韓国の金融システムは日本と比べ規模が小さく、当然、日本ほどの経営体力はありません。こうしたなかで、韓国紙『中央日報』の報道では、米国の商業不動産(CRE)市場下落の余波を受け、韓国の5大金融機関で総額1兆ウォンの評価損が生じているのだそうです。韓国といえば国内的には不動産バブルの余波で損失が金融システムに溜まっているとの不安もありますが、こうした国と通貨スワップを結んでしまった岸田首相の浅慮は批判されるべきではないでしょうか。
目次
日本は世界最大の債権国
普段から当ウェブサイトにて取り上げている通り、日本の金融機関は規模が非常に大きく、国際決済銀行(BIS)の『国際与信統計』に基づけば、現時点で手に入る2023年9月末時点のデータで見て、日本は世界最大の債権国です(図表1)。
図表1 国際与信の状況(債権国側、2023年9月末時点)
ランク(債権国側) | 金額 | 構成割合 |
1位:日本 | 4兆6346億ドル | 14.79% |
2位:英国 | 4兆3727億ドル | 13.95% |
3位:米国 | 4兆3456億ドル | 13.87% |
4位:フランス | 3兆4821億ドル | 11.11% |
5位:カナダ | 2兆5943億ドル | 8.28% |
その他 | 11兆9070億ドル | 38.00% |
報告国合計 | 31兆3364億ドル | 100.00% |
(【出所】The Bank for International Settlements, Consolidated banking statistics データをもとに作成)
よく、「中国の一帯一路金融は1兆ドルだ」、などといわれていますが、日本の金融機関は単独で4.6兆ドルもの資金を外国に貸している計算であり、レベルが異なります。
「日本は借金大国」の間違い
また、日本の対外与信・対外資産は、このBIS統計だけで判明する項目に限られません。
たとえば、政府(財務省)が保有している「外為特会」では、2023年12月末時点で1兆2946億ドルもの資産を保有していますし、保険・年金基金、社会保障基金などの機関投資家が290兆円弱(1ドル≒150円と仮定すれば2兆ドル弱)の対外証券投資を抱えています。
さらには、商社、製造業などを含めた日本企業が保有している対外直接投資の額も300兆円弱(2兆ドル弱)に達しており、これらの対外与信、対外資産をすべて合算すれば、日本の対外資産は少なく見積もって9兆~10兆ドル、といったところでしょうか。
いずれにせよ、凄い額です。
ちなみに世界各国の外貨準備高については、2023年12月末時点では中国が世界最大ですが、国際通貨基金(IMF)データによれば日本も外貨準備が1兆ドルを超え、堂々と世界2位に入っている(図表2)、という点についても、一応は言及しておく価値はあるかもしれません。
図表2 世界各国の外貨準備高(2023年12月末時点)
国 | 外貨準備 |
1位:中国 | 3兆4497億ドル |
2位:日本 | 1兆2946億ドル |
3位:スイス | 8642億ドル |
4位:ドイツ | 6459億ドル |
5位:インド | 6225億ドル |
6位:ロシア | 5986億ドル |
7位:イタリア | 4952億ドル |
8位:サウジアラビア | 4369億ドル |
9位:英国 | 4281億ドル |
10位:香港 | 4256億ドル |
(【出所】International Monetary Fund, International Monetary Fund, International Reserves and Foreign Currency Liquidity データをもとに作成)
