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    Categories: RMB金融

AIIBのプロジェクト、3分の1はコロナ関連だった

アジアインフラ投資銀行(AIIB)の本業融資の額が、もうすぐ300億ドルを超えそうです。ただ、2020年までは鳴かず飛ばず状態だったAIIBを「救った」のはコロナ禍だった、というのは当ウェブサイトでも何度か指摘してきた点ですが、やはり現実のプロジェクトの内訳で見て、コロナ関連が全体のざっと3分の1を占めているなどを踏まえると、コロナ関連がAIIBの投融資を増やしたことは間違いないでしょう。

AIIBの9月末時点の財務諸表

当ウェブサイトではアジアインフラ投資銀行(AIIB)の状況を「定点観測」し続けているのですが、このほど、2023年9月時点の財務諸表が公表されていたようです。そこで、現時点のAIIBの状況を簡単に取りまとめてみました。

まずは、財務諸表から判明する、主な資産の内訳です(図表1図表2)。

図表1 AIIBの主な資産構成(2023年9月末時点)
資産項目 2023/09/30 前四半期比増減
現金・現金同等物 21.99億ドル ▲4.03億ドル
定期預金 32.01億ドル ▲30.25億ドル
売買目的投資 165.74億ドル +0.30億ドル
償却原価法適用貸出 206.13億ドル +5.04億ドル
償却原価法適用債券 77.01億ドル +14.58億ドル
デリバティブ資産 6.57億ドル +1.25億ドル
その他 21.03億ドル +0.64億ドル
資産合計 530.49億ドル ▲12.47億ドル
借入金 293.21億ドル ▲15.61億ドル
払込済資本 194.03億ドル +0.10億ドル
デリバティブ負債 21.83億ドル ▲0.36億ドル

(【出所】Asian Infrastructure Investment Bank, Condensed Financial Statements (Unaudited) for the Nine Months Ended Sep. 30, 2023 をもとに作成)

図表2 AIIBの主な資産構成

(【出所】The Asian Infrastructure Investment Bank, Financial Statements より作成)

本業融資はもうすぐ300億ドル台に!しかし…

これによると、AIIBは借入金を少し返済したためでしょうか、総資産は前四半期比で少し減りました。

しかし、「本業融資」と思しき項目、すなわち「償却原価法が適用される貸出債権」(Loan investments, at amortized cost)と「償却原価法が適用される債券投資」(Bond investments, at amortized cost)については順調に(?)増え続けており、その合計額は283.15億ドル。

もうすぐ、300億ドルの大台に乗りそうです。

ただ、この「本業融資」については2020年6月期頃まで「鳴かず飛ばず」の状況が続いていたことも事実であり、融資が急激に伸び始めたのは2020年9月期、すなわちコロナ禍以降のことでもあります。

そこで、現在(2023年11月28日)時点でAIIBの承認済みプロジェクト一覧のページに掲載されているプロジェクトを承認年別に集計してみると、図表3のとおり、プロジェクトは件数、金額ともに、2020年と21年に増加していることが判明します。

図表3 AIIBのプロジェクト承認件数・金額

(【出所】The Asian Infrastructure Investment Bank, Our Projects より作成)

実際の内訳はコロナ関連が3分の1、人民元建てはゼロ件

ちなみに「コロナ関連」は、名称に “Covid 19” という単語が含まれているプロジェクトを集計したものです。とりわけ2020年においては、このコロナ関連のプロジェクトが、とくに件数において、前年と比べて急増していることがわかります。

その一方で、2023年に関しては現時点ですでにプロジェクト承認件数は41件、金額は80億ドルに達しており、コロナ関連を除外すればもう過去最高を更新しています。

ちなみにこれまでの承認プロジェクトは236件ですが、その内訳はインフラ(水、都市、エネルギー、交通)が多くを占めているものの、「CRF」(COVID-19 Crisis Recovery Facility)も全体の3分の1を占めるなど、融資に偏りが見られます(図表4)。

図表4 AIIBのプロジェクトのジャンル(2023年11月28日時点)
ジャンル 金額と件数 金額割合
CRF 152.57億ドル・60件 33.65%
インフラ 222.80億ドル・120件 49.14%
その他 78.06億ドル・56件 17.22%
合計 453.43億ドル・236件 100.00%

(【出所】The Asian Infrastructure Investment Bank, Our Projects より作成)

