今月も新聞値上げ相次ぐ…ビジネスモデルはすでに破綻
当ウェブサイトでは新聞業界について、「ビジネスモデル自体がすでに破綻している」、「まずは夕刊、その次に朝刊の順で新聞発行を断念する事例が出てくるはず」と睨んでいるのですが、その前提として、新聞値上げが続いていることを挙げておかねばなりません。12月も3つの社が値上げに踏み切っています。12月といえば、例年、一般社団法人日本新聞協会が新聞部数に関するデータを公表するのですが、それに先立ち、新聞購読料に関する最新状況をまとめておきましょう。
目次
主要紙の値上げ状況
最近、個人的に強い関心を持って調べているテーマのひとつが、新聞の値上げ状況です。
『文化通信』というウェブサイトの『購読料改定』という記事タグを表示する一覧ページを12月4日時点で表示させてみると、全部で102件の記事がみつかります。
これらの記事の中で、2022年10月1日以降に限定し、日刊の一般紙(※)の値上げ情報を拾っていくと、全部で56件の値上げ事例が見つかります(※つまり、スポーツ紙や週刊紙・隔日刊紙、発行回数が週1回程度のタブロイド判、購読契約が「年単位」となっているものなどを除きます)。
それらのうち、朝刊または統合版に限定して一覧にしたものが図表1、朝夕刊セットの状況について一覧にしたものが図表2です。
図表1 一般紙朝刊(または統合版)の値上げ状況(2022年10月以降)
(【出所】『文化通信』の『購読料改定』などを参考に著者調べ)
図表2 朝夕刊セットの値上げ状況(2022年10月以降)
値上げタイミング | 新聞名称 | 朝夕刊セットの値上げ幅 |
2023年5月 | 朝日新聞 | 4,400円→4,900円(+500円) |
2023年5月 | 西日本新聞 | 4,400円→4,900円(+500円) |
2023年6月 | 毎日新聞 | 4,300円→4,900円(+600円) |
2023年7月 | 日本経済新聞 | 4,900円→5,500円(+800円) |
2023年7月 | 神戸新聞 | 4,400円→4,900円(+500円) |
2023年8月 | 産経新聞 | 4,400円→4,900円(+500円) |
2023年10月 | 信濃毎日新聞 | 4,400円→夕刊廃止 |
2023年11月 | 京都新聞 | 4,400円→4,900円(+500円) |
2023年11月 | 河北新報 | 4,400円→4,400円(+500円) |
(【出所】『文化通信』の『購読料改定』などを参考に著者調べ)
主要紙も値上げが相次いでいる
このうち朝刊の値上げ幅としては、桐生タイムスの160円から日経新聞の800円に至るまで幅がありますが、これら56件を単純平均すると422円で、主要紙(とくに全国紙やブロック紙)がだいたい500円から600円、地域紙だと200~300円の値上げ、という事例が多いようです。
値上げが続出し始めたのは今年4月以降で、4月だけで9件の値上げがあったほか、7月と10月にそれぞれ10件ずつの値上げ事例が見られました。
とりわけ5月に全国紙である朝日新聞、ブロック紙である西日本新聞という2つの主要紙が相次いで500円の値上げに踏み切ったこともあってか、それ以降の値上げ事例はいずれもおおむね300円以上で、とくに主要紙だと500円前後です。
ちなみに全国紙・ブロック紙に限定し、朝夕刊セット、統合版(または朝刊のみ)の場合のそれぞれの購読料の値上げ状況を一覧にしてみると、図表3のとおりです。
図表3 主要全国紙・ブロック紙の月ぎめ購読料(税込み)
新聞 | 朝夕刊セット | 統合版or朝刊のみ |
日経新聞(7月~) | 4,900円→5,500円 | 統合版4,000円→4,800円 |
朝日新聞(5月~) | 4,400円→4,900円 | 統合版3,500円→4,000円 |
読売新聞 | 4,400円 | 統合版3,400円 |
毎日新聞(6月~) | 4,300円→4,900円 | 統合版3,400円→4,000円 |
産経新聞(8月~) | 4,400円→4,900円 | 統合版3,400円→3,900円 |
東京新聞 | 3,700円 | 統合版2,950円 |
北海道新聞(10月~) | 4,400円→夕刊廃止 | 朝刊のみ3,800円 |
中日新聞 | 4,400円 | 朝刊のみ3,400円 |
西日本新聞(5月~) | 4,400円→4,900円 | 統合版3,400円→3,900円 |
(【出所】著者調べ。なお、「統合版or朝刊のみ」は、新聞社によって適用される条件が異なるため注意。とくに「統合版」とは「夕刊が発行されていない地域で発行されている版」であり、「夕刊が発行されている地域における朝刊のみの契約」ではない可能性がある点には要注意)
現時点で値上げしていない主要紙は読売新聞、中日新聞、東京新聞くらいでしょう。
横並び値上げが目立つ