そういえば、先日の『日本悲観論者は黙って「セルジャパン」をすればよい話』でも紹介したとおり、某著名投資家の方は、「日本は国の借金が巨額であり、未来がない」などとする趣旨のことをおっしゃっているそうですが、そのような方に限って、日本が世界最大規模の債権国であるという事実に触れないのは謎です。
韓国の金融システムのサイズは日本の十数分の1以下
さて、こうした状況はあくまでも日本の話であり、わが国の隣国である韓国に関しては、必ずしも外貨ポジションに余裕があるとは言い切れないようです。
たとえば、同じく国際与信統計に基づく対外与信は2485億ドルであり、これはランキングでいうと17位で、15位の台湾(4311億ドル)、16位のベルギー(3149億ドル)などよりも少なく、日本の対外与信額と比べれば、約18分の1程度です。
また、韓国の外貨準備高は世界11位、金額で見れば4201億ドルと日本のちょうど3分の1程度、といったところです(もっとも、以前から当ウェブサイトにてときどき説明している通り、韓国の外貨準備の資産性が怪しいのではないか、という疑念もあるのですが、この点についてはとりあえず本稿では無視します)。
すなわち、国際与信や海外投資について議論するうえでは、韓国は日本と比べて数分の1、あるいは十数分の1、というレベルだ、という点を念頭に置く必要がありそうです(ただし、「経営体力」という観点からは、現実には日本と比べた韓国の金融システムの規模感は、さらに小さいです)。
韓国の金融機関で1兆ウォンの評価損
こうした点を踏まえ、本稿でちょっとチェックしておきたいのが、こんな記事です。
韓国5大銀行、1兆ウォン失う…資金投じて購入した「米国発の時限爆弾」
―――2024/02/27 11:35付 Yahoo!ニュースより【中央日報日本語版配信】
韓国メディア『中央日報』(日本語版)が配信した記事ですが、これによると米国の商業用不動産(CRE)市場で最近、価格の下落が生じており、その余波が韓国に及んでいる、というのです。
米FRBが2022年3月に利上げを開始した時点のCREの価格を100とすると、現在のCREの価格は90以下に下落しているのだそうであり、その影響で韓国の5大金融グループであるKB、新韓、ハナ、ウリィ、NH農協の海外不動産投資損失が1兆ウォンを超えた、というのです。
中央日報の記述は、こうです。
「5大金融グループが各種ファンドを通じて投資した海外不動産は512件に達する。当初投資規模は10兆4446億ウォンだった。だが最近の評価価値は9兆3444億ウォン水準だ。収益率はマイナス10.53%程度だ」
…。
現在の為替レートは、1円≒8.85ウォン程度ですので、損失額1兆ウォンといえば、日本円に換算すれば1130億円程度です。
この程度であれば、日本の金融機関(たとえばメガバンクなど)であれば、十分に吸収可能な水準です。たとえば2023年4~9月期では、3メガバンク(三菱UFJ、三井住友、みずほ)だけで、連結純利益は合計で1.87兆円(!)に達しているからです。
しかし、韓国の金融機関の預金量(※国内勘定限定)は、韓国国内のすべてを合算しても三菱UFJ銀行の2倍程度に過ぎず、必然的に韓国の銀行の経営体力は強くありません。
実際、中央日報によると、米国では価格下落の余波でCRE関連貸付のうち、事務不動産担保貸付の不良債権比率が最近になって6%台を超えたのだそうであり、ウォール街のエコノミストが見るデッドライン水準の10%まであと少し、というレベルです。
