テレ朝取材クルーが横転事故…「学ばないテレビ業界」

テレビ朝日『報道ステーション』の取材クルー5人を乗せたタクシーが現場から宿舎に戻る途中で横転し、1人が重傷を負い、病院で処置を受けたらしい――。こんな話が聞こえてきました。小学館が運営するウェブサイト『NEWSポストセブン』が配信した記事が、その情報源です。この情報が正しいのかどうかはわかりませんが、事実だとしたら、なんともうんざりします。報道関係者の強引な取材姿勢、30年近く前の阪神・淡路大震災当時とほとんど変わっていないからです。

災害報道の役割とは?

災害報道の役割とは、何か。また、災害報道はどうあるべきか」――。

意外な話ですが、こうした問いかけに対する、新聞・テレビなど大手メディアなどからの公式の見解は、ほとんど見られません。

そもそも災害報道とは、私たち一般人に対し、どういう機能があるのでしょうか。

これに対する一般的な答えとして考えられるのは、「公益への寄与」です。

たとえば、現に災害に遭われ、避難されている方々に対しては、とりわけ災害直後に関しては「どこで何が発生したのか」といった事実関係に加え、避難所や救援物資、道路の被害などの情報は切実なものであり、公益性は極めて高いといえます。

また、被災地以外に暮らす人々に対しても、災害報道を通じて被災地の情報を社会全体に広く共有し、たとえば「被災地への支援を促す」、「いざというときに備えるための参考にする」、といった効果をもたらす、といった意義もあるでしょう。

阪神・淡路大震災などの災害での報道はどうだったのか

ただ、それと同時に考えておきたいことは、「報道はありとあらゆる局面ですべてに優先するのか」、あるいはあるいは、「報道の公益性はどこまで尊重されるべきか」、という議論です。

【参考】阪神・淡路大震災における高速道路の損壊

(【出所】国土交通省『国道43号の被災状況』)

たとえば、災害時には報道関係者が現地入りし、ときとして避難所で避難している人たちを苛立たせたり、あるいは救助活動を邪魔したりすることがあります。

爆音をとどろかせて被災地上空を飛び回る報道ヘリが救援を求める声をかき消したりする問題は以前からしばしば指摘されていますし、被災地入りしたテレビ局の取材班がガソリンスタンド街の車列に横入りする、被災者用に提供されたはずの幕の内弁当をアナウンサーが食うなど、彼らの非常識さはしばしば話題となります。

さらには、報道機関関係者は「絵になる映像」、「絵になる写真」を作ろうと必死になるがあまり、現地をありのまま報じるのではなく、ときとして衝撃的な現場を切り取って報じたりすることもあります。

こうした報道は、(とくに災害発生直後だと)見ている人々に対し、無駄に不安を与えることもあります。

阪神・淡路大震災のときには、とある民放が、高速道路が横倒しになっていたり、マンションの1階が潰れていたりするなどの、「御影区上空」の映像を流しました(※念のため指摘しておくと、神戸市に「御影区」なる区はありません)。神戸出身者が「御影区上空」の映像を見て、不安にならないはずはありません。

また、その後も水害時に被災地上空で屋根の上から救援を求める人を報道ヘリから映したもの、幼い子供たちが巻き込まれた交通事故現場を上空から撮影したものなどを目にしたことがありますが、救助活動を妨害してまでそれらの「絵」を映すことに、いったいどれほどの意味があるというのでしょうか。

NEWSポストセブン「報ステ取材班が被災地で横転事故」

こうしたなかで取り上げておきたい話題が、これです。

『報道ステーション』取材班が乗車するタクシーが被災地で横転事故 地元メディア関係者は困惑

―――2024/01/19 11:15付 Yahoo!ニュースより【NEWSポストセブン配信】

小学館が運営するウェブサイト『NEWSポストセブン』の記事によると、テレビ朝日系の『報道ステーション』で1月11日の放送の前夜、同番組取材班が被災地である能登半島先端に近い能都町で大きな交通事故を起こしていたのだそうです。

「テレビ局関係者」の証言によると、事故の概要は次の通りだそうです。

10日夜23時ごろ『報道ステーション』の取材クルー5人が乗ったタクシーが現場から宿舎に戻る途中で横転。音声スタッフが腰椎を折る全治3ヵ月の重傷を負い、現地の病院で処置を受けた」。

これについてこの関係者は「単独事故だったことが不幸中の幸い」としつつも、地元メディア関係者は「いまの石川県では被災者でさえ病院にかかることができる人は限られている」としつつ、「外から入って来て事故を起こされた」という点に困惑している、などと指摘。

また、この関係者は横転原因について、こうも述べたそうです。

横転の原因は、タクシー運転手の体調不良。走行中に気分が悪くなり、道路脇の段差に乗り上げ横転してしまったそうです。取材は早朝から深夜まで続いたそうで、さらに現地は地割れが発生していて路面状況は相当悪い。まして夜間の運転です。ドライバーの負担は想像を絶します」。

…。

まったく学ばないテレビ業界

この記事をそのまま信頼するかどうかという問題はありますが、事実だとしたら、なんとももどかしい点です。30年近く前の阪神・淡路大震災の教訓から、テレビ業界はまったく学んでいないという証拠だからです。

ちなみにNEWSポストセブンによると、これとは別のテレビ局関係者は、こう指摘したそうです。

被災地の現状を克明に伝える災害報道は間違いなく必要ですが、自分たちの安全を確保することは最低限のことです。今後は、例えば運転手を最低2人は確保するなど、万全の態勢を整えて取材に臨む必要があるのではないでしょうか」。