これらの事例を見ていて気づくのは、とりわけ主要全国紙・ブロック紙に加えてよく知られる地方紙を見ていると、朝刊価格を3,900円に設定している事例が多いです(値上げ幅についてももたいていの場合は、3,400円から500円の値上げです。すべてがそうではありませんが)。
値上げ後の朝刊価格が3,900円の新聞(14紙)
西日本新聞、神戸新聞、中国新聞、産経新聞、秋田魁新報、東奥日報、信濃毎日新聞、下野新聞、山梨日日新聞、上毛新聞、四国新聞、山陽新聞、京都新聞、河北新報
見事に横並びです。
本来、地域が違えば発行部数や配送コストなど、経営における諸条件がまったく異なるはずですが、それでも地域が遠く離れているはずなのに、揃いも揃って似たような値段設定にする理由は、いったいどこにあるのでしょうか。
新聞業界には謎が多すぎます。
夕刊の廃止が始まった
また、新聞の値上げについて議論する際に、もうひとつ重要な論点が、夕刊です。
この1年間に限定すると、夕刊を完全に廃止したのが2紙あります。
北海道新聞と信濃毎日新聞です。
北海道新聞は値上げした新聞(図表1、図表2)には登場しませんが、主要全国紙・ブロック紙の購読料の状況に関する図表3で、夕刊を廃止したうえ、あらたに「朝刊のみ」の区分(3,800円)を設けていることがわかります。ちなみにこの3,800円は主要紙の「値上げ後」の3,900円とさほど遜色ありません。
なお、北海道新聞、信濃毎日新聞が夕刊を廃止したため、現時点で朝刊と夕刊をともに発行しているのは、著者自身が調べた限り、全国紙5紙、ブロック紙3紙、地方紙6紙、合計14紙です。
朝・夕刊をともに発行している新聞の例(今年12月時点)
- 全国紙…読売新聞、朝日新聞、毎日新聞、産経新聞、日経新聞
- ブロック紙…東京新聞、中日新聞、西日本新聞
- 地方紙…京都新聞、神戸新聞、河北新報、新潟日報、北國新聞、北陸中日新聞
(【出所】著者調べ)
ただ、とりわけ全国紙のなかでも、一部地域で夕刊発行を取り止める事例は多く、たとえば東海地方では読売、朝日、毎日の3大全国紙がそろって夕刊を休刊していますし、産経は東日本エリアで長らく夕刊の発行を行っていません。
このような事例を眺めていくと、「新聞業界はまず夕刊からなくなり、続いて朝刊に波及する」との当ウェブサイトの仮説が、現在のところは当たっていることは間違いありません。
すでにビジネスモデルは破綻している
というよりも、新聞自体、すでにビジネスモデルは破綻しています。冷静に考えてみるとわかりますが、「新聞紙」を製造・輸送するためには、このインターネット時代、にふさわしくないほどに大きなコストが必要だからです。
それが、「ネット配信すれば不要なコスト」です。
まずは新聞を物理的に印刷するために、大きな新聞の原紙を高速印刷する事が必要ですが、そのためには高額な輪転機、そしてその輪転機を動かす作業員を準備しなければなりません。紙代、インク代、燃料費高騰の折、印刷コストもばかにならないでしょう。
そして、刷り上がった新聞は梱包し、トラックに乗せて、工場から各地の新聞販売店に送り届けられます(もちろん、大量の地球温暖化ガスを撒き散らしながら)。
新聞販売店では人海戦術でこれらの新聞を仕分けし、とくに朝刊の場合は配達員が折込チラシを1部1部、手作業でセットし、とくに大雨の日などは、新聞が破れたり濡れたりしないように気を遣いながら、これらを各家庭・事業所などに届けるのです。
新聞を印刷するための莫大な設備投資、工場で働く人々の賃金、新聞の原材料費(紙代、インク代、燃料代)、新聞を販売店に送り届ける莫大なトラック、販売店でチラシを1部1部手で折り込み、各家庭に送り届ける大勢の人々の人件費やバイクの燃料代――。
気が遠くなるようなコストです。
莫大なコストで古い情報を運ぶ
しかも、その日の午前2時頃に刷り上がった新聞が各家庭のポストに投函されるのは、どんなに順調にいったとしても、だいたい5時から7時前後に投函されます。その新聞には、どんなに新しくても午前1時台までの情報しか織り込まれていません。
たとえばFOMC(米国の金融政策決定)のように、時差の都合で日本時間の午前3時台に行われる重要イベントの情報は、新聞には書かれていないのです。
莫大なコストをかけて古い情報を運ぶ。
どうにもこの令和のネット社会におけるビジネスモデルとしてふさわしいものではありません。
当ウェブサイトがその典型例ですが、インターネットを使えば、▼輪転機の償却負担、▼用紙代・インク代・燃料代、▼印刷するための人件費、▼配送コスト(と二酸化炭素など)、▼古新聞を回収するためのコスト――が、いっさい不要になるのです。
そして、物理的に紙媒体でしか新聞が存在しなかった時代と異なり、現代社会では、ネット上で日々、大量の報道記事や論評記事を目にすることができますし、X(旧ツイッター)を含めたSNSでは、さまざまな情報に接することも可能です。
株式会社朝日新聞社の事例
こうした状況の中で、新聞社がコスト競争力を失っていくのも、ある意味では当然の減少です。