しかも、このCRE関連貸付は4.7兆ドルに達しており、これらのうち2024年中にロール(借換)しなければならない金額は9300億ドル、2025年から28年までの4年間に満期を迎える金額は1.1兆ドル、などとされているようです。
国内外の不動産で損失の韓国と通貨スワップを結んだ岸田首相
こうしたなかで、中央日報によると韓国金融監督院の『海外不動産代替投資現況』という資料によれば、昨年9月末時点において、金融会社の海外不動産オルタナティブ投資残高は56.4兆ウォンで、内訳は保険会社が31.9兆ウォン、銀行が10.1兆ウォン、証券会社が8.4兆ウォン――などとなっているのだそうです。
ちなみに記事には出ていませんが、日本でもこの米国CREに嵌ってしまった銀行が少なくとも1行あるようです(その銀行名は晴天の日に屋外で天を見上げるとわかるかもしれません)。
しかし、さすがに韓国を代表する金融機関が、国内と海外の不動産向けエクスポージャーで同時にぬかるみに嵌ってしまうというのは、なかなかに印象的です。
先日の『今回の鈴置論考は韓国のなりふり構わぬ株価対策を指摘』などでも取り上げたとおり、韓国観察者の鈴置高史氏は、現在の韓国が株式・不動産バブル状態にあるという可能性とともに、尹錫悦(いん・しゃくえつ)政権が4月の総選挙を前に、なりふり構わぬ価格対策を講じていると指摘します。
このあたりは韓国の金融システムに、徐々に不良債権・不良資産が蓄積されているという可能性には注意が必要であり、そんな国と通貨スワップを結んでしまった岸田文雄首相の浅慮については、もっと批判されてしかるべきではないか、などと思う次第です。
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何かと比較の対象にされる(!)中華民国台湾、14ヶ月連続の輸出額減少から脱出できないでいます。2020 年からは人口減少が始まり、就労人口不足は当面の間は顕在化しそうにないものの、天竺國と労働協定を結ぶなど団塊世代が引退する遠くない未来を見据えた対策は打ってはいるようです。そこで中華民国台湾との経済協定を早期に結ぶべきと愚考いたします。次の首相がやってくれますよ、きっと。
ド素人なのでよくわからないのですが、米国不動産で韓国金融機関が損失を出すことと日韓通貨スワップとはどのような関係があるのでしょうか。通貨スワップで日本円又は米ドルを引きだしたとしても金融機関の損失の穴埋めに使えるわけではないと思うのですが。
不動産関連での損失によって韓国の金融危機が発生し、その金融危機による通貨下落を防止するために通貨スワップを利用するということはありえますが、かなり間接的な関係で、風が吹けば桶屋が儲かるみたいな関係性では?
日本の1990年頃のバブル崩壊がどの様に金融システムに影響を与えたかを調べれば、この記事の最後の三行が理解できると思いますよ。
わたしの浅い考えです。
通貨スワップは 韓国の信用を高める効果があると思うのです。利用できる外貨が増えるわけですから。
その信用を裏書きにウォンを発行してもウォンの下落が防げる。
手に入れたウォンを 資本注入、徳政令の財源に利用
ということになるのだとおもいます。
過去の蛮行を忘れたかのように 通貨スワップを与えて 岸田政権が愚かでなりません。
「100億ドルは大した額ではない」
と いうかもしれないけど
蟻の一穴 どさくさ増額は もっと容易。
日本企業に実害が起こった今
金融面での制裁も行うべきと思う。
おそらくは、韓国投資公社が外貨準備金を用いて、同様の運用をしてるのかとも・・。
但し、取得価額主義の採用により、外貨準備残高に ”評価損” は反映されないのです。
・・・・・
♩
しあわせだなぁ~!ぼかぁ~(簿価は)・・
僕はタヒぬまで君に話さないぞ、いいだろ!
