民は中国に親近感を覚えていないからです。
ただし、こうした議論を展開すると、必ず出てくるのが、「好き、嫌いでは国際関係を論じられない」、といった「お叱り」です。
これは、一面では事実です。
いくら嫌いな国だからといって、その国とお付き合いしなければわが国の存立が立ち行かなくなるくらい重要な相手国なのだとしたら、私たち日本国民は我慢してでも、その国とお付き合いをせざるを得ません。
では、次の論点ですが、「中国は日本と利益を共有している」といえるのでしょうか?
もう少しわかりやすくいえば、「中国とお付き合いすることが日本の国益上死活的に重要だ」といえるのでしょうか?
これに関しては手っ取り早く、「ヒト・モノ・カネの交流状況」で判断するのが良いのではないでしょうか。
まず、「日中関係が重要だ」と主張する人が根拠として持ち出すのは、日中貿易です。
「日本企業にとっても中国は重要な市場だ」、「日本の産業はレアアースを含め、中国にサプライチェーンを依存している」、「中国は『世界の工場』であり、工業製品を組み立てるならば、中国との協力関係が欠かせない」、などとする主張が聞こえてきます。
日中貿易の実情
これに関してはちょうど良い具合に、昨日、2024年6月分までの貿易統計が公表されており、これによると2024年上半期(1~6月)の日中貿易高は21兆1559億円(うち輸出が9兆1414億円、輸入が12兆0146億円)でした(図表2)。
図表2 日中の経済的関係(モノ)
比較項目 | 具体的な数値 | 全体の割合 |
対中輸出額(2024年1月~6月) | 9兆1414億円 | 日本の輸出額全体(51兆5173億円)の17.74% |
対中輸入額(2024年1月~6月) | 12兆0146億円 | 日本の輸入額全体(54兆7548億円)の21.94% |
対中貿易額(2024年1月~6月) | 21兆1559億円 | 日本の貿易額全体(106兆2721億円)の19.91% |
対中貿易収支(2024年1月~6月) | 2兆8732億円の赤字 | 日本の貿易収支全体は3兆2375億円の赤字 |
(【出所】財務省税関)
輸出は米国に次いで2位、輸入は圧倒的な1位で、輸出入を合計した貿易額はもちろん1位です。
したがって、日中が断交状態に陥れば、日本にとって少なからぬ打撃が生じることは間違いありませんし、とりわけ中国からの供給に依存している品目の輸入が止まりでもすれば、日本経済は大混乱に陥りかねません。
ただ、それと同時に注目しておきたいのが、貿易収支です(ここでは簡便に、輸出額から輸入額を引いた差額と定義します)。
じつは、日本は対中貿易では少なくともここ20年以上、ほぼ一貫して赤字を計上し続けており、2024年1月~6月の期間についても2兆8732億円の赤字です。日本の貿易収支全体は3兆2375億円の赤字でしたので、単純化していえば、対中貿易赤字が解消すれば日本の貿易赤字が圧縮される、ということです。
(※なお、余談ですが、現実の貿易収支はそこまで単純ではありません。製造拠点が中国外へ移転しても、移転先が日本以外の国であれば、対中貿易赤字は削減されますが、その分、その移転先に対する貿易収支が悪化するからです。)
あるいは「日本企業にとって中国は有望な市場だ」、などとまことしやかに唱えていた某経済新聞があるのですが、そのわりに、日中貿易は日本の一方的な赤字であり、「日本全体が中国への輸出で大儲けしている」という実態は、すくなくともマクロの数値からは見えてきません。
品目別分解から見える日中関係の実情
さらに興味深いのが、品目別分解です。
日本から中国への輸出品は高付加価値の品目(自動車、半導体製造装置、半導体等電子部品)が多いのに対し、中国から日本への輸入品目は軽工業品(衣類、雑貨)や組立製品(PC、スマホなど)が多いことがわかります(図表3。ただし、数値は2023年のものです)。
図表3-1 日本から中国への輸出品目(2023年)
品目 | 金額 | 構成割合 |
合計 | 17兆7624億円 | 100.00% |
1位:機械類及び輸送用機器 | 9兆3697億円 | 52.75% |
うち半導体等製造装置 | 1兆5307億円 | 8.62% |
うち半導体等電子部品 | 1兆2798億円 | 7.21% |
うち自動車 | 9433億円 | 5.31% |
