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賃料が上がらない東京のマンション価格はバブルなのか

首都圏、とりわけ東京23区において、マンション価格が上昇しています。先日より当ウェブサイトにて議論している通り、新築、中古物件ともに、マンション価格が急騰しており、とりわけ新築マンションについては2023年の平均価格が史上初めて1億円を超えているのです。ただ、その反面、不思議なことがひとつあるとしたら、賃貸居住用物件の賃料水準、平米単価は、あまり伸びていないのです。やはり不動産価格はややバブル気味なのでしょうか?それとも不動産賃料はこれから急上昇していくのでしょうか?

新築マンション価格、東京23区で史上初の1憶超!

やはり、調べてみるものだと思います。

先日の『「新築マンション価格上昇」ペースは急激=東京都心部』や『東京区部で新築マンション1億超え時代の「子育て論」』では、株式会社不動産経済研究所のレポートをもとに、東京都心部などで新築マンションの価格上昇が激しく、2023年はついに平均価格が1億円を超えた、とする話題を取り上げました。

これに続いて『首都圏や東京の中古マンションの価格は継続的に上昇中』でも取り上げたとおり、公益財団法人東日本不動産流通機構のデータを使い、同じく中古のマンションの販売価格について調べたところ、やはり東京都区部では中古物件であっても値上がりが激しい、ということがわかりました。

あらためて、いくつかのグラフを再掲しておきましょう。

まずは、東京23区における新築マンションの平均価格と平米単価です(図表1)。

図表1 東京23区の新築マンションの平均価格と平米単価

(【出所】株式会社不動産経済研究所・過年度報道発表資料をもとに作成)

これによると2007年に6120万円だった新築マンションの価格は、2009年には5190万円にまで下がったのですが、その後は徐々に持ち直し、安倍政権が始まったあたりから価格が上がり始め、2021年に8293万円、2022年に8236万円をつけ、昨年・2023年には一気に1億1483万円に達しました。

また、平米単価に関しても2007年頃から2014年頃まで80万円前後でしたが、2015年に99万円に跳ね上がり、以後、2016年に100万円の大台を、2018年に110万円の大台をそれぞれ突破し、2020年に125万円、2022年に129万円、そして2023年には一気に173万円に跳ね上がっています。

さすがにこの価格上昇ピッチは急すぎるようにも見えますし、「新築マンション価格はちょっとおかしい」、「バブルだ」、などといわれても不思議ではないほどの上昇率です。

新築マンション価格上昇は東京都内だけの現象なのか

ためしに同じ不動産経済研究所のデータをもとに、たとえば東京都下(つまり23区以外)の新築マンションの価格を調べてみると、分譲価格、平米単価ともに上昇傾向にはあるものの、東京23区と比べてさほど価格上昇速度は急速ではありません(図表2)。

図表2 新築マンション・平均価格と平米単価(東京都下)

(【出所】株式会社不動産経済研究所・過年度報道発表資料をもとに作成)

状況は、神奈川県、埼玉県、千葉県などでも同様で、とりわけ埼玉県に関しては分譲価格、平米単価ともに、2023年はむしろ前年と比べて少し下落しているほどです(※グラフは割愛します)。ためしに著者自身の手元にある2007年と2023年の各地域の新築マンション価格のデータを比較してみましょう(図表3)。

図表3 首都圏各地の新築マンションの価格変化(2007年vs2023年)
平均価格 価格変化(2007→2023) 変化額・変化率
首都圏 4644万円→8010万円 +3366万円(+72.48%)
東京23区 6120万円→11483万円 +5363万円(+87.63%)
東京都下 4263万円→5427万円 +1164万円(+27.30%)
神奈川県 4500万円→6069万円 +1569万円(+34.87%)
埼玉県 3684万円→4870万円 +1186万円(+32.19%)
千葉県 3672万円→4786万円 +1114万円(+30.34%)

(【出所】株式会社不動産経済研究所・過年度報道発表資料をもとに作成)

これで見るとどの地域もそれなりに上昇しているのですが、上昇率はどの地域も30%前後にとどまっているのに対し、東京23区に関しては+87.63%と倍近い上昇を示しています。

ということは、昨今の新築マンション価格は、首都圏に関しては東京23区部が非常に激しい、ということであり、これに関連し、「2023年の新築マンション価格の上昇は、東京23区で高級物件が供給されたことによる一時的なものだ」、という仮説が成り立つ余地が生じます。

