青木率は「弱い最大野党と小選挙区」時代に適しているのか
当ウェブサイトで「定点観測」している6つの内閣支持率のうち、日経・テレ東のものを除く5つの調査が出てきました。時事通信のものを除いて内閣支持率はほぼ下げ止まった格好です。また、「青木率」についても算出可能な4つの調査のうち2つでは50%を割り込みましたが、残り2つは50%を超過しています。そもそも小選挙区を主体とした衆議院議員総選挙を読む上で青木率や政党支持率がどこまで参考になるかという問題もあります。
目次
日経・テレ東以外、今月分が出そろう=内閣支持率
当ウェブサイトで「定点観測」している6つの世論調査(読売新聞、朝日新聞、時事通信、共同通信の4社の調査、および産経・FNN、日経・テレ東の2つの合同世論調査)のうち、今月分に関しては、日経・テレ東を除くすべての調査が出そろったようです。
これによると、内閣支持率は相変わらず低水準で、最も低い時事通信のもので20%台を割り込んでいるほかは、すべて支持率は20%となっており、これに対して不支持率は軒並み、50%~60%台を維持していることがわかります(図表1)。
図表1 内閣支持率(2024年1月)
メディアと調査日 | 支持率(前回比) | 不支持率(前回比) |
共同通信(1/13~14) | 27.3%(+5.0) | 57.5%(▲7.9) |
時事通信(1/12~15) | 18.6%(+1.5) | 54.0%(▲4.2) |
読売新聞(1/19~21) | 24.0%(▲1.0) | 61.0%(▲2.0) |
朝日新聞(1/20~21) | 23.0%(±0) | 66.0%(±0) |
産経・FNN(1/20~21) | 27.6%(+5.1) | 66.4%(▲5.5) |
(【出所】各社報道)
前月比さらに下落したのは読売新聞の調査のみであり、朝日新聞の調査では前月比横ばいで、それ以外の3つの調査はいずれも前月比プラスに転じています。また、不支持率については前月比横ばいだった朝日新聞の調査を除き、すべて低下しています。
このあたり、時事通信の内閣支持率は低く出る傾向がありますので(著者私見)、現在のトレンドとしては、支持率は20%台前半から半ばくらい、といったところではないでしょうか。
よって、これらの調査を信じるならば、「内閣支持率は下げ止まったとはいえ低迷している」、などと評価して良さそうです(あるいはこれを「内閣支持率は低迷しているが下げ止まった」、などと表現する人もいるかもしれませんが…)。
相変わらず自民党の政党支持率は他党を圧倒
では、「岸田内閣は危機的状況にある」のでしょうか。
あるいは、「自公連立政権はもうもたない」といえるのでしょうか。
これについて読むひとつのヒントは、政党支持率にあります。自民党、立憲民主党、日本維新の会の3党について、上記5つの調査のうち(無料版に結果が出ていなかった朝日新聞を除く)4つの調査を見てみると、図表2のような具合です。
図表2 政党支持率(2024年1月)
メディアと調査日 | 自由民主党 | 立憲民主党 | 日本維新の会 |
共同通信(1/13~14) | 33.3%(+7.3) | 8.1%(▲1.2) | 8.8%(▲3.2) |
時事通信(1/12~15) | 14.6%(▲3.7) | 3.5%(▲0.9) | 3.8%(+0.6) |
読売新聞(1/19~21) | 25.0%(▲3.0) | 5.0%(±0) | 5.0%(±0) |
産経・FNN(1/20~21) | 27.1%(▲0.2) | 5.7%(▲1.9) | 6.6%(▲1.3) |
(【出所】各社報道)
自民党支持率は時事と読売で見ると急落していますが、産経・FNNで見るとほぼ横ばいで、共同で見ると大幅に上昇しています。また、最大野党である立憲民主党と第2野党である日本維新の会の両党を足しても、自民党にはまったく及ばないこと、いくつかの調査で維新・立民の「逆転」が生じていることもわかります。
青木率の現状
さて、せっかく世論調査を話題として取り上げたのですから、「青木率」、すなわち故・青木幹雄参議院議員が提唱した経験則にも触れておきましょう。
青木率は内閣支持率と最大与党に対する政党支持率の単純合算として定義され、これが50%を割り込んだ場合には内閣は退陣に追い込まれる、といった経験則のようなものです。
時事通信の青木率だけを見れば、たしかに岸田内閣(や、下手をしたら自民党政権そのもの)が危機的水準にあるかに見えてしまいますし、そそっかしい人はこれを「岸田内閣が危機的状況にあるのは事実だ」、などと決めつけたりするようです。
しかし、たしかに時事通信の調査では青木率は33.2%ですが、読売新聞の調査では49%と50%割れを起こしているものの辛うじて誤差の範囲であり、産経・FNNだと54.7%、共同通信だと60.6%であり、まだ少し余裕があることになります。
この点、世論調査で内閣支持率が急落すれば、自民党内が動揺し、首相を下ろす、あるいは総裁選で再選させない、といった動きが生じることは間違いありません。岸田首相の前任者である菅義偉総理大臣なども、そうしたかたちで事実上の退陣に追い込まれたことは、記憶に新しい点でしょう。
