日本の少子化はたしかに深刻です。ベビーブーム時と比べ、出生数は3分の1近くに減っているからです。ただ、深刻という意味では、日本よりも酷い国があります。それが、出生率が1倍を割り込んでOECD諸国中ワースト、世界でも香港に次ぎ出生率が低い、韓国です。韓国観察者の鈴置高史氏は18日、ウェブ評論サイト『デイリー新潮』に、出生率を切り口にした韓国における日韓比較論を寄稿しました。正直、今回の論考も、とくに最終行はすべての日本人に熟読してもらいたいという気がします。
目次
出生率の現状
日本の出生数・出生率の推移
現在の日本では、急速に子供がいなくなっています。
厚生労働省の人口動態調査によると、2022年を通じた出生数は770,759人で、いまからちょうど50年前、「第二次ベビーブーム」のピークだった1973年の2,091,983人と比べると、じつに37%程度の水準にまで減ってしまいました(図表1)。
図表1 出生数、合計特殊出生率の推移
(【出所】厚生労働省『人口動態調査』データをもとに作成)
ちなみに合計特殊出生率は「15~49歳までの女性の年齢別出生率を合計したもの」と定義され、一般に人口規模を維持するためには1人の女性が生涯に2.06~2.07人程度の子供を産む必要がある、などとされます。
この人口の急減には、さまざまな要因があるでしょう。
とりわけ人々が結婚し、子供を産み育てるためには、社会が安定し、活力を維持していなければならないはずですが、現在の日本は財務省が旧大蔵省時代から繰り返してきた不要な増税のために経済成長が阻害されてきたことと、この出生率・出生数の低下とは、決して無縁ではない、というのが著者自身の私見です。
OECDデータではイスラエルがトップ、最下位は韓国
ただし、出生率の落ち込みを単純に経済と関連付けるのが正しいのかについては、諸説あることもたしかでしょう。
たとえば経済協力開発機構(OECD)ウェブサイトの『出生率(Fertility rates)』というページでは、54ヵ国分の出生率の推移をグラフで見比べることが可能です。
これによると、2021年に関していえば、データが収録されている54ヵ国のなかでトップは、出生率が3人だったイスラエルでした(図表2)が、ワーストは私たちの国・日本ではなく、お隣の国・韓国でした(図表3)。
図表2 OECDデータベース・出生率上位10ヵ国(2021年)
国 | 出生率 |
1位:イスラエル | 3 |
2位:サウジアラビア | 2.43 |
3位:南アフリカ | 2.37 |
4位:ペルー | 2.19 |
5位:インドネシア | 2.17 |
6位:インド | 2.03 |
7位:アルゼンチン | 1.89 |
8位:チェコ | 1.83 |
9位:アイスランド | 1.82 |
9位:メキシコ | 1.82 |
(【出所】OECD『出生率(Fertility rates)』データをもとに作成)
図表2 OECDデータベース・出生率下位10ヵ国(2021年)
国 | 出生率 |
1位:韓国 | 0.81 |
2位:マルタ | 1.13 |
3位:中国 | 1.16 |
4位:スペイン | 1.19 |
5位:イタリア | 1.25 |
6位:日本 | 1.3 |
7位:ポーランド | 1.33 |
8位:ポルトガル | 1.35 |
9位:リトアニア | 1.36 |
10位:ルクセンブルク | 1.38 |
(【出所】OECD『出生率(Fertility rates)』データをもとに作成)
なお、この図表は、「出生率で世界のトップがイスラエルであり、ワーストが韓国である」、という意味ではありません。あくまでもOECD加盟国を中心に、データベースに登録がある国だけでランキングを作っているため、これら以外の国に関しての状況を示すものではありません。
韓国や中国の出生率は日本よりも酷いことに!
