香港政府・旅遊発展局(HKTB)などのデータによれば、香港を訪れた外国人の人数がコロナ前と比べ依然として6~7割の水準にとどまっています。香港生活などが長いフリーライターの記事によると、香港では物価高騰により、中国本土の深圳で宿泊する外国人観光客もいる一方で、現在の香港では自由に発言できない雰囲気があるとの指摘もあります。自由な猥雑さが魅力の香港から自由を取り去った結果、ただの小汚い街が残るのだとしたら、これは非常に残念な話ですが、これも中国が自ら招いたようなものです。
日本を上回るインバウンド「大国」としての香港・マカオ
日本といえば昨年10月以降、外国人観光客の受け入れを正常化したなどの事情もあり、いまや毎月200万人前後の外国人が訪れる、立派な「インバウンド大国」となりつつあります。
『ホテル業界が「中国人団体観光客は不要」に転じた理由』などでも繰り返し指摘しているとおり、観光業というものは典型的な労働集約産業でもありますので、日本国内で人材不足が深刻化すると予想されるなか、当ウェブサイトとしては日本が国家戦略としてインバウンドを基幹産業に据えることには反対ではあります。
しかし、現実問題として短期的にはホテル業を筆頭に、観光業が非常に潤っていることは間違いありませんし、多くの外国人が日本を訪れ、日本を体験し、日本に良い印象を持ってくれることは、長い目で見て日本のためになることもまた間違いない話でしょう。
ただ、「数多くの外国人が訪れる」という意味では、日本の近所に、日本を大きく上回る「インバウンド大国(?)」が存在していることを忘れてはなりません。
それが、香港とマカオです。
香港政府・旅遊発展局(HKTB)の “Turism Statistics” やマカオ政府旅遊局(MGTO)の “Macao Turism Data Plus” などのデータをもとに約10年分の訪問客数(中国内地、台湾を含む)の総数をグラフ化したものが、図表です。
図表 香港・マカオを訪れた外国人(中国・台湾を含む)
(【出所】HKTB、MGTOデータをもとに著者作成)
コロナ前の水準回復したマカオ:香港は低調
これによると、毎月の外国人訪問者数は、最盛期では香港で700万人近く、マカオも400万人近くに達していました。年換算だと2019年時点で香港が5591万人、マカオが3941万人です。香港、マカオをあわせても人口は1000万人に満たないにも関わらず、冷静に考えると、これは大したものです。
香港の場合は昔から「100万ドルの夜景」と呼ばれる美しい夜景、派手なネオンサイン、グルメ、ショッピング、猥雑で自由な雰囲気などが多くの人々を魅了してきたとされ、また、マカオの場合も歴史的建造物が文化遺産登録されているほか、リスボアを筆頭にカジノが多く立地する観光都市でもあります。
ただ、グラフを作っていて気付いた点がいくつかあるとしたら、そのひとつは、マカオについてはほぼコロナ前の水準を回復している一方、香港に関しては(月による変動はあるとはいえ)、コロナ前と比べ、インバウンドはまだ6~7割ほどにしか戻っていない、という点でしょう。
また、香港、マカオともに、とくにここ数ヵ月に関しては、インバウンド観光客のだいたい7~8割は中国本土出身者であり、それ以外の地域の出身者が極端に減っています。
とくに香港の場合はコロナ前には全体の4~5%程度を占めていた「北アジア」(おそらくは日本や韓国)の割合が非常に減っていて、今年は2%に満たない程度です。
「香港の観光客が激減」した事情
こうした現状に関し、ウェブ評論サイト『ダイヤモンドオンライン』に24日、こんな記事が掲載されていました。
香港の観光客が激減…渾身のキャンペーンが「夜のお葬式」になってしまった悲しい理由
―――2023.9.24 5:05付 ダイヤモンドオンラインより
執筆者は香港・中国在住歴が長いフリーライターの方だそうです。
文章自体は5000文字を超える長文ですが、わかりやすくいえば「コロナ禍が落ち着き、いよいよ観光に本腰を入れ、眠らない都市の賑わいを再び取り戻そうとする香港政府主催のキャンペーンが不発に終わる」、といった視点で書かれています。
また、記事の中では香港の現状がさまざまな視点から紹介されていて、香港への中国以外からの訪問客がコロナ前の半分以下であるという事実はこの記事でも触れられていますが、現在の香港の問題は、「外国人が滞在しないこと」にあるようです。
「中国からの訪問客は料金が高めの香港のホテルに宿泊せず、深センに宿を取って往復する客が増えた。そのためホテルや商店、レストラン、さらに夜の楽しみを提供するバーやクラブなどから悲鳴が上がっている」。
すなわち外国人観光客の多くは、物価が高騰している香港での宿泊を避け、比較的物価の安い中国本土に宿泊しているというのですが、それだけではありません。せっかくの休暇シーズンも、香港人自身が香港内ではなく、日本への旅行を楽しんでいる、というのです。
「2019年のデモ、そしてその後続いた3年間の『外食禁止令』と呼ばれた措置は、文字通りの『宵っ張り』だった香港人の外食生活を変えた。コロナ中の夕飯はお持ち帰りか出前しか選択肢がなくなり、いくつになっても友人らと集まってガヤガヤおしゃべりしながら食べるのが大好きな香港人たちの消費概念が一変した」。
「また、デモ以降、外で人が集まっているだけで警察に職務質問されるようにもなっていたし、さらに食事をしながら大きな声で政府や中国を含む『気に入らない奴ら』を批判したり、あざ笑ったりすること自体ができなくなった。つまり、人々の外食の楽しみが激減してしまったのだ」。
さりげなく書かれていますが、たいへんに重要な変化でしょう。
香港では現在、安心して外食もできない、ということだからです。
じつは、この影響が非常に大きかったのではないでしょうか。
自由を取り去り、小汚い街が残るのだとしたら…?