では、中古マンションはどうなっているのか

では、実際のところはどうなのか――。

続いて調べてみたのが、公益財団法人東日本不動産流通機構の『レインズデータライブラリー』というページで公表されている、中古マンション市場に関するデータです。

これによると、やはり東京都区部に関していえば、中古マンション市場の動きは新築マンションのそれと比べ、そこまで極端ではないにせよ、「上昇基調が続いている」という点に関しては共通していることが判明しました(図表4)。

図表4 中古マンション市場(東京都)

(【出所】『レインズデータライブラリー』アーカイブデータをもとに作成)

すなわち、データが存在する2006年以降で見ると、中古マンション価格が最も低かったのは2006年で2935万円、平米単価は50万円でしたが、やはりアベノミクスが始まったあたりから価格、平米単価ともに右肩上がりで伸び始めていることが確認できます。

価格については2016年に4000万円を超え、2021年には5325万円、そして2023年には6126万円、と、それぞれ急ピッチで上昇。平米単価に関しても2014年に60万円を超え、2016年には70万円、2020年には80万円の大台を突破し、2022年には100万円を超えています。

このことから、たしかに新築物件の価格上昇は激しいことは間違いないにせよ、少なくとも東京23区部に関していえば、中古マンションの価格上昇も激しい、ということです。

中古マンションについてはどの地域でも価格が上昇している

また、もうひとつ不思議な傾向があるとしたら、新築マンションと違い、中古マンションについては首都圏全体で価格上昇が観測される、という点でしょう。先ほどの図表3とあわせて、やはり首都圏各地に関し、2007年から2023年にかけてのマンション価格の上昇額・上昇率を比較したものが、次の図表5です。

図表5 首都圏各地の中古マンションの価格変化(2007年vs2023年)
価格 2007年→2023年 増減・増減率
首都圏 2480万円→4575万円 +2095万円(84.48%)
東京都 3114万円→5678万円 +2564万円(82.34%)
都区部 3357万円→6126万円 +2769万円(82.48%)
多摩 2285万円→3495万円 +1210万円(52.95%)
埼玉県 1649万円→2872万円 +1223万円(74.17%)
千葉県 1696万円→2762万円 +1066万円(62.85%)
神奈川県 2283万円→3711万円 +1428万円(62.55%)
横浜川崎 2437万円→4060万円 +1623万円(66.60%)
神奈川他 1804万円→2795万円 +991万円(54.93%)

(【出所】『レインズデータライブラリー』アーカイブデータをもとに作成)

多少のバラツキはありますが、どの地域も少ないところで50%以上、大きいところだと80%以上も価格が上昇していることが確認できます(※平米単価に関しては図表を省略していますが、平米単価についてもだいたい同じ傾向が見られます)。

要するに、多少の地域差はあれ、少なくとも首都圏の全体的な傾向としては、「マンション価格は上昇している」と結論付けられる、というわけです(※ただしマンションなどの不動産物件の場合、個別性が非常に高いので、「あなたの所有している不動産物件も値上がりしている」ということを保証するものではありません)。

では、賃料はどうなっている?

こうしたなかで、次に気になるのが、賃料です。

この新築物件、中古物件に関する議論は、基本的には売買を前提としたものでしたが、不動産を「借りる」場合の価格です。

これについては同じく『レインズデータライブラリー』を調べていくと、四半期に1度出ている『首都圏賃貸居住用物件の取引動向』というレポートがあることに気付きます。

レインズのデータベースで見ると、レポート自体は2003年4-6月期以降、2023年10-12月期まで、約20年分・82本ほど出ていることがわかりました。

そこで、これらのレポートをもとに、東京23区の居住用物件の賃料(万円)と平米単価について調べてみるお、大変興味深いことが判明しました。賃料については最近、少しずつ上昇傾向にあるものの、売買物件と異なり、そこまで顕著に上昇しているわけではなさそうなのです(図表6)。

図表6 首都圏賃貸居住用物件(東京23区)

(【出所】『レインズデータライブラリー』アーカイブデータをもとに作成)

これにはちょっと驚きます。

新築、中古ともに、マンション価格は上昇を続けているわけですから、素人考えだと「賃料だって顕著に上昇しているのではないか」、などと思ってしまいますが、現実にはそうなっていないのです。

賃料は横ばいから下落していることもある!