ただ、出生率は日本もたいがい低いのですが、それ以上に中国、韓国が際立って低く、とりわけ韓国に関しては、OECDデータのなかで唯一、出生率が1人を割り込んでいる点が耳目を引きます。
ちなみに同データによると、韓国の出生率は1980年代前半には2人を割り込んでいて、1人を割り込んだのは2018年のことだそうですが、グラフの形状だけで見たら、中国も似たようなものかもしれません(図表4)。
図表4-1 出生率(韓国)
図表4-2 出生率(中国)
(【出所】OECD『出生率(Fertility rates)』データをもとに作成)
いずれにせよ、出生率を向上させなければ、生産年齢人口もピークアウトし、それだけで経済成長の阻害要因になることは間違いありません。
少子化から日本への「上から目線」指摘する鈴置氏
鈴置氏論考の切り口は少子化
こうしたなかで、韓国の出生率が主要国中で最低だという話題はわりと以前から知られていたものではあるのですが、この論点に、韓国観察者の鈴置高史氏が着目。18日付でウェブ評論サイト『デイリー新潮』に、こんな記事を寄稿しました。
「韓国消滅」と慌てふためく韓国人…急激に落ちる出生率は“世界ワースト1” 日本への「上から目線」は続くのか
韓国人が「韓国消滅」と慌てる。出生率の異様な低下により、一世代後の人口は現在の35%に急減すると報じられたからだ。「衰退する日本」を見下していた韓国人。彼らがいつまで「上から目線」を続けるのか、韓国観察者の鈴置高史氏は注目する。<<…続きを読む>>
―――2023年12月18日付 デイリー新潮『鈴置高史 半島を読む』より
記事の文字数は8000文字を越え、正直、大手ウェブ評論サイトでこれだけの分量の記事が読めるのは有難い限りです。ただ、いつもながら文言、表現が平易であることに加え、これでもかというほどに豊富な証拠がセットであるためか、いつにもまして読みやすい文章です。
今回の記事は、前半と後半で、少し論調が変化します。
前半部分は韓国における低出生率とその背景について、長年の韓国観察経験に加え、経済記者としての鈴置氏の観察眼がいかんなく発揮されるのですが、後半部分については、韓国国内における出生率の日韓比較の議論を中心に、やはり日本との関係に議論の焦点が移っていくのです。
IMFショックが韓国社会を不安定化させた
前半部分については、米メディア『ニューヨークタイムズ』のややセンセーショナルな記事が韓国国内で衝撃を与えた、とする話題から始まって、上記の「OECD加盟国中で最低」、「世界217ヵ国・地域でも香港の0.77に次いで2番目の低さ」とする統計的事実、さらにはその要因の分析に筆が及びます。
鈴置氏はこれについて、韓国の中央銀行である韓国銀行が公開した詳細な研究報告書で、韓国の少子化の主因が「社会の競争圧力」と「経済的困難さ」にあると特定されているという手掛かりをもとに、1997年のIMF危機が韓国社会の仕組みを根本から変えたのが原因だと指摘します。
つまり、それまでは日本をお手本に、韓国社会でも広く普及していた終身雇用・年功序列などの仕組みがIMF危機で崩壊し、米国型の鶴首社会に変貌を遂げ、こうした雇用の不安定さがとりわけ21世紀に入ってからの出生率低下につながっている、とする仮説です。
鈴置論考ではほかにも自殺率の比較データなども取り上げられているのですが(※このあたり、経済記事は「数字の比較」が重要だという鉄則を思い出します)、鈴置氏の暫定的な結論は、項です。
「危機を乗り切るためにやむなく社会システムを激変させたことが、異様な速度での少子化というツケになって今、跳ね返っているのです」。
なぜか「上から目線」の韓国
ただ、やはり鈴置論考の面白さは、ここから韓国国内の日韓比較に議論が転じていくあたりにあります。
これによると最近、25年ぶりに経済成長率の日韓逆転が生じたこと、日本ではすでに1995年に迎えていた生産年齢人口のピークアウトが韓国では2019年に到来したことなどをもって、日韓には人口統計上、「12~24年の時差がある」とし、こう指摘します。
「韓国の失敗は、人口面で日本の後ろを着実にたどっているというのに、少子高齢化という苦い現実に目を向けるのが遅れたことです。ようやく今年になって、成長の限界に達した、という『韓国ピーク論』が新聞で語られるようになりました」。
どうしてそれが大騒ぎになるのでしょうか。
ここでポイントとなるのが、外交を「上か、下か」でしか見られない韓国社会の弊害です。
「2010年以降、韓国では「日本を超えた」との言説が定番になりました」。
「『経済』では①日本が中国にGDPで抜かれ世界3位に落ちる半面、韓国は世界10位圏に入った②半導体、テレビ、携帯電話で日本のシェアを奪い韓国が世界1位になった③現代自動車の販売台数がホンダを抜き、世界4位になった(2022年に世界3位に)――などが具体的な『証拠』です」。