記事を読んだ限りにおいては、香港国家安全法の詳しい影響について、直接的に言及されている記載は確認できないのですが、やはり最大の魅力はその猥雑さのなかにある自由さだったのではないでしょうか。自由で猥雑な香港から自由を取り去った結果、残ったのが「小汚い街」だけだった、となれば、なんとも悲しい結末でしょう。
いずれにせよ、最近の中国からは、日本産の水産物の輸入規制、外交部報道官による福島第一原発処理水の「核汚染水呼ばわり」など、私たち一般の日本人を苛立たせるような挑発的な措置や発言が目立っています。
これに加えて2020年に施行された香港国家安全法、さらに中国本土における反スパイ法による取り締まり強化(『反スパイ法摘発相次ぐ…脱中国は日本の重要課題に浮上』等参照)は、どう考えても日中関係を含めた外国との関係を自分で弱体化させる措置にしか見えません。
小林鷹之氏がX(旧ツイッター)に投稿した内容に、非常に気になる情報がいくつか含まれていました。現在の中国では外国人が「反スパイ法」違反容疑で、いとも簡単に拘束される可能性がある、ということです。中国に在住する約10万人の日本国民の安否も気になるところですが、それ以上にサプライチェーンなどにおける中国への過度な依存も経済安全保障上の脅威です。ただ、数字「だけ」でみると、「脱中国」は、絶対に不可能な課題、というわけでもなさそうです。前経済安保担当相・小林鷹之氏の重要なツイート小林鷹之氏といえば、岸... 反スパイ法摘発相次ぐ…脱中国は日本の重要課題に浮上 - 新宿会計士の政治経済評論 |
中国は一体何がしたいのか、そしてどこに向かおうとしているのか。
香港観光統計からは、中国だけでなく香港すらも「外国人から避けられる街」と化しつつある実態が垣間見えるのですが、これも中国が自ら招いたことといえるのかもしれません。
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中国は鎖国を目指してるのだと思います。
目指してる理想は“大きな北朝鮮”でしょう。
国民の外国との接触をなくし 共産党(習近平)の認める自由しかないのが理想かも。
そう考えると香港の観光客が減るのは思った通りなのかもしれません。
香港は、昔はよかったね。中国に変わったら民度も落ちてしまうのかな。とても残念。今、杭州アジア大会をしているけれど見ていられない。 Watchにrecordchinaを見たりしているけれど、コメントがひどい。スポーツを超えている。
香港は大きな実験です。
住民が同じでも為政者が変わればどうなるか?がはっきりとわかります。
そういえば、その昔 半島でも 住民が同じでも為政者が変われば 前と真ん中と後ろで はっきりと変わることがありました。
政治は誰がやっても同じではありません。
はい、その通りだと思います。
究極には貨幣経済も無くそうとしているのかも。
人間の欲望を野放しにすると共産党指導部(独裁者)に楯突くから。
欲望を抑える方法としては良いかもしれない。
神様はなんで欲望の抑え方を用意してくれなかったんだろう。
キンペーが答えを出しちゃう?可か知れない。
そういえば、毛沢東主義を信奉していたクメール・ルージュは貨幣経済の全廃を目指してましたねぇ。まあ、さすがの習近平氏も、クメール・ルージュのように、全国民の1/5(ヘン・サムリン政権の主張)や10%(CIAの推計)を粛清するような真似はできないだろうとは思いますけど。
貨幣経済をなくして、配給 物々交換 古代共産社会をめざしてるのかも。
マカオや韓国あたりは日本でカジノ開業サレルのイヤがってそう、カモ?