また、この236件のうち、通貨と金額が判明しているのは234件ですが、通貨に関しては米ドルが228件で442.18億ドル、ユーロが6件で11.25億ユーロとなっており、人民元建ての融資案件は現時点まででゼロ件です。

リビアが加わり91ヵ国に

続いて出資国一覧(上位10ヵ国)です(図表5)。

図表5 出資国一覧(上位10ヵ国)
出資国(出資年月) 出資約束額 議決権
1位:中国(15/12) 297.80億ドル 26.57%
2位:インド(16/1) 83.67億ドル 7.60%
3位:ロシア(15/12) 65.36億ドル 5.97%
4位:ドイツ(15/12) 44.84億ドル 4.16%
5位:韓国(15/12) 37.39億ドル 3.49%
6位:豪州(15/12) 36.91億ドル 3.45%
7位:フランス(16/6) 33.76億ドル 3.17%
8位:インドネシア(16/1) 33.61億ドル 3.16%
9位:英国(15/12) 30.55億ドル 2.89%
10位:トルコ(16/1) 26.10億ドル 2.49%
その他(81ヵ国) 280.18億ドル 37.04%
合計(91ヵ国) 970.17億ドル 100.00%

(【出所】The Asian Infrastructure Investment Bank, MEMBERS AND PROSPECTIVE MEMBERS OF THE BANK より作成)

上位10ヵ国の顔ぶれに変化はありませんが、ノン・リージョナル(地域外)でリビアが今年9月12日にAIIBに参加したため(出資約束額は5260万ドル)、合計の参加国は90ヵ国から91ヵ国に、出資約束総額も969.67億ドルから970.17億ドルに、それぞれ微増しています。

なお、これ以外にも参加予定国(Prospective Members)が16ヵ国いますが、これらのなかには2015年12月のAIIB発足時に出資国として名乗りを上げていながら、いまだに参加していない南アフリカも含まれています。

G20諸国のなかで、現時点でAIIBに参加していないのは、この南アフリカに加えて米国、日本、メキシコと4ヵ国に過ぎませんが、逆に、アジアにおける国際インフラ金融の世界でカギを握っている日米両国の協力なしに、よくぞここまで融資を伸ばしたものだ、という言い方もできるかもしれません。

バスはノロノロ運転&蛇行中

ちなみにコロナ禍が本格化する直前の2020年3月末時点と比べて、AIIBの「本業融資」の額は、ざっと254億ドルほど増えました。1年あたりに換算すれば、年間85億ドルほどです。これだけを見れば、AIIBがアジアの旺盛なインフラ需要を支えているようにも見えます。

ただ、現実には融資案件の3分の1がインフラではなくコロナ関連であることなどを踏まえると、「鳴かず飛ばず」状態だったAIIBを助けたのがコロナ禍だったことは間違いなく、もしコロナ禍が発生していなければ、AIIBはいまでも「鳴かず飛ばず」だったという可能性は否定できないでしょう。

いずれにせよ、AIIBの本業融資が伸びていることは間違いないのですが、日本の金融機関の対外与信が5兆ドル近くに達しているなかで、AIIBのこの283.15億ドルという本業融資の存在感は、正直、ほとんどありません。

AIIBが発足する直前、「AIIBに参加しなければ日本はバスに置いてけぼりを喰らうぞ」と主張していた人もたくさんいました。

しかし、あれから8年が経過し、現実のAIIBというバスはノロノロ運転と蛇行が続いているように見えてならないのですが、いかがでしょうか。

新宿会計士:

View Comments (11)

  • >2023年に関しては現時点ですでにプロジェクト承認件数は41件、金額は80億ドルに達しており、コロナ関連を除外すればもう過去最高を更新しています。

    一帯一路関連でチャイナの融資したプロジェクトの相当部分が、返済困難に陥っているという話を聞きますが、これって適当に案件の名称を変えただけで、実質は借り換え融資ってこと、ないだろうね。

    • 以前読んだネット記事で、返済猶予にも借り換えにも余り応じていないという記事があったように思い、今探して見ましたが、見つかりませんでした。どちらにせよ、親切に債務国に対応しようという姿勢は希薄なようです。それよりも、図表2によれば、余資が、230億ドルもあるように見えるんですが、これは、金を集めても融資先が無いということ?