2位:化学製品 | 3兆1552億円 | 17.76% |
3位:原料別製品 | 2兆0293億円 | 11.42% |
4位:雑製品 | 1兆1541億円 | 6.50% |
うち科学光学機器 | 5860億円 | 3.30% |
5位:特殊取扱品 | 1兆1266億円 | 6.34% |
(※以下略) |
図表3-2 中国から日本への入出品目(2023年)
品目 | 金額 | 構成割合 |
合計 | 24兆4177億円 | 100.00% |
1位:機械類及び輸送用機器 | 12兆5313億円 | 51.32% |
うち通信機 | 2兆8679億円 | 11.75% |
うち事務用機器 | 2兆2109億円 | 9.05% |
2位:雑製品 | 5兆2004億円 | 21.30% |
3位:原料別製品 | 2兆8374億円 | 11.62% |
4位:化学製品 | 1兆9239億円 | 7.88% |
5位:食料品及び動物 | 1兆1450億円 | 4.69% |
(※以下略) |
(【出所】財務省『普通貿易統計』データをもとに作成)
何のことはない、日本は「よそでは作れない高付加価値品」を中国に売りつけ、中国は組み立て加工を行い、その一部が日本に逆流している、という構図なのです。驚くことに、この構図はこの30年ほど、ほぼ変わっていません。
ヒト、カネの交流状況はどうなっているのか
そして、「ヒト・モノ・カネ」のうち、人的交流状況、金融面の日中関係は、いずれも意外な姿が浮かびます。このうち人的な交流状況を示したものが、図表4です。
図表4 日中の経済的関係(ヒト)
比較項目 | 具体的な数値 | 全体の割合 |
訪日中国人(2024年1月~6月) | 3,067,987人 | 訪日外国人全体(17,777,186人)の17.26% |
訪中日本人 | データなし | 不明 |
中国に在住する日本人(2023年10月) | 101,786人 | 在外日本人全体(1,293,565人)の7.87% |
日本に在住する中国人(2023年12月) | 821,838人 | 在留外国人全体(3,410,992人)の24.09% |
(【出所】日本政府観光局、出入国在留管理庁、外務省)
日中の人的交流に関していえば、(中国に観光や短期商用で渡航している日本人数についてはわかりませんが)日本に観光や短期商用で渡航している中国人は今年上半期だけで300万人を突破。
また、中国に在住する日本人は10万人少々に対し、日本に在住する中国人はその8倍の82万人で、しかも『中国に暮らす日本人の圧倒的多数は「一時的な滞在者」』でも述べたとおり、在日中国人は「永住者」の割合が高いのに対し、在中日本人の9割超は「永住者」ではなく「長期滞在者」です。
また、カネの面(金融、とりわけ投融資)に関していえば、もっと興味深いデータがこれでしょう(図表5)。
図表5 日中の経済的関係(カネ)
比較項目 | 具体的な数値 | 全体の割合 |
邦銀の対中国際与信(2023年12月) | 833億ドル | 邦銀の対外与信総額(5兆0435億ドル)の1.65% |
中国の銀行の対日国際与信(2023年12月) | データなし | 外銀の対日与信総額は1兆2681億ドル |
日本企業の対中直接投資残高(円建て)(2023年12月) | 18兆7693億円 | 日本の対外直接投資全体(288兆8913億円)の6.50% |
日本企業の対中直接投資残高(ドル建て)(2023年12月) | 1358億ドル | 日本の対外直接投資全体(2兆1357億ドル)の6.36% |
中国企業の対日直接投資残高(2023年12月) | 81億ドル | 日本の対内直接投資全体(3506億ドル)の2.31% |
(【出所】国際決済銀行、財務省、JETRO)
邦銀の対中与信残高は「最終リスクベース」で2023年12月末時点で833億ドルで、これは邦銀の対外与信総額(5兆0435億ドル)の1.65%に過ぎません。日中がアジア最大級の経済大国同士であると考えると、実に少ないといえます。
また、同じく2023年12月末時点における日本企業の中国向けの対外直接投資残高は18兆7693億円で、日本の対外直接投資全体(288兆8913億円)の6.50%ですが、米国(45兆3150億円)、オランダ(20兆3321億円)、英国(20兆1633億円)に次いで4番目に留まります。