諸行無常トハイエ"魔都香港"イメージの創作作品も過去へ流れゆくんでショーナァ
香港がよかったのは、結局、返還されるまでだった。返還式の日も香港にいたが道路が川のような大雨だった。あの雨が自由も流してしまったのだろう。
太陽はデカかった。上海から浦東空港に向かうバスの中、本当にそう、おもった。どこまでも変わらない風景。これが大陸かと感じたものだ。そして香港。空港から見える山々は小さくとも異彩を放ち、しばらくの着陸態勢の飛行機からは高層タワーが立ち並び、離発着する汽車はさながら未来都市の様相だった。新空港ができて30年位か。かつてのビル、ギリギリに着陸するの世界一危ない空港の称号はとれたけど中国共産党が支配する街になって世界有数の危ない都市になった。輝きが失なわれ、魅力は薄れた。共産党が支配する場所はいつもそう。中国、北朝鮮、ロシア、、キューバは社会主義だっけ。明るいイメージはベトナムだけだけど、役人の腐敗は激しい。習近平の間はもう、香港はダメじゃないか?いや、中国共産党のうちはダメじゃないか?残念である。
香港は返還前も返還後も知っている。カイタク空港も使ったことがある。中心地からのアクセスの良さは日本でいえば福岡空港なみか。
携帯電話の出現前、香港内は電話がタダだった。商店の店先に「電話貸しません」の張り紙。もちろん中国語。タダなんだから「ちょっと貸て」という人が多かったのだろう。
返還前の香港人はアグレッシブというか商売熱心というか、店に入ったら買うまで出さないという熱気。そういう人たちは返還を機にカナダ、オーストラリアに移住したのだろう。
バンクーバーは香港出身者の多さからホンクーバーと呼ばれる。
中国共産党の考えてるのは、未来永劫共産党独裁を維持すること、なんでしょう。それのどこに価値があるのか、さっぱり分かりませんが、個人の自由とか人権には全く価値を認めていないのは明らかです。
中国人も似たようなレベルです。アジア大会で日本選手への罵声が酷い。政府も放置どころか煽っている。日本はアジア大会をボイコットすべきと思うが、せめて政府から抗議して欲しい。それどころか日中韓首脳会談をやりまーす、なんて言ってる。岸田氏の顔を見るとイライラする段階になってきました。
ともあれ、香港人には同情しますが、残念ながら中国に返還された時点で、早かれ遅かれ自由は無くなる。
以前は香港・マカオに頻繁に通ってましたが、ここ4,5年は行っておりません。
そこで、どれどれと思って、よく使っていたホテルの値段を調べてみたら、思わず目を剝くような値段が提示されました。元々、香港のホテルは比較的高めではありましたけど、尖沙咀のThe Kowloonで1泊2万円超というのはヒッジョーにキビシイものがあります。これではちょっと躊躇してしまいますね。
もっとも、考えてみると、良く通ってた頃はせいぜい1 USD=110円前後だったので、現在の為替レートと較べると30%程度円高でした。つまり、何もせずとも、宿泊代も日本円で見たら30%程度は高くなっているわけです。さらに、HKDで見ても、以前は800を切るくらいの値段でしたが、1,150くらいになってましたので、以前から比べれば日本円で7割増しくらいになっていても不思議ではないことになります。う~ん、これでは気軽になど行けないなぁ......
まあ、それでも、なぜか手元にちょっとした額のHKDがあったりしますし、アノ香港がどれほどダメになったかを自分の目で見てみたいので、そのうち行ってこようかとは思っています。
香港にしても、マカオにしても、あのデタラメさ、緩さが一番の魅力だったのですが、さて。
私の初めての海外旅行が香港でした。
円レートが今よりはるかに円高の20世紀のことです。
銀行に両替に行くと、入り口で体格の良いインド人が散弾銃を持って睥睨していました。
さすがはイギリスの(いやらしい)他民族統治の名残だと感心したものです。
今もインド人警備員はいるのでしょうか。
ネパールのグルカ兵ではありませんでしょうか?
https://blog.goo.ne.jp/kiyoshi2322/e/59074d3534317e0f6db7fa32caffcb65
香港では銀行で両替をしたことはなく、銀行ATMでHKDを引き出すか、街中の両替屋を利用してました。両替屋が密集している尖沙咀の重慶大厦の前には見るからに怪しそうなインド人がいっぱい屯してましたが、「時計買わないか?」と聞かれることはあっても、散弾銃を持ってたりはしてませんでした。銀行もATMしか利用してないので、店内の様子まではわかりませんが、散弾銃を持った兵隊さんを見かけたことはないですねぇ。
また、香港では空港で銃を持った兵隊さんを見かけたことはありません。フランスに行くと、CDGでは銃を持った兵隊さんがかなり徘徊してましたが。