「これ以外に『外交』『政治制度』『スポーツ』といった分野でも『韓国が日本よりも上である理由』を韓国人は語り合って来ました。『下から目線』で見ていた日本を『上から目線』で見る時代に突入したのです」。
そして、鈴置氏はなかなかに恐ろしいことを指摘しします。2018年12月20日に発生した火器管制(FC)レーダー照射事件も、「韓国が日本よりも上だ」という意識を背景に発生したものだ、というのが鈴置氏の指摘だからです。
「いわゆる徴用工裁判や慰安婦裁判で、両国間の合意を真っ向から否定する判決が出るのも同じことです。日本との約束をひっくり返してこそ、『韓国は上、日本は下』と自分も実感できるし、日本にも思い知らせることができる――と考えているのです」。
「日本に『植民地支配は不当だった』と認めさせるための罠でもありますが、感情的な優位性を確保する目的もあることを見落としてはいけません」。
なんだか、嫌な隣人です。そして、じつに邪悪な発想です。
それは「日韓関係の特殊性」ではなく「韓国の特殊性」
このあたりは日本国内でインターネット化が急速に進んだここ数年、自称元徴用工問題や自称元慰安婦問題、FCレーダー照射事件などの推移を見てきた私たち一般の日本国民にとっても、非常に納得がいく議論の運びでしょう。
そこで出てくるのが、例の「韓国の特殊性」に関する議論です。
「これは『日韓関係の特殊性』というよりも『韓国の特殊性』と考えるべきでしょう。21世紀に入り自信を持った韓国人が海外に大量に進出して以降、世界中の人から同じ質問を受けるようになりました。私が韓国を勉強していると知ると、一様に『なぜ、韓国人はあんなに威張るのか』と聞いてくるのです」。
正直、本当に厄介な隣人だと思います。
適切に距離を置くことが大事
ただし、これについて、おそらく今回の鈴置論考の中で、多くの人が最も印象深いと感じるであろうくだりが、末尾のこの記述です。
「――韓国は面倒な国ですね。
鈴置:それはそうですが、隣の国だから付き合わないわけにもいかない。韓国が仕掛けてくる小陰謀や罠をちゃんと見抜いて対応していけばいいだけの話。『この政権となら組める!』などと入れ込むのが最悪――愚の骨頂なのです」。
じつは、この記述こそが、日韓関係の最も適切な距離感を示しているのです。そして、すべての日本人に熟読していただきたい、「日本は韓国と適切な距離を取るべきだ」という部分でもあります。
このあたり、韓国が尹錫悦(いん・しゃくえつ)政権である間に日韓関係を改善しよう、などとする詭弁を振りかざす論者は、残念なことに、自民党内にもいます(例のフランスで物見遊山に興じていた人物などその典型例でしょう)。
しかし、少なくとも今年3月の自称元徴用工問題に関するディール以降、鈴置氏が一貫してくぎを刺しているのは、日本の側で日韓関係「改善」(?)に前のめりになる姿勢の危険性です。
今回は韓国の少子化という切り口でしたが、やはり韓国観察論の立場からすれば、最後は韓国の政権に入れ込んでしまうことの危険性への警告につながるというのも、興味深い限りです。
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同じ格差社会である米国と韓国との違いは、移民国家か民族国家かの違いなのかもですね。
米国はなんだかんだ言って移民が押し寄せ、押し寄せた移民が底辺層として国を支える社会なのでしょうけど、韓国は韓国より未開発な地域からの移民を蔑むのが強いところもあって、あまり移民にとって良い環境では無いでしょうし。
韓国と同じく民族国家である日本は、米国や韓国ほどの格差社会には至っていませんが、都市部に人を持っていかれるばかりな地方部で維持が困難な共同体が色々出て来ていますし、楽観は出来ず。
>米国はなんだかんだ言って移民が押し寄せ、
>押し寄せた移民が底辺層として国を支える
>社会なのでしょうけど、
米国は上記の移民と共に、学問・信教・政治の自由とか高い経済的報酬をを求める種々の国々の最上級の国民も自然に集まって来る国です。
米国の超エリート大学・大学院の学生の国籍・家族構成や経歴を見れば一目瞭然です。
そうですけど、「最上級の国民」って言っても所詮は底辺層を搾取して優雅な暮らしを送る「貴族」になって終わってる気がしますが。
日本に戻ってこの話を披露すると爆笑されたとのことですが、いつも言葉に容赦ない鈴置さんあなたが謙虚なひとだと、それはけっさくだ、わっはっは、とやられたんですよね。なんと光栄なことでしょう。
自分たちが世界で優れていると思いたい、劣等感の裏返しかな。
30・50クラブって知ってる?
