最高値目指す株式・中古マンションと「資産防衛手段」

インフレが常態化してくれば、資産防衛という観点から、財産を現金預金で持つか、それとも株式や不動産などのリスク資産で持つか、という問題点を改めて考える必要があるかもしれません。こうしたなか、日経平均株価は昨日、史上最高値を更新しており、また、公益財団法人東日本不動産流通機構(通称:東日本レインズ)のデータによれば、首都圏の中古マンション価格もねあがりが続いていることが明らかとなりました。

インフレ社会

悪いインフレ論?

インフレやデフレは、新聞、テレビなどでよく見かける用語のひとつであり、特に近年、「物価上昇で人々の生活が苦しくなっている」、といった、いわゆる「悪いインフレ」論を目にすることも増えています。

アベノミクスにより日銀が金融緩和を行ったせいで物価が上昇し、人々の生活が苦しくなっている、といった論法でしょう。

著者自身が新聞やテレビの情報を鵜呑みにしないでほしいと呼びかけている理由のひとつも、じつは、ここにあります。

インフレは物価が上昇する現象を一般的に指す用語のひとつですが、物価が上昇しているということは、貨幣価値が下落しているということを意味し、そして、「資産を買うなら早くしないと値上がりしてしまう」、という状態であることを示しています。

インフレはなぜ必要なのか

この点、インフレもさまざまで、第一次世界大戦直後のドイツのように、物価が1兆倍になる(すなわち貨幣価値が1兆分の1になる)ようなハイパー・インフレは経済を破壊しますが、適切なインフレ率だと、逆に失業率が低下するとともに、持続的な経済発展を促す現象が知られています。

とくに、インフレ率と失業率には密接な相関関係があることが知られており、一般的には2%程度のインフレ率だと失業率が3%程度、すなわち「完全雇用水準」が達成されることが多く、現に主要国中銀(米FRB、欧州中央銀行、イングランド銀行など)はインフレ率が2%前後で推移するように誘導しています。

ちなみにこの「2%インフレ目標」はわれらが日銀も掲げており(日銀ウェブサイト『2%の「物価安定の目標」』等参照)、安定して2%のインフレ率が達成されるべく、日銀は金融政策(金利やマネタリーベースなど)をコントロールすると明言しています。

そして、2%前後の健全な物価上昇が継続すれば、たいていの場合、雇用が最大化されながら経済が成長し、賃金水準も上昇してきます(日本の場合、実際、すでにその兆候は出ています)。

当然、物価上昇の初期には、物価に賃金が追い付かず、実質賃金はマイナス状態が継続してしまうわけですが(だからこそ減税が必要なのですが)、適度なインフレが長期化すれば、賃金水準が物価水準に追い付いてきて、多くの国民の経済成長を実感できるようになるでしょう。

(ただし、一部のメディアは、仮にそのような状態になったとしても、「それでも国民は成長を実感していない!」などとかたくなに言い張るつもりなのだと思いますが…。)

株価が史上最高値に

日経平均が史上最高値更新!

さて、こうしたなかで、昨日の話題のひとつといえば、日経平均株価が再び史上最高値を記録したことかもしれません(図表1)。

図表1 日経平均株価

(【出所】WSJダウンロードデータをもとに作成)

日経平均株価は7月9日の終値ベースで41,580円17銭で、今月2日に再び4万円を超えて以来、6日連続で4万円台を付けています。

日経平均株価はリーマン・ショックから約半年後の2009年3月10日に7,054円98銭と、7,000円割れ直前にまで追い込まれ、また、続く民主党政権時代には1万円割れが常態化していたわけですが、2012年12月の故・安倍晋三総理大臣再登板以降、株価は再び上昇基調に入っています。

時価総額ベースではさらに上昇

ただし、日経平均ではなく、「東証時価総額」であれば、さらに株高が急激です。

東証時価総額が再び一千兆円突破』でも取り上げたとおり、JPXグループが毎月公表している月末時価総額データによれば、6月末時点の東証株式時価総額は3月末に続き、再び1000兆円を突破しています(図表2)。

図表2 東証株式時価総額合計

(【出所】JPX『市場別時価総額』データをもとに作成)

図表1に示した日経平均と図表2に示した東証時価総額を比べると、日経平均の伸びが弱い気がしますがこれについては左右の軸の表示を変えてグラフを重ね合わせてみると、よりいっそう明白でしょう(図表3)。