これが2013年の時点だと、中国向けは米国向けに次ぐ2番目の金額だったわけですが、この10年あまりの日本企業の投資行動を見ていると、中国向け投資については維持しているものの、「中国以外」への投資を活発化させるかたちで、中国の相対的な比重を下げている格好です。
ステルス撤退大作戦
日系自動車会社の事例
こうしたなかで、ちょっぴり気になる話題があるとしたら、これかもしれません。
ホンダ、日産は工場閉鎖・三菱自は撤退…日系車メーカー、中国事業が転換期
―――2024/07/29 11:20付 Yahoo!ニュースより【日刊工業新聞・ニュースイッチより】
日刊工業新聞が配信した記事によれば、中国に進出している日系自動車メーカー各社が構造改革に着手」している、というのです。具体的には、ホンダが現地の2つの工場の閉鎖・休止を決めたほか、日産自動車も一部工場を閉鎖。三菱自工に至っては中国から撤退したのだそうです。
日刊工業新聞はこれについて、「現地メーカーの攻勢などによる販売不振」などが要因としています。
ただ、表向きの理由はそうかもしれませんが、通常であれば、「販売不振」なら「日本車の魅力を現地の人向けにアピールする」などの「テコ入れ」を図るのが一般的に思えるのに、中国事業に関しては、なぜか各社ともに引き気味です。
もちろん、現在の中国市場では、不動産バブル崩落によるデフレなどへの懸念も強まっていて、自動車市場がとくに怪しい、といった事情もあるのかもしれませんが、日刊工業新聞が報じた日系企業のいかにも「あっさりした態度」は、どこか不自然です。
そう、まるで「もともと撤退する口実を探していたところ、『販売不振』というちょうどよい理由ができた」ように見えてしまうのです。
記事によると、たとえばホンダは「中国国有大手の広州汽車集団との合弁企業である広汽ホンダ(広東省広州市)の第4工場を10月に閉鎖」、「東風汽車集団との合弁企業の東風ホンダ(湖北省武漢市)の第2工場も11月に休止」、などとあります。
ちなみに後者は2012年7月に稼働した工場で、年産能力は24万台とされ、「生産設備を他工場に移す一方、建屋や生産機能は維持し、自動車部品の生産などで将来的に再活用する可能性を検討する」、などとあります。
これ、ホンダとしては「撤退じゃないよ」、と匂わせているのかもしれませんが、「可能性を検討する」は「将来的に何もしない」の場合の日本企業の常套句でもあります(著者私見)。
日本製鉄の事例
そういえば日本企業の中国からの撤退については、先日の『日鉄「米企業買収+中国合弁撤退」が象徴する日本経済』でも取り上げた、日本製鉄という事例もあります。
日本製鉄の撤退も、2つある合弁事業のうちの1つ(宝山鋼鉄との合弁事業)をまずは解消する、というもので、もう1つの事業である「武鋼日鉄(武漢)ブリキ有限公司」については、とりあえず維持されます。
これも、中国当局に対する一種の「言い訳」―――「いきなりすべてを撤収するわけじゃないですよ」、というメッセージ―――ではないでしょうか。
先ほど見たとおり、もともと日本の中国からの輸入品は、金額で大きなものは軽工業品であったり、組立製品であったり、と、極端な話、「中国以外の国でも作れる製品」が中心です。
また、日本企業が10年単位で中国以外の国への投資を拡大し、中国への投資をなかば意図的に抑えて来たフシがあることを踏まえると、これも日本企業による中・長期的な撤退(あるいは生産拠点の適正化)プランなのかもしれません(うがった見方かもしれませんが)。
いずれにせよ、企業というものは一枚岩ではありませんが、それと同時に、ニッポン株式会社はある日いきなり同じ方向を向くことでも知られており(著者私見)、鉄鋼、自動車会社などで相次ぐ生産縮小・撤収などの動きは、中国との関係をニッポン株式会社が清算し始めた証拠ではないでしょうか。
いずれにせよ、長年、某経済新聞の「これからは中国の時代だ」とする無責任な煽りで中国に進出した日本企業も、ここらで本腰を入れ、「ステルス撤退大作戦」からの「壮大なババ抜き合戦」という泥仕合が始まるのかどうかについては、個人的には注目したいと思う次第です(もちろん、業種にもよるのでしょうが…)。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました
自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。 |