ちなみに図表3や図表5にあわせ、首都圏各地の賃貸用居住物件の賃料を2007年と2023年(いずれも第4四半期)で比較しておくと、驚くことに、賃料については軒並み下落していて、平米単価についても顕著に上昇しているという傾向はみられません(図表7)。

図表7-1 首都圏各地の賃貸用居住物件の賃料変化(2007年vs2023年)
地域 価格変化(07年12月→23年12月) 変化額・変化率
埼玉県 7.7万円→7.6万円 ▲0.1万円(▲1.30%)
千葉県 8.3万円→7.5万円 ▲0.8万円(▲9.64%)
東京23区 11.6万円→10.9万円 ▲0.7万円(▲6.03%)
東京都他 8.5万円→7.7万円 ▲0.8万円(▲9.41%)
横浜・川崎 9.1万円→8.5万円 ▲0.6万円(▲6.59%)
神奈川県他 7.9万円→6.8万円 ▲1.1万円(▲13.92%)
図表7-2 首都圏各地の賃貸用居住物件の平米単価変化(2007年vs2023年)
地域 価格変化(07年12月→23年12月) 変化額・変化率
埼玉県 1739円→1903円 +164円(+9.43%)
千葉県 1832円→1990円 +158円(+8.62%)
東京23区 3309円→3363円 +54円(+1.63%)
東京都他 2242円→2184円 ▲58円(▲2.59%)
横浜・川崎 2304円→2558円 +254円(+11.02%)
神奈川県他 1818円→1779円 ▲39円(▲2.15%)

(【出所】『レインズデータライブラリー』アーカイブデータをもとに作成)

この点、賃料は平米数にも依存するため、賃貸物件の平均面積が増減すれば、賃料もこれに影響を受けますが、平米単価に関していえば、東京23区でもわずか1.63%しか上昇していないなど、ほとんど変化が見られません。

地域によっては、たとえば東京都千代田区や中央区、港区などのように、平米単価が少しずつ上昇傾向にあるという事例もあるのですが、多くの場合、賃料水準は横ばいから小幅上昇にとどまっている、というのが実情に近いようです。

賃料が上昇するか、不動産価格が下落するか

この点、家賃の場合は日本の法制度上、賃借人の立場が強く、継続して借りている住人に対し、大家さんとしてはあまり強く値上げを主張できない、という事情もあるのかもしれませんが、ただ、新たに契約する物件についての賃料は、もう少しフレキシブルに動いても良さそうなものです。

あるいは、東京23区などでこれからしばらくして賃料水準が上昇し始めるのかもしれませんが(現に賃料水準上昇の兆しは少しだけ見えています)、不動産物件価格の急上昇と比べると、やはり賃料水準の上昇ペースが遅いのは気になるところです。

著者自身の理解ですが、不動産価格は不動産賃料と表裏一体の関係にあります。

というのも、経済学の理論上、不動産価格も「その不動産を他人に貸したら賃料はいくら入ってくるか」という将来キャッシュ・フローの割引現在価値と近似するはずであり、その利回りは他のアセットクラス(株式、債券など)との比較で決まってくるものだからです。

ということは、不動産賃料水準がほとんど変わっていないのに不動産価格が上昇しているということは、不動産の投資利回りが低下しているということであり、金利が上昇し始めたらその低利回り状態は破綻することになる、ということでもあります。

具体的には、もし世の中の金利が上昇し始めたら、賃料水準が急上昇するか、不動産価格が急落するか、そのどちらかの現象が発生しなければおかしいのです。

個人的には、不動産の賃料がこれから急激に上昇し始めるという可能性もあると思う反面、やはり不動産価格が少し上昇し過ぎているという可能性も疑った方が良いと思うのですが、いかがでしょうか。

新宿会計士:

View Comments (10)

  • マンションデベロッパーが値を釣り上げているというよりもコストが上がっているというのが一番大きいような気がする。
    マンション適地の枯渇、資材の値上がり、人手不足。仕入値の高い土地には元をとるため超高層を建てたい、超高層のコストは割高で、ますますコストが上がる。
    それでも何とか買える人がいるからプロジェクトとして成り立つのだろう。
    買える理由は:パワーカップル(2人の合計年収1700-1800万円など珍しくないだろう)、金利が安く借りられる金額自体が増えている、相続税対策(不動産の評価は金融資産よりずっと低い)のカネが入ってきている。
    それに中国人の買いが入ってくる。

    1990年代は金利は今ほど低くなかった。パワーカップルの代わりに「ゆとり返済」というのがあった。相続税対策は当時もあった。中国人のカネというのは当時はなかった。

    • sqsq さま
      重層的な建設業界構造において低賃金長時間労働は常態化していたが、仕事を出してやっているという上から目線が矯正されて、本来どれだけ手間とコストがかかっていたかが表面化して来た、ということかも知れませんね。
      どこかのかび臭い経済団体会長殿が建築業界けしからんなどと暴言を吐いたそうです。その会社、ブーメラン突き刺さるはず。
      熊本で作っているアレとか各地に林立し始めたデータセンター建設など新しいマーケットが建設業界に向かって札束を振っているのに、役人議員のチープな点数稼ぎに過ぎないエキスポに足りない人手を工面してやりたいなど誰が相手にするものかということでしょう。