図表3 日経平均vs東証時価総額

(【出所】JPXウェブサイト、WSJダウンロードデータ等を参考に作成)

ただ、この株高がいつまで続くのかに関しては予測できませんが(もし著者自身がそれを予測できる人間であれば、今ごろ億万長者になっているはずです)、いわゆる新NISAなどの影響もあってか、少なくとも日本国民が株式というリスク資産に対し、かつてほどの抵抗を覚えなくなっている可能性はありそうです。

資産防衛という観点からのリスク資産

そして、株価やインフレ状況に関しては、株高自体が「良い」か「悪い」かは別として、究極的には「資産防衛」の観点から、財産を現金で持つか、現金以外の資産で持つかという選択を迫られることになる、という話でもあります。

くどいようですが、「インフレ」(物価上昇)とは「貨幣価値下落」のことでもあるのです。

世の中が1年間で2%のインフレとなれば、あなたが1年前に持っていた1万円の現金で買えた財貨・サービスの価格は、現時点で1万2百円になっているはずであり、言い換えれば、1年前から1万円を現金のままでもっていたならば、1年前の1万円の価値は現時点で2%目減り(減価)した、ということです。

もしもあなたが日経225インデックス型ETFに投資していれば、信託報酬が1%だったと仮定しても、この1年で27%ほど儲かっていたはずです。日経平均株価は1年前の2023年7月10日時点で32,189円73銭だったからです。

すなわち、資産を現金(または銀行預金)で持つか、それともそれ以外のリスク資産(株式、ETF、投資信託、不動産など)で持つか、という問題であり、もし日本社会が今後、インフレ経済に突入していくとみるのならば、資産防衛としてのリスク資産保有検討は欠かせません。

(※ただし、株式などは元本が保証されておらず、値下がりのリスクもありますし、過去には日経平均が大暴落するなどの事態も何度も発生していますので、投資はくれぐれも自己責任にてお願いしたいと思います。)

中古マンションはどうなっている

首都圏の中古マンション成約状況を調べてみた

さて、こうした「インフレ時代」においては、中古マンション市況に関しても、定点観測する価値がある論点のひとつかもしれません。

日本は人口減少時代に入った、などといわれるのですが、少なくとも首都圏の中古マンションに限定していえば、(地域にもよりますが)現実の成約価格は上昇の一途をたどっているようです。

公益財団法人東日本不動産流通機構(通称:東日本レインズ)が公表している『マーケットデータ』をデータベース化し、首都圏全体の中古マンションの成約価格(右軸)と平米単価(左軸)をグラフ化しておくと、図表4のとおりです。

図表4 中古マンション成約状況(首都圏)

(【出所】公益財団法人東日本不動産流通機構データをもとに作成)

ちなみに2008年5月以降のデータで見て、首都圏の中古マンションの平米単価が最低だったのは2009年4月の37.17万円/㎡、成約価格が最低だったのは2012年6月の2408万円であり、2024年5月は平米単価が76.30万円/㎡、成約価格が4834万円。

すなわち、平米単価、価格ともにその最低水準と比べ倍以上の水準となっています。

東京都心部の不動産価格は凄いことに!

そして、これが東京都内だと、平米単価が100万円を超え、価格も6000万円台に突入しています(図表5)。

図表5 中古マンション成約状況(東京都)

(【出所】公益財団法人東日本不動産流通機構データをもとに作成)

すなわち東京都の場合だと、平米単価が過去最低だったのは2012年11月(48.08万円/㎡)、成約価格が過去最低だったのは2012年6月(2923万円)でしたが、これが直近の2024年5月で平米単価102.59万円/㎡、成約価格は6044万円です。

そして、都心3区(千代田区、中央区、港区)の場合だと、さらに凄いことになっています(図表6)。

図表6 中古マンション成約状況(東京都 都心3区(千代田区、中央区、港区))

(【出所】公益財団法人東日本不動産流通機構データをもとに作成)

平米単価は2012年11月の69.03万円/㎡、成約価格も2012年11月の3757万円が2008年5月以降の最低値ですが、これが直近だと平米単価は182.58万円と2.6倍、成約価格は1億165万円と、じつに2.7倍です。

東京都心部は大体似たような状況です。

なお、平米単価の底値からの値上がり率で見ると、東京都は2.13倍、神奈川県は1.75倍、千葉県は1.82倍、埼玉県は1.94倍で、意外なことに首都圏だと神奈川県の値上がり率は、一都三県で最も低調でした。

投資は自己責任で!