人口5000万を超える国で一人当たりGDPが30000ドルを超える国の集まりのこと。実はそんなものなくて韓国人が勝手に呼んでるだけ。
こんなのもある「世界でオリンピック、ワールドカップの両方を開催した国はxxか国もあるが、そのうち世界陸上まで開催したことのある国はたったxxか国しかない。韓国はそのうちの1つだ」
xx大国、強国もよく出てくる。
自分の順位の下で線を引く。例えば韓国が11位なら世界12大大国、13位に落ちると世界15大大国。いずれ世界20大大国、25大大国と言い出すだろう。
後進国、周回遅れといつもの調子で読者を罵倒し続ける日本経済新聞社編集部も同じ穴のムジナです。
>人口5000万を超える国で一人当たりGDPが30000ドルを超える
>国の集まりのこと。
そのGDPの集計の仕方も、韓国企業が韓国外の第三国に持っている設備で生産したものの価値やサービスさえも含めているので、無視できないレベルの水増しが含まれているようですね。
>2010年以降、韓国では「日本を超えた」との言説が定番になりました
・・・・・
(OECDで中絶率1位)
https://n.news.naver.com/mnews/article/005/0001365051?sid=103
>一日3000件、年間110万件の中絶が行われている。大韓民国は、経済協力開発機構(OECD)国家のうち堕胎率1位という汚名を持っている。統計庁によると、2019年の新生児数は30万3100人である。新生児数より3倍以上の胎児が中絶されているのである。
*「一人当たりGDP」のために分母を減らしてる訳ではないのでしょうが・・。【合掌】
韓国よりも更に生きにくそうな北朝鮮での出生率は1.8(2020年)とか。公式統計はあてになりませんが、 北朝鮮ならば人民に子供をもっとつくれと命令して義務化できそうです。30歳までに結婚して子供の生産をできない人民は男も女も収容所に入れられるとかね。
韓国もいっその事、中国に倣って政府統計値の発表を止めてしまえば、問題も無くなります。
少子化の割には海外に出す養子の数は多い。
輸出ですね
北の首領様が涙をお流しになった。
もっと子供を産んでくれ~
よくよく思うに北も南も人民は賢い。
世界に取り必要とされない民族だ。理解しているんだ。
自らを滅亡させる決心と行動を世界は褒め称える必要がありますよ~
あ、中国もついでにね
(コメント掲載不要です)
いつも興味深い論考をありがとうございます。
「鶴首」→「馘首」
「鈴置氏の暫定的な結論は、項です。」→「こうです。」
かと思われます。よろしくお願いします。
これは、読者の為の漢字力テストですよ。態々、筆者が頭を捻って文中に忍ばせているのです。このサイトの読者は、前後期好?齢者が多そうなので、頭の活性化の為に。
個人的には、これに気付くのが楽しみになっています。
ですから、ご指摘不要です。楽しみが無くなると困ります。
人口統計の問題に絡んで韓国が日本のことをどのように貶そうが、いい気はしませんがどうでもいいことだと思います。
それより、中国と貿易収支も赤字化したようで、国内の不動産市場も崩壊しつつあり、早晩、何度目かの経済崩壊が予測される韓国に対して官民でどう対処するかだと。
今までの経済破綻に比べて韓国のGDPははるかに大きく、あの国このとなので、擦り寄ってきて何故かそれに呼応して、マスコミや政党の一部から支援やむなしなんてことに流されないように、国民がしっかりしないといけないと思います。何とか、ユンたんを任期前に引きずり下ろして左翼政権に移行してもらい、さらにひと暴れしてもらって、日本の世論が同情論の余地がないようにしてもらいたいものです。
最悪のタイミングで最悪の選択が伝統芸能の国ですので、なんとか間に合って貰いたい。
平成のバブル崩壊後の日本の若者には、絶望感はあったのだろうか?
現在の韓国の若者は「魂までかき集めて不動産などに投資する」という。
一攫千金を追い求め、子育てどころではない。
中国の若者は20%以上の失業率という、暴落中の不動産は購入できないだろう。
結婚するには男性から女性へ高額な結納が必要で、子育てどころではない。
韓国・中国の若者はバブル崩壊で絶望感を味わうことになるのであろうか?