ロシアに対する経済制裁は、効いているのか、いないのか。正直、よくわかりません。というのも、この経済制裁下のロシアに旅行した日本人ユーチューバーの方によると、現地のスーパーではモノも溢れ、物価も安定しているように見受けられる、ということです。すなわち、経済制裁下のロシアは意外と豊かなのです。ただ、これは「経済制裁が効いていない」と見るのか、「経済制裁の効果がまだ十分に生じていない」と見るのかは、議論があるところではないでしょうか。
目次
動画ネット投稿で生計を立てる「ユーチューバー」
最近だと「ユーチューバー」などと呼ばれる職業が成り立っているようです。
これは、動画を撮影してYouTubeなどにアップロードし、動画のプラットフォーム運営者側から広告収入の分配を受けることで収入にする、というもので、最近だとこれらのユーチューバーがアップロードする動画にも、本当にさまざまなジャンルがあります。
パッと思いつくものだけでも、ストリートピアノや「歌ってみた」、ゲームのプレイ動画、旅行系動画やクレジットカードなどの財テク系動画、不動産やDIYに関する動画、さらには料理系、スポーツ系、キャンピングカー、果ては「実在する会社のサラリーマンの上司部下のいたずら合戦」など、本当に「なんでもあり」、です。
そして、彼らのなかには、動画作成と投稿で生計を立てているケースだけでなく、さまざまな戦略を組み合わせ、たとえばYouTube動画にうまく企業タイアップ案件を組み込んで、かなりの収益を上げているというケースも出て来ています。
鉄道系・旅行系ユーチューバーとして知られる「スーツ」さんなどは、その典型例でしょう。
いずれにせよ、ひと昔前だと、「芸能人でもないただの一般人が動画を撮影したとして、それを誰が見るんだ?」、などと思われていたフシもありますが、現実にそれらさまざまなジャンルの動画を、数多くの人が日々、視聴していて、巨額の広告費が発生しているわけです。
ちなみに収益が得られるプラットフォームとしてはYouTubeだけでなく、ニコニコ動画であったり、最近だとX(旧ツイッター)であったり、と、少しずつ広まっているようです(ただし、『ネット「140文字文学」の勧め』などでも取り上げたとおり、Xの場合だと必ずしも動画である必要はありませんが…)。
この点、YouTubeに動画をアップロードして収益を上げている人たちを「ユーチューバー」と呼ぶのはわかりますが、ニコ動やXなどで収益を上げている人たちを何と呼ぶのかは存じ上げません(Xの名称が「ツイッター」のままだったら「ツイッタラー」にでもなったのかもしれませんが…)。
ネット広告費は伸び続けている
さて、ちょっとだけ本題から脱線しておきますが、インターネット広告費の総額はうなぎ上りで増え続けています。
普段から当ウェブサイトにて説明してきたとおり、2000年に590億円に過ぎなかったネット広告費は、2020年にマスコミ4媒体(※新聞、テレビ、雑誌、ラジオ)の合計広告費とほぼ並び、そこからたった4年で、いまやネットがマスコミ4媒体合計の約1.5倍という広告費をたたき出す時代が到来しています(図表)。
図表 広告費の推移(ネットvsマスコミ4媒体)
(【出所】株式会社電通『日本の広告費』および当ウェブサイト読者「埼玉県民」様提供データをもとに作成)
すでにネットはテレビなどの既存媒体に対し、完全な優位を確立したと考えて良く、この傾向が覆ることは「もうあり得ない」、と、断言しても良いでしょう。少なくとも広告の世界だけで見れば、すでにネットがマスコミ4媒体を凌駕しているのです。
じつは北朝鮮やロシアへの渡航は可能
さて、「マスコミの崩壊」については、近日中にもうひとつ興味深い話題が出てくると思いますので、余談はこのくらいにして、本論に戻りましょう。
ユーチューバーも多様化しているなかで、どうしても出てくるのが、他の人が取り上げないような話題を取り上げた動画です。その実例として本稿で取り上げておきたいのが、(具体的なチャンネル名を挙げるのは控えておきますが)とある旅行系チャンネルです。
もちろん、べつに違法なことをやっているわけではありません。