【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。 |
こんなお題目を想起しました。
「日経よく読む、ばば札掴む」
>これ、ホンダとしては「撤退じゃないよ」、と匂わせているのかもしれませんが、「可能性を検討する」は「将来的に何もしない」の場合の日本企業の常套句でもあります(著者私見)。
ホンダの場合は、閉鎖する2工場とは別にEV用の工場を建設して2024年から稼働するとの事。
生産台数はガソリン車がマイナス29万台、EVがプラス24万台となるので、差し引き5万台分の生産能力減ですね。
EV工場を新設しちゃうと、中国撤退の判断を下す際に下し難くなりそうですが、さてさて。
まー極端なハナシ中共破るるとも自動車市場は残るでせうから(人口国土鑑みて)、中国市場分に現地生産のラインはいくらか維持しとくのもまた一策なんちゃいます?
あホンダさんにそがなヨユーあんのか知りまへんけど
とりあえず日本向けは日本国内でノックダウン生産してた中型バイクは新型の国内導入が無かったコトになっとるみたいですが…
中共破るるの前には軍需工場として設備の一部は接収されそうだし、
後になると荒らされててまともに稼働しないだろうし。
ある程度の確度を伴って予想される損害を無視してるところ、
リーマンショックで弾ける弾けると言われてる時に弾けるまで無為無策だった経営者らとダブルんですよね。
クロワッサン様
ホンダだって○カじゃない。経済は只管落ち目、国内のEV販売は過当競争で利益が出ないチャイナの市場で、今更新規参入してみたところで勝機なんかない、くらいのことは分かっているでしょう。
欲しいのは車載バッテリーに不可欠な原料、リチウムの安定的入手じゃないですか。チャイナでは申し訳程度に売る振りはしても、ほとんどは国内(日本)向けが本音じゃないでしょうか。
伊江太様
ホンダは○カでしょう。
1 2040年までにホンダの車は全てEVとFCVにする。
→合成燃料を使えば、今のエンジン技術でOKなのに。
2 EV用の電池を韓国LGと開発。
→本田宗一郎が嫌っていた韓国企業と組むのか?
3 車用のタンクの工場を売却。
→エンジン技術を捨てるのは本当でしょう。
今の社長を降ろさないとホンダの未来はないと思います。私は、ずっとホンダの車を乗りついできたんだけど。。。。残念。
EVとFCVにオールインしないと厳しい懐事情なのかな、と。
ただ、組む相手が違うんじゃないかなーってのはやはり思いますね。
x>欲しいのは車載バッテリーに不可欠な原料、リチウムの安定的入手じゃないですか。
了解です。
ただ、「ブラッドダイヤモンド」的な中国のリチウムを今後も使うと、ユニクロみたいになっちゃいそうですね。
撤退でなく転身ですね
わかりますよ。
毎度、ばかばかしいお話を。
中国;「日本企業が中国から撤退しないように、日本の○○(思い当たる言葉をいれてください)をつかって、工作させよう。(ついでに、某会計士を買収して、サイトにかいてもらおう)」
蛇足ですが、もし第三国の有名企業がこぞって中国に投資するとなったら、日本企業も投資するのでしょうか。
ああいう国からは早く足抜けした方がいい。
アメリカにはFCPA(連邦海外腐敗行為防止法)という法律があり、罰則が厳しくアメリカ企業による外国でのワイロの支払いは割に合わない。米国企業の子会社にいてもこの法律の厳しさはよくわかる。払ったのが海外の子会社でもアメリカの親会社も罰せられるため、セミナーなどで頻繁に取り上げられる。アメリカ本社の態度は「絶対に、絶対に払うなよ」といったところか。類似の法律はイギリスにもある。
中国の米中合弁企業で働くアメリカ人と話したことがあるが、中国ではワイロなしではビジネスにならないがアメリカ企業はFCPAがあるので払えない。その点ドイツ企業は払い放題で中国で儲けていると言っていた。
日中は④の「価値を共有せず/利害を共有せず」です。今の中国共産党体制が滅ぼうが、大陸が何カ国に分断国家になろうが、対日姿勢は同じです。必ずや一致団結してマトを日本にする。つまり「離中」が正解。日本製鉄もホンダも日産自動車も三菱自工も他の製造業、卸売業、リテール業も、中国から離れれば良いと願っています。なあに、ホンダの一工場の年産24万台なんて、どうにでも他国でシフト出来る数字でしょ?