>このあたりは韓国の金融システムに、徐々に不良債権・不良資産が蓄積されているという可能性には注意が必要であり、そんな国と通貨スワップを結んでしまった岸田文雄首相の浅慮については、もっと批判されてしかるべきではないか、などと思う次第です。
だって、岸田文雄って韓国に騙される事が存在意義な「ミツグ君」じゃないですか。
一見、他の事で有能そうに思えても、所詮岸田文雄はそんな存在ですよ。
韓国以外でもアメリカとか中国にも騙される悪い意味での八方美人ですよね岸田氏。
オバマ政権時代に副大統領でもあったジョー・バイデン大統領になぜか岸田文雄氏は頭があがらない。慰安婦合意のときもおかしかった。来月とされる国賓待遇訪米プラス議会演説は止めておいたほうがいいんじゃないの。バイデン民主党は不戦敗になるやも知れません。心から欲しがっている何か()を見透かされているからではありませんかね。どんな手土産を持って政府専用機に乗るのか、どうかすると売国奴の可能性も否定できません。
2月1日にあおぞら銀行が第3四半期の決算で、赤字転落、無配を発表。株価はストップ安。
理由はアメリカの商業不動産関連融資。ノンリコースの貸付だった。
今回の韓国の銀行で起こっているのはこれと同じかもしれない。
不動産に直接投資ではなく不動産会社への貸し付けが焦げ付きそうだという話ではないのか。
あおぞら銀行の場合は第2四半期から第3四半期にかけて貸倒引当金が300億円ほど増えている。
次回の選挙は悩みますねえ。
野党(共産立憲民主令和社民)に政権が代われば即10兆円規模にスワップ拡大
間違いないですね
あのどじょうがやりましたから。
一度あることは二度ある
合従連衡が彼らにできるかがカギかな
「バブル以来(マスコミがこのフレーズを必ず付加するのは腹立たしいからでしょうか)」の
東証最高値と同時に「晴天(蒼空(^^))」のニュースが出るのはまことに感慨深いものです。
日債銀からサーベラスにおもちゃにされ、それでも2015年には公的資金を全額完済、生え抜きさんが残っているか、損切り早めで、今回はあの轍は踏まない、その気持ちが強かったか。
詳細は「第三四半期決算概要」に掲載されています。
https://www.nikkei.com/nkd/disclosure/tdnr/20240131523799/
アメリカ主要都市の不動産ノンリコースローンがかなりヤバメ、これに324億円。それに加えて評価損となった外国債券410億円、合計734億円をこの下半期に一括処理。この結果2023年度は単体赤字350億円。それでもなんのその「2024年度配当については、2023年度予想の1株当たり年間配当金76円からの増配を目指す」と決意表明。FSAやJPXと発表時期・内容を打ち合わせただろうと、折からの上げ相場で、ストップ安2000円からアッと言う間に2400円。
ところで、国内外の不動産投資に強雨だ横の国、100億ドルでも破れ傘と不満を言うだろうよ。
サイト主作成の韓国の資金循環表を眺めていると韓国の「預金取扱機関」には余裕がないような気がする。さらに今回の損失でバランスシートが傷むことになる。
韓国政府は今年税収不足らしいので国債を発行しても引き受け手がいなくなるのではないか。
ところが韓国政府は歳入欠陥があると中央銀行から一時的にカネを借りるという事をするらしい。日銀も国債を大量に保有しているから結果的には同じだろうが直接借りるとは。
日韓通貨スワップ、実は結んでないのでは?って話があります
財務省の資料に記載が無かったが話の出どころだったはず
確かにスワップの話が出た去年春以降マスコミが通貨スワップに触れてないのも怪しいんですよね
スワップの規模も表にでてませんし、期間も
おそらく韓国は日本とのスワップを自国の信用力に使うために
本当は「スワップ再開協議」だったのを「スワップ再開」とマスコミに出して貰ったんじゃないかと
もちろん日本の霞ヶ関・永田町界隈にも話を事前に根回しして
日本国にとって基本的に損はないですし韓国の現・大統領側の方が話が出来るからそれぐらいいいだろうと
自称右派とか右寄りに区別される読売ですら普段から韓国寄りのマスコミですから、日本のマスコミ界隈にも根回しは簡単でしょう
スワップ実はしてない話、結構ありえると思ってます
参考ですが、昨年6月に出された日韓通貨スワップの件は昨年12月に正式に締結された事が政府から公表されています。報道から公表まで半年近くかかっているのは、通常なのか、何らかの事情があったのかは分かりませんが。
スワップ存在しない説、このブログに触れられてましたね。9月の記事です。
https://shinjukuacc.com/20230920-04/
ですが、実際には12月になって財務省は日韓スワップを結んだと発表しました。
https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/financial_cooperation_in_asia/bsa/Pressrelease/20231201.html
よって、何らかの事情によりスワップ締結が遅れたことは間違いありません。
一節によるとどこかのブログに書かれた財務省の連絡先に批判が殺到して担当者が心が折れて事務が遅れていたとかいなかったとか。