はて、そうでしょうか。

そもそも論として、「被災地の現状を克明に伝える災害報道」とやらが「間違いなく必要」だとする点には、正直、疑問です。また、「自分たちの安全を確保することは最低限のこと」とありますが、民間タクシー運転手を使った取材そのものが非常識ではないか、との疑念は払拭できません。

そして、災害のたびに新聞社、テレビ局など報道関係者の不祥事が出て来るのを見ると、いい加減、うんざりします。

いずれにせよ、テレビ局による強引な取材活動が現地の食料、医療などのリソースを食い、場合によっては救助活動を邪魔することもあるのだとしたら、それは本末転倒そのものでしょう。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 七味 より:

    >実際に事故の翌日、上層部には被災地取材での安全管理の徹底が厳しく言い渡されたという。

    ご紹介頂いた記事の最後の部分なのです♪

    なんていうか、現場に丸投げ感がするのです♪
    具体的にどうやって安全を確保するのか?GO-NOGOの判断は誰がどうやってするのか?現場へのバックアップ体制をどう作るのか?
    安全を確保して事故発生時に備えるために、考えなきゃいけないことはいっぱいありそうだけど、どうするのかな?って不思議に思うのです♪

     安全第一!
    ヾ(_ _ ヾ ) 仰せのままに
    これで済むと楽ちんなんですけどね♪

    1. CRUSH より:

      わかりきってる事を、事故の翌日に
      「厳しく言い渡す」

      テレビ朝日は、震災現場に乗り込む前に、厳しく言い渡すことが、容易にできましたよね。
      なんでやってないの??

      それなのに、政府の対応が遅い!とか、どの口が言ってるのやら。

      コロナ自粛の最中に内輪で飲み会し、二階から落ちて骨折して緊急搬送され、長蛇の列の医療リソースを無駄遣いしてたのも、テレビ朝日。

      テレビや新聞は、変則的な第二次産業かと思うのですが、製造や仕入れの過程で従業員の安全確保は絶対正義の命題かと思いますけどね。

      井戸の中の一人ぼっちブラック企業すぎて、自分達がブラック企業だと、まったく自覚してない感じかしら。

      よくそれで、労働者側の立ち位置(左翼)で資本家(企業)側を避難する社説を書けるものですわ。

      とにもかくにも、ボロボロですな。

  2. KN より:

    >阪神・淡路大震災の教訓から、テレビ業界はまったく学んでいない

    タクシーが被災したのは、それより前の普賢岳の火砕流ですね。
    ・「教訓を忘れない」
    https://www.fnn.jp/articles/-/159984

    1. 引きこもり中年 より:

      毎度、ばかばかしいお話しを。
      テレビ業界:「教訓を学んだら取材ができない」
      誰か、笑い話だと言ってくれ。

  3. Sky より:

    マスコミ報道スタッフ。
    新人層は研修の一環で現場に行かされることもあるかとは思う。
    しかし、それ以外のプロパー社員は現場取材はしておらず、請負契約した外部会社員が出動しているのではないか?
    請負契約の場合、諸々の管理業務は請負会社の管理者になる。
    であれば発注したマスコミ会社が現場トラブルに対して他人事なのも頷ける。我々のような外部からみたらマスコミ会社の問題にしか見えないにもかかわらず。

  4. 引きこもり中年 より:

    もし、テレ朝取材クルーの横転事故が視聴率になるなら、テレ朝も狂ったように報道するのではないでしょうか。
    蛇足ですが、テレビ局が恐れているのは、自分のところだけが特オチすることではないでしょうか。つまり、そのためだけに被災地に行きたがるのです。

    1. 引きこもり中年 より:

      ジャニーズ問題と同じで、今回の件がBBCで報道されたら、日本のオールドメディアも大々的に報道するのでしょうか。

  5. 元一般市民 より:

    恐らく万人単位で被災支援を行っている、自衛隊、警察、消防などだって、事故や疾病などは発生しているはずです。ただ、自己完結が原則なので自分達で処理しているだけ。自己完結出来ないのなら、被災地に入るべきではありませんね。
    あと、山本太郎が被災者向けのカレーを食ったと避難されていますが、いくら「美味しいカレーだから食べていって」と言われても、自衛隊、警察、消防がそれを食べたと発覚した時点で、非難の嵐、処罰の対象でしょう。
    自分達だけが思っている正義だけが正しいのでしょうね。吐き気がします。

  6. KA より:

    被災地で朝日を乗せたら誰だって気分悪くなる。

  7. KY より:

     >まったく学ばないテレビ業界

     マスゴミに学習能力なんて先天的にも後天的にも絶対備わらない。

  8. 匿名 より:

    災害報道=世間を騒がせ,その反響を楽しむことを目的とする報道

  9. まこてあう より:

    ”海外では”という枕詞はあまり使いたくないのですが、海外では災害対策マニュアルにマスコミ規制を明記しているものが多いそうです。ドイツでは大災害宣言が発せられるとマスコミ規制が掛かり、ヘリコプターに関しては被災地より半径5kmが飛行禁止となるそうです。

    おそらくこの問題を認識している国会議員はいると思うのですが、「どうせマスコミの猛反発にあうだろうから…」と尻込みさせないためにもネット発信でもよいので後押しするような世論形成をしたいですよね。

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