X
    Categories: 外交

英FT報道「野村香港幹部が中国出国禁止措置」の衝撃

英フィナンシャルタイムズ(FT)は25日、中国を旅行していた野村ホールディングスのアジア部門の子会社「野村インターナショナル(香港)」の幹部が最近、中国からの出国禁止措置を受けたと報じました。報道の真偽はわかりませんが、事実ならば衝撃的です。日米欧など外国金融機関の幹部の身柄が拘束される可能性が生じて来たことを意味するからです。もはや中国も香港も、ビジネスフレンドリーな地域ではない、ということかもしれません。

野村インター幹部が中国からの出国禁止措置?

英フィナンシャルタイムズ(FT)電子版が日本時間25日11時ごろ報じた記事によると、野村ホールディングスのアジア部門の子会社「野村インターナショナル(香港)」に勤務する幹部が中国本土からの出国を禁止されたそうです。

Senior Nomura banker barred from leaving mainland China

―――2023/09/25付 FTオンラインより

(※どうでも良い話ですが、日本法では野村證券はあくまでも銀行ではなく証券会社であり、私たち日本人からすれば、野村を「銀行」と表現するのには違和感があるという方が多いかもしれませんが、金融規制的には野村ホールディングは「最終指定親会社」として、銀行と同じ自己資本比率規制が適用されています。)

FTによると、今回、中国からの出国禁止措置が適用されたのは、 Charles Wang Zhonghe 氏です(日本の一部メディアは同氏を「チャールズ・ワン」と表記していますが、 “Zhonghe” の表記は不明です)。

FTによるとチャールズ・ワン氏は今月13日時点では中国西部の青海省を旅行中だとしており、また、「この問題に詳しい関係者」によると、今回の出国制限措置は中国本土以外への渡航にのみ適用されるものであり、身柄の拘束などはなされていない、ともしています。

この報道自体が正しいのかどうかについては、現時点ではわかりませんが、事実ならば実に衝撃的です。ついに日米欧などの外国金融機関の幹部職員らにも、出国禁止や身柄拘束の適用があり得ることが示されたからです。

チャイナ・ルネッサンス社とのかかわりも?

FTは、中国の投資銀行 “China Renaissance” 、つまり「華興資本控股(チャイナ・ルネッサンス)」のハイテク部門のディール・メーカーである Bao Fan (包凡=ほう・ぼん)氏や Cong Lin (叢林=そう・りん)氏に対する捜査ともかかわりがある、としています。

とくに包凡氏に関しては今年2月以降、行方が不明ですが、華興資本控股はこれについて「捜査に協力している」などと述べている、とのことです。

また、この3人のバンカーのうちの叢林氏については、中国最大手の国営銀行のひとつである中国工商銀行(ICBC)を2017年に退職して華興資本控股に移籍し、ICBCインターナショナルは華興資本控股に対し、株式を担保に2億ドルの与信枠を設けたのだそうです。

日米欧の金融機関にとっては衝撃的

現段階でFTが報じるとおり、この3人のバンカーの件が関連しているのかどうかについてはよくわかりませんが、ただ、次の記述については間違いありません。

香港を拠点とするベテラン・バンカーに対する出国禁止令は、中国の海外ビジネス界に冷や水を浴びせることになるだろう」。

たしかに「出国禁止」とは、どう考えても穏当な措置ではありません。

当ウェブサイトでも『反スパイ法摘発相次ぐ…脱中国は日本の重要課題に浮上』などで取り上げたとおり、中国では現在、反スパイ法などで不当に拘束されるリスクが高まっていることは、日本の外務省自身も認めているところです。

小林鷹之氏がX(旧ツイッター)に投稿した内容に、非常に気になる情報がいくつか含まれていました。現在の中国では外国人が「反スパイ法」違反容疑で、いとも簡単に拘束される可能性がある、ということです。中国に在住する約10万人の日本国民の安否も気になるところですが、それ以上にサプライチェーンなどにおける中国への過度な依存も経済安全保障上の脅威です。ただ、数字「だけ」でみると、「脱中国」は、絶対に不可能な課題、というわけでもなさそうです。前経済安保担当相・小林鷹之氏の重要なツイート小林鷹之氏といえば、岸...
反スパイ法摘発相次ぐ…脱中国は日本の重要課題に浮上 - 新宿会計士の政治経済評論