小選挙区主体の衆院選…弱い最大野党・立憲民主党
ただ、青木率はあくまでも経験則であり、本来、絶対視すべきものでもありません。そのヒントが、小選挙区制度にあります。
当ウェブサイトではこれまでも何度となく指摘してきましたが、衆議院議員総選挙は、そもそも全465議席のうち60%以上に相当する289議席が小選挙区で決まり、政党支持率が反映されやすい比例代表に割り当てられている議席は40%未満の176議席に過ぎません。
そして、小選挙区ではなにより「地盤」がモノをいいます。
2021年の総選挙では、自民党は全289選挙区のうち、277選挙区で候補を立て、187人の当選者を出しました。また、比例復活を含めた比例代表で72議席、選挙直後の追加公認2議席で、選挙後勢力は絶対安定多数に近い261議席に達しました(公示前と比べ15議席減)。
次回衆院選では区割り変更などもあるため、自民党は多少、小選挙区で苦戦する可能性はありますが、それでも自民党が伝統的なドブ板選挙に強いことは間違いなく(※著者私見です)、前回187人だった当選者数がたとえば半減する、といった事態は考え辛いところです。
これに対し、立憲民主党は小選挙区だけで214人もの候補者を立てたにも関わらず、小選挙区で当選できたのはたった57人で、比例代表の39議席とあわせた選挙後勢力は96議席と、公示前の109議席からじつに13議席も減らしたのです。
その立憲民主党は2021年の選挙では支持基盤である連合の反発を押し切り、日本共産党などとの選挙協力を行ったにもかかわらず、むしろ公示前勢力を減らすという結果となり、その責任を取って枝野幸男代表(当時)が辞任しています。
第三極としての日本維新の会と「維新タナボタ効果」
さらには自民、立民両党に代わる第三極として注目を集めている日本維新の会にしたって、少なくとも前回の総選挙では、小選挙区で94人という候補者を立てたものの、現実に小選挙区で勝利した候補者は16人に留まり、しかもうち15人が「地元」の大阪府です(残り1人は兵庫)。
また、小選挙区で落選した78人のうち、2位だった候補者は17人に過ぎず、じつに58人が3位でした(ちなみに4位だった候補者も3人います)。また、2位だった候補者のなかには次回選挙までに頑張って票を上積みし、何とか当選圏内を目指す人もいれば、まったく当選に及ばない人もいます。
次回衆院選に向け、一説によると維新は全国で150~180人程度、小選挙区で候補者を擁立することを目指しているそうであり、なかには音喜多駿・現参議院議員のように知名度がある人物を衆院に鞍替えさせるなどの手法も使いながら当選者の上積みを狙っている、といった姿勢も見えてきます。
当然、選挙戦略としてはそれも有効ですし、これに加えてさらに、自民党や立憲民主党などの他党から有力候補者の「一本釣り」を狙うなどの方法も局所的には有効ですが、残念ながら、こうした手法はすべての選挙区で使えるものではありません。
したがって、すべての小選挙区で抜本的に当選者を積み増すのは容易な話ではありません。
なにより、メディアがあまり大々的に報じない論点としては、「維新タナボタ効果」というものがあります。
いわゆる「ボーダー議員」(小選挙区で当選した人のうち、前回、2位との得票差が2万票以下だった議員)の人数は、自民党が58人であるのに対し立憲民主党は41人にも達していて、このことから、維新の候補者の動き次第では、自民か立民のいずれかの候補者を大量に落選させる可能性があるのです。
たとえば前回選挙で自民党候補者が10万票、立民候補者が8万票、維新候補者が3万票だった選挙区で、維新候補者が3万票積み増して6万票を獲得したとしても、自身は当選圏内に入ることはできませんが、自民から3万票を奪えば、結果的に立民候補者を当選させてしまうことになる、というわけです。
これと同じことは、「立民」と「自民」を入れ替えても成り立ちます。
そして、中途半端な「維新旋風」が生じれば、そのことによって生じる逆風で自民党のボーダー議員が大量落選するなど、大打撃を受ける可能性もありますが、現状の各種補選、地方議会選、地方首長選などの状況を眺めていると、大量落選するのはむしろ自民ではなく立民側、という可能性が高そうに思えてなりません。
よりマシな政党としての自民党という選択肢
以上の議論を踏まえ、改めて世論調査に注目すると、興味深いことが判明します。
どのメディアの調査でも、自民党に対する支持率は岸田内閣発足直後と比べて幾分か下がっているわけですが、主要政党の支持率を積み上げても自民党に辛うじて匹敵するか、下手をすると自民党に対する支持率を下回っている、という状況についてはあまり変わりません。
もちろん、これで維新・立民の両党に加え、日本共産党、れいわ新選組、社民党、国民民主党などの主要野党が一致して選挙協力体制を敷いているのならば、自公両党が次回衆議院議員総選挙で敗北する、といったシナリオも考えておく必要は出てきます。