このチャンネルで取り上げられているのは、たとえば、「中朝国境沿いの街・丹東市を訪れ、鴨緑江(おうりょくこう)越しに北朝鮮を眺めてみる」、「中国を経由して経済制裁下のロシアに敢えて渡航し、旅行してみる」、といった企画です。
これらの行為は日本国内で「違法行為」には該当しませんし、何ら咎められるようなことでもありません。前者はあくまでも「中国側から北朝鮮を眺めた」というだけのことであり、後者についても、日本の対ロシア制裁に「日本人のロシアへの渡航そのものを禁じている」という項目は入っていないからです。
というよりも、多くの人が「意外だ」と思う(かもしれない)話ですが、とくに北朝鮮に関しては極端な話、仮に実際に北朝鮮に渡航したとしても、違法行為ではありませんし、もし日本国民が北朝鮮に渡航したとしても、日本の法律で罰せられることはありません。
日本人が北朝鮮に渡航すること自体を禁止する法律は、日本には存在しないからです。
よって、「北朝鮮に入国してみた」、といった動画をアップロードしたとしても、そのこと自体は、(少なくとも日本国内においては)違法行為でも何でもありません。
実際のところ、一部には「実際に北朝鮮に渡航してみた」、などとする動画を投稿している人もおり、これについては「北朝鮮に出掛けること自体、北朝鮮の体制にカネを渡しているのと同じことだ」、などと眉をひそめる人もいるかもしれませんが、そうした批判を気にしなけれ良いだけのことでしょう。
(※もっとも、2011年3月1日以降、北朝鮮に渡航したことがあるという人は、ESTAを使って渡米のための認証を受けることはできなくなったという点には、注意は必要です。これについては機会があればまた別稿にて取り上げたいと思います。)
いわんや、ロシアをや、でしょう。
日本がロシアを経済制裁の対象にしていることは事実ですが、日本人がロシアに渡航すること自体、日本の法律に触れる行動ではありませんし、十分なカネと時間さえあれば、たとえば中国、トルコなどの第三国を経由するなどして、いつでもロシアに渡航することが可能です。
日本人がロシアに行くためには「所持金を10万円以下にすることが必要」
そはともかく、「経済制裁下のロシアに旅行してみた」、などとする一連の動画シリーズをためしに視聴してみると、これはなかなかに興味深いのです。
まず、日本から出国する際、たとえば「中国経由・ロシア行き」の航空券でチェックインしようとすると、税関職員に個別で呼び出され、「あなたは現在、おカネをいくら持っていますか」と尋ねられるそうです(といっても、あくまでも「尋ねられる」だけで、おカネを強制的に没収されるなどするわけではありません)。
ここで、仮に所持金が外貨とあわせて10万円相当額を超えていた場合には、たとえばいったん空港内のATMで所持金の一部を預けるなどし、10万円を超えないようにすることが求められる、とのことですが、こなおたりの現実の運用基準はやや曖昧でもあるようです。
では、なぜ「10万円」、なのでしょうか。
その理由の一端は、日本政府のロシア制裁に関わっています。
2022年2月にロシアがウクライナに軍事侵攻して以降、日本を含めた主要西側諸国などはロシアに経済制裁を行っており、日本政府もその一環として、現金などのロシアへの持出を厳しく制限しているからです。これには当然、短期旅行者がロシアに持っていくおカネも含まれます。
そもそも論として、ロシアは現在、国際社会からの金融制裁を受けているため、多くの日本人が保有しているビザ、マスター、JCB、アメックス、ダイナーズといったブランドのクレジットカードは、ロシアでは使えません。現地のATMで現金(ルーブル紙幣)を引き出すことも、おそらくは不可能でしょう。
このため、ロシア旅行をするのであれば、現金(できれば米ドル、ユーロなどの外貨)を持参する必要がありますが、滞在期間が長くなり、滞在費用が10万円で足りなくなるようであれば、税関に届け出なければならない、ということでしょう。
(※もっとも、在ウラジオストク日本国総領事館ウェブサイト『日本からロシアに渡航する方へのお知らせ(現金等の持ち出し許可について)』によると、たとえ10万円を超えていても、滞在費用については無許可で持ち出せるかのような記述もありますので、もしロシアに行かれる方は税関などに直接お問い合わせください。)
ロシアに経済制裁は「効いていない」のか?