いずれにせよ、住宅は買うべきなのか、借りるべきなのか、といった論争は昔からよく見られるものですが、正直、首都圏の中古マンション価格の上昇幅は大きく、とくに東京都心部だとなかなか手が出せなくなっているという人も多いかもしれません。

ただ、先ほどの株価の議論と同じで、住宅を投資・投機目的で買うと、値下がりするリスクもありますので、くれぐれも自己責任にてご判断下さい。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 通りすがり より:

    もう30年以上投資をしています。途中,山一證券廃業とかリーマンショックとかも経験しています。上昇局面の終わりころになると大勢が新規参入してくるのですが,そうなった1年以内に下落局面に転換し,7割以上の人達が退場していきます。その下落局面を乗り越えた人達だけが生き残っていきます。
    昔,ケネディー氏は,靴磨きが株の話をするのと聞いて手じまった,という話もあります。

    1. 福岡在住者 より:

      正にその通りですね。

      経験10年弱の新参者ですが、老後2000万円が話題になり新規参入が増えましたが、その後カナダでのファーウェイ副会長拘束やトランプ当時大統領の中国排除で株価が急落しまたが、その後ジワジワ上昇を繰り返し円安もプラスし現在に至ってます。

      グローバル大手企業の株主は20%以上が金融機関なのですから、上がったり下がったりするのは大歓迎。
      日経平均を上げて、一般参入者を増やしその後 下げて退場して頂ければその分が「儲け」です。 新規退職者がターゲットなのでしょうね。

      下ったら塩漬けし上がるのを待てば良いのです。 (オンリー1の企業の場合ですけど・・・)
      新NISAで餌をまいてる際中ですのでどこかでドカンと下げるでしょうし、戦争が終れば円高に向かうのでドカンと下げるでしょう。

      山一證券廃業(苦笑)
      たまに昔の映像で見ますが、記者会見で創業者でもないサラリーマン社長が号泣なんてゾッとしますね。 完全に頭が狂っている。金融機関(金で利益を得る)のトップがこんなオヤジ連中だったら当然の結果です。 「社員は悪くないんで~す(号泣)」 これを見た従業員は絶望だったしょう。 

       
       

  2. 引っ掛かったオタク より:

    まーナンですな、浮草暮らし負債持ちにゃあソモ原資もゴザンセン
    ありゃりゃ

  3. ドラちゃん より:

    負動産を購入したら破産します。
    負動産の購入は慎重に

  4. taku より:

     日本人が、「資産を持てる人」と「資産を持てない人」に二極化していくのでしょうね。
     「資産を持てる人」は、円安による海外投資家の増加で、日本株・不動産が値上がりし、何もしなくてもウハウハ状態が続くでしょう。
     「資産を持てない人」は、円安(だけでもないけれど)による物価高に、賃金上昇が追い付かず(とりわけ中小企業)、日本株・不動産上昇の恩恵も受けられず、働けど働けど、暮らし向きはつらくなっていく気がします。
     でもね、円安はデメリットもありますが、メリットもあります(日頃、新宿会計士さんが力説されている通り)。私は、長期的には円高が望ましいという見解ではあるけれど、今の日本には円安がよりいいのかもしれない。
     今の自民党に、この微妙な国民の声をうまくすくいあげられる政治家はいるのかな?(安倍さんがいたらなあ)。

  5. カオナシ より:

    昔むかし、1ドル360円の時代から比べれば、今は超円高ですね。この位の円高が宜しいようで。

    1. カオナシ より:

      taku様への返信でした

    2. 新聞紙を読まない高齢者 より:

      カオナシさん

      遠い昔の記憶。
      小学生の遠足は殆ど徒歩でした。
      六年生だった遠足は珍しくバスでした。
      バスガイド嬢が小学生に「このバスに180円の部品が有ります。それは何でしょう?」とクイズを出してました。。。。

  6. 宇宙戦士バルディオス より:

    「株は買っても、土地は買うな」
     未だに投資アドバイザーとしては、不世出の長谷川慶太郎の金言です。
     今現在、マンション投資するような金はありませんが、あったとしても私は不動産には投資しないでしょう。株と投資信託、社債だけで沢山です(それなりにリターンもありますし)。

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