  • 今迄賃貸に住んでいた人が居住用に分譲マンションを買えば、賃貸の需要が減ることになるので、賃料は下落傾向になるのでは?タワマンなどの魅力的な(と思われている)新築物件は、パワーカップルなどには需要がある。
    今の新築マンションは、投資用や資産活用用賃貸物件では無く、居住用の分譲物件なのではないか?
    お金に余裕がある層が魅力的な新築タワマンを購入する、すると、今迄その層が住んでいた中古物件を、今迄賃貸に住んでいた層が買う、そして、賃貸需要は緩むので、賃料は下落気味になる、という団子のような動きが生まれているのかも。
    そして、都内の物件の賃料が下がれば、近郊の賃貸に住んでいた人が、都内に移動して来る、それで又、都の人口は増える。
    東京は働くのも、住むのも、魅力的な街なのかな?

  • 住宅賃料を見るならオフィス賃料もチェックした方が良いのでは?コロナ以降、東京のオフィス賃料は下がり続け空室率も上がってます。コロナ後、出勤率は上がったと言っても在宅勤務はかなり定着したのかと思います。そうなると都内の賃貸住宅需要も増えないですから賃貸料が上がらないと言うのはわかります。

    収入が長いこと上がらない状況が何十年も続いてますから億ションとか一般人には買えません。中国の富裕層が資産待避で買っていると考えた方がいいかと思います。パワーカップルが買っていると言う話もありますが、タワマンもあまり住みやすいとは言えないので、購入する層は限られているかと。

  • 収益還元法でしたっけ、DCF法で収益が低下していればバブルでしょうか?

    韓国、中国、台湾、日本の平成バブルをいいところ取りで、土地がだいぶ値上がってます。
    今度は、日本が中国、韓国を真似て地価。マンションを上げる番でしょうか・・・。

    基本はサラリーマンの年収で家は何年分で買えるか、賃貸なら月収の 2~3割で借りれるか。
    23区から貧乏人は、数年後には追い出されそう・・・23区は裕福層のみ居住可能になったり。
    23区は監視区域か注視区域に指定したほうがよさそう。

  • 自分の経験からですが、
    投資用にワンルームの中古物件をここ3年で3つ買いました。
    こう言う物件が持つとどこら情報が漏れるのか知らない不動産屋から電話が来ます。
    全て、築30年以上ですが全て言い値で買いたいとの事。八王子の物件は300万で購入したが550万まで出せるとの事。
    他の物件も3割前後アップの金額でした!
    売る気は無かったけど、買い増ししたい物もあったんですが、利回りが落ちまくりなようです。
    人口減少すると、中国のマンションのように空室率が鬼のようになりそうで心配です。
    家賃は、据え置きです。都内の物件で入れ替わりましたが変更なしの55000円にしました。周辺の家賃相場で上げられなかったです。
    30年前の東京暮らしより賃料やすいんですよね。
    思ったより大変です。
    サンプルまでです。

    • >知らない不動産屋から電話が来ます。

      これは登記簿を見て情報を得るみたいです。
      故に、(私の場合)携帯にはかかってきません。
      我家の固定電話は妻が応答します。
      知らない不動産屋からの電話の場合、私は出かけているという事になります。

  • 大衆車と言われる自動車のお話しだと、新車を買ったら買った瞬間に100万円程価値が下がる、と聞いた事があります。

    車本体の価値以外のお金がそれだけ新車購入時の価格に入ってるって事ですね。

    それで、不動産の場合は新築にしろ中古にしろ不動産本体以外のお金がそれだけ入ってるって事じゃないかと。

    で、借りる人は不動産本体の価値に応じた賃料を支払う事になり、コラムの内容となるんじゃないかと。

    なんとなーくこのように考えました。

    • そう言えば、和製高級ブランド車って値崩れを防ぐ為に下取りで頑張ったりしてるってお話しがあったような。

      不動産だとそういう事までして高値を維持するのは難しそうですね。

  • 素人なりに考えれば、
    ・住む人にとっての需給関係は、賃料。
    ・投資資産としての需給関係は、物件価格。

    【仮説】
    共産党中国では、本国がヤバくなってきたので、一等市民(高所得者層)が海外逃亡中。
    現金だと口座凍結が怖いから、モノに換える動きが活発化。

    なかでも円安で「すべての物価が3割安い」日本で。
    中華なパイパイの人たちにとって神話アイテムの不動産で。
    賃貸では無く購入に資金が流入すていることは、不思議じゃないかと。