先日の『朝日新聞社、値上げで増収も経費増大で営業損益圧迫か』でも取り上げたとおり、株式会社朝日新聞社の9月の中間決算を見ると、値上げの効果もあってか増収となりました(単体売上高は前年同期比+2.8億円となる905.2億円)。
また、売上原価については1億円減って673.4億円となったため、売上総利益については前年同期比+3.8億円の231.8億円という結果となりました。しかし、販管費が229.4億円と、前年同期比17.7億円も増えてしまい、営業利益はなんと前年同期比13.8億円減って2.4億円に留まりました。
想像するに、売上高が増えたのは値上げの効果であり、部数の落ち込みを値上げ効果がカバーした格好ですが、(これも想像ベースでは)広告費などが落ち込んだほか、販管費が思いのほか伸び、新聞事業が赤字寸前の状況に陥っているのでしょう。
最大手の一角を占めている株式会社朝日新聞社ですらこのような状況なのですから、経営体力のない他社(たとえば税制優遇を受けるために1億円にまで減資した会社など)の内情がさらに厳しいであろうことは、想像に難くありません。
いずれにせよ、株式会社朝日新聞の決算などを見る限り、おそらくは今月後半にも出て来るであろう一般社団法人日本新聞協会の新聞部数に関するデータが相当に酷い状況となっている可能性がどの程度あるのか、今から大変気になるところだといえるでしょう。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました
自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。 |
【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。 |
毎度、ばかばかしいお話しを。
新宿会計士:「「今月、値上げした新聞」をキラーコンテンツにしよう」
どうです。
新聞の話ではないのだが、「週刊TVガイド」という雑誌がある。Wikipediaで調べると
2006年に637,000部発行していたが直近は90,000部程度。
17年で86%減少している。平均すると年率11%の減少。
私はこの雑誌を買ったことはないのだが見たことはある。テレビ番組の内容を「こんなに面白い」と広告しているのだ。テレビを見ない人が多い時代に、テレビを楽しみにしていて、しかも金を払ってまで番組の内容をあらかじめ知りたい人たちがいるのだ。ちなみにほぼ例外なく10-12月の発行部数が跳ね上がるのは紅白の影響だろう。
90,000部と言えば少なく感じるかもしれないが週刊朝日の倍だ。
そう考えると新聞購読者は今後激減していくだろうが一定数は残るだろう。
ただ最後はどのような姿になるのか想像すると楽しい。最後は壁新聞か。
新聞記者とその家族の行く末が心配で心配でなりません。
価格ヨコ並びは各社マワリ観ながら上値探りした結果っショ
コスト積み上げて売価決めるなんてゼータクなショーバイでっせ(ベンツでも1980年代くらいまでで挫折)
大抵は市場性ニラミつつ上値を探りソッからコスト配分しとりまっさかいナ
新聞はソノママの売価デモ市場性失いつつアルのに「ミエテナイ」のか「ミナイフリ」か売価上げで自分でクビ絞めにかかっとるン、前者は「裸の王さま経営陣」後者は「サラリーマン経営陣」とかっスかね?
まーソンナ類型化サレルモンでもナイか
新聞購読料を値上げしても、購読者は帰ってきません。それは新聞社も理解していると思います。
しかしながら、テレビと新聞が同じ会社であれば何とか記者の腕を上げて、独自の良い記事を作成してほしいです。
また、今テレビの何処のチャンネルを見ても同じようなニュースが多く、それも一日に何回も再放送されています。
yahooニュースはyahooが厳選しているので同じようなニュースは出ませんが、Youtubeには話題がないと同じニュースがアップされ、おまけに天気予報までテレビ各社が同時に配信されています。
すべての根幹が新聞記者なので、値上げの目的が記者の育成に充ててほしいです。
紙だろうがネットだろうが、金を払ってでも読みたいという記事を出し続ければ困ることはないと思うのですが、甘いですか?
それが出来る人達はどんどん独立しちゃうんでしょう。
残った人達は早期退職にも応じない人達ばっかり。
それにつけてもNHKの巨大さ。
ますます一人勝ち?では無く孤立しているんでは無いか
競争相手が無い状態で報道は調査はどうしていくのか
誰がどの様に決めるのか
全く分からない。
それが日本国民のためになるのか。
非常に心配
あ、化石賞は喜んで報道してましたね。
>一般社団法人日本新聞協会の新聞部数に関するデータが相当に酷い状況と
下がる角度が、非常に心配ですね。
これからは契約読者離れでだけはなく、契約なしの固定読者離れが起きるのか。
答え合わせが、非常に心配ですね。
まあ値上げからまだ半年足らずですので、どうなんでしょうか?