ただ、一連の動画シリーズで興味深いのは、それだけではありません。
実際にロシアの首都・モスクワに到着してみると、国際的な経済制裁を受けているはずなのに、意外とロシアの人々は親切で、物価も安定しており、スーパーなどにもモノが溢れている、というのです。
旅行記では「ニセマクド」、「ニセスタバ」、「ニセ丸亀製麺」、「ニセケンタッキー」などが出てくるのですが、これは当ウェブサイトの『ロシアから撤退したマクド、ウクライナでは絶賛営業中』などでも取り上げたとおり、西側諸国の企業が続々と撤退していることの影響でしょう。
ただ、こうした西側諸国企業の撤退という話題を除けば、現在のロシア人の生活が困窮しているのかといえば、そういうわけでもなさそうなのです。
もちろん、「物価が安定している」というのは、普段からロシアに住んでいるわけではない日本人旅行者による評価に過ぎませんし、「スーパーにモノが溢れている」という評価も、あくまでも首都・モスクワの話であって、これがロシア全体で当てはまるものなのかはよくわかりません。
ただ、少なくともこの旅行者の方が、現地を旅し、「人々は親切」、「スーパーでモノが溢れている」、「物価もさほど高くない」といった印象をもとに、ロシアについて「戦時中の国とは思えないほどに社会が安定している」、という印象を抱いたであろうことは間違いありません。
そして、旅行者による印象というものは、その国が置かれている情勢を正確に描写するものであることが多いこともまた事実でしょう。とりわけ「そこに住む人々が親切」というのは、「生活に余裕がある」、という間接的な証拠でもあります。
人々が生活に困窮しているような国だと、人々には他人――とくに外国人旅行客――を助ける余裕などなくなるからです(もっとも、「貧しい国」であっても親切な人がたくさん住んでいる事例はありますし、「豊かな国」であっても旅行客に冷たいという国もあります。どこの国がそうだとは言いませんが)。
「戦争と経済制裁でロシア経済は崩壊寸前にある」、などと軽々しく決めつけるべきではない、という点については、注意が必要です。そのことは、私たち西側諸国から見て、「ロシアに対してはまだまだ制裁で締め上げなければならない」、といった結論に至るのかもしれない、ということを意味するのかもしれませんが…。
陸路での国境を続々と閉ざす欧州連合(EU)
さて、この一連の動画の投稿者の方によると、現在、欧州側が次々とロシアとの国境を閉ざしているらしく、現時点において陸路でロシアから欧州に抜けるための通路は、ロシアのイバンゴロドとエストニアのナルバの両市を結ぶ橋梁しかないそうです。
これを「公共の交通手段」を使って抜けるためには、たとえばロシア第2の都市・サンクトペテルブルクからエストニアの首都・タリンを結ぶバスなどがあるのだそうです(といっても、これは昨年12月の話であって、現時点でもこのルートがあるのかどうかはわかりませんが…)。
ただし、バスに乗っていても、国境を抜けるポイントでおそらくいったん全員がバスから降ろされてパスポートチェックなどを受けるらしく、動画投稿者の方によると、ロシア側の検問では、「日本人は後回しにし、別室でやたらと厳しくチェックされる」などの「嫌がらせ」も受けたのだそうです。
しかも、パスポートチェックは全員分が終わらないとバスが発車できないため、ようやくパスポートチェックが終わってバスに戻ると、バス車内全員からの突き刺すような視線を感じて気まずかったようです。
といっても、ロシア側の検問でロシア人のチェックがザル、というわけでもなさそうであり、実際、「出国できないロシア人をバスから降ろす」といったことも行われているのだそうです(これはもしかするといま話題の「徴兵逃れのチェック」でしょうか?)。
その一方で、エストニア側に入ると、今度は逆にロシア人らのパスポートチェックが厳重になされる一方、日本人のパスポートチェックはあっという間に終わる、というエピソードも紹介されているのですが、このあたりも日本のパスポートの威力がわかる、なかなかに興味深い事例といえるかもしれません。
ちなみにロシアの通貨・ルーブルについては現状、両替できる場所が非常に限られているらしく、もしもロシア旅行をした場合、ルーブル紙幣・貨幣は(記念に持ち帰る分を除けば)現地で使い切ってしまうのが一番良さそうです。
このあたり、「その国の通貨が余っても再両替は難しいので、現地で使い切ってしまえ」、というのは一部の発展途上国通貨に共通の現象ですが、ついにロシアの通貨も「発展途上国」なみになった、ということではないでしょうか。
それに、いくら「ロシアに対する経済制裁は効いているかどうかわからない」といわれても、やはり、マクドもない、ケンタッキーもない、スタバもない、丸亀もない、任天堂もない、そんな味気ない社会と化し、海外発行のクレジットカードすら使えなくなってしまっているわけですから、ダメージはゼロではないでしょう。