    • 伊江太さまお感じと同じく私も、
      中国の焦付き不良債権のとばし借換え
      ではないかと疑っています。
      コロナ関連と銘打てば、
      プロジェクトファイナンスと違って
      完工物や担保がなくても怪しまれません。

      中国さんとしては
      日本に参加金出させて不良債権なすりつけ
      ウッシッシを狙ったのでしょうが
      そのために理事という撒き餌を与えた
      エージェントの鳩ポッポさんの失敗には
      さぞや落胆憤慨していることでしょう。

    • 借り換えならば、元の負債は返済することになり、債券残高が減る部分と新規融資の差額が貸付残高として残るので、融資残がそれ程増えることにはならないのでは?
      追加融資、追い貸しならば、その分丸々融資残は増えるのでしょうが?
      追加融資をしてくれる程、優しいのでしょうか?

      • もっとも、追加融資が、毎月の返済額に充てるためのものであれば、融資残は増えるのかも。

        • 国際金融には無知ですが、延滞利息を元本に組み入れていけば融資残高は増えるのでは?

      • さよりさまが疑問にお感じのように
        借り換えだと総融資額は増えません。

        ただ、融資というものは契約であり
        元の融資を返済できないとその
        デフォルト債務不履行というのは
        とても大きなダメージになります。
        通常の正常な融資なら借り手の問題ですが
        中国の場合はもともと借り手の返済能力鑑みない
        いわゆる『債務の罠』として中国本位で
        破綻必死の融資だったので
        それが次々顕在化する今となっては
        デフォルトごまかすためにとばしで
        借り換えに中国も騙された債務国も必死です。

        中国としては、
        AIIBに騙して参加させて日本の金で
        誤魔化したかったのでしょうが
        鳩ぽっぽや田原の爺さんたちの工作失敗したので
        中国はAIIBもほぼ自分の資金でしかないのですが
        それでもコロナ融資と偽ってでも、
        中国の債務の罠の不良債権の破綻を
        ごまかしたいという点では有効であり
        でもそれは見透かされているのです

        • どういうことなんでしょうかね?
          貸付の証文が、債権という資産だと思うのか、そこが不思議なんですよね。
          大方、金というのは、借りるまでは借りる方が下手で、貸したら、貸した方が下手で、ということなんですが。
          この後、どうなるのか?資金の循環を想定しない貸付で、どうやって資金を回収するのか?
          でも、殆どが紐付き融資で、半分以上は融資と同時に自国に還流させているのだから、残っているのは、単に貸付金の証文だけ、という見方もある。
          日本のバブルの時も、金融機関が、ウチからお金を貸しますから、今後値上がりが見込めるゴルフ会員権買いませんか?と言って、融資をして系列のゴルフ場の会員権を売り付けていた。バブルが弾けて、ゴルフ会員権が暴落、金融機関にしても、売り物の会員権が価値が無くなっているのだから、資産は無くなっているが、有るのは貸付金の証文だけ。しかし、借りた方には、返済能力なしで、個人破産をされれば、それは不良債権となる。
          結局貸付金は、バブルの如く消えてしまった。そして、その不良債権処理を、日本の場合、長い時間を掛けて国民に押し付けた。それが、失われた30年による長期不景気の理由。
          さて、かの国では、どこに押し付けるのか?

          • これが、元建ての貸付なら、元を増発すれば、貸付金の実質額を下げることが出来るのでしょうが、ドル建てとなるとそんなことは出来ないでしょう。自国のドル準備金(債権)を取り崩して、追加融資でもしてチャラにすれば何とかなるかもしれないですが。
            そうすると、自国は丸裸。これは、何が何でも対内追加投資をして貰わなければ。ターゲットは日本か?ビザなんて小技を使ってでも。

          • 中国の途上国あて債務の罠融資は
            金銭・軍事的には
            ド高い利息を巻き上げるか
            返済できなければ担保の相手の港湾などをせしめる
            悪徳ベニスの商人現代版です。
            また、
            見栄で膨らんだ超バブル経済破裂回避先送りのため
            過剰となった自国の粗悪な工業生産力と労働力の
            はけ口として一石二鳥でウッシッシを狙ったものです。

            それをしゃあしゃあと綺麗事に仕立てたのが
            すでに滅んだ大中華思想の現代版である一帯一路であり、
            さらにはAIIB設立し
            鳩ポッポさんをエージェントとして餌付けして
            日本に金出させて焦げ付いた不良債権を無担保で
            なすりつけて浮いた担保でさらなる債務の罠
            というのが全体のビジネスモデルと認識しています。

  •  >現実のAIIBというバスはノロノロ運転と蛇行が続いている

     チャイナボカンだから、何時爆発してもおかしくないでしょうね。