会計士さん作成グラフによると、「日本人が中国に対し親しみを感じない」が90%とは、45年前とは真逆、隔世の感です。いやむしろ、あの当時より悪化している。「中国に親しみを感じない」という人は、それほど居なかったんだから。我が国、或いは我が家しか考えない方々とは、価値観が違い過ぎる。合いません。
まーマジもんでルーピー氏の謳う日中関係やらAUだかが成るンならまずもうちょう半島が人民元のもと政治的に統合されとってもオカシナインやろけど、地続きなんやし…
習近平一極集中のごりごり権威主義国家で、気に入らない国には陰に陽に意地悪することが明白なのだから、中国に進出している企業は損切りしてでも撤退に走るのは当然の流れ。
笑えるのは駐日中国大使の「日本のさらなる投資に期待」のたわ言。海外企業の撤退が相次いでいる現状に焦っているのだろうが、その原因が何なのか理解してないのだろう。
https://www.fnn.jp/articles/FNN/736828
素人の野次馬の目には、
「円高は追い風」
「さあ、船出しよう」
「円安は向かい風」
「さあ、帰ろう」
待てば海路の日よりかなとか晴耕雨読でして、円安と円高はよいとか悪いとかではなくて、それに適した行動をしましょうね、という話かと。
なんだか胡散臭いのは、円高の時に海外進出にイケイケドンドンだったメディアが、円安になってもイケイケなママなところかな。
雨が降ってるなら畑仕事より本を読め。
(日経新聞は読まなくてもよいかも)
暑い夏の昼間に、スポーツをしよう!みたいな?
中国の経済が停滞して軍事費はどうなるのかな。
空母の建造、中国が埋め立てている7つの岩礁の土木、維持費。
中国は軍事費の自重で破滅するんじゃないかな。
上手く軍縮できれば中国の寿命は延びるかも知れませんが、
果たして軍人と軍事費で儲かる勢力を納得させられるでしょうかね?
治安が悪化して暴動が頻発する様になったら軍は必須でしょうし、
対外的な国威を維持する為に軍事費はケチりたくないのもあるでしょう。
もちろん金をかけないといけない分野は他にも沢山あるでしょうし、
いやはや、中国共産党も大変なかじ取りを強いられる様で……
自分が以前関わった中国向けの複数案件のお仕事を通じて、日本の自動車会社自体がそもそも中国で拡大しようとあまり考えていない感じでしたね。合弁が必須だし、お金も他国ほど自由には動かせないし。
社名はあえて書きませんが、ノックダウン生産や完成車輸出とかも含め広州や天津、四川など、いくつかの日系メーカーの案件もやりました。
どうせ本国メーカー優先だし、法規も中国独自(欧州を真似てはいる)が多いし(突然の法規改廃も目立つ)、中国仕向け専用で本腰入れて開発生産してもなぁ・・な感じでした(私個人の感想)アジア向け輸出の拠点だったら、別に中国でなくタイとかも普通に開発生産やってま
すし。
技術開示を強要するような法規も作ったりしてるし、面倒くさい国と政府だな、、と元々それを想定してビジネスでの深入りを避けていた感じですね。中国当局のご機嫌を損ねない程度で。。
だから大手の日系メーカーがあっさりと引き下がるのも、そうだろうなぁ。。と私は思うのであります。
>鳩山元首相の発言に出て来る「アジア共同体(AU)」
中国でさえこの発言には口あんぐりじゃなかったかな?
これは鳩山のブレーン寺島実郎のアイデアではないか。