さらに、一部の報道では、ロシアがせっかく外貨を稼ぐために石油、石炭、LNGなどを輸出しても、肝心の相手国の銀行口座に振り込まれた輸出代金を国内に持って来ることができない、という事例も相次いでいるようです(『米国の二次制裁の影響?外銀がロシアへの送金を拒否か』等参照)。
このように考えていくと、現在のロシアを巡っては、「経済制裁が効いていない」のではなく、「まだ経済制裁の影響が本格化していないだけ」、と評するのが妥当なのかもしれません。
いずれにせよ、こうした「現地からの肌感覚によるレポート」が、新聞、テレビといったオールドメディアを経由することなく、気軽に手に入る時代になったというのは、本当に凄い、まさに「革命的」なことなのかもしれない――、などと思う次第です。
View Comments (7)
今、ロシアや北朝鮮に入国すると、(中国と同じく)いつ、スパイ容疑で逮捕されるか分からないのではないでしょうか。
>今
じゃなくて、昔からずっとですよ。
私がYouTubeでずっと見ている発信者に森さんと言うロシア在住者がいます。彼はドバイで出会ったロシア女性と結婚して⒉子をもうけ、ロシアの地方都市とドバイなど中東国(ドバイの永住権もお持ち)と日本の実家を行き来する日常。
カネは仮想通貨を使ったりしている様です。見たところ中東諸国はロシアとの交通がまだまだ(イランの空爆以降は知らず)ユルユルで、物価としては基礎的な食品ではインフレも緩やか。但し彼の愛車スバルが故障したらパーツの入手が難しい。またペットフードや乳児食、紙おむつ等の他に変え難い最高品質のモノは軒並み舶来品で欧米からは闇ルートしか入らずかなり高騰。また、近郊農家のちょっと有機栽培品などはむしろ買手が減少したせいか?価格が下落しつつある、と言ってました。
彼は好んでイスラム圏から出稼ぎに来ている労働者がよく行く店を使う。そう言う店は大変口に合う料理で、価格も大変安いのだとか。アジアンな顔つきも受け入れてくれるらしい。
とは言え彼の家のあるカザン市界隈にも今年に入ってウクライナからのドローン空爆もあった。彼の配信からはそんな事は全く聞こえてきません。
戦時中の日本の様な食糧難や燃料不足、更には空爆の犠牲などはあまりにも遠いエリアの事で、波及が未だまた無いのでしょう。
ロシアは基本的に資源大国の資源輸出国です。 西側で封鎖しても中国やインドが肩代わりして割安な石油製品・ガスを爆買いすればそれなりと思いますが・・・。
会計様がおっしゃる通りモスクワやサンクトベテルブルクを観察しても無意味ですね。 ソビエト連邦時代の共和国(あっ、ほとんど独立)でなく、ロシア連邦の共和国の状況を知りたいのですが、弱小なので情報が上がりません。
輸入品は第三国経由だから当然割高になるのですが、それを石油で支払いできているのであれば、恐ろし過ぎ。
生存をかけている現共和国は期待薄ですね(笑)
ウクライナの人たちの悲壮な決意と
惨状に耐える姿を知っていると
国際手配中のプーチン容疑者(71)を支持して
のうのうと怠けて奢るロシア国民には
怒りが湧いてきます。
が、まあ、悪というのはこうして
はびこるものだという非情を感じます。
むしろ
人としての生きる道を見失って
従ってしまうロシア国民よりも、
この平和な日本で世界が羨む日本の社会保障制度の
恩恵などを受けながら単に自分たちの
しょもない思い上がりや鬱憤からの反米や
同じならず者故にプーチン応援してしまうのを
あたかも正義かのように恥ずかしげもなく
ホザいてお見えの日頃の生きザマが
そんなこんなの人たちが
一番みっともなく罪深いのではと
私は感じています
ロシアに限らず、田舎は一般的にそういう傾向はありますよ。
例えば日本の農村は、
①統計数字のGDPでは貧しい。
②実際には都市部サラリーマンよりよほど豊かに消費している。
米・野菜・果物・雑役務etc
農協を通して税務署に数字が把握できる売上だけがGDPに算入されます。
農協を通さず近所同士で現物をやりとりしてる分はGDPに計上されません。
(もちろん無税)
こういうのは経済制裁で外部との物流を遮断しても、ほぼ影響ありませんから。
「GDPが世界のすべて」
みたいに考えている童貞臭い人は、きちんとフィールドワークしてみましょうね。
(笑)
ロシアから撤退した外国企業ですが、その実態は事業のロシア資本への売却が一般的とのこと。この場合継承企業は従業員を含めロシア内の事業を全面的に引き受け、ブランドは従来と違うものを使用することになります(偽物が多いのはこのため)。その反面、買い戻しによる再起の可能性を条件に含めることもあるそうです(マクドはまさにそれ)。