しかし、少なくとも例の「小西問題」(『勝負あり:高市氏が小西文書「捏造」を説明してしまう』等参照)などの影響もあってか、維新・立民が短期間で関係を正常化するとも考え辛いところですし、なにより維新、国民などの「第三極」系の政党が日本共産党などと選挙協力をするという可能性も低いでしょう。
そして、「小選挙区制度のもとでは、第2党と第3党の選挙協力がなされなければ、第1党が圧倒的に有利になる」というのは、日本国内外を含めたさまざまな選挙で当てはまる法則のようなものです(というか、選挙制度の特性上、確率論的にはそのような結論が出ます)。
もちろん、選挙「だけ」を考えるならば、自民党や岸田首相自身にとっては、解散総選挙のタイミングは早ければ早いほど吉であり、その絶好のタイミングは昨年6月や11月などに訪れた(※著者私見)のですが、残念なことに、岸田首相はそのタイミングを逸してきました。
後講釈ですが、こうした判断ミスが結果的に岸田政権の命取りとなる可能性だって、もちろん十分にあります。
しかしながら、最大野党・立憲民主党は日本共産党との選挙協力や連合との関係をうまく整理することができず、日本維新の会は「大阪万博問題」で躓(つまづ)く可能性が出て来ているなかで、自民党が引き続き、「最もマシな政党」として選ばれる可能性は、それなりに高いのではないでしょうか。
(※なお、「自民党が最もマシな政党」というのは、あくまでも務めて客観的に評価した話であり、当ウェブサイトとして有権者の皆さまに対し、「自民党に投票してほしい」と依頼するものではないという点については、くれぐれもご留意いただきたいと思います。)
そもそも青木率自体がどこまで信頼できるのか
なにより青木率の提唱者である青木幹雄氏自身が参議院議員を務めていたのは1986年から2010年までの4期・24年間ですが、小選挙区・比例代表並立制に基づく現行の衆院選が始まったのは1996年以降の話でもあります。
個人的に、青木率が現在のような「弱い最大野党」という時代にも完全に適合するものなのか、という疑問を抱いています。というよりも、少なくとも世論調査に基づく政党支持率を眺めてていると、現在のところ、立民や維新が自民を超過する議席を獲得する可能性は、まったく見えてこないのです。
いずれにせよ、岸田文雄首相には「何をしでかすかわからない」という怖さ(※著者私見)もありますが、宏池会(岸田派)を解散した勢いに乗って、「改憲解散」などを打ち出したならば、案外、自民党は圧勝して議席を増やし、岸田首相の「2期目」にも道が開かれるのかもしれません(それが良いか悪いかは別として)。
その意味で、岸田首相の次の発言は、(良い意味でも悪い意味でも)注目に値するといえるでしょう。
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青木率とは、これを自民党議員や自民党支持者が絶対視して、これで動くから意味があるのではないでしょうか。つまり、これまでも(選挙になれれば別ですが)青木率50%割れでも、青木議員の存在感を無視して、他の議員が動かなければ、政権は続いていた、ということです。
そもそも「マスゴミ」の世論調査なるものが信用できませんので。
意外に岸田政権は続くのではないでしょうか?
「しっかりしろよ、仕事だ、仕事」
声援飛んでます、間違いありません。現場ネコが助けてくれます、たぶん。
民主党政権が終わって二度と彼らの政権奪取は無いだろうと思う人は少なくないと思うんですよね。お灸を据えることはあっても、民主系圧勝が予想されれば引き戻しの動きも出ると思います。
自分の当落に肌感覚で危機感を覚える議員が少なければ、総理総裁降ろしの動きにもつながりにくいのではないでしょうか。
また自民党議員もそういう世論を見透かしている、という政治評論家の弁も聞いたことがあります。
総理総裁降ろしのハードルはその点でも高くなってるんじゃないでしょうかね。
>勢いに乗って、「改憲解散」などを打ち出したならば、
岸田氏のポジティブサプライズを期待したいものです。
(ヾノ・∀・`)ナイナイ
ここで書いていいのか?と思いますが。
岸田首相、就任早々韓国譲歩をやったものたから印象わるくなりましたが、震災の対応をみていると、やるべき事を着々と実行しており、現場に任せることは任せて、何か、指導者の立ち位置と任務はしっかり分かっている方のようだな、と感じます。
そこへ、あっさりと、自派閥の解散を表明したので、何か従来のわるい印象が薄れて来てますね。
次に何をやるか?少し期待したい気持ち出て来てます。
「自民党の支持率が下がっていても、野党の支持率は上がっていない」
「維新のタナボタ効果で自民党はむしろ有利になっている」
この2つ、立憲、共産、れいわなどの野党支持者(彼らは維新や国民を自民党の腰巾着と
見なす様です)には絶対に受け入れられない論説みたいですね。
”だって、それじゃどうやっても自民政権が続いちゃうって事じゃないか!”
”野党の議席は減る一方?増える事はない?そんなふざけた事があってたまるか!”
こういう心境になるばかりなら、彼らのストレスは相当な物でしょう。
Xでの言動がああなるのもむべなるかな。
そのストレスをグッとこらえ、自分達の印象を良くするふるまいを心掛けられないのが
彼らの限界でもあるんですけどね。