いずれにせよ、最近の日本の国際与信統計などを眺めていると、日本の金融機関の香港向けエクスポージャーが急速にしぼんでいることが確認できますが(『邦銀の台湾向け与信残高が急減中』等参照)、これも地政学的リスクに加えて中国や香港の法律が恣意的であるとの懸念が高まっている証拠なのかもしれません。

もはや中国も香港も、ビジネスフレンドリーな地域ではない、ということかもしれません。

企業としても自己責任で事業を営む必要がありますが、やはり中国リスクについては金融機関を含め、より多くの企業が意識する必要のある論点のひとつであることは間違いないでしょう。

新宿会計士:

View Comments (11)

  • 証人か容疑者か?
    出国以外は(監視下といえど)縛りが無いナラ証人??
    イズレニセヨ「同様のメ遭うかも」トイフ不安疑念恐怖を煽る発信ではアリマスが…
    コレ実事件無く単なるブラフやったらデカップリング加速する以外の効果有るンかしら???

  • 厳格な出入国の雰囲気。大使館や北京の中央広場の衛兵は身動ぎせず一点をみつめている。のどかな雰囲気はない。こんな国で軟禁されたら緊張感は半端ないだろうと推察する。日本政府ののんびりとしたものよ。また、抗議と遺憾かもしれない。スパイ法案を制定し怪しい外国人は拘束しなければならない。甘い。甘すぎる。上川新外相をためしているのかもしれない。岸田文雄は論外。上川陽子、、正念場である。

  • 中国政府の行動が強硬になってきていますね。西側の制裁がかなり効いているのでしょう。それならばと人質作戦。まずは日系企業から。日本が一番弱く見えるのでしょう。
    外務省並びにジェトロは駐在員や渡航者、企業に警報を出すべきではないでしょうか。政府も中国政府へ抗議すべき。G7で話し合う事かもしれません。
    次は岸田氏の番です。どんな手を打つか注視です。

  • 中国の歴史を眺めると鎖国は、日常生活に近いのでは
    https://www.y-history.net/appendix/wh0801-023.html

    食料の輸入、モノの輸出があるから完全な鎖国は無理だけれども
    情報、外国人の行動だけでも鎖国はしたい!!コントロールしたい!ですかね。

    1977年に終わった、文化大革命では死者数2000万人以上と言われていて
    当時、外国人は自由に中国に入国できなかった。

    このままだと、駐在員の人、突然に前触れもなく取り残されちゃうね。
    日本経済新聞に煽られて、金儲けのために、そうカネのために中国へ行ったけど
    財産どころか、命まで奪われる可能性もありえるのでは。

    今回、金融関係者に手を出して、
    債券発行に協力してください!もっと投資してください!
    大陸の中国人は、もの凄いメンタリティを持っていますよね・・・。

  • Zhonghe Charles Wang と LinkedIn に登録があります。漢字は分かんないですね。
    Chairman of Investment Banking, China Region
    Nomura International (Hong Kong) Limited

    • いま中国人にお願いして調べてもらいました。間違いなさそうです。
      LinkedIn に記されている銀行家としての王氏のキャリアからすると、西側憎しに凝り高まっている現政権はどんな因縁でもつけてきそうです。

    • 連投すみません。中国語圏の報道できっちりそう報じられるようです。

  • 王氏は青海省に何をしに行ったかが疑われた可能性もあります。青蔵鉄道の Wiki ページはずいぶん書き込んでありますが、そこに書いてないが知っている人は知っている事実のひとつは ICBM 基地多数が沿線にあることです。

    • 例のロケット軍関連という事ですか。
      でも、一般人が通りがかって知り得る情報程度で逮捕拘束されるというやくざ地域からは早く脱出すべきですね。

  • 長谷川幸広のYoutubeみてました。 日本人の駐在員が日本に帰任するときには、できるだけ大勢で飛行場までお見送りに行くように動員してるそうです。多少は安全なのかも。
    知人の中国人。 日本の某地方国立大学を卒業して日本に定住しています。国籍は中国。中国に住んでる従兄弟だかと交信してて、その従兄弟が何かの用事で日本に来ることにしたそうですが、ある日突然、今回の日本行はチョットやばいからやめとくわ、との連絡があったそうです。
    ボクの知人の中国人も今月あたり、日本に来ることになってたのですが、来ません。当方からは連絡しません。お金がないのかも知れませんね。