邦銀の対外与信は過去最多更新:近隣国向け与信は低調

日銀が19日に発表した最新データによると、邦銀の2024年3月末時点ににおける国際与信は5.1兆ドルを突破し、過去最多を更新したことが判明しました。ただ、邦銀の対外与信は欧米豪などに偏っており、また、アジア最大の経済大国である中国に対する与信は10位圏外から転落したほか、アジア圏では近隣国(中国、韓国、台湾、香港など)向けよりもASEAN向けの方が伸びているという傾向が顕著です。

国際与信統計とは?

国際与信統計とは、国際決済銀行が世界31ヵ国・地域に本店を持つ銀行の国際的な与信状況をグローバルベースで取りまとめた四半期統計であり、当ウェブサイトでも先月の『国際与信統計でまたもや日本が「世界最大の債権国」に』などで、話題として取り上げています。

こうしたなか、日銀は18日、国際決済銀行(BIS)に提出している『国際与信統計』の日本集計分の最新データ、すなわち2024年3月末時点のものを公表しました。

これによると、邦銀の2024年3月末時点における対外与信総額は「最終リスクベース」で5兆1362億ドルを記録し、前四半期末(23年12月末)と比べて+928億ドル(+1.81%)となり、過去最多を更新しました(図表1)。

図表1 最終リスクベース・対外与信残高

(【出所】日銀『物価、資金循環、短観、国際収支、BIS関連統計データの一括ダウンロード』サイトのデータをもとに作成。以下同じ)

日本の与信相手国・地域の内訳について、1位から20位までをランキングにしたものが、図表2です。

図表2 日本の対外与信相手国一覧(上位20件、2024年3月末時点、最終リスクベース)

(なお、この図表自体は画像ファイルですが、本稿末尾にテキスト化したものについても収録しておりますので、必要な方はご活用ください。)

今回のランキングには重要な変動:中国が10位圏外に転落

これによると、米国向けが約2.4兆ドル(前四半期比+1218億ドル)で最も多く、これにケイマン向け(6363億ドル、前四半期比▲174億ドル)、英国向け(2284億ドル、前四半期比▲43億ドル)―――などが続いています。

また、日本の対外与信の相手国は、相変わらず、欧米豪などに偏っており、10位以内のアジア圏の国は、9位のタイ(998億ドル、前四半期比+23億ドル)、10位のシンガポール(810億ドル、前四半期比++22億ドル)の2ヵ国のみです。

しかも、2023年12月末時点と比べ、ランキングには重要な変動が生じており、とりわけ10位だった中国が11位に、16位だった香港が18位に、それぞれ転落しているのです。

中国はアジア最大の経済大国であり、日本にとっても最大の貿易相手国ですが、その中国が邦銀にとって「10位圏外」に押し出されたというのは、なかなかに興味深い事象です。

近隣国向けの与信状況を比較してみた

この点、邦銀の近隣国(中国、香港、台湾、韓国、北朝鮮、ロシア)向けの与信は、総合的に見れば凋落傾向にあります。邦銀がASEAN向け与信を増やしているのとは対照的といえます。

これについて、日本の近隣6ヵ国とASEAN10ヵ国に対する与信状況を調べてみたのが、図表3です。

図表3 日本の対外与信(アジア・近隣国向け、2024年3月末時点,最終リスクベース)

これによるとブルネイ、カンボジアの2ヵ国に関しては、データそのものが確認できなかったのですが、北朝鮮に関しては「残高ゼロ」と表示されています。

また、それ以外の近隣5ヵ国(中国、香港、台湾、韓国、ロシア)向けの与信総額は2116億ドルで、邦銀の対外与信全額に対するシェアは4.12%に過ぎず、これに対してASEAN8ヵ国向けは2740億ドルで、邦銀の対外与信全体に対するシェアは5.33%です。

いずれにせよ、邦銀にとって最も重要な与信先は米国、これに続いてケイマン諸島(※オフショア金融センター)であり、これに続いて欧州、豪州、カナダなどの欧米豪諸国であり、また、アジア圏だと近隣国よりもASEAN諸国である、という事実については、日本経済の基本的な姿として、踏まえておいて良いかもしれません。

参考:図表のテキスト化データ

なお、図表2に示した『日本の対外与信相手国一覧(上位20件、2024年3月末時点、最終リスクベース)』について、テキスト化したものを収録しておきます。

図表4 日本の対外与信相手国一覧(上位20件、2024年3月末時点、最終リスクベース)
相手国金額シェア
1位:米国2兆3914億ドル46.56%
2位:ケイマン諸島6363億ドル12.39%
3位:英国2284億ドル4.45%
4位:フランス2147億ドル4.18%
5位:オーストラリア1425億ドル2.77%
6位:ドイツ1347億ドル2.62%
7位:ルクセンブルク1195億ドル2.33%
8位:カナダ1047億ドル2.04%
9位:タイ998億ドル1.94%
10位:シンガポール810億ドル1.58%
11位:中国800億ドル1.56%
12位:オランダ747億ドル1.45%
13位:アイルランド679億ドル1.32%
14位:イタリア628億ドル1.22%
15位:インド544億ドル1.06%
16位:スペイン530億ドル1.03%
17位:韓国499億ドル0.97%
18位:香港492億ドル0.96%
19位:インドネシア479億ドル0.93%
20位:スイス374億ドル0.73%
その他4062億ドル7.91%
対非居住者合計5兆1362億ドル100.00%

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. sqsq より:

    う~ん
    銀行らしいね。カネのない奴と信用できない奴には貸さない。

    ケイマンはタックスヘブンだから別にして上位は金持ちばかり。タイは日本製造業の集積地。日系企業が多い。シンガポールは金融拠点。

    中国が少ないのは「何するかわからない不信感」からか。
    韓国が少ないのは「金のない奴には金貸さない」の典型かも。

  2. はるちゃん より:

    邦銀による米国への融資は何に使われているのでしょうかね。
    日本からの融資がアメリカ経済を支えている部分もあるのでしょうか?
    日銀が金利を上げたらリーマンショックの再来で世界同時不況なんて言う事にならなければ良いのですが。
    よく分かりませんが。

    1. 匿名 より:

      米国債では?

    2. sqsq より:

      もしかして円キャリートレードの結果?

  3. 通りすがり より:

    対外与信について,融資の場合は担保をどう取るか(物件が海外にあるので),債券投資の場合は為替リスクヘッジなどをどうするか,国内融資よりリスクが高いところがあると思います。そういえば,リーマンショックのとき,日本勢の多くが逃げ遅れて傷手を負っていた記憶があります。対外与信が増えているのは,預金残高に対して,国内の優良借り手が少ないことの裏返しですから,手拍子で喜んではいけないと思います。
    ついでに,対外与信残高の増加も円安要因になる気がします。

  4. ドラちゃん より:

    日本から金利低い金を借りて海外に投資するのが最も効率的

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